戦え! ライダー!

文字数 4,707文字

 前回投稿した『原点回帰だ! ライダー!』のラストで、「まだ見ぬ6月のお題に続く」と書き「何としてもつなげて見せる」と豪語しましたw
 男に二言はございません( ̄^ ̄) エッヘン
 まあ、お題にも恵まれました、6月のお題は「雷鳴」「渦巻く」「さくらんぼ」「蛍」からの選択、「さくらんぼ」「蛍」は入れられませんでしたが、「雷鳴」「渦巻く」にはふさわしいお話になっていると自負してます。

 今回は「続く」にはしません、何故なら……次のお題当番が私自身だからです、自分で出すお題に「続く」とするのは反則ですからねw


          『戦え! ライダー!』


「出でよ! 沼男!」
「沼男だと?」
 水面が激しく渦巻いたと思うと、まるで入道雲のように大きく盛り上がった。
「ウォー!」
 沼男の咆哮が響くが……。
「どうやって吠えているんだ、声を出すには空気がいるはずだが?」
「わはは、沼男は体内に大量のメタンガスを蓄えているのだ」
「メタンガスだと? 道理で臭うわけだ」
「軽口を叩いていられるのも今だけだ、沼男! ライダーを捉えて引きずり込んでしまえ!」 
 地獄大使がそう叫ぶと、無数の触手が生えて来てライダーに掴みかかる!
「ライダーチョップ!」
 ライダーはその触手を手刀で薙ぎ払おうとするが、相手は水だ、一旦は切れるもののすぐにつながって更に伸びて来る、ライダーはじりじりと後退することを余儀なくされた。
「う……」
 ライダーが木を背にして下がれなくなったと見るや、沼男の本体が長く伸びてライダーに向かって一直線に伸びる。
「とうっ! ライダージャンプ! なにっ!」
 危うく直撃を逃れ枝に跳び乗ったが、その枝に触手が絡みついて強く引っ張る、危うく別の木に飛び移ったが、元居た枝はぽっきりと折られてしまった。
(これはうかつにキックが撃てないな……)
 今の様子からすれば、本体にキックを撃っても効果はないばかりではなく、絡めとられて溺れさせられる危険もある。
(厄介な敵だ……)
 ライダーは木から木へと飛び移って攻撃を避けることしかできず、こちらから攻撃できる手段が見つからない。
(このままでは戦えない、一体どうしたら……)
 枝はどんどんと折られ、沼周辺の木は丸裸にされて行く、ライダーは次第に追い詰められてしまう。。
「しまった!」
 細い枝がしなり、ジャンプのタイミングがわずかに遅れた。
「拙い!」
 足首を掴まれてしまうと、触手が次々と伸びて来て両腕、両脚の自由が奪われ、胴体にも触手が絡んで身動きが取れなくなってしまった。
 危うし! ライダー! 絶体絶命のピンチだ!

 その時だった。
 強烈な冷風が吹き荒れ、沼男の触手はその動きを止めた。

「ライダー! 今よ、触手からのがれて!」
 見れば晴子とライダーマンの姿が……そして傍らには雪女のお雪。
 口から吐く冷風で水の触手を凍らせてくれたのだ。
「助かった!」
 まるで手ごたえのなかった水も凍り付いてしまえば物理的な力で粉砕できる、ライダーは両腕、両脚に力を込めて氷を割り、脱出した。
「ありがとう、晴子ちゃん、お雪さん、実際かなり危なかった」
「うん……お雪さん、もう一息お願い」
「任せて!」
 お雪が更に冷気を吐き続けると、沼男は見る見るうちに凍って行く……が。
 
 ボン!

