メリー・クリスマス! ライダー!

文字数 13,664文字

(これも私自身が出したお題に沿った作品です、12月で、お題は『魔法』でした。 魔法に因んだ新キャラが登場します、厳密には『魔法』を使うわけではないのですが、戦いの舞台は『魔法』にちなんだ人気スポットです。)

         『メリー・クリスマス! ライダー!』

 クリスマス・シーズン、ライダーたちはそれぞれ、子供たちに勇気をプレゼントするために、様々な施設を訪れている。

 ライダーは大きな病院の小児病棟に。
「わあ、ライダーだ、ライダーが来てくれた」
「僕もライダーみたいに強くなりたいな、でも、病気がなかなか治らないんだ……」
「私もね、ショッカーに捕まって改造手術されてしまった体なんだよ、でも、運よく脱出することが出来て、今はショッカーと戦っている、でもね、いつかショッカーを斃して平和を取り戻せたら、私も普通の人間に戻りたいと思っている。 世の中には医学や化学、遺伝子工学の研究をしてくれてる博士もたくさん居るんだ、希望をなくしちゃいけないよ」

 ライダーマンは手足が不自由な子が通う養護学校に。
「私はね、ショッカーから逃げ出すときにこの右手を失ったんだ、ほら、この通り……でもね、私は左手を使うことを訓練して、いまではすっかり左利きさ、それに、この右手には色々なアタッチメントをつけ替えてショッカーとの戦いに役立てているんだ、失ったものを悔やんでばかりではいけないよ、何をするべきなのか、何が出来るのかを考える、前へ進むには必要なことなんだよ」

 マッスルが訪問しているのは少年院だ。
「おっす! 悪ガキ共! 実を言うとな、俺も刑務所にはずいぶん厄介になってるんだ、前科六犯、相当なワルだろ? ショッカーの戦闘員としてライダーと戦ったこともある、でもな、戦いに敗れた俺にライダーは更生のチャンスをくれたんだ、で、心を入れ替えて、今じゃライダー達と共に戦ってる……真っ当に生きるって、清々しいものだぜ、日々が充実してる、お前らも罪を償ったら、自分に何が出来るのか、何をしたら良いのかを真剣に考えて欲しいもんだな!」

 そしてレディ9が訪れているのは、死別や虐待、育児放棄などで親を失った子供たちが共同生活を送っている児童養護施設だ。
「わぁ! レディ9だ!」
「すっげ~!」
「かっこいいわぁ!」
 正義のヒロイン、女性であるレディ9は、男の子だけでなく、女の子にとっても憧れの的だ。
「握手? もちろん良いわよ、じゃ、並んでくれる?」
「はいはい、レディ9は一人しか居ないのよ、ちゃんと一列に並んでね」
 子供たちを並ばせているのは晴子。
 実は晴子も八年前、十五歳の時に両親を失っている、ショッカーの怪人に襲われたのだ。
 晴子自身も危ない所をライダーたちに救われ、しばらく立花レーシングで暮らしていた。
 養護施設の職員になってからも、立花レーシングには時々顔を出していて、同じ女性で年齢が近い志のぶとは姉妹のように仲が良い。
「はい、一人に一袋づつ、クッキーのプレゼントよ」
「わぁ、これ手作りクッキーだ! レディ9が焼いたの?」
「そうよ」
「強いだけじゃなくて、お菓子作りも上手なのね! 優しくて綺麗だし……あたし、大きくなったらレディ9みたいになりたい!」
「うふふ……とっても光栄よ、ありがとう」
 しかし、楽しく、穏やかに流れる時間は緊急連絡で止まってしまう。
「はい……ショッカーがディズニーランドに? 魔術を操る怪人ですか? わかりました、現場に急行します……みんな、ショッカーが現れて暴れているの、私は行かなくちゃならないわ、みんなともっと楽しく過ごしたかったけど、ごめんね、また必ず来るわね」
 そう言い残して養護施設を後にしようとしたレディ9だが、晴子に引き止められた。
「魔術を操る怪人って、もしや、アシャード・ドゥーマン?」
「そうよ、あなた、知ってるの?」
「両親の仇なの」
「そうだったの……」
「あたしも連れて行って!」
「それはダメ、気持はわかるけど危険だわ」
「ううん、仇だからって言ってるんじゃないの、ドゥーマンが相手なら、あたしは力になれる……ううん、その戦いにはきっとあたしが必要になるわ!」
 レディ9は訝しげに晴子の顔を見るが、その目に強い意志の光を感じて頷いた。
「わかったわ、行きましょう!」

