踊れ! ライダー!

文字数 10,749文字

(お題コミュ作品です、お題は ①体裁 ②向かい合わせ ③立て看板 でした。 前作で布石を打った新キャラが登場します)

         『踊れ! ライダー!』

「自○民○党大会?」
「ああ、衆参同時選挙、その後すぐに都知事選もあるからな、武道館を借り切って盛大にやるらしい」
 立花レーシングの事務室、新聞をはさんで一文字隼人と結城丈二(ライダーマン)が向かい合っている。
「大物議員も大勢集まるんだろうな」
「当然そうだろうな、警察でも大規模な警戒体制を敷くらしいが」
「しかし、もしショッカーが狙うとすれば、警察だけでは心許ないな」
「ああ、確たる情報はないが、ショッカーが現れないと考える方が不自然だよ……鳩○邦夫議員も出席するしな……」

 鳩○議員はさまざまな大臣を歴任した大物、元ライダーガールズの一人、エミを婦人に持つばかりでなく、法務大臣時代にショッカーの犯罪には特に厳しく対処したことで恨みを買っているのだ。

「われわれも極秘に警備に当たろう」
「ああ、しかし、君にしても私にしても、そして仮面ライダー・マッスルにしてもショッカーに顔が割れているぞ」
 
 仮面ライダー・マッスル、本名 納谷剛。
 お察しの通り、マスクド・アンショッカーの新しい名前である。
 無事に自動二輪免許を取得し、優れた科学者である結城丈二の設計、立花レーシングの技術力による愛車、GO-ON号も与えられた。
 常人の八倍とも言われる怪力とプロレスで鍛えた必殺技の数々、そして、その場にあるものを臨機応変に凶器として使う機転にも優れた、豪快な新ライダーである。

「お二人とも、コーヒーをどうぞ」
「ああ、ありがとう」
「志のぶさんのコーヒーは最高に美味いよ」

 マッスルの愛妻、志のぶ。
 今は剛とともに立花レーシングに住み込み、主に調理を担当している。
 味が抜群なだけでなく、栄養面、体調管理面まで心配りが行き届いたその料理は、今や立花レーシング=ライダーチームにとって不可欠、それはもはや戦力のひとつと言っても過言ではない程だ。

「お話、聞かせていただきましたよ」
「自○民○党大会の話?」
「ええ、私ならショッカーにも顔は割れていませんことよ」
「確かにそうだけど……」
「見くびって頂いては困りますわ、こう見えてもくノ一の末裔ですのよ」
「え? 志のぶさんが?」


 前回のエピソード、志のぶは百一歳で亡くなった祖母の形見分けとして、忍術の巻物を貰い受けた。
 親戚の誰もが本気にせず、ユーモアあふれる人だったおばあちゃんの冗談だろうと思っていたようだが、志のぶには、祖母がくノ一ではなかったのかと思い当たるふしがあったのだ。
 持ち帰って巻物を最後まで開いて見ると、一通の手紙がはらりと落ちた。

『この巻物を手にしたのはきっと志のぶだろうね、あたしはそう信じてるよ』
 手紙はそのように始まっていた。
(おばあちゃん……)
 志のぶは手紙をそっと胸に押し当てると、続きを読み始めた。
『お前には判るね? そう、あたしはくノ一の末裔だよ、そしてこの巻物はその秘伝の書、あたしも母親、お前のひいおばあちゃんを飛び越して、祖母、お前から見ればひいひいおばあちゃんから受け継いだんだよ。 あたしだって大正生まれ、最初はこんな術が必要なんだろうかと思ったよ。 でもね、実際には役に立った、お前も覚えがあるだろう? 川で溺れかけた時、イノシシに襲われそうになった時、猟師の流れ弾が飛んで来た時、お前を守ってあげることが出来たのはこの術を身に着けていたからだよ、お前だけじゃない、みんなは気がついてはいなかっただろうけど、危険を察知して遠ざけることで子供や孫を守ってきたんだよ、忍術はなにも戦うためだけにあるんじゃない、自分の身を、そして大切な人を守るためでもあるんだよ、だから、きっと受け継いでおくれ、いつか必ず役に立つよ、そして、お前の子供でも良い、孫でも良い、未来に引き継いでおくれ……頼んだよ、( *¯ ³¯*)♡ㄘゅ』

