見てくれ! ライダー!

文字数 4,464文字

(お題コミュで書いたものです、お題は ①恩返し ②瓶 ③ストレス でした。 普段は簡単に蹴散らされてしまう戦闘員の一人にスポットを当てています。)

       『見てくれ! ライダー!』

「ただいま」
「あら、あなた、お帰りなさい、一日お疲れ様でした」
「うん……今日の訓練もきつかったよ」
「お風呂すぐに沸きますけど、夕ご飯が先? それともお風呂?」
「随分汗かいたからな、先に風呂に入るよ」
「わかったわ、すぐ仕度するわね」

「ふう……」
 熱い風呂に浸かって、俺は大きなため息をついた。
 体は痣や擦り傷だらけ……ちょっと湯が沁みるが、生きていると言う実感が湧いて来る。

 思えば、ショッカーの戦闘員に採用されるまでは苦しい生活だった。
 俺は学歴もなければ手に職もない、俺にできるのは肉体労働くらいのものだ。
 だけど、せっかく就いた仕事も喧嘩っ早い性格が仇になって長続きしなかった……。
 そんな俺をスカウトしてくれたのは、他でも無いショッカーだった。
 思う存分暴れることが査定アップになる……俺にとってはストレスフリーの天職だ、しかも基本給もまずまずだし、功労金制度はバッチリ、福利厚生も充実している(『待ってよ! ライダー!』参照)
 思えばそれまでは妻にも苦労をかけた、よくぞこんな俺についてきてくれたものだと思う。
 頑張って稼いで楽させてやらないとな……。

「はい、どうぞ」
「ああ、ありがとう、お前も少し飲んだらどうだ?」
「そう? じゃぁ、コップに半分だけ」
 ……美味い! 訓練に明け暮れたきつい一日の終わり、風呂上りに妻と飲むビールは最高だ! 食卓には俺の健康を考えて作ってくれる妻の美味い手料理の数々……俺は幸せ者だ……。
 だが、幸せを噛み締めてばかりも居られない……。

 スパイ活動、破壊工作、誘拐、資金集めのための強盗やATM荒し、アジトの建設・修復工事etc etc……。
 戦闘員の仕事は山ほどあるが、やはり花形はライダーとの戦闘だ。
 俺は子供の頃からガキ大将、中・高時代も喧嘩に明け暮れていたから戦闘員としてはトップチームに所属している、死神博士や怪人とともにライダーと戦うのがメインの仕事だ。
 しかし、いくら喧嘩に強いと言っても所詮は生身の人間、改造人間であるライダーにはまるで歯が立たない……戦闘の度に歯がゆい想いを噛み締めて来た。
 俺ももう35歳、そろそろ身体能力は落ち始めている、疲れも取れにくくなって来た。
 そろそろ何とかしないと……妻にもハワイ旅行のプレゼントくらいしてやりたいし……ショッカーだって役に立たなくなった戦闘員をいつまでも飼っていてはくれないだろう……。


ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


「プチ改造……ですか?」
 緑川博士に逃げられてからと言うもの、ショッカーは初期プロトタイプであったはずのライダーを越える怪人を生み出せていない。
 死神博士はその打開策として戦闘員のパワーアップに乗り出したのだ。
「改造と言ってもだな、注射をするだけだ、それによって君たちの筋力は2倍に跳ね上がるはずだ」
「はず……って、実験はされていないのですか?」
「動物実験はした、効果は確認している」
「それだったら……」
「実験は一週間前にしたばかりだ、副作用の有無についてはまだ確認できていない(キッパリ)」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
 死神博士はあまり人望がない……身勝手が過ぎるし薄情なのだ。
 その点、地獄大使は……まあ、ちょっとはマシなほうだ。
 地獄大使の方では戦闘員用強化スーツの研究を進めていると言う噂が戦闘員たちの間で流れている。
 死神博士は地獄大使に筆頭大幹部の座を脅かされて焦っている……それは手に取るようにわかる、地獄大使の強化スーツが完成する前に手柄を挙げたいのだろう、おそらくコスト的にも強化スーツよりずっと安価に抑えられているはずだ、かなり危ない匂いがする。


ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


「お姐さん、ビール追加ね!」
 同期入隊の友人が空のビール瓶の首をつまんで振ってみせた。
「マジかよお前、結構アブナイ気がするぜ、止めといた方が良いんじゃないか?」
 プチ改造に志願するつもりだと打ち明けると、居酒屋に誘われてそう諭された。
「強化スーツにしとけって、そっちならリスクはないぜ、プチ改造の方は動物実験もまだ終わってない様なもんじゃないか」
「だけどさ、死神博士は筆頭大幹部だからな」
「派閥か? よせよせ、そのうち地獄大使に取って代わられるさ、あの人、人望もないし、成果もぜんぜん挙げてないだろう?」
「だけど、もしプチ改造がうまく行ったら? これまでの怪人路線とは違うぜ、ひょっとしたら上手く行くかも知れないだろ?」
「まあな、可能性としては否定しないけどな」
「それになんだかんだ言っても今の筆頭大幹部は死神博士だからな、成果が挙がれば失脚はないだろう? ショッカーは実力主義、成果主義だからさ」
「確かにそれはあるな」
「その時にさ、プチ改造に志願した者としなかった者じゃ、後の処遇が随分違わないか?」
「まあ、いくら薄情でもそれくらいは……な……」
「俺たち、もう35だろう? 衰えを感じることはないか?」
「まあ、それはちょくちょくあるな」
「いつまでも『イーッ!』とか言ってライダーに蹴散らされてばかりじゃウダツが上がらないぜ、40過ぎたらそうそう戦えないだろう? それまでには新人研修の教官くらいにはなってないと失業だぜ」
「どうやら何を言っても、もう腹は決まってるみたいだな」
「ああ……俺はプチ改造に賭けてみる……俺みたいな奴についてきてくれた妻のためにもな……」
「奥さんか……お前の奥さんは出来た女性だからなぁ……」

