第4章 神永未羅の場合 第90節 カウンセラー解任。新ヒーラー就任

文字数 2,764文字

武子(たけこ)。ちょっと、こっちへ来い。」
エリザベート様が、コワい顔して私を手招きした。物カゲで、ガッツリ説教された。

エリザベート様「武子、()()の仕事のことは良く知らぬが、もしもオマエがカウンセラーを開業したら、相談したいとか、打ち明けたいとか、助けて欲しいとか、あれでは、とうてい思えぬぞ。」
マズい。エリザベート様は、ああ見えて、人の生き方・やり方を、正面切って批判・非難されたりしないお方だからだ。

エリザベート様「自分では気付いておらぬのかもしれんが、今のオマエは心が()れておる。ひどく(せつ)()(てき)になっておるぞ。オマエとは付き合いが浅い私ですら、そう思う。おそらく、レイとのデスゲームが、地下城ミイラの(たん)(さく)(こう)が、イゼベルの()()が、そしてドラキュラ城の(ばく)()(かい)(たい)が、ひどい(きん)(ちょう)を強いて、オマエの心に悪い折りジワを付けてしまったのじゃろう。まあ、私だって人のことは言えぬがな。三日三晩のスキューバダイビングの際は、私の帰りをジッと待っていたオマエたちに、とてもツラい思いをさせてしまった。今さらながらではあるが、()びを言うぞ。許せ。」

そう言ってエリザベート様は、ひと呼吸、置いた。あ、今度はフォローする気だな。
エリザベート様「結局、ここに居る者らはみな、傷だらけの(おと)()と言うことじゃな。案外、一番重たい荷物を背負って()るのは未羅(みら)かもしれんぞ。だから武子、今回は自分の力で何とかしようとするな。裏方に回れ。プロデュースに(てっ)しろ。それもまた、オマエでなければ出来ぬことであろう?」

私は素直に反省した。この方から、ちょうだいした言葉に「でも」とか「しかし」とか思ったら、その時点でゲーム・オーバーだ。そう思わせるだけの力が、この方にはある。やっぱり、体の中に青い血が流れている方々は、われわれ(しも)(じも)の者とはちがうんだ。

さて、どうしよう。
エリザベート様がおっしゃったことは、要は「自分よりも適当なヒーラーを選んで、プロデュースしろ」と言うことでしょ?
この限られたメンバーの中に、そんなの居たかしら?
全身ホコリまみれ、傷だらけの私たちの中に、ヒーラー巫女の適格者なんて居るかしら。
そもそも「()(しょう)の愛に満ちあふれた人」なんて居たっけ?

そうだ、一人居たッ!
私はニーナの(かた)(うで)をつかんで、物カゲに引っ張り()んだ。

私「ねえ、ニーナ、お願い。未羅(みら)の、こり固まった心を、アナタの手で解きほぐしてくれない? ヒーラー巫女の()(れん)()(くだ)は、この私が手取り足取り教えるから、(おお)(ぶね)に乗った気で居てちょうだい。問題はニーナの博愛精神なの。人を愛する心なの。それがあると見込んでるから、こうしてお願いしてるのよ。これは未羅(みら)のためにも、私たち全員のためにも、そして東方ドラキュラの運命を変えてあげるためにも必要なことなの。」

ニーナはコワい目をして私をにらみ、そして口を開いた。
ニーナ「話は分かったよ。『武子(たけこ)、オマエが言うな』と言いたいトコだけど、そこは飲み込む。しかしだよ、別に(けん)(そん)して言うワケじゃないけど、人に分けて上げられる人類愛なんて、今の私には無いよ。愛と言ったって、マーキュリーには(あま)い水をタップリ(あた)えた分、カラいのを情け(よう)(しゃ)なく(うば)い取ってるから、行って来いでバランスしてるだけだし。」

