見破れ! ライダー!

文字数 5,495文字

「大クマ男が現れたそうだ! 現場に向かってくれ!」
「「「「「はい!」」」」」
 おやっさんは内閣官房長官と昵懇の仲、警察からもライダーチームは頼りにされている。
 戦闘員だけならまだしも、怪人が現れたとなれば警察だけでは対処しきれないのだ。
 ライダーチームは直ちにそれぞれのマシンに跨って現場に向かった。
 ……しかし……。

「ご苦労さまです!」
「怪人は?」
「それが……我々警官隊が到着した時には既にいなかったんです……通報は多数ありましたからいたずらや誤報と言うことはないと思うんですが……」
 警官は首をかしげている。
「それに、普通今回のような銀行強盗に怪人が一緒に現れた時は、時間をかけてでも金庫の扉を爆破してでも根こそぎ盗んで行こうとするものなのですが、今回は行員が差し出した現金袋だけ奪うとそのまま逃走したらしくて……残念ながら戦闘員ですら一人も逮捕できていないのです、わざわざ急行していただいたのに申し訳ありません」
「いえ、警察になにも落ち度はないわけですから……」

 ライダーチームは首をかしげながらもアジトへと帰還した。

 それから連日のように……。
「カニ男が現れたそうだ!」
「牡牛男が現れたそうだ!」
「ライオン男が現れたそうだ!」

 立て続けに怪人が現れたと言う通報、しかし結果はどれも大クマ男の時と同じ。
 怪人は姿を見せただけで特に暴れるようなこともなく、戦闘員も金品よりも逃走を優先しているようにも思える。

「どういうことなんだろう……?」
 ライダーチームのアジト『スナック・アミーゴ』の二階ではチームの面々が首をひねっていた。
「いずれにしても四体の怪人が同時に存在しているようだな」
 仮面ライダー二号こと一文字隼人が真っ先に口を開いた。
「このところコロナ禍でショッカーも鳴りを潜めていたから、その間にせっせと怪人を作り出していたんだろうな……改造手術室は一カ所しかないが、これだけの期間があれば出来るのかもしれない」
 仮面ライダー・マッスルこと納谷剛は元ショッカーの戦闘員、内部事情には詳しい。
「しかし、怪人が現れていながら暴れないと言うのはどうも腑に落ちないな」
 ライダーマンこと結城丈二、卓越した頭脳を持つ彼は作戦会議での中心人物だ。
「つまり、一連の騒動は『怪人は四体いるぞ』ってあたしたちへのアピールなんじゃないかしら」
 紅一点、現代のくノ一、レディ9こと納谷志のぶは女性ならではのカンを働かせる。
 その言葉に丈二は頷いた。
「それは考えられる、何らかの形で挑戦状を叩きつけて来る可能性があるな」
 現代の陰陽師、アベノセイコこと安倍晴子は少し心配そうだ。
「その場合、罠が仕掛けられていると考えた方が良いんじゃないかしら」
 陰陽道に通じている他はごく普通の若い女性としての身体能力しか持たず、直接戦闘に参加するわけではない晴子は皆の身を案じる。
 だが、ショッカーがどのような卑劣な作戦を立てているにせよ、逃げるわけには行かない、受けて立たねばならない、それはチームに共通の覚悟だ。

 ショッカーからの挑戦状、それは意外な方法で届けられた。
「みんな、これを見てくれ」
 おやっさんがテーブルに広げたのはとある全国紙、そこに一面を使っての広告が掲載されていたのだ。
 死神博士のシルエットと共に、『明日の正午、秘密基地にて待つ』
「公開挑戦状ってわけか」
「それにしても全国紙に広告って結構金がかかるんじゃないか?」
「いや、この新聞社なら……」
「ああ、なるほど……」
 ショッカーには、とある国から資金援助がなされていることがわかっている、その国とべったりの新聞社ならば無料で掲載した可能性が高い。
「しかし、罠だと公言しているようなものだな、これは」
「確かに」
「受けて立たないわけには行かないが、対策を立てなければむざむざ罠の中に飛び込んで行くようなものだぞ」
 鍵となるのはショッカーが見せた、今回一連の不可解な動き。
「一つ気づいたことがあるんです……」
 晴子がそう言い出し、それをきっかけに作戦会議は急展開を見せた……。

「おそらくそう言うことなのだろう、そうなると今回のキーマンになるのは……」
 隼人、丈二、剛、志のぶの視線が晴子に注がれる。
 二時間に及ぶ作戦の結果、怪人の能力、死神博士が考えそうなこと、そしてその対策が練られた。
 そして勝利の鍵は安倍晴明の血を引き継いだアベノセイコこと安倍晴子が握っている。
「わかりました」
 ライダーチームの命運を託された晴子は力強く頷いた。