 つい先日完成したばかりの、レディ9専用マシン、On×3(オンミツ)号。
 一見すると、映画『ローマの休日』でO・ヘップバーンとG・ペックが二人乗りしていたシーンで有名な、イタリア・ベスパ社製のおシャレなスクーターにしか見えない。
 しかし、その中身は立花レーシングの技術力が詰まったスーパーマシンなのだ。
「飛ばすわよ! しっかり掴まってて!」
 スロットル全開! On×3号は轟音を置き去りにするかの様な鋭い加速で走り去った……。


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「どこ? どこで戦ってるの?」
 瞬く間にディズニーランドに到着したレディ9と晴子だが、パークは逃げ惑う無数のゲストで混乱していた。
 レディ9の地獄耳もこの騒ぎの中では役に立たない……そんな時に役立つのは……。
「ビッグサンダー・マウンテンよ! 急ぎましょう!」
 志のぶと剛の間でだけ交信可能な、『愛のテレパシー』はどんな混乱の中でも互いを見失うことはないのだ。


「あなた!」
「志のぶ! 来るな! 危険だ! こいつ、妙な魔術を使いやがる! うわっ!」
 見ている前でマッスルが吹っ飛ばされた。
「コチカメ波よ!」
 晴子がそう叫んだ。
「コチカメ波?」
「気功波の一種、カメハメ波より強力なの!」
「気功? そんなもので三人ライダーを寄せ付けないことが出来るって言うの?」
「アシャード・ドゥーマンは陰陽師なの!」
「陰陽師? 日本人には見えないけど……」

 ドゥーマンは黒い肌に彫りの深い、かなり濃い顔立ち、そして元は白かったのだろうが、今ではねずみ色になってしまっているぼろぼろの僧衣を纏った老人にしか見えない。

「蘆屋道満の子孫がインドに渡って、綿々と陰陽道を受け継いで来た、その末裔がドゥーマンなの!」
「それでアシャード・ドゥーマン……でも、晴子ちゃん、そんなことまで知ってるあなたって……」

 晴子はその問いには答えず、ドゥーマンに向かって叫ぶ。

「邪悪なる陰陽師、アシャード・ドゥーマン! あたしに見覚えはない!?」

 ライダーたちに充分なダメージを与え、余裕綽々なドゥーマンが晴子に振り向く。
「ふむ……どこかで見たような気もするな」
「八年前、あんたが日本で暴れた時よ!」
「おお、思い出したぞ、あの時の小娘か」
「そうよ! 私は安倍晴子、陰陽師としての名はアベノ・セイコ! 父母の仇! 覚悟なさい!」
「これは笑止……お前の父でさえ手も足も出なかったワシに敵うとでも思うか? わははははは、思い出すわ、お前の父の無様な最後をな!」
「くぅっ……」
 晴子、いや、アベノセイコは悔しさの余り唇を噛み締めた……。


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 八年前、やはりクリスマスシーズンの事だった。
 晴子は両親と共にショッピングを楽しみ、両親と談笑しながら、父が予約してくれたレストランに向かっていた。
 と、突然、通りの背後から人々の悲鳴……。
 そちらを振り返って見ると、カラスの大群が人々を追っていたのだ。
「私の後ろに隠れていなさい」
 父は何かを察したらしく、妻と娘……弘子と晴子に命じると、通りの真ん中に進み出て仁王立ちになった。
「狙いは私だろう? アシャード・ドゥーマン! 無関係な人たちを巻き添えにするな!」
 そう言い放ったのだが、晴子にはなんのことやら……。
「おお、アベノ・セイコウ、そこにおったか」
 父の名は安倍晴宏……アベ・ハルヒロ、確かに晴宏はセイコウとも読めるが……アベノ・セイコウって一体どういうこと?
 晴子にはちんぷんかんぷんだったが、母には事情が飲み込めているようだ。
「晴子、お父さんの言うとおりになさい」
 晴子を包み込むように抱いてしゃがみこんだ。