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

「現れたな! ショッカー! とうっ!……なにっ!」
 何故か今日の戦闘員はパンチ一発で吹っ飛ばせなかった。
「わははは、ライダー、その戦闘員はただの雑魚ではないぞ、ワシが開発した筋肉強化薬を投与したスーパー戦闘員なのだ!」
「何だと!?」
「もう一点豪華主義は時代遅れ、一体の怪人よりも人海戦術だ!」
「貴様が作り出す怪人では私に勝てないと知って、モットーを下ろしたか!」
「何とでも言うがいい! ただし、そいつらに勝てたらの話だがな」

 死神博士が見得を切っている間はライダーに襲い掛からないのは暗黙の了解、そうしないと死神博士は機嫌が悪くなるのだ。
 
「しかし、どうやらスーパー戦闘員は一人のようだが?」
「うっ……痛いところを……ええい! そいつはテストケースだ! そいつが戦えれば量産体勢に入るのだ!」

 結局、志願したのは俺一人だった……。
 ショッカーに、妻に恩返ししたいと言う思いがリスクへの不安に勝ったのは俺一人だったようだ……もっとも、俺だってショッカーへの恩義だけでは決断できなかったが……。

 だが、とりもなおさずここは戦場、ここで功績を挙げれば妻と一緒にハワイのサンセットを眺められるのだ……ああ……あいつに花のレイを掛けてやりたい、あいつと洋上ディナーを楽しみたい、フラダンスのショーが見たいし、ハワイアンも聴きたい……。
 それだけじゃない、教官くらいには取り立ててもらって職を確保しておかなくては……あいつのためにも……。
 その強い想いを胸に、俺はノーマル戦闘員の先頭に立ってライダーに襲い掛かった。
 元々常人より筋力が優れている俺だ、プチ改造効果で戦闘力は常人の2倍どころか3倍、4倍にもなっているはず。
「食らえ! ライダー! スーパー戦闘員パンチ!」
「ぐっ……」
 ライダーのボディにパンチを打ち込むと、ライダーがひるんだ。
 おお! 何ということだ! この瞬間をどれだけ待ち望んで来たことか! 俺が、この俺が……ライダーに一矢報いることができるなんて!! 夢のようだ!!!
 俺の脳裏にハワイのサンセットがちらつく……妻の笑顔も……。
 ひるんだライダーの腕をノーマル戦闘員たちが掴む、今この時、ライダーは俺の前で無防備なのだ!
「よくもこれまで散々痛めつけてくれたな、ライダー! 積年の恨み、この一撃に込めてお見舞いするぜ! 食らえ!! スーパー戦闘員正拳!!!」
 俺はライダーの眉間めがけて渾身の正拳突きを放った。

「ぎゃぁ!」
 ……悲鳴を上げたのは俺のほうだった……。
 筋力は何倍にも跳ね上がった、しかし、ライダーの眉間、そこはとてつもなく硬かった……俺の指の骨は急激で過剰なパワーアップについて来れずに砕けてしまったのだ。
 
「このばか者が! 調子に乗りおって! 撤収だ!」
「あ……死神博士!」
「暴れるだけが取り得の能なしにはもう用はない!」
「俺も連れて帰って下さい!……ああっ!……博士……………………くそっ!」

 死神博士たちが逃げ去って、残されたのは俺とライダーの二人だけ……俺は死を覚悟した、ライダーキック一発で俺は粉々に砕け散るだろう……。

 すまない……最後まで馬鹿な夫だった……こんな俺を許してくれ……。

 しかし、いつまでたってもライダーキックは飛んでこない、その代わりにポンと肩を叩かれて俺は顔を上げた。

「君の勇敢さ、得体の知れない薬に志願したその忠誠心には感服したよ……でも、さすがに目が醒めただろう?」
「……」
 その通りだ……ショッカーに恩返ししようとプチ改造に志願したのに、負傷したらポイ捨てとは、あまりと言えばあまりの仕打ちじゃないか……。

「君のその常人離れしたパワーは必ず他で生かせるはずだ、心を入れ替えて頑張ってくれ、もうショッカーに戻るんじゃないぞ……」
 ライダーはそう言い残すと、ひらりとサイクロン号に跨った。
「君のパンチ、効いたぜ、一瞬クラクラしたよ」
 ライダーはそう言って微笑みを浮かべ……たかどうかはわからなかったが……走り去った。


ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


 額のショッカーマークに赤いバツをつけた黒いマスクをかぶった覆面プロレスラーが華々しいリングデビューを飾ったのは、その数ヶ月後のことであった。
 怪力を利しての圧倒的勝利、そして試合後のマイクパフォーマンス。
 
「ライダー! 見ててくれたか!? こんな俺でも手助けできることがあったらいつでも言ってくれ! 俺は技を磨いて恩返しの時を待ってるからな!」

 新たなスターの誕生に沸くアリーナ、その一角でそっと目頭を押さえる女性が居た……。
「あなた……とても立派よ……」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み