 キスマークの顔文字にはズッコケたが、ユーモア一杯だったおばあちゃんらしい……。
 そして、この秘伝を受け継ぐのは今を置いて無い。
 自分の大切な人ばかりではない、世界平和を守るためにも、今こそ必要な術なのだ。
 自分の今の境遇を考えると、このタイミングで巻物を手にしたのが偶然とは思えないほどに。


「へえ、こんなものが存在していたとは……」
 結城丈二は実に興味深げに巻物を眺めている。
「いや、これに記されている忍術やトレーニング法は実に効率的だよ、科学的と言い換えても良いくらいだ、志のぶさんはこのトレーニングを?」
「はい、この三ヶ月ほどですけど……まだ格闘術や手裏剣の極意は身につけていませんけど」
「その成果を見たいな……」
「見ててください」
 そう言うと、志のぶは窓からひらりと身を躍らせた。
「あっ、ここは三階だぞ!」
 隼人と丈二があわてて窓に駆け寄る。
 しかし、その心配を他所に、志のぶは音もなく着地してにこやかに手を振った。
「驚いた……本物だよ……」


「志のぶさんがくノ一の末裔で、常人離れした能力を身につけているのは認めるよ、すばらしい戦力になると思う、しかし、相手はショッカーだ、危険ではないのかな? まだ格闘系の修行は未完成だと言うしな」
 立花のおやっさんは慎重だ。
 立花レーシング=ライダーチームの会議、議題は志のぶを今回の武道館警護のメンバーに加えるかどうかだ。
「志のぶさんの身を一番案じているのは剛君に違いないよな、君の意見はどうなんだ?」
「心配じゃないと言えば嘘になります……でも、志のぶは役に立ちたいと強く願っていますし、こいつ、こう見えて強情なんですよ、言い出したら聞かないんです」
 剛は肩をそびやかした。
「なにしろ、親兄弟だけじゃなくて親類一同の反対を押し切って俺と結婚しちゃったくらいですから」
 自分で言っておいて、大いにテレて頭を掻いているのがこの男らしい。
「剛君は、志のぶさんをメンバーに加えても良いと?」
「ええ、志のぶは何があろうと俺が守りますから」
「しかし、武道館は広いぞ、常に一緒というわけには行かないだろう?」
 その問いかけには志のぶがにこやかに答えた。
「大丈夫です、私が心の中で助けを求めれば、必ず彼に届きますから」
「それも忍術のひとつ?」
「いいえ、『愛』です」
 志のぶは剛に軽く抱きつきながらきっぱりくっきりとそう言った。
剛もテレまくりながらも同じことを口にする。
「なんか、俺たちの間ではテレパシーが働くらしくて……」
 こうまで言われれば認めない理由はない……。
「ならば、これを志のぶさんにプレゼントしよう」
 結城が紙袋を差し出す。
「なんですの?」
「周囲の色に同化する忍び装束だよ」
「え? 本当ですか?」
「ああ、ただし、完全に同化して見えなくなるわけではないし、同化するにはタイムラグもある、見つかりにくくなる程度だと思ってくれ」
「早速着てみても?」
「もちろんだよ」
「では、ちょっと失礼……」

「おお」
 戻って来た志のぶを見て、一堂は思わず感嘆の声を上げた。
 白いボディスーツ、忍者服のデザインを踏襲しながらも、素材は現代の素材、体にフィットしていかにも動きやすそうだ……もっともそのことが志のぶのスタイルの良さを強調しているのだが……。
「しかし、白は目立たないのかな?」
 おやっさんは心配するが、志のぶはさっとドアの前へ……すると木目調のドアと同じ色合いに……。
 たしかに瞬時に変わるわけではないし、溶け込んで消えてしまうわけではないが、保護色にはなる。
「素晴らしいです、結城さん、ありがとうございます」
「それが精一杯なんだ、でも助けぐらいにはなるだろう?」
「ええ、後は私の術のみせどころですね、気配を消す術は習得していますから」
 ライダーのスタイルとは違うものの、志のぶにもチームの一員としての体裁は整った。


「南と南西は一番目につき易いな」
 ライダーチームの作戦会議、武道館の地図と図面をテーブルに広げ、みなでそれを囲んでいる。
「確かに……ショッカーが潜むとすればどこだ?」
「北西から北は駐車場だ、隠れるところはないな」
「だとすると、どこだろう?」
「ここはどうですか?」
 志のぶが指し示したのは千鳥が淵、それを聴いて一同は顔を見合わせた。
「そこだ……」
 千鳥が淵ならば、酸素ボンベを使えば警備されていない箇所から入り、見つからずに武道館周辺に集結する事は可能だ……。


ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


 志のぶの泳ぎは体全体を波打つように使うドルフィンキック。
 背泳ぎのバサロ・スタートでおなじみであり、深さを競うフリーダイバーもこの泳ぎ方、人間が水中を移動するためには最も理にかなった泳法であり、それを戦国時代に確立していたというのは驚きだ。
 お世辞にも透明度が高いとは言えない千鳥が淵、保護色スーツに身を包んでいれば発見される恐れは小さいが、相手はショッカーである、どんな能力を秘めた怪人を用意しているかはわからない、志のぶは慎重に水中を探索し、鍛え上げた視力、聴力をフルに働かせる。

「居る……」

 志のぶの耳にアクアラングから発生する泡の音が届いた。
 その方向に目を凝らせば、おぼろげながら敵の姿を捉えることも出来る。
 戦闘員はざっと二十人ほど……そして中央には特徴的なシルエットの怪人の姿も……。

 発見されては何もならない、ここまでの情報が入手できれば当面の目的は果たせる。
 志のぶは北西まで移動して岸に上がった。

「どうだった?」
 そこで待ち受けてくれていたのはおやっさんだ。
「北東入り口付近に二十名ほど、怪人もいます」
「どんな怪人かわかるか?」
「はっきりとは……でも、シルエットから想像すると……」
「想像すると?」
「おそらくはガマガエルの怪人ではないかと」
「わかった、ご苦労さん、そこまで判れば充分だ」


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 おやっさんからの通信を受けて、ライダー、ライダーマン、マッスルは北東入り口付近に集結した。

「ガマ男だと?」
「最近のショッカーはヌメヌメ、ヌルヌルした怪人が多いな」
「ガマガエルの能力を持っているとすると、毒液を出すかもしれないぞ、気をつけろよ」
 ライダーマン・結城丈二は博識である。
「カエルの力となると、ジャンプ力もあるだろうな」
「ガマガエル自体はのそのそ這うだけだが、人間に置き換えれば確かに脚力はあるだろうな、それよりも……」
「それよりも?」
「素早く動けない分、長い舌を飛ばして捕食する能力に長けている、舌に気をつけろよ」
「ガマガエルは何を食うんだ?」
「昆虫が主食だな」
 それを聴くと、ライダーはちょっと嫌そうに首を振ったが、襲撃地点の特定、戦闘員の数も含めて、そこまでの情報を得られているのと居ないのとでは大違い、志のぶは充分な戦力となっている。


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 党大会も佳境、首相が演説を始めようとした時だった。

「「「「「「「「「「イーッ!!!!」」」」」」」」」」

 スーツド戦闘員たちが武道館に乱入しようとする。
 そこには三人のライダーが待ち受けているとも知らずに。

「くらえ! ウェスタンラリアット!」
「ぐあっ!」
 先頭を走っていたスーツド戦闘員が吹っ飛び、すぐ後ろを走ってきた者を巻き添えにして床に転がった。
「招待状は持っているのかい? 持っていなければここを通すわけには行かないんだよ」
 立ちふさがったのは仮面ライダー・マッスル! 新ライダーとして、堂々のデビューだ!