「そのカラスは、式神の仕業だな?」
 アベノ・セイコウと呼ばれた父が、アシャード・ドゥーマンと対峙する。
「言わずと知れたことよ、一方的に攻めるばかりでは面白味がない、先祖の無念も晴れまいて……何をしておるのだ、反撃せぬのか?」
「貴様に言われるまでもない!」
 アベノ・セイコウが呪を唱えると、カラスが一羽飛来してセイコウの肩にとまる。
「ふむ、カラスを式神に選んだか、目には目をというわけだな? なるほど、空を飛べぬ犬猫では相手にならん、賢明な選択だが、カラス対カラスであれば道力の強さが勝敗を決するぞ」
「望む所だ」
「ならば、勝負だ!」
 ドーマンの式神、僕となったカラスが大群を率いて飛び立てば、セイコウの式神に選ばれたカラスもまた大群を率いて迎え撃つ。
 空中でカラスの大群同士の戦闘が繰り広げられた……が、平穏な日本で、陰陽師の末裔であることを伏せて静かに暮らしていたセイコウと、インドの山奥で道力を磨いて来たドゥーマン、その力の差は徐々に明らかになる。
セイコウの式神がドゥーマンの式神に敗れると、セイコウのカラスの大群はクモの子を散らすように飛散してしまった。
「食らえ! セイコウ!」
 ドゥーマン操る大群がセイコウに向かい、セイコウはそれを迎え撃とうと呪を唱え始めたのだが……。
「何っ!」
「わははは、狙いは貴様と言った覚えはないぞ」
「卑怯な!」
「ふん! 戦いに綺麗ごとなど要らぬ! ぬるいわ!」

 ドゥーマンのカラスたちはセイコウを飛び越し、背後のハルコと母に群がったのだ。

「きゃーっ!」
「お父さん! 助けて!」
「うぬぅぅぅ……このままでは二人とも……」
 セイコウはポケットから人の形に切り出した紙を取り出し、妻子を振り返る……。
「弘子、すまない! 俺も一緒に逝く、許してくれ!」
 そう叫び、紙に息を吹きかけた……。


「え? 何? どうなったの?」
 晴子は突然鋭い嘴と真っ黒な羽の雲から解放された、そして、振り返ると、両親がカラスの群がられてもがいている。
「お父さん! お母さん!」
 晴子の必死の叫びも、カラスの大群が発するけたたましい鳴き声にかき消される。


 セイコウはとっさに自分と娘の体を入れ替えたのだ、娘を助けるべきか、妻を助けるべきか、苦渋の決断だった。


「わははは、馬鹿め、貴様自身が死んだら娘も助けられぬではないか、平和な暮らしが長すぎたようだな、判断力も鈍っていたと見える」
 勝ち誇ったドゥーマンの顔……晴子は悔し涙のスクリーンを通してその顔を脳裏に刻み込んだ。


「さて、小娘、次はお前だ、恨むなら無力な父を恨めよ」
 再びカラスの大群が晴子に襲いかかろうと飛び立った。
 その時だった、黒は黒でも、カラスではなく逞しい体が晴子を包み込んでカラスの鋭い嘴の攻撃から守ってくれ、別の黒いジャンプスーツが踊り出したかと思うと、右腕からロープフックを発射してドゥーマンを弾き飛ばした。
「ぐえっ! 何ヤツ! うぬぅ、貴様らが話に聞くライダーとライダーマンだな? まあ良い、目的は達した、無用な戦いをするつもりはない、ワシは消えるとするかの」
 そう言い残すと、ドゥーマンの姿は空気に溶け込むかのように消え去ってしまった。


 ライダーマンは倒れている晴宏と弘子に駆け寄るが、晴子に向き直ると残念そうに小さく首を振った……。


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 一度はショッカーに狙われた身、おやっさんの判断でしばらくは立花レーシングに匿われていた晴子だったが、自宅に戻ると、両親が居なくなったことが改めて身に沁みる……。


 一人ぼっちの寂しい夜、居間でぽつんとしていると、七色の衣を纏った少女が現れた。
 それは晴宏の式神、自分の身に何かあった時の事を考え、飼っていたインコに呪(しゅ)をかけて置いたのだ。
 少女は陰陽道の秘術を記した巻物のありかと、教えを請うべき人物……賀茂忠行の子孫の名前と居場所を晴子に告げると、元のインコに戻った。


