宿題だよ! ライダー!

文字数 5,376文字

(自分が出したお題に沿った作品です、お題は『宿題』でした。)

        『宿題だよ! ライダー!』

「別段脳波の乱れや脳内出血などは見られないようです、脳震盪ですね、しばらく安静にしていれば大丈夫でしょう」
「良かった……先生、ありがとうございます」
「いやいや、脳震盪を甘く見てはいけませんよ、確かに時間が経てば元通りになりますが、脳がダメージを受けたことに変わりはないんです、回復できるダメージでもそれが蓄積して行くと、後々影響が出る可能性があります、気をつけてあげて下さい」
「はい……わかりました……」

 脳震盪と診断されたのは現代に生きる陰陽師・アベノセイコこと安倍晴子。
 ショッカーとの戦闘中に戦闘員に捕まりそうになり、レディ9こと志のぶがそれを阻止したものの、倒された時に頭を打ってしばらくの間立ち上がることもできなかった。
 しばらくすると回復して、本人は『大丈夫』と言っていたものの、志のぶは無理矢理病院に連れて行って検査を受けさせたのだ。

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

「今回は幸い大事には至らなかったが、晴子ちゃんの安全をどう確保するか考えなくちゃならんな」
 最初に口を開いたのはおやっさん。
 晴子を自室に寝かせ、ライダーチームの面々はリビングでミーティングを開いているのだ。
「ごめんなさい、私が付いていながら……」
 頭を下げたのは志のぶ、戦闘の際は晴子の身を守る役目を引き受けている志のぶとしては、晴子が脳震盪を起こした責任を感じてしまっている。
「いや、志のぶさんだって晴子ちゃんにかかりきりと言うわけには行かない、と言うか、今回の戦闘では彼女に狙いを絞ってきていたように思うな、一度に多勢の戦闘員にかかられては志のぶさん一人で守るのは限界がある」
 ライダーマンこと結城丈二が冷静に分析するが……。
「確かに……だが、ショッカーにフー・マンジューがいる限り晴子ちゃんの能力は必要なこともまた事実だよ、ドゥーマンのような陰陽師がまた現れないとも限らないしな」
 仮面ライダーこと一文字隼人の言葉に皆が沈黙してしまう。

 彼女自身も因縁がある悪の陰陽師・アシャード・ドゥーマンとの闘いをきっかけにライダーチームに加わった晴子、彼女の道力で助けられた事は数知れない。
 しかし、晴子は陰陽道に通じている以外は全く普通の女性、いや、体格、筋力、運動神経など、身体的にはむしろ平均を下回る。
 そんな晴子がショッカーとの戦闘現場にいる事自体が既に危険なのだ。
 もちろん、既に晴子も戦闘用のスーツは身につけている、しかしそれは防弾、防刀性能を持つものでしかないのだ。

 バッタの遺伝子を組み込まれた改造人間である仮面ライダーは、人間離れした筋力と敏捷性を持ち、視覚、聴覚など五感の鋭敏さも常人とは別の次元にある。
 優れた科学者であると同時に運動神経も優れているライダーマンは、体を保護するだけでなく筋力をアシストする強化スーツを身につけ、感覚を鋭敏にするマスクをかぶる、そして失った右手に装着する様々なアタッチメントを武器に闘う。
 元々常人の二倍にもなる筋力を持ち、死神博士のプチ改造で更に二倍の筋力を与えられたマッスルは、ライダーマンと同等の強化スーツで更に二倍にパワーアップしているが、並外れて丈夫な体、もっと厳密に言えば頑強な骨格を持つからこそ、そのパワーを使いこなせるのだ、そして彼は格闘の天才でもある。
 レディ9のスーツには防弾、防刀機能こそ付いているが、パワーアップの機能は付いていない、パワーアップはむしろその敏捷性を損なう可能性があるのだ。
彼女は小さい頃からくの一の末裔だった祖母と野山を駆け回ることで培った運動神経に秘伝の巻物による修行で磨きを掛け、常人とは異次元の敏捷性を誇る、それに加えて瞬時に発動できる数々の忍術、それが彼女の戦闘スタイルだ。
ライダーチームの面々は持って生まれた能力に磨きを掛け、更にそれを科学的に増幅させることでショッカーの怪人や戦闘員と闘える能力を身につけているのだ。

