第4章 神永未羅の場合 第55節 坂の下

文字数 1,194文字

数時間後、私は、ある場所にいた。
ごめんね。「ある場所」としか言えないの。

(へび)とムカデと(みつ)(ばち)()(むか)えてくれた。
みんな私の友達よ。
デング熱をプレゼントしてくれる(やぶ)()でも、「(まっ)(たん)(けい)(れん)」と「呼吸困難」をプレゼントしてくれるセアカゴケグモでも、みんな私の友達だよ。

「ねえ、最近『上の方』からやって来た小鳥を知らない?」と聞いたら、案内してくれた、何百羽といるスズメたちが、チュンチュン鳴いて飛び回ってる鳥の巣に‥‥。

「この中から一羽を探すしか無いのぉ?」と、(いっ)(しゅん)ウンザリしたけど、(だれ)かが「統計学を使えよ」と教えてくれた。
(ゆう)(たい)になってから、私は世界中の人の頭脳とつながることが出来るようになったの。世界中の(けん)(じゃ)()()を、わが物とすることが出来るの。
いわば人間ウィキペディア。

統計学を応用して、サンプルを(しぼ)()んだおかげで、出会いたかった白文鳥と、一日で出会うことが出来た。

ドラキュラ山にもどって、私は白文鳥を空に放った。
後のことは、この子次第なのよ。

やがて、ゴルフ・ボールくらいの(ひょう)が降って来た。
これよ、これこれ。さすが良い仕事してるなあ、ザ・クラッシュ。

(ひょう)()んだ。
少し歩くと、テントがペチャンコになってた。持ち主は見当たらない。
さらに追いかけると、山小屋があった。
仮の肉体を消去し、(ゆう)(たい)になって(しの)び寄った。ターゲットを()(そく)した。
(ひょう)に体力を(うば)われたレイが、山小屋の(ゆか)(たお)()してる。
私はレイの(ひたい)にソッと手を()れた。(ゆう)(たい)()()のヒーリングよ。
まあ、気休めなんだけど。

レイが()(ごと)を言った。
レイ「ママン、おうちに帰りたい。パイを焼く(けむり)が、立ち(のぼ)ってるのが見えるよ。」
こりゃ、ホントに寝言だ。
ほぼ消えかけてた私の(こい)(ごころ)は、水をかけられたように燃え()きた。
レイの(ちょう)(はつ)を小屋の柱に結び付けて、私は小屋に火を放った。

今になって考えると、どうして私、「(こう)(ふく)しろ」とも言わず問答無用でレイを殺しちゃったんだろう?
「次は()られる、次は()られる」と、ずっと(きん)(ちょう)してたせい?
()らなきゃ、こっちが()られる」と言う条件反射?
それとも、ザ・クラッシュの死体を二度見たせいかな?
どっちにせよ、武子(たけこ)史上、未だかつてないほど真っ黒で(きょう)(ぼう)だったのは確かね。

えっ?
「かわいさ余って、(にく)さ百倍」?
いやぁ、いくらなんでも、それは無いと思うけど‥‥。

(いか)りの(ほのお)(ちん)()した(ころ)、白文鳥がもどって来て、私の(かた)に止まった。

私「ザ・クラッシュ、元の体に、もどしてあげるよ。まだ()(ゆう)で間に合うから。」

ところが白文鳥は私の肩から飛び立って、地面に()い降りた。
見る見る(ふく)らんで、アッと言う間に白鳥(swanのハクチョウね。(しら)(さぎ)やアヒルじゃないよ)になっちゃった。
そして一声、うれしそうに鳴いて、西の方へと飛んで行った。

うーん。本人が「白鳥でいい」って言ってるなら、ワイルド・スワンフル(?)ライフも悪くはないと思うけどぉ‥‥、
みんなに何て説明すればいいんだろう。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み