 それから八年、自らを陰陽師の血筋の者、安倍清明の子孫と自覚した晴子は、来るべきアシャード・ドゥーマンとの対決に備えて、養護施設の職員として住み込みで働く傍ら、密かに陰陽道の修行に励んで来たのだった。


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「あの時に安部晴明の血を引くお前を消しておかなかったのは迂闊じゃったな、じゃが、所詮は小娘一人、何と言うこともないわ、食らえ! コチカメ波!」
 アシャード・ドゥーマンが気功波を放つと、晴子、いや、アベノ・セイコは空中に五茫星を描いて呪を唱えた。
「ぐあっ!」
 吹っ飛んだのはセイコではなくドゥーマン、セイコは五茫星でコチカメ波を弾き返したのだ。
「うむむ、思ったよりやりおる……ならばこれでどうだ、コチカメ波・北斗! アタタタタタタタタタタタタタタタタ!!!」
 コチカメ波の乱れ撃ちだ!
 しかし、セイコはさらに大きな五茫星を描き、背後のレディ9までも守る。
「うぐっ!」
 しかも、弾き返されたコチカメ波・北斗はドゥーマンの胸に七つの星まで描いてしまう。
「くっ……みくびったか……」
 ドゥーマンは膝をつき、上目遣いでセイコを睨む。


「ドゥーマン! そろそろ我々も反撃させてもらうぞ!」
 コチカメ波のダメージから回復した三人ライダーも立ち上がった。


「うぬぅ……ワシの力はコチカメ波だけではないぞ、目に物見せてくれる」
 そう言いながらも、ドゥーマンはちょうど通りがかったウエスタン・リバー鉄道に飛び移る。
「あ、逃げるか! 待て!」
 ライダーとマッスルも列車に飛び乗る、セイコとレディ9も飛び乗ろうとするが、ライダーマンがそれを制した。
「晴子ちゃん、助かった、しかし君を危険に晒すわけには行かない、レディ9、何があるかわからない、ここで晴子ちゃんを守ってくれ!」
 ライダーマンはそう言い残すと、ロープフックを飛ばして列車に引っ掛け、飛び移って行った。


「…………あっ! いけない!」
 僅かの間だが、記憶を辿っていたセイコが小さく叫ぶ。
「何? どうかした?」
「ウエスタン・リバー鉄道って、最後のところで『大古の森』を通るわ!」
「それが?」
「ドゥーマンは恐竜を使うつもりよ!」
「どういうこと?」
「陰陽師は命なき物でも呪を掛ける事で操れるの、きっと恐竜に襲わせるつもりなのよ!」
「そう」
 セイコにとっては意外だったが、レディ9はそれを聞いて、少しも動じる様子はない。
「恐竜でしょ? 大丈夫よ、あの人たち、倒したことあるもの」


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 いつもは大人しく草を食んでいるはずのブラキオサウルスがその長い首を叩きつけるように攻撃して来た。
「うおっ! 何だ? ここの恐竜、ゲストを襲ったかな?」
「『魔法の王国』でそんなことは起こらねぇよ、ジュラシックパークじゃあるまいし」
「だが、我々を襲う気満々だな」
「ふむ、クッシーと大体同じ位の大きさだな」
「ああ、あの時、俺は湖に出られなかったからな、ちょっと戦ってみたかったぜ」
 マッスルはブラキオサウルスの首攻撃をガッチリと受け止めると、思い切り振り回して投げ飛ばしてしまった。

 次は卵の孵化を見守る二頭のトリケラトプス、ライダーたちを見るなり突進して来る。
「そういう態度は子供の教育上良くないと思うが……」
 ライダーパンチとマッスルパンチで、あっさりとひっくり返す。

「あいつらはジュラシックパークで見たぜ、ヴェロキラプトルだろう?」
「ああ、狡猾ですばしこい奴らだ、大きくはないが引っ掻き回されると厄介だな」
 ライダーマンがロープを発射し、脚をぐるぐる巻きにしてしまう。