だが、晴子は……。
彼女にパワーアップは意味がない、元々弱い彼女の筋力を二倍にしたところで、鍛えられ、強化スーツもまとっている戦闘員と互角に戦うことなどできない。
敏捷性をアップさせるスーツはまだ開発できていないし、もしできたとしても過剰な敏捷性の向上に彼女の体と運動神経がついていけるのかは、はなはだ疑問だ。
そして、呪(しゅ)を唱える必要上、頭部を完全にカバーするマスクは使用できない、せいぜい白バイ隊員がかぶっているようなヘルメットをかぶるのが限度、実際、既にそれは使用している、今回、もしそれをかぶっていなければ命すらも危なかっただろう。
そして、彼女の陰陽道は志のぶの忍術を遥かに超える威力を発揮するものの、それを発動するには精神統一が必要であり、呪(しゅ)を唱えるのにもある程度の時間が必要になる、その間、彼女は全くの無防備状態になってしまう。

 どうしたら良いものか、誰も有効な考えが浮かばないまま時間だけが過ぎて行く……。

「こうしていても仕方がない、彼女の安全をどう守るのか、それは私の宿題にしておくよ、みんなもいいアイデアが浮かんだら教えてくれ」
 チームの頭脳とも言うべき丈二がそう提案してミーティングは散会となった。

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

「そう……あたし、みんなの足を引っ張っちゃうね……」
 ミーティングの事を聞くと、晴子は顔を曇らせた。
「そんなことないわよ、あなたの道力で何度も助けられているんだもの、あなたはチームの大事な一員よ」
「……うん……」
 志のぶにそう諭されれば少し気も軽くなるが、晴子自身、その問題をどうしたら良いものかわからない、体を鍛えるにしても他のメンバーのレベルには到底達するはずもないのだ、それこそ生兵法にしかならない事は目に見えている。
「結城さんだけじゃなくて、それはあたしの宿題でもあるわね」
「あなたと丈二さんだけじゃなくて、みんなの宿題よね」
 志のぶが顔を覗き込むように笑顔で言うと、ようやく晴子の眉も少し開いた。

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

 その一週間後……。

「貴様らの弱点はわかってるぞ」
 ショッカーとの戦闘中、地獄大使が不敵に笑う。
「弱点? 何のことかしら?」
 レディ9はセイコを庇いながらも微笑を浮かべながら言い返す。
「ほらほら、アベノセイコに物理的な戦闘はできない事はわかっているんだ、貴様が一人で庇ったとしてもこうすれば守りきれまい、者共、一斉にかかれ!」
 地獄大使の号令で数十人の戦闘員が一斉にレディ9とアベノセイコに襲い掛かる。
 戦闘員のトップチームは十人ほどしかいない事はわかっている、そのトップチームは怪人と共に三人ライダーと戦闘中、こちらを襲って来たのは一枚も二枚もレベルの落ちる戦闘員たちだが、確かにレディ9一人で捌ききれる数ではなく、トップレベルでなくともセイコ相手ならば体力的なものは遥かに上。
 しかも力が発動するにはある程度の時間がかかる、その間に多勢で襲い掛かればレディ9一人では守りきれない。
 その意味では地獄大使の作戦は的を射ている、そしてそれは成功するかのように見えた、しかし……。
「ギャッ」
「グッ」
「グエッ」
 今、正に襲い掛かろうとした戦闘員たちが次々に動きを止める。
「どうした! 早くかからんか!」
 地獄大使が檄を飛ばすが、後続の戦闘員たちも次々と止まってしまう。
「こ、これは……戦闘員どもが凍っている……どういうことだ!」
 愕然とする地獄大使にも強烈な冷気が襲い掛かる、が、さすがに大幹部、なんとか冷気を払いのけて叫んだ。
「誰だ! 邪魔をしているのは!」
 すると、白い髪、白い肌、白い和服姿の女が舞い降りて来た。
「あら、死神博士じゃないのね、あいつを凍らせてやろうと思ったのに残念だわ」
「だ、誰だ!?」
「あたし? 言わずと知れた雪女よ」