うん。この自覚があるなら(だい)(じょう)()。さすが私のニーナ。(こい)をして、ニーナは、ずいぶん丸くなった。自分では分からないと思うけど、愛に満ちあふれてる。これまでみたいな、トゲトゲした「一人だけの軍隊」じゃない。私が目を付けたのはソコなんだ。

ただし、男女のドロドロした物を持ち込まれたら、すべてが台無しになっちゃう。私は、それを気にしてたの。それにニーナは「自信がない」と言ってるだけで、「やりたくない」とは、ひと言も言ってない。こういう時は、方向を変えて、もうひと()し。

私「ニーナはニーナで居てくれればいいよ。」
ニーナ「そうなのか?」
私「うん。」
ニーナの目が(かがや)きだした。「それなら、やります。やる気はあります」と言う意味だ。
ニーナ「でも、特別な修行とか必要なんじゃないのか?」

ここで「大丈夫だよぉ」とか、気休めを言っちゃダメ。鉄は熱いうちに(たた)け。
私「そうね。もしも引き受けてもらえたらの話だけど、しばらくはオトコ断ちしてもらうことに成るよ。」
ヒーラー巫女やるのにオトコ断ちなんて必要ない。これは私の、ただのイジワル。

ニーナ「その点は問題ないよ。この(あいだ)、マーキュリーと大ゲンカして、もう一週間は(くち)()いてないから、ちょうど(わた)りに船だよ。」
うわッ! ブーメランだッ!
この二人、一週間も(くち)()かないケンカが出来るほど仲が良かったのか。
失礼しましたー。ごちそうさまでしたー。

ニーナ「それで、ヒーラー巫女として何を(こころ)()ければ良いんだい? かいつまんで教えておくれよ。」
うん。もう「乗りかかった船」だ。私にとっても、ニーナにとっても。

私「分かってると思うけど、『私たち二人の幸せを未羅(みら)に分けて上げよう。分かち合おう』なんて考えたら絶対ダメだよ。」
ニーナ「うん。そこら辺は、まあ自覚してる積もり。」
私「よろしい。次に、マリアさまか、観音さまみたいな積もりで居てもダメ。相手の(やみ)に引っ張り込まれるだけだよ。早い話が、心の()()(そう)(なん)。」
ニーナ「じゃあ、どうすりゃいいのさ?」
私「植木等の『だまって(おれ)について来い』って曲、知ってる?」
ニーナ「ゼニのないヤツぁ、オレんトコへ来いッ、だろ?」
私「そうそう。ちょっと歌ってみて。」

ニーナは最後まで歌った。

ニーナ「そのうち何とか成るだろうって、アンタ、そんな積もりで巫女やって来たの?」
私「そうだよ。だって、『あなたに絶対服従します。私の命も人生も自由も差し出します』なんて、クライアントに言われても困るじゃない。私たち、神様でも仏様でもないんだから。」
ニーナ「それじゃ結局、自分の(めん)(どう)を自分で見れる、強いヤツしか救えないじゃん。」
私「だからぁ、そういうのが未羅(みら)には、ちょうど良いワケ。未羅(みら)の意志と独立心と(せん)(たく)の自由を最大限、尊重してやらないと、多分、未羅(みら)はソッポ向くよ。『こうしなさい』でも、『こうすればぁ?』でもダメなの。」
ニーナ「なんか難しい話に成って来たなあ。」
私「いや、単純なことだよ。」

私は、また歌った。RCサクセションの「自由」だ。
34(さい)・男盛りのイマーノ・キヨシローが、(ぼう)(とう)から「オレは つきあいにくいぜ」と飛ばした挙げ句、「自由 自由 自由」と連呼しまくる名曲。
実は一九八四年リリースなんだけど、まあ四年くらい誤差の内だよね。

ニーナ「すべてのヤツらに自由を、か。なるほどね。そういう言い方してくれれば、とても良く分かるよ。うん、未羅(みら)のキャラに合ってる。良い曲だよ、これ。RCに、こんな曲があったなんて、知らなかったな。」
そりゃまあ、四年後にリリースされる曲ですから。
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