「おお、トリにふさわしい大物の登場だな」
 ティラノザウルスとステゴザウルスの決闘シーン、ライダーたちに気付いたティラノザウルスが攻撃の矛先を変えた。
「恐竜の王者に敬意を表して三人がかりと行こうか」
「「おう!」」
 ライダーマンがロープフックを脚に絡ませてバランスを崩すと、倒れ掛かるところにマッスルのアッパーカット、仰け反った所にライダーキックでトドメだ。
 見ると、ステゴザウルスがライダーたちに深々と頭を下げていた。


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「くそう、物理的な攻撃は効かんか、ならばそれなりの手はあるぞ」
 ドゥーマンは列車から飛び降りるとワールドバザールの方向へと走る。
 続いて飛び降りた三人ライダーも後を追う。


「あ、降りて来た、ほらね、心配なかったでしょ? さあ、続くわよ!」
「あっ! ドゥーマンはきっとカリブの海賊に向かうわ!」
「どうしてわかるの?」
「人形よ!」
「人形? それって恐竜よりは弱いんじゃない?」
「人の形をしたものにはまた別の呪をかけることができるの、ピンチよ、急ぎましょう!」


 スタート直後の小さな滝を滑り落ちると、数台先のライドでライダーたちが胸を押さえて苦しんでいる。
「あ、本当にライダーたちが! ドゥーマンは一体何をしたの?」
「人形を三人に見立てて呪をかけたのよ! 人形を攻撃すれば三人を攻撃したのと同じことになるの! 藁人形の呪いのリアルタイム版みたいなものよ!」
 見れば、ドゥーマンは三対の人形にナイフを突き立てて攻撃している。
「わはははは、どうだ? いくら貴様らが強くてもこれでは手も足も出まい!」
 ドゥーマンの高笑いが薄暗いアトラクション内に響き渡り、普段はコミカルに見える他の人形達の動きもなんだか薄気味悪く、あざ笑っているように見えてしまう。


「こんなことって……どうしたらいいの?」
「任せて!」
 セイコはライドから飛び降りると、一体の人形を選んで指で五茫星を描き、呪を唱える。
「レディ9、クナイを!」
 忍者特有の武器を手にすると、セイコは人形にクナイを突き立てる。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 ドゥーマンが悲鳴を上げて崩れ落ちた。
「うぬぅぅぅぅぅ……おのれ、小娘! 人形(ヒトガタ)の呪も操れるとは……だが、まだ戦いは終わっておらぬぞ!」
「ああっ……」
「どうしたの!? 晴子ちゃん!!」
 セイコがいきなり青ざめてうずくまる。
「呪を返された……人に害をなす呪には必ず返しの呪が存在するの……」
「大丈夫?」
「ええ、それより、ドゥーマンが逃げるわ、追わなきゃ!」


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「あれは何だ?」
 カリブの海賊から逃走したドゥーマンを追って外に出たライダーたちに向かって、何かが空を飛んで来る。
「ありゃぁ、ダンボじゃねぇか?」
「そのようだ、耳をはためかせている、あれもドゥーマンの仕業だろうな」
「出来ればダンボは蹴りたくないんだが……」
「俺もだ、殴らずに済むものなら殴りたくはないな……」
「実を言うと、私も『Baby Mine』のシーンが大好きなんだ」
「ああ、あれな、ダンボがジャンボの鼻のゆりかごですやすや眠るシーン、泣かせるよなぁ」
「おいおい、余計に蹴りたくなくなるじゃないか……だが、そうも言っていられないようだ」
 ダンボは空中高く舞い上がったかと思うと、グライダーのように急降下して来る。
「仕方がない……ライダー・キック!」
 ガッシャーン!
「ダンボ、すまない、鼻を折ってしまった、後できちんと直してもらってくれ」
「こんな攻撃は時間稼ぎにしかならないとわかっているだろうに、人の情に付け入むとは、ドゥーマンは相当な鬼畜だな」
「いや、実際に時間が必要だったのかもしれない、何を企んでいるのかわからないぞ、急いで追おう!」


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 心ならずも、空飛ぶダンボを倒したライダーたちだが、クリスタルパレス・レストラン前にさしかかると、三体の着ぐるみが立ちふさがっていた、いつもならレストランで愛嬌を振りまいているキャラクターたちだ。

