第4章 神永未羅の場合 第85節 大逆罪

文字数 1,580文字

明け方、私たち(マーキュリー、エリザベート様、ニーナ、私)は、未羅(みら)()()みを(おそ)った。警備はいないし、(かぎ)も手元にあったから、楽な仕事だった。

()(まき)姿(すがた)のまま、未羅(みら)はベッドに上半身を起こした。
未羅(みら)「私の首を取りに来たのは、やはりオマエたちか。ルスヴンは殺してしまったのか?」

()(ほん)だと見ても、(いのち)()い一つしなかったのはリッパだと思ったけど、私たちに続いて(しん)(しつ)に入って来たルスヴンを見て、未羅(みら)(こお)り付いてしまった。
未羅(みら)「ルスヴンよ、おまえもか! 終わったな、未羅(みら)。あとは死ぬだけか。」

ルスヴン「カンちがいしないでください、陛下。あなたは最後の東方ドラキュラとして生き残り、私はこの城で最後のドラキュラに成るんです。」

未羅(みら)(ちん)(王の(いち)(にん)(しょう))に()(りょ)になれと申すか。(りょ)(しゅう)(はずかし)めを受けろと言うのか。」

エリザベート様「私がお供します、陛下。どれほどの(れっ)(せい)()(ぜい)でも、広い山の中を()げ回っていれば、チャンスは必ず来ます。」

未羅(みら)「日本にはカルパティア山脈もヒンドゥークシュ山脈も無いぞ。この(せま)い国の、一体どこで(さん)(がく)ゲリラ戦が出来ると言うのじゃ?」

エリザベート様「(いっ)(たん)は日本を出ましょう、陛下。中央アジアでも、中南米でも、骨を(うず)めるに足る地は、いくらでもございます。」

未羅(みら)「朕はこの国から動かぬぞ。王が住むに足る城は(いく)たりもあるが、王の君臨する国に()えはない。」

エリザベート様「なぜ、そこまで、こだわるのですか? 陛下。東方ドラキュラが日本に定住してから、わずか百年足らずではありませんか。」

未羅(みら)「民は行きたい所へ行って、生き延びるが良い。子を産み、育てるのが民の義務じゃからな。だが、王が国を捨てることは、まかりならぬ。」

エリザベート様「その()(くつ)が分かりませぬ。ヨーロッパ貴族が統治するのは全ヨーロッパであって、個々の国は、ただの行政区分に過ぎませぬ。」

未羅(みら)(こく)(たい)のちがいとは、げに(おそ)ろしきものじゃな。では教えてやろう。この国は神の創り(たま)いし国。王権は神からの授かり物だからじゃ。」

「ポストモダン」、「(えい)(れい)の声」のお次は、まさかの(おう)(けん)(しん)(じゅ)(せつ)ぅ? 未羅(みら)の頭の中って、一体どうなってんの?
未羅(みら)「そもそも、どうして、そんなに朕にこだわる? 自分たちの言いなりになる王が欲しいなら、サッサと朕を(しい)して(弑するとは、王を殺すこと)(だれ)か他の者を王に立てれば良いだけのことではないか。手続き手順にこだわるなら、この場で(じょう)()しても良いぞ。」

エリザベート様「それじゃダメなんです。神永未羅(みら)でなきゃ、東方ドラキュラは(ぜん)(めつ)してしまうんです。」
未羅(みら)「どういう意味だ? それは。」

その時、ズゴゴーンと、ものすごい音がして、部屋が前後左右に()れた。とても立ってなんか居られない。私たちは(ゆか)の上で、ワタボコリみたいに転げ回った。幸運なことに、室内には未羅(みら)のベッド一つきりしかなかった。もしも重たい家具が(たお)れて来たら、私たち、ペチャンコに成ってたかもしれない。揺れが収まって、最初に立ち上がったのはマーキュリーだった。
マーキュリー「陛下、()(めん)!」
どこからか取り出した白いハンカチを、マーキュリーは未羅(みら)の口に当てた。未羅(みら)の首が、棒でも折れるみたいにカクッと前に倒れた。シンナーっぽい(しゅう)()が、ここまで流れて来た。

ルスヴン「みなさぁん、次の(ばく)(はつ)まで五分しかありません。安全な(だっ)(しゅつ)ルートはマーキュリーが知っています。ここでお別れです。私には、最後の時を、いっしょに(むか)えてやらなければならない者たちがいるんです。では、さようなら。さようなら。どうか、お元気で。」

言うが早いか、ルスヴンは(けむり)みたいに消えた。

とにも、かくにも五分以内に、私たちはドラキュラ城の外に出ることができた。
次から次へと爆発が起こり、ドラキュラ城はペチャンコの()(れき)の山になった。
やり手の(しつ)()ルスヴンの最後の仕事は、長年、慣れ親しんだドラキュラ城の(ばく)()(かい)(たい)だった。
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