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
 
「わはははは、ライダーどもよ、まんまと罠にかかったな!」
 ショッカーの秘密基地、普段は戦闘員の訓練に使われている荒れ地。
 そのひときわ高い丘のてっぺんには死神博士の姿だ。
「死神博士、一度脳の検査を受けた方が良いんじゃないか?」
「まあ、その歳になってもポジティブなのは褒めてやるがね」
「罠と気づかずにやって来たと考えるとは、少し惚けが始まっているんじゃないか?」
「く……く〇ぅ……このワシを年寄り扱いしよって」
 死神博士の顔から高笑いの表情が消える。
 とどめを刺したのはレディ9。
「下品ねぇ……おもらし? 大人用パン〇ースが必要なんじゃないかしら」
「き……貴様ら……言いたいように言いおって……」
 思惑通り、ライダーチームの的を射た悪口に死神博士は苛立ちを隠せない。
「出でよ! 大クマ男!」
「グォー!」
 突如地中から大クマ男が現れて吠えた。
「パワー自慢だな、こいつは俺の相手だ」
 マッスルが一歩進み出ると大クマ男はふっと姿を消す。
「出でよ! カニ男!」
「あのハサミを封じるのが肝要だな、私が相手になろう」
 ラーダーマンが身構えるとすると、カニ男はやはり姿を消す。
「出でよ! 牡牛男!」
「突進をかわす身の軽さなら自信があるわ、あたしに任せて」
 レディ9が身構えると牡牛男も姿を消す。
「出でよ! ライオン男!」
「百獣の王と来たか、ならば俺が相手だ」
 ライダーがこぶしを固めると、やはりライオン男が姿を消した。

「こっちだ!」
「どこを見ている、こっちだ!」
「背中を見せて良いのかな? こっちだ!」
「遅い遅い、こっちだ!」
 大クマ男、カニ男、牡牛男、ライオン男は地中からひょっこり現れると、素早く姿を消す。
 ライダーチームは右往左往……。
 そして、期せずして、とある一点に背中合わせに集結した。

「わはははは! 嵌ったな、ライダー共よ、今日こそ貴様らの最後だ!」
「な、なんだ! これは!」
 死神博士が杖を振ると、地中から無数の鉄棒が飛び出してライダーたちを閉じ込めた。
「こんな鉄棒……うっ……曲がらない」
「無駄だ、マッスル、その鉄棒は超硬質の特殊合金製だ」
「ならば私の丸ノコアームで……何? 歯が欠けた!」
「特殊合金製だと言っただろう? 丸ノコくらいで切れるものか」
「これくらいの檻、ひとっ跳びで……ぐわっ!」
 ライダーがジャンプして飛びこそうとすると、頂点付近で弾き返される。
「わははは、お前がそう来ることくらい読めておるわ、バリアを張り巡らせてあるのじゃ、レディ9、貴様がいかに身が軽くともこの檻からは出られんぞ! 貴様らは既に袋のねずみ、いや、袋のバッタだ、今だ! 戦闘員どもよ、ライダーどもを吹っ飛ばしてしまえ!」
 四方から戦闘員が現れ、その肩にはロケットランチャーが……。
「貴様らがいかにすばしこくてもその檻の中ではロケット弾を避ける事は出来まい! やれ! お前たち!」
「あのー、博士……」
「何じゃ、早くやってしまわんか!」
「これ、外れると向かいの仲間に当たりませんかね……」
「何をくだらぬことを! 全部命中させれば済むことじゃろうが」
「そう上手く行くとは……」
「上手くやれば良いではないか!」
「そう言われましても……スミマセン、少し横にずれます……」
「この弱虫共が……ああ、構わぬ! 正面から少し外れても構わん、結果に差はなかろう、さっさとやれ!」
「「「「はい!」」」」
 四方からのロケット弾攻撃! 檻はたちまち爆炎に包まれた!
「やったか?」
 爆炎が収まると、檻の中にライダーたちの姿はない。
「???? 死骸がないが……そうか、跡形もなく吹っ飛んだのだな? やったぞ! とうとうにっくきライダーどもを葬り去ってやったわ! わははははは、わははははは」
 演習場に響く死神博士の高笑い……しかし……。