「誰だ? 貴様は! 見たことがないヤツだな!」
「いや待て、この声には聴き覚えがあるぞ……」
「ほう、覚えていてくれたのかい? 多分ご想像の通りだよ」
「この裏切り者が!」
「悪の秘密結社に裏切り者呼ばわりはされたくないね、俺は仮面ライダー・マッスルとして生まれ変わったのさ」
「何を小癪な! 俺たちをただの戦闘員と思うなよ!」
「ああ、知ってるさ、だが、地獄大使の強化スーツを着ただけだろう? ヘルメットもアメフト用から変わっていないところを見ると中国企業とはうまく行っていないようだな」
「うるせぇ! 見ろ、フェイスガードは改良済みだ」
「ただラインメン用に換えただけじゃねぇか、それくらいで防御できるとでも思うのか?」
 ラインメン用のフェイスガード、顔全体を覆うように作られてはいるが、視界を保つためにやはり目の部分はバーもまばらだ。
 マッスルはタイツの中に潜ませたメリケンサックを取り出す、プロレスでは定番の凶器だ。
「ぐへっ!」
「ぎゃぁ!」
 マッスルの怪力はフェイスガードを楽々と粉砕して眉間にメリケンサックをめり込ませ、衝撃吸収力を備えたスーツの上からのパンチでも充分なダメージを与える。
 瞬く間に倒されたスーツド戦闘員の山が築かれた。
「今の俺には到底敵わないぞ、さっさと尻尾を巻いたほうが身のためだぜ、そもそもハワイ旅行をゲットした奴なんか一人もいねぇんだ、あんなのはただの餌さ、いいかげんに目を覚ましやがれ!」
 マッスルが倒したスーツド戦闘員に足をかけて大見得を切ると、腰の引けた戦闘員を掻き分けて怪人が進み出てくる。
「ナルホド、こいつはガマ男に違ぇねぇや、だが、そのぶよぶよの腹は鍛えられていねぇようだな!」
 マッスルは全体重を乗せた渾身のパンチをガマ男の腹に叩き込む、しかし、弾き飛ばされたのはマッスルの方だった。
「なんて腹だ、ゴム風船みてぇでパンチが効かねぇ」
「マッスル、ライダーマン、ここは改造人間同士、俺に任せて、君達は残りの戦闘員を」
「「おう!」」

 しかし、その時、ちょうど対面に当たる南西入り口付近から立て看板を踏み倒して戦闘員達がなだれ込んで来る。
「しまった! 陽動作戦か! 道理で地獄大使が姿を見せなかったわけだ、ライダー、マッスル、私はあちらに当たるぞ」
「おう! ガマ男は任せろ!」
「戦闘員は引き受けた!」
「頼んだぞ!」
 ライダーマンはロープアームからフックを発射し、天井から下がった日の丸のポールに引っ掛けると、ターザンのように飛んで行った。

「ぐふふ、ライダー、バッタは俺様の大好物よ」
「小癪な! これでも食らえ! とぉっ!」
 ライダーが空中高く飛び上がる。
「ふん! 飛んでいる昆虫を捕らえるのは俺様の得意中の得意よ」
 ガマ男の長い舌がライダーに向かって飛ぶ、しかしそれは予想していた攻撃、ライダーは体をひねってそれを避けたのだが……。
「何っ!?」
「ぐふふ、ライダー、俺様の舌は伸縮自在よ」
 飛んで来る舌は避けたものの、戻る舌に首筋を絡めとられてしまったのだ。
「しまった!」
「ぐふふ、ぐふふ」
 何度もライダーを床に叩きつけるガマ男、ライダー危うし!
 その時、大きな声が響く。
「俺が居るのを忘れちゃいませんかってんだ!」
 戦闘員を全て倒したマッスルが、タイツの中からなにやら光る物を取り出してガマ男の長く伸びた舌を小脇に抱え込む。
「ギャッ!」
「ヒャッハー! プロレス名物、フォーク攻撃だぜ! お味はどうだい?」
「ギャーッ!」
 マッスルに何度も舌をフォークで突き刺されたガマ男はたまらずにライダーを離し、うずくまる。
「助かった! ありがとう、マッスル」
「いいってことよ、だが、ライダー、どうやらSOSのようだ」
「愛のテレパシーか?」
「『愛の』は余計だよ、テレるじゃないか」
「行ってくれ、マッスル、もうさっきのような油断はしないさ」
「ああ、ここは任せたぜ、ライダー」
 ようやく立ち上がったガマ男とライダーは一対一で対峙する。


o(・_・)○☆   o(・_・)○☆   o(・_・)○☆   o(・_・)○☆


 その頃、南西の二階スタンドには地獄大使が引き連れてきたスーツド戦闘員達が暴れていた。
「しまった! 鞭か!」
 ライダーマンは元々科学者、特別な身体能力には恵まれていない、スーツによる身体強化も地獄大使のスーツド戦闘員と同程度、ライダーマンのアドバンテージは明晰な頭脳を別にすれば、右手に装着するアタッチメントのみだ。
 電撃アタッチメントを装着して奮闘していたが、一人で大人数を相手にするのは無理がある、右腕を鞭で絡めとられてしまうと身動きが取れなくなってしまったのだ。

