第4章 神永未羅の場合 第11節 北関東のトランシルヴァニア

文字数 856文字

「さあ、着いたよ。これから山登りだ」と未羅(みら)は言った。

じめじめした(やま)(おく)(べっ)(そう)で、私たちは車を乗り捨てた。別荘と言っても、原生林の()(かげ)()いて出た毒キノコみたい小屋で、外装の板材はコケで緑色だった。ここに()まるの?

私「こんな所がドラキュラ一族の(ほん)(きょ)って本当?もっと良いとこ、あるんじゃない?(かみ)(こう)()とか、(たて)(しな)とかさあ。」
未羅(みら)「そんな視界の良い所に(こし)を落ち着けたら、目立ってしょうがないじゃない。(しゅ)()(けん)への足回りも悪いし。そもそも日本には『(じん)(せき)()(とう)()(きょう)』なんて、どこにも無い。どこでも(ひと)()はある。(かく)れ住むとしたら、1年の内、400日は雨が降ってる、ここしか無いの。」
私「それで、こんな、なんにも無い所が国立公園の、しかも特別保護地区に線引きされてるってワケ?ホンット、やりたい放題ね、あんたたちドラキュラって。」
未羅(みら)「おかげさまで、静かに暮らす分には良かったんだけど、湿(しっ)()のせいで風土病がキツくてね、永遠の(ねむ)りについちゃったドラキュラも、けっこう、いるんだよ。」
確かに、ドラキュラがジンベエ着て、人間ドックで行列してるトコなんて想像出来ない。

小屋の中からテントやら、なんやら引っ張りだして、すぐ出発した。
()(ざん)(ぐつ)は各人の足にピッタリ、フィットするのを、すでに買い()んでた。
登山服も、めいめい好きなのを買い込んだけど「綿素材の服だけはダメ」と言われた。その理由が、ここへ来て分かった。このジメジメした湿気を綿(めん)(せん)()が吸い込んだら、そのまま(とう)()しかねない。だから(うす)くて軽い防寒着まで買い込んでた。
未羅(みら)って、イヤらしいくらい用心深いのよね。

未羅(みら)「私たちがナニしに、ここへ来たか、ドラキュラ本家には、とっくに伝わってる。つまり()(しゅう)はムリ。おそらく、私も良く知ってる7人のドラキュラが、一人ずつ(かん)(げい)してくれるでしょうね。六面クリヤーすればラスボスよ。楽なもんでしょ?」
(だれ)も何も言わなかった。みんなモチベーションがアップして、ゾクゾクしてたのだ。私もそうだったから、みんなの気持ちは良く分かる。これから、どんな(かい)(ぶつ)とやりあえるのかな。
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