「残念だったな、死神博士」
 四体の怪人が姿を現したり消したりした場所にライダーチーム四人それぞれの姿が……。
「そんなに簡単にやられるわけはないだろう?」
「四体の怪人は全てこいつが化けてたんだろう? ムジナは姿を変えて人を化かすのが得意だからな」
 マッスルが気を失っているムジナ男を放り投げた。
「き、貴様ら、あの爆炎からどうやって……」
「横はダメ、上もダメでも『下』があるわよ」
「下?……地中かっ! だが穴を掘る時間など……」
「穴なら最初からあったのさ、そのくらい調査済みだよ」
「な、なんだと?」
 狼狽する死神博士にライダーがそう言い放った。
「ど、どうして四体の怪人は全てムジナ男の変化(へんげ)だと……?」
「最初からおかしかったんだよ、ムジナ男は姿形を変えて人を化かすことはできるが、戦闘能力は大したことはないんだろう? だから騒ぎを起こしては真っ先に人に姿を変えて野次馬に紛れていたんだ……それを確信したのは晴子が気づいた背中の模様でだよ」
「も、模様だと?」
「ムジナは背中に白い十字模様がある、どの怪人にも同じものがあったからな」
「そ、そうだったか……し、しかし、穴の秘密は……?」
「ムジナは土堀りが得意で長いトンネル状の巣を作る、その穴を移動してモグラタタキみたいに顔を出しては引っ込んでいたんだろう?」
「し、しかし……貴様ら四人が身を隠せるほどの穴は……」
「この檻を仕込むのにもムジナ男を使ったんだろう? そいつは自分が作業しやすいように檻の内側の部分に大きな空洞を作っていたんだよ」
「そうよ、あとはあたしの土遁の術で薄い地表を崩せば、四人が身を隠せる空洞が現れたってわけ」
「まあ、あの爆炎はさすがにちょっとばかり熱かったがな」
「く……くそっ……ムジナ男、手を抜きおって……」
「まあ、貴様の人望のなさを責めるんだな、見ろ、ロケットランチャーを担いでいた戦闘員たちもひっくり返ってるぜ、軸をずらして正解だったな、そうでなければ直撃だったよ」
「し、しかし、どうやってその空洞を見つけたのだ……?」
「ライダーチームにはもう一人いるのを忘れたか?」
「……あの陰陽師か……」
「そうよ! 私の名はアベノセイコ!」
 それまで隠れていた晴子が身を現した。
「陰陽師は動物に呪をかけることで式神として従えられるの、モグラを捕まえて式神にすればそこらじゅうのモグラが全部味方に付けられるのよ、地下の調査ならモグラに勝るものはないわ……さあ、死神博士、観念なさい!」
「フン、抹殺には失敗したが、貴様らに捕まるようなワシではない、最後の手段は隠しておくものだ」
「何っ?」
「次こそ貴様らを葬り去ってやる、覚悟していろ! I’ll be back!」
 死神博士が両腕でマントを勢い良く広げると硬化して大きな羽に形を変えた。
「憶えておれ!」
 死神博士は丘の上から身を翻し、ハンググライダーのように滑空し始めた……が……。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ」
 風にあおられて死神博士はバンスを崩す。
「まあ、奴のことだ、装備を開発するのには熱心だが、それを使いこなすための練習はしていないんだろうな」
「基本的に身体を動かすのは嫌いみたいだしな」
「お~い! 死神~! その谷は深いぞ~っ!」
「し、知っておるわ! ワシはこのくらいの失敗で諦めんぞ、いつの日か必ず貴様らを葬り去ってやる!」
「そこから墜落して助かったらだがな!」
「うわぁぁぁぁぁぁ………………」
 死神博士の悲鳴が深い谷底へと消えて行った……。

「今度こそお陀仏かな……」
「さあな、悪運の強さとしぶとさだけは認めてやらなきゃならん男だからな……」
「まあ、助かってもしばらくはベッドの上だろう、それに首領が『次こそ頑張れ』なんて言ってくれるとも思えんしな……」
「まあ、何はともあれ一件落着だ、おやっさんのところへ戻ろう」

 ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

「くそぅ……ライダー共め……ワシをこんな目に遭わせよって……」
 死神博士は両腕、両足を石膏で固められ、ベッドに横たわって呻いていた。
 すると……。
「死神博士よ……」
 首領の声が病室に響き渡る。
「あ、首領様……申し訳ございません! 次こそ必ず」
「……もう良い……もう良いのじゃ……貴様にはもう何も期待せん……」
「しゅ、首領様……」
「辞令を楽しみに待つがよい……」
 前回はエジプト支局への左遷……次はどこに飛ばされるのだろうか……。
 だが、諦めの悪さなら人後に落ちない死神博士、必ずやどこかで復活するに違いない……。

         (終)
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