第4章 神永未羅の場合 第69節 見るなと言われても

文字数 1,695文字

見るなと言われちゃ、見るのが義務だ。

そもそも「見るな」とは言われたけど、「はい。見ません」とは言ってない。

ルスヴンからは「おやめなさいッ!」と、キツく止められたけど、そのうち(つか)れが出たらしくて、ルスヴン(ひる)()しちゃった。チャーンス!

ニーナ「オイ! 何する積もりだよッ。」
今度はニーナにつかまった。足元にぃからみつく赤いニーナを()えぇッて(いや、蹴ってませんけど)私は「裏手の物置き」にダッシュした。
何も無かった。ガッカリ。

いや、これは、おかしい。
物置きの中には色んなガラクタが放り()んであって、片足を()み入れることすら、出来やしない。

でも良く見ると、ある部分の農機具や段ボールだけが、こっちに向かって「整列」してるの。
校庭で朝礼やってる小学生みたいに。

つまり、この部分のガラクタだけ、順番に外に出せば、物置きの(おく)まで行くことが出来る。
(だれ)かが何度も()(はい)りしてる内に、自然と、こんな「整列」状態になったんじゃないかしら。

予感は的中した。
早い話がトンネルだった。
物置きの奥の地下から、マンホールより(せま)いタテ穴が()ってあったの。
大の男なら、はさまっちゃうだろうけど、女の人なら行けるな。
つまり、(くろ)(づか)さんが掘った可能性が高い。

ただし、セメントやレンガで、ちゃんと(へき)(めん)を固定した本格的なトンネルじゃなく、土がムキ出しの、いわゆる「タヌキ掘り」。
(らく)(ばん)でも起きたら一巻のオワリの、ジェンガみたいにグラグラした不安定なトンネルなの。
電気も無いし、どんなガスが、たまってるか分かったモンじゃないし、私が(ゆう)(たい)()()じゃなかったら、ここで足が止まってるよ。

その点、私には(えん)(りょ)が無かった。

一時間後、私は(どろ)だらけで()げ帰った。
スプラッター系には慣れてる幽体巫女の私でも、あれには心のリミッターが()り切れちゃった。

コンプライアンスの問題もあるから、要点だけ、まとめるね。

一、「タヌキ掘り」のタテ穴は、大きな「()()()(せつ)」に通じてた。タテ穴はコッソリ(しの)()むための物だと思う。だって「地下施設」側からは(しん)(にゅう)(こう)が分からないよう、うまく(かく)してあったもの。

二、地下施設は(おく)が深くて、全体がどうなってるのか、すぐには分からなかった。

三、地下施設の(かべ)に沿って、ミイラがズラリと並べられてた。服装から見て、ドラキュラだと思う。男も女も、大人も子どももいた。「あ、これ見たことあるな」と思った。無かったっけ? こういうの、メキシコに。要は集団墓地なんだ、ここ。ミイラって、別にコワい物でも、グロい物でもないよ。長い旅を終えた方たちの、安らぎの姿なんですもの。生きて動いてる人間の方が、よっぽどグロくて、コワいよー。
ここまでだったら、良かったのよ。

四、(ゆか)にはホコリが積もってた。(あし)(あと)は、ほとんど無い。かなりの期間、ほったらかしだったんだと思う。でもでも、時々、何かを引きずったような跡があるの。あるはずのミイラがポツポツ欠けてるの。私は床の跡を追ってみた。

五、その先に、「タヌキ掘り」の秘密の小部屋を、また見つけた。「何かを引きずったような跡」は、そこに続いてたの。その秘密の小部屋の中では、()(たい)(そん)(かい)が行われていた。

泥だらけの私を見て、ニーナもルスヴンもギョッとした。私は(たたみ)の上で転げ回った。

私「ひぃ~、人が死んでるぅ~」

ルスヴンの顔色が変わった。

ルスヴン「殺人ですか!? 武子(たけこ)さん。まだ犯人は近くにいるんですか!?」
私「いえ、ミイラが死んでるぅ~」

ニーナがウンザリしたような顔で、(なな)め上から、こう言った。

ニーナ「しっかりしなよ、幽体巫女さん。アンタだって、もう死んでんだろ?」

それでまあ、ヘドモドしながら、上記のような報告をしたワケであります。
死体損壊の(さん)(じょう)は、私の頭の中の映像を「武子(たけこ)ビジョン」で二人に見せてあげました。
(ひゃく)(ぶん)(いっ)(けん)にしかず/一回の現場検証は百回の会議に勝る」で、二人とも、私が(こし)()かした理由を、良く理解してくれましたとさ。

そこに、何かがピカッと光って、部屋の中が真っ白になった。

ゴロゴロ、ばぁん! ばぁん!
ドコンドコンと、天井が落ちるような音がした。
(らい)(めい)だ。

どうやら私、敵に回しちゃいけない人にケンカ売っちゃったみたい。
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