 そして、志のぶもまた戦っていた。
 スーツド戦闘員達がライダーマンと戦っている隙を突いてノーマル戦闘員達が二階スタンドにいたエミを攫いに来たのだ。
 志のぶの戦闘力では応戦するのが精一杯、ノーマル戦闘員と言えども相手は訓練された男達、エミを背後にかばいながら、志のぶは追い詰められて行く。
(あなた! 助けて!)
 志のぶは心の中で叫ぶ。
 ……そして、その思いは通じた。
 飛び掛って来たはずの戦闘員が不意に仰向けになったかと思うと、アリーナへふっ飛んで行く、駆けつけたマッスルが首根っこを掴んで放り投げたのだ。
「おいおい、人の恋女房に手を上げてるんじゃねぇよ」
「あなた!」
「待たせたな、だが俺が来たからには指一本触れさせねぇぜ」
 ノーマル戦闘員はマッスルの相手ではない、瞬く間に全員を倒し、あたりを見回すと、ライダーマンはアリーナに戦場を移して奮闘中だ。
「エミさんは任せたぜ!」
 マッスルはアリーナに飛び降りると、三連のパイプ椅子を引っつかむ。
「おりゃぁぁぁぁ!」
 パイプ椅子を持てばマッスルは百人力、ライダーマンの右腕を鞭で捕らえていたスーツド戦闘員は一撃で吹っ飛ばされた。
「助かった! さすがだな! マッスル!」
「軽い軽い、さっさと片付けちまおう」
「おう!」
 鞭から解放されたライダーマンも鬱憤を晴らすかのような大暴れだ。


o(・_・)○☆   o(・_・)○☆   o(・_・)○☆   o(・_・)○☆


「とおっ!……クソっ!」
 時を同じくして、ライダーはガマ男相手に苦戦を強いられていた。
「ぐふふ、この肌のぬめりが気に入らないようだな、ライダー」
 ガマ男の皮膚は粘液で覆われている、パンチやキックを繰り出すものの、スリップしてしまい、威力を発揮できないのだ。
「ぐふふ、死ね! ライダー!」
 ガマ男は矢継ぎ早に毒液を発射してくる。
 毒液は強力で直撃したコンクリートの壁や床には硝煙とともに大きな穴が開く、直撃を食らえばライダーとて無事ではすまない。
(どうやってこいつを倒せば……そうだ!)
 ライダーは毒液攻撃をかわしながらもトイレに駆け込む。
「ぐふふ、そんな狭い空間へ逃げ込んでどうしようというのだ、墓穴を掘ったな、ライダー、それとも恐ろしくてチビりそうなのか? ぐふふ、ぐふふ」
 既に勝ち誇った様子のガマ男が悠然とトイレへ入って行くと、ライダーは手洗い器の列を背にして立っている。
「とうとう観念したか、ライダー、ここが貴様の墓場となるのだ、憧れのヒーローがトイレで死ぬことになるとは、子供達もガッカリだろうな」
「墓場? それはどちらの墓場かな?」
 ライダーがさっと身をかがめると、そこには大きな鏡が。
「ぐっ……まさか……」
「気がついたようだな」
 ガマ男が振り向くと、清掃員のおじさんが壁から外した別の鏡を抱えている。
「クソッ!」
 横を見れば別の清掃員も鏡、振り向くとさらにもう一人……。
「四方を鏡に囲まれるとは……不覚……」
「さあ、皆さん、距離をつめて下さい、ガマ男を追い込みましょう!」
 最初の鏡を外して手にしたライダーと、三人の勇敢なる清掃員はじわじわとガマ男との距離をつめて行く。
「ぐあぁぁぁぁぁ……」
 ガマ男の全身からは滝のような脂汗、俗に言う『ガマの油』がターラリ、ターラリと流れ落ちる。
「おのれ、ライダー……まさかこの俺様が清掃員にやられるとは……」
 膝をついたガマ男は見る見るうちに干乾びて行った。


 o(・_・)○☆   o(・_・)○☆   o(・_・)○☆   o(・_・)○☆


「地獄大使は? 地獄大使はどこへ行った?」
「あっ、あそこだ!」
 ライダーマンとマッスルが奮闘している隙を突いて、地獄大使はステージへ向かって走っていた。
要人達は警官に守られては居るものの、地獄大使は拳銃の弾を受けても全くひるむことなく、今まさにステージに跳び乗ろうとしている。
 マッスルたちが今居る場所は南西、ステージは北、ほぼアリーナを横切らなくてはならない、走っていてはとても間に合わない!

