第4章 神永未羅の場合 第47節 I’ll be back

文字数 1,247文字

翌日には私たちは元のメイド生活に復帰した。
正確に言えば「主人なきメイドごっこ」なんだけど。

(よご)れた水でドロドロになった(どう)(くつ)の中から、エリザベート様の家具やら衣服やら蔵書やらを引っ張り出して、水洗いして、天日干ししたの。

特に印象的だったのは蔵書。
パリパリの厚紙みたいな紙に、文字を刻み()んだような本が、何冊もあったの。
「それは羊皮紙だよ」と未羅(みら)が教えてくれた。
本格的な西洋紙が発明される以前の、羊の皮をなめして作った紙。
そこに手書きで文字を刻み込んでいたのね。
羊皮紙の本は装丁も美術品みたいだった。
これは正に、持ってるだけで権力の(しょう)(ちょう)だ。
カンムリかぶった王様が、石を積み上げて築いた大きなお城に住み、ビロードの服を着て、良い馬に乗り、時には羊皮紙の本に親しまれる。そんなイメージ。

私たちが、(だれ)に言われるともなくエリザベート様に服従したのは、この文化の力だったんだ。
「学問・教養がある」とか無いとか、芸達者とか、芸術家のパトロンとか、そういうレベルの話じゃなかったんだ。

まるで(しん)()いたリンゴのように、私たちは「エリザベート様なきエリザベート部屋」を、私たちの前に再現しようと(やっ)()になってた。

そして四日目の朝、フラリと帰って来たのよ、エリザベート様が。
私たちの力作「再現エリザベート部屋」のまん中に、まるで何事も無かったかのように、ちょこんと座っていらしたの、エリザベート様が。

さすがに、みんな泣いたわよ。
この私ですら。
エリザベート様は、ずっとニコニコしておられた。
力関係って、こういう所で現れるんだなあ。

(なみだ)をぬぐって、未羅(みら)が第一声を上げた。
未羅(みら)「エリザベート様が(ばつ)を受けたと聞いて、天地が引っ()り返るような思いでした。エリザベート様、なんか悪いことをしたんですか?」
さっそく無礼の第一声!

エリザベート様「相変わらずキツいのぉ、未羅(みら)。まあ、(しょう)()とは行かなんだが、(しっ)(こう)(ゆう)()付き判決は勝ち取ったと言う感じじゃな。」
エリザベート様って、心が広い。()(つう)(おこ)るトコだよ、ここ。

エリザベート様「さあ、荷物をまとめよ。先に進むぞ。」
先とは?

未羅(みら)「エリザベート様、この先に待ち構えているのは、同じドラキュラのラスボスでございます。」
エリザベート様「うん。だからなあ、そこに行くのが執行猶予の条件なのじゃ。」

おやまあ、これは新展開。まるで(しょう)()みたいに、敵の(こま)をこっちの物にしちゃったんだ。
ニーナ「エリザベート様、今度こそ、最後までお仕え(いた)しまする。」
エリザベート様「何だか、マーキュリーが二人になったような気がするのお。」
私「エリザベート様、そのマーキュリーは、どのようにされるお積もりですか?」
エリザベート様「あやつなら、とっくに気配を察しておろう。いちいち言わんでも勝手に付いて来るわ。さあ、参ろうぞ。」
ニーナ「エリザベート様、お()()えなされませ。ドレスが(よご)れまする。」
エリザベート様「良い。このまま行く。服は(よご)れても、貴族は(けが)れぬ。」

これで未羅(みら)は司令官解任かな?
いや、司令官の上に(だい)(げん)(すい)が君臨したようなモンか。
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