第3章 少年Mの場合 第10節 荒ぶる神・癒す神

文字数 1,522文字

何とかなった。()()()(てん)様は「条件つきで」私をアッサリゆるしてくれた。
その条件とは、「大地の王を正気に返せ。かつては『(うみ)(さち)(やま)(さち)の里』だった、きさらぎに、返して、もどせ」って、無理難題を()しつけられた・・・。
それ、あなたの仕事じゃないの?

私、頭かかえちゃった。「(たお)せ」じゃなく、「治せ」なのよ。
じゃあ、薬はどこにある?
(いや)しの手は、どこにある?
私に、その力があるとでも?

「大地の王」は待ってくれなかった。今度は住宅地に現れた。すぐ近くに小学校も病院も(かい)()()(せつ)もある。
最悪だ。もう迷っているヒマはなかった。
見えない体で現場に急行した私は、たまたま目の前にいた、名前も知らない女の人に取り()いた。
やることは単純だった。大きな声さえ上げれば良い。体力のある、生きた肉の体があれば良かった。

(じゅ)(もん)は以下の通り。
意味なんて、どうだっていい。声に命を乗せ、リズムに呼吸と体温を乗せて、相手にエネルギーをぶつけさえすればいい。かなを漢字に置き()えて、言葉の意味を考えたりしちゃ絶対ダメ。考えるな、感じるんだ。

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かみよより いひつてくらく そらみつ やまとのくには すめがみの いつくしきくに ことだまの さきはふくにと かたりつぎ いひつかひけり いまのよの ひともことごと めのまえに みたりしりたり ひとさはに みちてはあれども たかひかる ひのみかど かむながら めでのさかりに あめのした まをしたまひし いえのこと えらびたまひて おほみこと いただきもちて もろこしの とおきさかいに つかはされ まかりいませ うなはらの へにもおきにも かむづまり うしはきいます もろもろの おほみかみたち ふなのへに みちびきまをし あめつちの おほみかみたち やまとの おほくにみたま ひさかたの あまのみそらゆ あまかけり みわたしたまひ ことをはり かえらむひには またさらに おほみかみたち ふなのへに みてうちかけて すみなはを はへたるごとく あちかをし ちかのさきより おおともの みつのはまびに ただはてに みふねははてむ つつみなく さきくいまして はやかえりませぇ~
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「大地の王」は、こちらを()り向いた。(じゅ)(もん)は効いてるみたいだけど、イマイチ反応が(にぶ)い。もしかして、この女の人、()()でも引いてるんじゃないの?
ぶっつけ本番だと、いつも決まって、こういうことになるんだから。

背後に気配を感じた。ヤジ馬か。いや、そうじゃない。()げずに()みとどまった人たちだ。(これをヤジ馬と見ちゃうから、私はダメな()()なのよね。)私は体をくるりと返し、(りょう)(うで)を広げて、ヤジ馬、いや群衆に呼びかけた。私の「外の人」は言った。

「みなさん、力を貸して下さい。(いの)りが力になるんです。神さまは必ず私たちの声を聞いて下さいます。なぜなら、あの(かい)(ぶつ)も、実は神さまの一人なんですから。祈りは何でもいいです。アーメンでも、アッラー・フ・アクバルでも、()()()()()(ぶつ)でも、()()(みょう)(ほう)(れん)()(きょう)でも、何でもいいです。」

群衆の反応が良かった。「この人が言うんだったら」と言いたげな表情が読み取れた。私が取り()いた「外の人」、なかなか人望があるみたい。ラッキー!

声の(こう)(ずい)が、群衆から「大地の王」の方へと流れて行った。もう呪文の形はしてない。でも、ただの(さけ)び声でもない。自分以外の(だれ)かのための、これは祈りだ。だって、自分がかわいいなら、トットと逃げちゃうのがベストな局面だったんだもの。

大地の王は、ちょっとひるんだような様子を見せて、穴の底にすっと消えた。

()()()(てん)様から出された宿題の、第一問は解けたか。でも、これじゃまだ30点ってところね。
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