第4章 神永未羅の場合 第91節 神聖ニシテ侵スベカラズ

文字数 1,951文字

(しろ)(うと)()()のニーナを()(おもて)に立てるんだから、今回は思いっ切り、形から入らなけりゃダメだ。装束も何もかも、本格的なのをそろえなきゃダメだ。
大和さんに言えばカンタンに手を入ると思う。例のドラキュラ大明神から。
あそこは物資調達だけはムダに(じゅう)(じつ)してるから。

その積もりでニーナに声をかけたら、意外な答えが返ってきた。
ニーナ「悪くはないと思うよ、武子。でも私は、まったく新しいアプローチを考えるべきだと思う。」
私「まったく新しいアプローチ?」
ニーナ「そんな不服そうな顔するなよ、武子。『武子は、まちがってる』なんて、言う積もり無いよ。アンタの()(じゅつ)が、私たちの命を何度も救ってくれたのは分かってる。感謝もしてる。ゾンビ山や、レイとのデスゲームだけじゃない。ドリナ様のところでも、(くろ)(づか)さんのところでも、イゼベル様が来られた時も、アンタの(こう)(けん)は大きかった。アンタ、パッと見じゃ『余計な口出しばかりする出しゃばり女』としか思えないけど、良く良く考えてみると、アンタのひと言のおかげで、局面が開けたことは何度もあった。ピンチを(だっ)したこともあった。お(さわ)がせ女じゃあるけど、アンタが、自分の役割を果たすのに(いっ)(しょう)(けん)(めい)なのは、ちゃんと認めてる積もりだよ。私だけじゃなくて、その場に居合わせた全員がさ。」

私、ずっと泣くのをガマンしてたけど、ついに(こら)え切れず、ワンワン泣いちゃった。
これじゃ、どっちが巫女か分からないよね。

私が泣き止むのを待って、ニーナは私の(りょう)(かた)をハグし、背中をポンポンと(たた)いてくれた。
ニーナ「話の続きをしていいか? 武子。」
私の肩をつかんだまま、目と目を合わせてニーナは言った。
パンク女の目じゃない。愛にあふれた目だ。もちろん(れん)(あい)(かん)(じょう)じゃなく、もっと清い愛、人類愛みたいなものだ。やっぱり、私が()()んだ通りだった。

私「うん。いいよ。泣いちゃってゴメンね。」
ニーナ「いいんだ、武子。アンタは、いつも強すぎるんだ。私たちの前では、もっと弱くなっていいんだよ。」
また泣きそうになったけど、さすがに「(なみだ)タイム」のオカワリは(えん)(りょ)した。

私「今度は、ちゃんと受けとめるから、教えてよ、ニーナ。あなたが考える『新しいアプローチ』って、どういうものなの?」
ニーナ「オッ、やっと、いつもの武子らしく成ったな。じゃあ言わせてもらうよ。私とアンタは、未羅(みら)のことを、ちゃんと女王様として(あつか)って来たかな? エリザベート様の前じゃ、自動的に『バートリ(はく)(しゃく)()のメイド』みたく成っちまうのにさ。」
私「そりゃまあ、未羅(みら)に悪いとは思ってたけど、なにしろ急なことだしぃ‥‥。」
ニーナ「そうだろう? まあ、私も人のことは言えないけどさ。だからこその『新しいアプローチ』なんだ。未羅(みら)は女王様として、何をしたかったのか? 何ができたのか? 何ができなかったのか? どんな(なや)みを(かか)えていたのか? 最初は、(だま)ってグチ聞いてやるだけでも、このドン()まりから先に進めると思うんだよ。」
ニーナの言う通りだと思った。私は未羅(みら)のことを、外側から()さぶろうとしてただけだ。ニーナに巫女のお株を(うば)われて、ちょっぴり(くや)しかった。やっぱり私、焼きが回ってたのかな?

エリザベート様「横から口を出しても良いか? ニーナ、武子。」
私たちの横で、ジッと()き火を()()めておられたエリザベート様が、前を向いたまま口を開かれた。
エリザベート様「女王陛下に対する数々の無礼は、そもそも私から始まったことじゃ。メイドのオマエたちが私のマネをしても責められぬ。至らぬ主人じゃった。()びを言うぞ。許せ。」
やっぱり、ただのメイドと見られてたのね、私たち。

エリザベート様「新しいアプローチ、悪くないと思うぞ。だから、良き事を教えてやる。最初の一手は『女王らしき外面を整えて差し上げる』ことじゃ。大学での過去があるゆえ、陛下も口には出せんのじゃろうが、(しん)(らい)する友らが、()くすべき礼を尽くそうとせぬ。王に相応(ふさわ)しき扱いを受けられぬと言うのは、陛下の心のどこかに引っ()かって()ると思うぞ。」
ニーナも私も下を向いた。やっぱり私たち、エリザベート様のメイドなのかな?

エリザベート様「そうシュンとするな。(しか)って()るのではない。『いっしょに考えよう』と言うて()るのだ。最初の問題は、王に相応(ふさわ)しき品々、衣装も家具も(おう)(かん)も、みなドラキュラ城と共に消失してしまったと言うことじゃ。」
エリザベート様からフォローしてもらえる日が来るとは感無量です。

ニーナ「モノが無ければ、気持ちで補うしかありませぬ。具体的には、どのような‥‥、」
エリザベート様「それは私が教えてやろう。モノが無ければ無いなりに、ある物で()(げん)を示すのが君主と言うものである。」
へえ。ありがとうごぜえやす。

案の定と言うか、エリザベート様が出してきたのは、かなりの無理難題だった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み