「おいおい、今度はミッキーかよ……」
「ドナルドもな、それにトランプ(注:わんわん物語より)とは……中々タイムリーだな」
「しかし、ここまでの戦いからして、彼らを直接我々に立ち向かせようとしているとは考え難いが……」
 
「わははは、ライダーマン、さすがに知性派だな、その通り、そいつらには式神の呪をかけた、同類の動物を操れるようにな」
 三体の背後でアシャード・ドゥーマンが高笑いする。
「動物だと?」
「そうだ、見るが良い!」

 ダイヤモンド・ホースシューの陰からはネズミの大群が。
 トゥモローランド・テラスの陰からはアヒルの大群が。
 バズ・ライトイヤーのアストロ・ブラスターの陰からはイヌの大群が現れ、ライダーたちに向かって突進して来る。

「なるほど、そう言うことか……これは厄介だな」
「どこからこんなに大量の動物が……」
「イヌは大好きなんだ、あんまり戦いたくはねぇな……だが、そうも言ってられねぇか!」
 動物達が三人ライダーに群がる。
「くそっ、倒すのは簡単だが!」
「ぐぅ、操られているだけで、罪のない動物達だからな!」
「確かに攻撃し難いな……だが、この大群だぜ? このままじゃ拙くはないか?」
 罪なき動物に向かって本気は出しにくい、しかし大量の動物に群がられて、ライダーたちは苦戦を強いられる。

「あれは何?」
 遅れて到着したレディ9の目の前には、それは信じ難い光景……。
 しかし、セイコはすぐに事情を察知した。

「動物たちは操られているのよ!」
「ドゥーマンに?」
「直接的にはディズニーキャラクターによ!」
「もう! ドゥーマンって最低! 子供たちの夢を壊すような真似するんじゃないわよ! でも、あの三体を倒せば良いのね?」
「そうなんだけど、物理的な攻撃では倒せないわ」
「じゃ、どうすればいいの?」
「任せて!」

 
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「ミッキー! あなた、一体全体どういうつもり? 答えによっては許しませんからね!」
「ドナルド! あなた、見損なったわよ! もうお付き合いしてあげないから!」
「トランプ! あなたはもっと誇り高いと思ってたわ、イヌは人間の最良の友って言われてるのよ! 人を襲わせるなんて最低!」

 セイコが式神の呪を掛けたのは、ミニー、ディジー、レディの三体。
 ミッキー、ドナルド、トランプは、それぞれ愛する彼女に詰め寄られてタジタジ……。

「馬鹿者! 何をたじろいでおるのだ! 相手は女だぞ、シャンとせんか! さっさと蹴散らせ!」
 ドゥーマンは地団駄を踏むが、そこはレディーファーストの国、アメリカ生まれのキャラクター達、それぞれの彼女には頭が上がらない。

「ごめんよ、ミニー、僕が悪かったよ」
「ぐゎぐゎぐゎぐゎぐゎぐゎぐゎぐゎ、ぐゎぐゎ~(ゆるしておくれよ、ディジー)」
「こんなことは、二度としないと誓うよ」
 ミッキー、ドナルド、トランプは腰砕け、動物達へのマインドコントロールも解けてしまう。

「今よ! レディ9、ドゥーマンに攻撃を!」
「わかったわ! この女性蔑視主義者! これでも食らいなさい!」
「うわっ! 何だ? 煙玉だと? こんな攻撃でワシが……ゲホゲホ、ハァ~クション」
「煙玉は煙玉でも、特製ハバネロペッパー入りよ!」
「ゲホゲホ、ハァ~クション……うう、咳にくしゃみ、涙も止まらぬ……くそぅ、早くこの場を離れねば……うおぅ! 痛い!」
「お気を付けあそばせ、足元は撒きびしだらけよ」
「く、くそう、かくなる上は……出でよ! わが最強の僕よ!」
 ドゥーマンはシンデレラ城の階段にたどり着くと、踊場に立って両腕を天に突き上げた。


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「あれは何! シンデレラ城の陰から巨大なコブラが!」
「蠱毒(コドク)よ!」
「蠱毒?」
「毒を持つ生き物を沢山壷の中に閉じ込めて、生き残った生き物に呪を掛けて僕にするの! 日本では大抵ムカデなんだけど……」

