第4章 神永未羅の場合 第44節 暗い濁流の胃袋の中に

文字数 1,023文字

(どう)(くつ)に入って、いきなり足を取られた。
水びたしだったの。
私たちが出て来る時は、カラッカラだったのに、もう足首あたりまで水が来てた。
しかも、どんどん流れて来る。

前の方で、ニーナが「放せ」とか「どけよ」とか、()()ってるのが聞こえた。

ザ・クラッシュ「ニーナ!」
私「ニーナ!」
未羅(みら)「ニーナ!」

水をかき分け、かき分け、ようやく私たちはニーナに追いついた。
ニーナ「なんだ、結局、来ちゃったのかよ。」
口では、そう言いつつ、ニーナはホッとしたような表情を()かべた。

私たちの前に、黒い(かげ)が立ってた。(えん)(りょ)なくマグライトの光を当てた。黒ずくめの(しつ)()衣装の、やせて背の高い男だった。男は言った。
「オレのことは聞いてるな?ここから先には行くな。(バラ)しちまえば簡単なんだが、ケガはさせるなとエリザベート様に言われてるモンでね。」
出ました、影の執事が。こいつが、このステージのラスボス?

「おいおい、オレは敵じゃないぞ。これから起こることは、(だれ)にも、どうしようもないことなんだ。それでも、ここに居たいなら、(だま)って見とけ。」

そこに小さなボート、いや、カヌーが流れて来た。
エリザベート様が乗っておられた。もう水は私たちの(こし)のあたりまで来てる。

エリザベート様「マーキュリー!」
執事の名だ。
エリザベート様は、もう私たちのことを見ようともなさらない。
執事マーキュリーはエリザベート様に()け寄り、どこから出したのか、太い(あら)(なわ)でエリザベート様を、ぐるぐる巻きに(しば)った。

ニーナ「何するんだ、テメエ!」
マーキュリー「誤解しないでくれ。これも命じられたことなんだ。これからやることも、そうだ。」

()(しん)が起きて、私たちは水中に(たお)()んだ。
なんとか背の立つ場所だったので、4人で手を取り合って、立ち上がった。マグライトは流されちゃったけど、私たちの目は、もう(やみ)に慣れてた。
それから見た物を、私は忘れない。

(らく)(ばん)した洞窟の天井から、大量の水がバシャバシャと流れ落ちてた。
その下、洞窟の(ゆか)に大きな地割れがあって、そこに水が流れ込んでた。
すごい音だった。
水が、おうおうと大声を上げているようだった。
その水の舌の中に、マーキュリーはエリザベート様を放り込んだ!
エリザベート様は頭を下にして、声も立てずに水中に消えて行った。

マーキュリーは水をかき分けて、こっちにやって来た。
マーキュリー「とにかく、出ようぜ。ここじゃ話も出来やしない。おい、おまえたち、ちゃんと泳げるよな?」

最後の方は平泳ぎで、なんとか洞窟から(だっ)(しゅつ)した。
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