 大きな音と共に凍った本体が砕け散り、水面を炎が覆った。
「なにっ!」
「わはは、ライダー、忘れたか? 沼男はその体内にメタンガスを蓄えているとな」
「そうか……だがもう油断はしないぞ」
「雪女とは不意を突かれたが、凍らせても無駄だ、沼男は何度でも復活するぞ!」
「ちっ……」
 地獄大使の高笑いに、お雪は忌々しげに冷気を吐くのを止めた。
 だが、晴子は既に次の一手を打っていた。
「お願いね」
 晴子の掌には一匹の泥鰌、沼から飛び出して来たのを手に取って呪(しゅ)をかけていたのだ。
 晴子の、いや、陰陽師アベノセイコの式神となった泥鰌は濁った水中へと消えて行く……。

「どうだった?」
「沼の底に竜が潜んでおりました」
 探査から戻った泥鰌は人間の姿を借りて報告した。
「そう、水を操っていたのはその竜ね」
「おそらく……そして竜は琥珀の玉を咥えておりました」
「そこまでわかれば上出来、ありがとう、助かったわ」
 呪(しゅ)を解かれた泥鰌は再び沼の中へ……。
「竜だと? 竜の改造人間なのか?」
 いぶかしげなライダーの疑問にライダーマンが答えた。
「いや、その琥珀の玉が怪しい、おそらくはこの沼の主たる竜をその玉に仕込んだ装置で操っているんだろう」
「クッシーの時と同じようなものか……それにしても実在したんだな、竜は」
「あら、あたしだって実在してるわよ」
 お雪が少し口を尖らす。
「そうだった、面目ない……だが、そうとなればやるべきことは見えた、その竜をおびき出して玉を破壊すればいいわけだ」
「言っておくけど、竜は簡単に倒せる相手じゃないわ、妖怪やUMAの中でもちょっと特別な存在なの、水を自在に操れるだけじゃなくて、空を飛ぶし素早く泳ぐわ、パワーも桁外れ、鋭い鉤爪にかかったらあなた達でも引き裂かれかねないわよ」
 お雪は少し心配そうだ。
「いや、破壊すべきは玉だよ、それを離させることができれば良いんだ、昔から沼を守って来た主を倒す必要なんかない、いや、むしろ倒しちゃいけないんだ……だが、どうやって止めれば良いんだ……」
 そうしている間にもメタンガスは激しく燃焼し、氷が溶けるのは時間の問題だ。
 その時、マッスルからの連絡が入った。
「こっちは片付いたぜ、そっちの様子は?」
「かなり苦戦している……そうだ、君はトラックを運転できたな、これが上手く行くか確証はないんだが……」
 ライダーマンはマッスルに何事かを頼んだ……。

「氷が解けるぞ、また水が襲ってくる、晴子ちゃん、なにか竜をおびき出す手はないかな?竜は手ごわいだろうが、実体がない相手とは戦えない」
「あるわ……お雪さん、ありがとう、交代よ」
 晴子が新しい札を掲げて呪文を唱えると、辺りに雷鳴が轟いた。
「ワシを呼んだか!?」
 空から舞い降りて来たのは……雷神だ!
「ええ、この沼の主、竜に用がある、おびき出してもらいたいの」
「竜をおびき出すだと? 正気か? 桁外れに強いぞ」
「ええ、承知の上よ」
「それにこの沼に主は必要だぞ」
「ええ、でも今はショッカーに操られてしまっているの、その装置さえ破壊できれば……」
「そういうことなら良いだろう、雷神と竜は古来から深い縁を持つ間柄だからな、その竜が人間に操られているとあればワシも一肌脱がねばなるまいて」
 雷神は空高く舞い上がると背負った太鼓を激しく叩く。

 ガラガラ! ピシャーン!