「なるほど、インドのローカル・ルールというわけか」
 動物達から解放されたライダーたちが、女性二人の後ろに立っていた。

「要するにあれは巨大化したコブラなんだな?」
「ええ、基本的には……でも死闘の末に生き残ったコブラだから、きっと毒は強くなってるわ、もしかしたら毒を飛ばしてくるかも……締め付ける力も強くなってると思う」
「つまり、それさえ気をつければ、物理的な攻撃で倒せると?」
「ええ、実体はあるわ」
「ならば我々に任せてくれ、君はかなり疲れているように見えるぞ」
「大丈……」
 最後まで言えずにセイコはふらついてしまい、レディ9に抱きとめられた、人形の呪返しの影響も残る上に、より強力な道力を持つドゥーマンに必死で対抗して来て、力を使い果たしかけているのだ。
「ここまで良く頑張ってくれた、おかげで助かったよ、君がいなければやられていたかも知れない、ありがとう、感謝するよ……ライダーマン! マッスル! 聞いただろう? あれは物理的攻撃で倒せるそうだ、行くぞ!」
「「おう!」」
 三人ライダーは巨大なコブラに向かって走り出した。
 

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「レディ9、お皿を二枚、見つけてきてくれる?」
 セイコが僅かに残った気力をふり絞る。
「お皿?」
「大きくて真っ白なのが良いわ、それと油性マジックも」
 セイコは予想外のものを所望した。
 しかし、ここまでの活躍を見てきた限り、ちゃんとした意味があるのに違いない。
「わかったわ、すぐに戻る!」
 レディ9はクリスタルパレス・レストランに走った。


「おっと! 本当に毒を吐きやがる!」
「気をつけろ! 猛毒だぞ、舗装が溶けている!」
「忠告を聞いておいて良かったぜ、あんなの食らったらこの強化スーツでも危ねぇな」
「ここは私に任せてくれないか?」
「何か新兵器が? ライダーマン」
「ああ、多分有効だと思う、あの口さえ封じれば……」
「確かに」
「ライダー、私が弾を打ち込んだらヤツのアゴにキックを打ち込んで口を閉じさせてくれ」
「おう!」
「行くぞ!」
 ズバン!
 ライダーマンの右腕から発射された弾は、狙い違わず、巨大コブラの口の中へ。
「今だ! ライダー!」
「よしっ! とおっ! ライダー・キ~ック!」
 ライダーキックがアゴに命中すると、コブラは毒を吐こうとするが、口が開かない。
「ライダーマン、今のは?」
「特製アロンアルファ弾さ」
「ははぁ、なるほど」
「こうなりゃ、こっちのモンだ、むん!」
 マッスルが巨大コブラの尻尾を抱え、その巨体を扇風機のように振り回し始めた。


「これで良いの?」
「ミッキーのパンケーキ用のお皿ね、ばっちりよ」
 セイコは油性マジックで皿になにやら書き始める。


「ちいっ! しまった、シンデレラ城の塔を一本壊しちまった」
 マッスルが巨大コブラを投げ飛ばすと、シンデレラ城に命中、意外と石頭で、塔が一本倒れてしまったのだ。
「だが、相当に弱っているな、目も回しているようだ、ライダー! 今だ!」
「ああ! わかっている! とぉっ!」
 ライダーが空中高くジャンプした。


「レディ9、土遁の術は使える?」
「ええ、習得済み」
「出来るだけ深い穴をお願い!」
「了解!」


「ライダー! キック!」
 ドスーン!
「ああっ! わが最強の僕よ! しっかりしろ!」
 

「ドゥーマンは戦いに気を取られてる! 今のうちよ! これを出来るだけ土中深く埋めちゃって!」
 セイコが二枚の皿に向かい呪を唱えて、ぴったり合わせると、ドゥーマンがガクッと膝をつく。
「ま……まさか……あの術を?」
「そのまさかよ!」
 セイコが皿を穴に投げ込む。
「し……しまった、まさか『埋鎮の皿』の術も使えたとは……ふ、不覚……」
 