「マッスル! 君はローラーゲームを知っているか?」
「ああ、知っているとも、ライダーの放送が始まった頃大人気だったそうだな」
「ならば話は早い、君の脚力を貸してくれ」
「脚力? そうか! 判ったぞ! 掴まれ、ライダーマン」
「頼んだぞ!」
「よし! レッグホイップだ!」

 ローラーゲームとは、楕円形のコースに五人づつの二チームが入り、ジャマーと呼ばれる一人の選手が相手チームの選手を何人追い抜けるかを競うスポーツ、七十年代初頭、東京ボンバーズは長身のミッキーの脚にエースのヨーコが掴まり、ミッキーが回し蹴りの要領でヨーコを加速させる、そのレッグホイップでしばしば大逆転勝ちを収めた。
 ライダーマンとマッスルは幸いにしてその記憶を共有していたのだ。

「行けぇぇぇぇぇ!」
 マッスルが渾身の力で脚を振りぬくと、ライダーマンは矢のように地獄大使に向かって飛んで行く。
「ライダーマンキック・シライ2・スペシャル!」
前方一回転三回ひねり、F難度の大技で威力を増したキックが地獄大使の背中を捉えた。
「ぐああ!」
 ライダーキックほどの威力はないものの、ライダーマンとマッスルの連携技、さすがの地獄大使もたまらず吹っ飛んだ。
 しかもそのステージに駆けつけたのはライダー!
「うっ! ライダー! お前がここに来れたということは、ガマ男は……」
「ははは、脂汗を流し切って干からびているよ」
「くそっ! ここまでか! いいか、ライダー! 次こそは必ず世界征服の糸口をつかんで見せるぞ!」
 
 ボン!

 煙幕を張った地獄大使は、ステージから消えた。

「ライダー、無事だったか」
 マッスルが志のぶを伴って、ステージに駆けつける。
「ああ、君こそ……志のぶさんも無事だったんだね?」
「言ったでしょう? 私のピンチには必ず彼が駆けつけてくれるって」
「そうだったね、愛のテレパシーも見せてもらったよ」
「ライダー、それを言うなって、恥ずかしいじゃないか」
「あら、あなた、恥ずかしいの?」
「いや、それはだな……」
「うふふ、判ってるわよ、そんなテレ屋のあなたも好きよ」
「あ、おい、一万人が見てるよ、ここは武道館のステージ上だぜ」
「いいの、何千人、何万人が見てたって……あなたは誰よりも素敵な私のナイトよ」
 志のぶはマッスル、いや剛の両手を取り、二人は向かい合い、見つめ合った……。


(お願い:ここでhttps://www.youtube.com/watch?v=RXARHZmpgvwを再生して下さい)


「あ……この曲は……」
「ええ……そうね、この曲は……」

 武道館に流れるのは二人の想い出の曲……二人のなれそめを志のぶから聴いて知っていたエミの差し金だ。

「この曲で、こんな風に踊っている時にプロポーズしてくれたわね……」
「あの時は怪人と戦うより緊張したよ」
「でも、あの時からあなたについていこうと決めたの、そしてそれは間違ってなかった……」
「志のぶ……」
「あなた……」
 いつしか二人は優しく抱き合い、二人の想いは『あの頃』にタイムスリップする。

「Woooooo…………」
 ライダーとライダーマンがバックコーラスを務め、エミと鳩○議員もそこに加わった。

「とても立派だったわ、そしてとてもカッコ良かったわ、私の大事なあなた……」
「君の事は一生かけて、命に代えても守るよ」
「命に代えても、なんて言わないで、いつまでも一緒よ」
「ああ、いつまでも一緒だ……」

 会場の一万人もペンライトを振って二人に感謝と祝福を送るのだった……。


       ( 『踊れ! ライダー!』 終わり )




END ROLL

CAST

仮面ライダー        一文字隼人
ライダーマン        結城 丈二
仮面ライダー・マッスル   納谷  剛
志のぶ            納谷志のぶ
おやっさん         立花藤兵衛
エミ            高見エミリ
地獄大使          ?????
ガマ男           ?????

友情出演          鳩○ 邦○

脚本            ST
監督            ST
音声            YouTube
挿入歌           Unchained Melody
Performed by The Righteous Brothers(1965)
撮影協力          日本武道館
              警視庁
              立花レーシングクラブ

製作            『踊れ! ライダー!』製作委員会

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