 雷鳴が轟き、一筋の稲妻が沼を直撃した。
 すると水面が渦を巻いて盛り上がり、玉を咥えた竜が姿を現した。
「なるほど、目に生気がないな、魂が抜けているかのようだ……やい! 竜よ、目を覚ませ!」
 再び雷鳴が轟き、稲妻が竜を直撃した……が、玉は離さず、攻撃を受けたことで怒り狂ったように舞い上がり、雷神めがけて突進する。 その時……。
「盟友の顔も見忘れたかっ!」
 突風に煽られ、竜はバランスを失った、風神が雷神に加勢して突風を竜に見舞ったのだ。
 竜は落下する途中でバランスを取り戻し、今度は地上のアベノセイコめがけて急降下。
「「危ない!!」」
 ライダーマンがセイコを庇って地面に伏せるのと、ライダーがジャンプして竜の腹を蹴り上げたのは同時だった、進路をわずかにずらされた竜は、その鉤爪で辺りの木を数本なぎ倒して再び上昇した。
「ライダー、見たか? あの木を」
「ああ、すっぱりと切れているな、あの鉤爪にかかったら我々でも真っ二つだな、それに俺のキックでも竜の腹はビクともしなかったよ」
「マッスルがじきに到着すると思う、それまでなんとか持ちこたえなければ」
「ああ、とにかくセイコを守るのが第一だ、今回に限っては専守防衛だな」
「だが、心強い味方もいる……」
 ライダーマンは空を見上げた。
 空中では再び風神雷神のコンビと竜の戦い、しかし操られて見境がなくなっている竜と、竜を傷つけたくない風神雷神ではおのずと勢いが違う、風神雷神は押され気味の上、二人がかりの攻撃を受けてバランスを失えば、竜は再び地上を襲う。
 激しい戦いが続く中……。
「待たせた!」
 突っ込んで来た大型トラックが急ブレーキをかけてタイヤを滑らせ沼に横付けになった。
「ご注文の品はこれでお揃いかな?」
「ああ、これでいい!」
「だが、こんなものをどうするんだ? まさか戦闘の景気づけにするんじゃないよな」
「説明は後だ、とにかく片っ端から鏡割りだ!」
 ライダーマンがマッスルに頼んだもの、それはトラックの荷台いっぱいの樽酒。
 セイコのガードをライダーに任せて、マッスルとライダーマン、そして助手席に乗っていたレディ9が片っ端から樽を開けて行く。
 あたりに漂う酒の匂い……それは空の竜にも届いた。
「お待たせ、冷で良かったかしら?」
 レディ9の声に振り向くと急降下する竜、だがもちろん狙いはレディ9ではない。

 ザブン!

 竜は堪らずに咥えていた玉を落として樽に頭を突っ込む。
 
 プハー!

 一気に一斗の酒を飲みほした竜は天を仰ぐ、その眼はすっかり元通り、いや、むしろ喜色満面だ。
 それを見届けて風神雷神もほっとしたように顔を見合わせ、そして声を揃えて言った。
「お~い、我々にも一樽くらいは残しておけよ!」

「上手く行った……」
 ライダーマンもほっと胸をなでおろした。
「なるほど、こういうことか、ヤマタノオロチもこれで退治されたんだったけな……確かにこの匂いには惹きつけられるってもんだ」
 マッスルも鼻をクンクンとさせているが……。
「あなたはダメ、大型免許を持ってるのはあなただけなんですからね」
 レディ9にすかさず釘を刺されてしまった。
 とにもかくにも、竜は正気を取り戻し、危機は去ったのだ。
 
「油断したよ、地獄大使を取り逃がしちまった……」
 ライダーが残念そうに戻って来たが、ライダーマンはその肩をポンと叩いた。
「この玉を持ち帰って分析すれば奴はもう同じ手は使えないよ、まあ、今回はそれで良しとしよう……専守防衛の厳しい戦いだったしな」
「ああ、そうだな……」
 ライダーチームが視線を送った先では、竜と風神雷神が揃って久方ぶりの酒に酔いしれていた……。

「う~ん……まだ酒の匂いが漂ってるな、すきっ腹に染み入るようだぜ」
 トラックを返却に行く最中、マッスルはいかにも残念そうだ。
 何しろトラックの荷台いっぱいに積み込んだ一斗樽を次々と飲み干す豪快な酒盛りを目の当たりにしたのだ。
「うふふ……今はダメよ、アジトに戻ったらね」
「おっ……流石に気が利く」
 助手席のレディ9は、シートの下に隠してあった一升瓶をそっと取り出して見せた。

 自然界には人智の及ばない不思議がまだまだある、それを利用しようとするショッカーの所業は自然への、ひいては人類への冒涜だ。
 ショッカーを壊滅したその時、ライダーチームは本当に心から美味い酒が飲めると言うものだ。
 戦え! ライダーチーム! 心から酔えるその日まで……。

                 (終)

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