第3章 少年Mの場合 第12節 アイテム入手

文字数 2,447文字

それから私はセーラー服姿で、きさらぎ市民の話を聞いて回った。
(たの)めば、いくらでも話してくれるのは、主に、(ゆう)(ゆう)()(てき)(せい)(こう)()(どく)のおじいちゃん・おばあちゃんたちだった。

手土産なんて、持って行かなかった。率直に「きさらぎについて調べています。お話を聞かせて下さい」と頼んで、疑いの目を向けてくる人とは、しょせん、そこまでのご(えん)だと、そう思うことにした。(あや)しいことをやってるのは、こっちの方なんだから、疑われるのが、むしろ当然だと思う。

そうやって、お()(しき)に上がり()み、コタツに両足を()()んだら、私は水を向けて、相手の話を(うなが)した。ここで(ちん)(もく)の時間を作らないのが(かん)(じん)なの。
最初に()る話題は、きさらぎ銀座のこと。お買い物をしない人はいないからよ。
これでアイス・ブレイクしたら、聞きたいテーマを率直に告げる。これをハッキリさせないと、こちらの意図が伝わらず、相手に(けい)(かい)されるからよ。

「ふだん、どんな物を食べていますか?」
「きさらぎの名物、名所、(きゅう)(せき)について教えて下さい。」
「きさらぎの昔の思い出について、何でもいいから、話して下さい。」
最初は(たい)(てい)、お(ぎょう)()の良い答えしか返ってこないけど、それでいいの。1時間以内に切り上げ、ていねいにお礼をして、おいとまする。この時、忘れずに聞くことがある。
私「また、おジャマしてもいいですか?今度は、どんな話でもいいので。」
このひと言で、相手とのご(えん)が分かるの。
相手の目にパッと光が宿れば、都合の良い日時を聞く。2回目のご訪問からは、手土産を持参する。リンゴ三つ、ミカンひとカゴでもいいのよ。こっちは子どもなんだから。そういう気持ちが大事なの。

2回目からが正念場よ。相手の口から出て来る話は、まあ、決まってる。

(Aコース)グチで()()んだ自分語り定食

(Bコース)オレ様(てい)(こく)の話半分・()(まん)系・特盛りディナー

そして(きょう)()の(Cコース)。心も(こお)りつく、差別と(へん)(けん)のアイス・スイーツ!

ここまで来たら、私はほとんど質問と言うことをしなかった。明らかな事実誤認も()(てき)しなかった。人によっては、耳を(ふさ)ぎたくなるようなNGワードが、口から()(とう)のように()し寄せてくる!傷ついたプライドを(いや)す、一番、手っ取り早い方法は、理由もなく人を見下すことなんだって、つくづく思うわ。

平気なフリして聞いてるのはツラかった。ずっと頭を(なぐ)られているようだった。修行だと思って()えた。相手に敵意なんか(いだ)いたら、()()失格だと思って耐えた。

どうして、こんなことをしたかと言うと、これまで()()(あん)()(しょう)(かい)してくれた、きさらぎ市民と言うのは、「大地の王」の毒を身に受けた方がたか、さもなければ、お医者さんや大学の先生(県庁所在地の、国立()(ふく)大学医学部とか)のような、少し(はな)れた所から物を見ている人たちだったからよ。
()()(あん)()の立場を考えれば、そうなるのが当然なんだけど。

私は「それじゃいけない」と思い始めた。
私はきさらぎを守りに来た。
「正義の味方」ごっこをしに来たんじゃない。
守ると言うなら、全員を守らなきゃウソだ。
たとえ、その中に、口も利きたくないような人間が(ふく)まれていたとしても。

そもそも「大地の王」のことなら、今さら、人に聞くまでもなかった。
私が知りたかったのは、「あなたたちは(だれ)?どういう人間なの?何で差別するの?弱い者いじめするの?(おに)でも(あく)()でもないはずなのに」と言うことだったの。

「大地の王」を(おこ)らせたのは、確かに取返しのつかない、まちがいだけど、まちがいは誰にだってある。
でも、そのまちがいの(あな)()めが、良くて無関心、ひどい場合は差別と(へん)(けん)だったと言うのが、どうしても納得出来なかったの、私には。
(あま)いと言われるかもしれないけど。
おこちゃまだと言われるかもしれないけど。

きららぎの悪を、きさらぎが犯した罪を、裁くのは私じゃない。
裁く権限を持ってるのは、(ゆる)す権限を持ってる人じゃないのかしら。犯罪者を裁き、(けい)(ばつ)を科す国家が、(おん)(しゃ)の裁量権も(どく)(せん)してる、みたいなリクツで。

でも、正直者もウソつきも、思いやりに満ちた人も、身勝手な人も、欲張りも、(おこ)りん(ぼう)も、根性曲がりも、全部ひっくるめて赦してくれる人って、一体、誰?
受け止めてくれる人、()きしめてくれる人って、一体、誰?

その一方で、(とう)(そう)(しん)と反発心が()()まされるのと反比例して、女の子らしい(やわ)らかな心が、私の中から(うば)われて行くような気がして、それだけが(こわ)かった。

ある朝、()()姿で、きさらぎの(はま)()を散歩してた。
ああ、やっぱり、このカッコが一番、落ち着くわぁ。
いや、こんなこと、してる場合じゃないんだけど、こうでもしなければ、メンタルが(ほう)(かい)しそうだったの。「適度に()げ、小出しにストレスを発散するのは、(ほう)()(しゃ)の仕事の内である」と、誰かから教わったから。

ギョッとした。海の中の、足が立つくらいの所に、M子がいた。
トレード・マークの黒革のバイクスーツじゃなく、大きな(あさ)(ぬの)に穴を開けて、頭を通しただけの、てるてる(ぼう)()みたいな服(ポンチョ?)を着てた。
顔に血の気がなく、(ゆう)(れい)みたいに、まっ青だった。

私「どうして、あなたが、ここにいるの?()()(あん)()は、どうしたの?」
M子が両手を()き出した。何かを持ってた。
M子「おまえが欲しいのは、この『海を守る玉』か?それとも、この『()を破る(やいば)』か?」
なぜか私は落ち着いてた。この感じ、何度も経験してる。バケモノが、いよいよ正体を現す時と同じだ。
私「玉と言ったら、そのカミソリが飛んでくる。刃と言ったら、その玉で私を(しず)める気でしょ?」
M子は(ちゅう)(ごし)になり、私に向かって、カミソリの刃をグイと()き出した。
私「私に刃物(ヒカリモン)を向けたわね。しかも、二度も。」
私はM子を()(たお)し、そのまま中に入った。
私の仮の肉体には、(つう)(かく)もなく(しょっ)(かく)も無い。()れても体温は伝わって来ない。M子の体に(てい)(こう)(かん)はなかったけど、一体感もなかった。ここまで深く(ひょう)()したのは初めてだったけど、こんなものかと思った。
玉もカミソリも、M子が持ってる物は全部、私が(うば)った。かく言う私は、M子に何を(あた)えたんだろう?
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