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

 ミーティングから数日後のことだった。
「ねぇ、面白そうじゃない? 一緒に行こうよ」
「どうしようかなぁ……」
 数日後、考え込むばかりの晴子の気分を変えようと、志のぶが誘ったのは『第一回怖いもの選手権』。
おやっさんが商工会の寄り合いでチケットを入手して志のぶに託してあったのだ。
「お雪さんも出場するんだって」
「え? そうなの?」
 お雪さんとは雪女のこと、雪山での闘いで対峙したものの、晴子がその昔夫であった巳之吉の霊と会わせてあげた事でショッカーに協力するのをやめ、晴子に感謝しながら山に帰って行ったと言う経緯がある、いわば友人なのだ。
「それなら行くわ」
 晴子の顔に少し明るさが戻った。

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

「惜しかったね、もう少しで優勝だったのに」
「でも、思わずしちゃったこととは言ってもルール違反はルール違反だからね、第二回があったらまた出るわ」
「うん、次こそ優勝だね」

 『第一回怖いもの選手権』は観客の電子投票で順位を決めるコンテスト、お雪は番町皿屋敷のお菊と優勝を争う高得点を挙げたのだが、あと少しでトップに立てると言う所で得点が伸びなくなり、思わず客席に向って冷気を吐いてしまった、そして『観客への直接的働きかけは禁止』と言うルールに触れて失格になってしまったのだ、そのままでも僅差の二位は間違いなかったのだが。

「ところで、あなたのほうこそ浮かない顔してない? あたしにできることがあったら何でも言って、あの時は迷惑をかけたのに巳之吉の霊にも会わせてくれたんだもの、できることがあったら何でもしてあげるわよ」
「あ……」
「そうか……」
 その言葉を聞いて、志のぶと晴子は思わず顔を見合わせた。

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

「くそっ! とんだ邪魔者が……ええい! 退け! 今回の作戦は失敗だ、一旦退いて体勢を整えるぞ!……今回は思わぬ邪魔が入ったがワシは諦めんぞ、世界征服を果たすにはまず貴様らライダーチームを倒さねばならん! また会おう、その時こそ貴様らを叩き潰してくれるわ!」

 もとよりこの襲撃はライダーチームを、とりわけアベノセイコをおびき出すためのもの、地獄大使は思い切り良く兵を退いた。

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

「ありがとうお雪さん、おかげで助かったわ」
「これ位なんでもないわ、でもその代わり、また巳之吉の霊とね……それに子供たちの霊にも会いたいわぁ」
「お安い御用よ」
 セイコと雪女は顔を見合わせてニッコリとしたがレディ9は少し思案顔。
「でも、地獄大使もバカじゃないわ、今度は対策を打ってくると思うの」
 だが、その懸念もお雪が払った。
「日本にいる妖怪はあたしだけじゃなくてよ、ショッカーが防寒対策をしてきたら火車とか狐火を呼べば良いのよ、かまいたちとか塗り壁とかも役立ちそうじゃない?」
「確かに心強いわね、でも、協力してくれるかしら?」
「それなら心配ないわ、ショッカーの大願は世界征服でしょ? それって事は日本も征服しようとしてるのよね、日本に住む妖怪はみんなこの日本を愛してるもの、協力してくれるわよ……これ、肌身離さず持っていて」
 お雪は着物の袂からお札の束のようなものを取り出してセイコに手渡した。
「これって……」
「妖怪を呼び出すにはそのお札の中から役立ちそうなのを選んで呪を唱えてね、みんなすぐに飛んで来るから」
「ありがとう、お雪さん」
「いいのよ、でも、早速だけど巳之吉に会わせてくれない?……」
「もちろんよ」
 セイコとお雪は顔を見合わせて微笑み合った。
 
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

「結局、私は宿題を提出できないまま終わったな」
 アジトに戻りくつろいでいた時、丈二が苦笑交じりに言う。
「君の科学力にはいつも助けられているんだ、気にするな」
 隼人がぽんと背中を叩くと晴子も追い討ちをかける。
「宿題は自分でやらないと意味がないんじゃありません?」
「それもそうだな」
 丈二が頭を掻くと、リビングは暖かい笑い声に充たされた。
 晴子も心から笑うことができる、守ってもらうのには変わりはないが、もうライダーチームの面々には迷惑をかけずに済む、それが何よりうれしかったのだ。

 何はともあれ、ライダーチームにはまたも援軍が加わった。
 しかし、ショッカーが指を咥えている筈もない。
 激しい戦いの日々はこれからも続くに違いない……世界に平和が戻るその日まで。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み