第3章 少年Mの場合 第7節 誰からも期待されない人間像

文字数 2,704文字

これまで()け足だったから、言いそびれちゃったけど、(せん)(とう)アンドロイド軍団の一人ひとりを、ここで(しょう)(かい)しておきたいの。
ちょっとボディ・ランゲージが激しい、8人の女の子たちよ。

(一人目)暴走族「()()(あん)()」初代総長・M子。1952年生まれ。

M子を(ふく)めた8人は、中学時代からの友達(ツレ)
M子は不良と言うより、まるで「町かどの教祖様」みたいだった。
(だれ)だって愛と自由を欲しがる。愛も自由も知らずに育った者ほど、強く欲しがる。そのために命を捨てるヤツだっている。
M子はおそらく、(こう)(はい)たちを愛してやったんだろう。思いっきり(あま)えさせてやったんだろう。
そして自由にしてやったんだろう。
飼い殺しのマルチーズを、()みつくしか能の無い野犬に変えてやったんだろう。
これが、おそらく()()(あん)()(きずな)の秘密だ。

だからなのか、私はM子が後輩に手を上げたり、()りを入れたりしてるのを、目にした()(おく)が無い、ものすごく短気な女なのに。
後輩に向かって「ああしろ、こうしろ」とは言うけど、決して強制しない。
(しか)る時はビシッと短く叱り、ネチネチ言わない。引きずらない。
良く見ると、M子は(ふん)()()を実に良く読んでいて、後輩がイヤがることは決して口にしないし、無理もさせない。
話し合いの場では、聞き役に回る方が多い。
水の流れに沿うように、M子は群れの先頭を走る。だから全員がついてくる。
後輩たちも後輩たちで、どの()もムチャはするけど、お(たが)いの風通しは良い。

(二人目)()()(あん)() 副総長・A子。1953年生まれ。

M子と「副総長」A子の関係性は、見ていて面白かった。
M子の口グセは「No fear. 強気で()せ」。(あら)(あら)しい反面、(わき)(あま)い所もある。そして(おこ)りっぽい。
対するA子は温厚な性格で、細かいことにも良く気が回るけど、用心深すぎて、時に(おく)(びょう)に見えることがある。
この二人、お互いのマイナスを、うまい具合に補い合ってるので、上に立つ者としては、なかなかの名コンビだと思った。

(三人目)()()(あん)() 親衛隊長・B子。1953年生まれ。

「親衛隊長」B子は、言われたことを(もく)(もく)とこなす、()()(あん)()の「憲兵」。
自分の役割を果たしているだけなのに、回りからはキラわれてる。
B子に原因があるとは思えない。そういう(めぐ)り合わせなんでしょう。
B子は能面軍団の()()(あん)()の中でも、一番、口数(くちかず)が少ない。
(やす)()け合いはしないけど、約束したことは、ちゃんとやってくれるので、他のメンバーから敬遠される反面、(たよ)りにもされてる。

(四人目)()()(あん)() 親衛隊・C子。1954年生まれ。

C子は()()(あん)()の中心にいた。マスコットと言うより、ペットだな、こりゃ。
他の7人は、C子のことを平等にかわいがる。さびしい思いをしないよう、飼いネコみたいに、かまってやる。

どうしてC子がマスコットだと分かったかって?
C子は運転ヘタだし、度胸ないからケンカ弱いし、やること、なすことドン(くさ)いんだけど、(だれ)もC子のことを、いじめない。バカにもしない。そもそも「グループの足手まとい」とは見てないと気づいたからよ。
C子は弱虫のくせに、()()びしようとする。(いっ)(しょう)(けん)(めい)すぎて、何だか笑える。人を疑うことを知らないから、言われたことは言われた通りにやって、そして失敗する。母性本能をくすぐるタイプだったのね。

ただ、家族はC子の「()(らい)」だったみたい。
他の7人は「うちのバカ親が」とか、「ジジイ、うるせえんだよな」とか、多少なりとも家族のことを口にするのに、C子の前では、家族の話はタブーだった。
それに()れられると、C子はキレる。相手が男でも刃物(ヒカリモン)(エグ)ろうとする。
そんなことをしたら、もう少年法も守ってくれない。「親衛隊長」B子の仕事の半分は、C子のお守りみたいなものだった。

(五人目)()()(あん)() 特攻隊(トクタイ)(チョー)・D子。1953年生まれ。

D子は、いつでもバイクのこと、走りのことばかり考えてる。走りに関しては、()(きょう)が一切ない。ハンドル(にぎ)れば(おに)みたいになるけど、ふだんは温厚で、ケンカもしない。

(六人目)()()(あん)() 特攻隊(トクタイ)・E子。1954年生まれ。

特攻隊(トクタイ)」E子は、()()(あん)()では(めずら)しいケンカ屋。顔は(こわ)いが、心も怖い。
前歯が欠けてる女の子なんて、初めて見たよ。
度胸の良さでは(たよ)りになる反面、モメごとのタネを作ることもある。
同じ特攻隊(トクタイ)に、性格円満なF子を配したのは、D子とF子とで、E子を(けん)(せい)するためよ。

(七人目)()()(あん)() 特攻隊(トクタイ)・F子。1954年生まれ。

特攻隊(トクタイ)」F子は性格が明るい。さすがに「キャッキャ、ウフフ」でもないけど、いつも笑顔を絶やさない。
「何で、こんな人が暴走族やってんだろう」と、不思議に思う。
家族とも、あんまりコジレてないみたい。
「走りたいから走る」と言うだけの理由で、不良の仲間入りしちゃった()もいるのね。

それと、以前も()れたけど、F子は(まれ)に見る洋楽ツウ。
「レッド・ツェッペリンも、グランド・ファンク・レイルロードも、どっちも同じくらい好き」と、のたもうたツワ者で、私とは話が合った。
F子とのロック談義が、私が()()(あん)()()()むきっかけを作ってくれたような物よ。

実は、()()(あん)()とお別れして、きさらぎを立ち去ることになった時、最後に口を利いてくれたのもF子だったの。
「荷物になるかもしれないけど、持って行きな。誰にも言うなよ」と言って、ピカピカの真新しいアルバムをくれた。フード・ブレインの「(ばん)(さん)」だった。

(八人目)()()(あん)() ケツ持ち・G子。1953年生まれ。

「ケツ持ち」G子は、バイクを体の一部のように乗りこなす。
「ケツ持ち」は交通警察相手のおとり役で、損な役回りでもあるけど、G子は頭の中でパトカー・白バイ相手の立ち回りを、あらかじめシミュレーションしてる。ムチャしてるように見えるけど、ムチャはしてない。
そもそも毎週のパレードは、G子がコースと所要時間をザッと見積もり、M子、A子、B子、D子の幹部会で()めて、決定してる。

ちなみに1970年の日本は、()(つう)の女の子が普通にグレて、普通に暴走族を卒業して、普通の大人に、もどれるような「(めぐ)まれた」時代じゃなかった。
「走りたいから走りました」じゃ、世間が許してくれなかった、特に女の子は。

要は「男なら多少のムチャは許されるけど、あなたは女の子なんだから(以下省略)」と言うこと。今でも、さほど変わってないけどね。

だから問題(かか)えた()は、(たい)(てい)は生き()めにされてオシマイ。(いっ)(たん)はみだしたらアウト。
そういう構造。そういう関係性にからめ取られていたのよ。
だって、『スケバン刑事(デカ)』の5年前、『成りあがり』、『プレイバックPart2』の8年前、『3年B組金八先生』の9年前、『美少女戦士セーラームーン』の23年前の話なのよ。
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