「毒ヘビはしっかり頭を潰しておかないと生き返るぜ」
 マッスルが倒れた塔を抱えて、巨大コブラの頭に振り落とすと、巨大な体に痙攣が走り、見る見る小さくなって行く。


「レディ9! 今よ! お皿を埋めちゃって!」
「わかった!」
 レディ9が印を結ぶと、深い穴はその痕跡も残さずに消えてなくなって行く。
「おのれ……安倍晴明の血筋の者……千年の時を超えてまたも敗れようとは……無念じゃ……」
 ドゥーマンの体が見る見る干からびて行き、後にはぼろぼろの僧衣だけが残った……。

 
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


「何だこりゃ……」
 僧衣の中からマッスルが拾い上げたのは、干からびてミイラのように縮んだコブラ。
「ドゥーマン、さすがね……とっさに蠱毒と入れ替わったんだわ……」
「と言うことは、逃げられた?」
「ええ……でも、さっき埋鎮の皿で邪気は封じ込めたから、もう道力は使えないはずよ」
「あれはそういう意味のものだったのね、お皿と油性マジックって、何に使うのかと思ったわ」
「しかし、道力が使えないのなら、ドゥーマンもただの老人だな、ご老体にしては身体能力も大したものだったが……晴子ちゃん、本当に助かったよ」
「八年前は命を救ってもらったわ、恩返しになったかしら?」
「ああ、充分だ、我々だけじゃない、日本の危機を救ったんだよ、晴子ちゃんは」
「『魔法の王国』は少し壊しちまったけどな……」
 マッスルが頭を掻いた……。


ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


「何とお礼を申して良いやら」
 ディズニーランドの経営陣がライダーチームに深々と頭を下げた。
「いや、ウエスタン・リバー鉄道やら、ダンボやら、少し破壊してしまいました、申し訳ありません」
「一番被害がでかいのはシンデレラ城の塔だな……面目ない」
「いえいえ、あなた方のせいではありませんよ、それに、ゲストの方々さえ無事であれば、施設は直せば済むことですから」
「そう言っていただければ……」
「何かお礼をさせて頂きたいと思うのですが」
「いやいや、我々はそんなつもりでは……」
 ライダーはかぶりを振るが、レディ9がライダーになにやら耳打ちすると、ライダーもにっこりと微笑んだ……んじゃないかと思う……。


BGM https://www.youtube.com/watch?v=mM7M447oqLQ

 数日後のクリスマス・イブ。
 一文字隼人と結城丈二は、それぞれ小児病棟と養護学校へ。
 そして志のぶと剛は、晴子の養護施設を訪れている。
 それぞれ、ある衣装とプレゼントを携えて……。


「は~い! みんなでサンタさんを呼びましょうね!」
 晴子の号令で、子供たちが声を揃える。
「「「「サンタさ~ん!」」」」
「ほっほ~い」
 現れたのはサンタの衣装と立派な髯を身につけた剛。
 ディズニーランドのパレードで使われる本格的なコスチュームだ。
「わあ! サンタさんだ! メリー・クリスマス! サンタさん!」
「メリー・クリスマス! 良い子にしておったかな? 良い子にはプレゼントを持って来たぞ!」
「わ~い!……あれ? プレゼントって……封筒?」
「中には何が入っているかな? 開けてご覧」
「わぁ、これって、ディズニーランドの招待券?!」
「そうじゃよ、夢と魔法を楽しんでおいで」
「わ~い! サンタさん! どうもありがとう!」
「ほっほ~、喜んでもらえて、ワシも嬉しいよ」
「サンタさん、大好き!」
「ワシもみんなが大好きじゃよ」
「サンタさんっておっきいね、腕にぶら下がってもいい?」
「ああ! いいとも!」
「肩に乗せてくれる?」
「お安い御用じゃ!」
「お髯に触っても良い?」
「いや、それはちょっと……」


「晴子ちゃん……今回は本当にありがとう、あなたもチームに加わってくれると嬉しいんだけど……」
 子供たちにもみくちゃにされている剛サンタを、少し離れて見守りながら志のぶが言う。
「せっかくだけど……志のぶさん、あたしにはあの子達がいるの、みんな、あたしを必要としてくれてるし……」
「そうね……」
「でも、あたしの力が必要になったら、いつでも呼んで……って、あたしは運転できないから迎えに来てもらわないといけないけど」
「晴子ちゃん……ありがとう、心強いわ」
 志のぶは晴子の肩を優しく抱き寄せ、二人はまぶしく輝く笑顔を交わした……。

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