メタだ! ライダー!

文字数 4,789文字

 このシリーズに時々ひょっこりカメオ出演する『作者』。
 今回はその作者が大変なことに???
(表紙は『メタボ』ですが、『メタ』はもう一つの意味をかけてます(^^))



『作者は預かった、返して欲しくば『海辺の小屋』まで来い』
 死神博士からの挑戦状だ。
 その手紙を前に、ライダーチームは緊急会議を開いている。
「作者を人質に取るとは……敵ながら思わぬところに気が付くものだな」
「ああ、作者を脅せばストーリーは自在に操れる、これは未曽有のピンチかも知れないな」
「汚ねぇ真似をしやがるぜ……だけどよ、どう見てもこりゃ罠だよな」
「確かに」
 ライダーチームの面々は頭を抱えた。
 しかし……。
「ねぇ、作者さんってどこに住んでるの? 戦闘シーンで時々見かけるけど、それ以外では会った事もなければ見かけたこともないけど……」
 晴子の素朴な疑問にはっとして顔を見合わすチームの面々。
 頭を抱えていたおやっさんもきっと顔を上げた。
「確かにそうだ、そもそも作者が脅されながらこれを書いているならば、我々はとっくに壊滅的な打撃を受けていてもおかしくないな」
「そうね、このシーンを書いているってことは、どこからか見ているんじゃないかしら? だとしたらショッカーに拘束なんてされてないってことなんじゃ……」
 志のぶの言葉に一同は深く頷いた。
 そしてライダーマンが分析する。
「彼は彼の世界で生きているんだろう、この世界は彼の頭の中で構築されて筆先から紡ぎ出される世界なんだろう、彼自身は好きなようにこっちに来れるが、こっちからは行けないのではないかな?」
「出たがりなのね」
「まあ、ヒッチコック監督のカメオ出演でも参考にしてるんだろう」
「それはそうと、『海辺の小屋』って何だ? これだけじゃさっぱりわからないが」
「マッスル、君が知らないもの無理ないよ、まだ君が登場する前のエピソードだったからな」
「そうさ、2作目の『負けるな!ライダー!』のクライマックスシーンで登場した場所だ、君が登場するのは6作目の『見てくれ!ライダー!』からだったからな」
「いやいや、参謀役のワシにもわからないんだが……」
「おやっさん、どういうわけか9作目の『踊れ!ライダー!』までおやっさんは登場しないんですよ、いないことになってたみたいで」
「いやいや、一文字君とはずっと一緒だったはずなんだが……オリジナルの『仮面ライダー』ではそう言う設定だったはずだぞ」
「忘れてたんじゃないですか? いい加減なところがある人ですから」
「そうそう、設定の矛盾とかそのまんま放置してるし」
「ま、ご都合主義の権化みたいな人だからな」
「時系列も適当だし」
 一同は『うんうん』とばかりに頷き合った。
「なにはともあれこの挑戦状は偽物ってことね、わかっててみすみす罠に飛び込んでいくこともないわね」
「それはそうなんだが……」
「ライダーマン、まだ何か気がかりが?」
「いや、そうではないんだ……ショッカーは、我々が罠と知りつつやって来たと思うだろうな、そして手を出せない我々をボコボコにできる、完全勝利を収められると考えているだろうと思うんだ」
「そうか、そこに油断が生じるのは目に見えてるな」
「ピンチのようでいて、実は逆にチャンスってわけね……ね? 作者さん、そうなんでしょ? そのつもりで書いてるのよね?」


『-(´Д`)→グサッ……ピクピク……』


「返事がないけどまあいいわ、どうやら図星みたいだから」
「行くか!」
「行こう!」
 ライダーチームは『海辺の小屋』に急行した。


ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


「わはは……馬鹿なライダー共よ、みすみすやられに来たか!」
 待ち受けていたのは死神博士、そしてその傍らには後ろ手に縛られ、戦闘員にナイフを突きつけられている作者が……。
「え? 作者さん、本当に捕まってる?」
「いや、あれは偽物だよ」
「どうしてわかるの?」
「作者は老眼だけど視力は右1.5、左1.2あるんだ、読んだり書いたりする時以外は老眼鏡をかけない」
「そうなんだ……」
「それに、彼は運動不足だ、なるたけ太めの戦闘員を選んで変装させているんだろうが、本物はもっと腹が出ているさ」
「なるほど……確かに……」


『うう……自分で書いて、自分でちょっと辛い……』


「わはは……どうだ? 手も足も出まい、反撃すれば作者の命はないのだからな」
「死神、貴様にその人は殺せないさ」
「何を甘っちょろいことを、我々は悪の秘密結社だと言うことを忘れたか? 人間の頚をかき切るくらい、眉一つ動かさずにできるわ!」
「一つ大事なことを忘れちゃいないか? その人を殺したら貴様も消えてしまうんだぞ」
「……うっ……いや、ゴーストライターを立てればいいだけのこと、我々ショッカーの息がかかった者をな、このシリーズは『ライダー!』シリーズではなく、『ショッカー!』シリーズとして生まれ変わり、我々がライダーチームを懲らしめる物語になるのだ!」
「ゴーストライターってのは、著名人に立てるものだぜ、その人は投稿マニアに過ぎないじゃないか」
「そ、それは確かに……」
「それに、貴様らがその人を殺せない理由がもうひとつあるぜ」
「な、なんだ?」
「そいつは戦闘員が化けているだけだからさ!」
 ライダーマンが偽作者に向けてフックを発射すると、作者には到底無理な素早い動きでかわした、しかも後ろ手に縛られてなどいない、そのふりをしていただけだ。
「くそっ……よくぞ見破ったな」
「死神、我々を騙そうとしたんだろうが、詰めが甘いんだよ!」
「くっ……それと言うのも作者がワシの性格をコメディタッチに設定したせいだ……おい、作者! 覚えていろ!」
「無駄だ、最近物忘れが激しいってボヤいていたからな」
「ぐぅぅぅぅ……どこまでもいい加減な……かくなる上は!」
「フン、怪人か? 相手になるぜ!」
「ふふふ……貴様らはこの怪人には指一本触れられん」
「ずいぶんな自信だな」
「余裕を見せていられるのも今の内だけだ! 行け! キクガシラコウモリ男!」
「な、なにっ!?」
 小屋の背後から翼を持つ怪人が飛び立つ。

「なんだか鼻が潰れてて情けない顔の怪人だな、あまり大きくもないし強そうには見えないぞ、私のライダーキック一発で……」
「だめだ! ライダー! キクガシラコウモリは湖北省に生息するコウモリだぞ!」
「えっ? と言うことは?」
「例のウィルスを持ってるかもしれん、いや、怪人として差し向けるくらいだ、必ず持ってると考えた方がいい」
「こいつ自身は平気なのか?」
「おそらく抗体を持っているんだろう」
「くそっ……指一本触れられないってのはそう言うことか……」
「私に任せろ、飛び道具を持つのは私だけだ」
「そうか、ライダーマン、頼む」
「任せてくれ! ロープフック! 何っ?」
「貴様の武器を知らないはずもないだろう? そいつにはパワーは必要ないからな、その代わり敏捷性は最大限に与えてある、至近距離でなければ当てられんぞ……やれっ! キクガシラコウモリ男! 唾吐き攻撃だ!」
「ぺっ、ぺっ、ぺっ」
「キャッ、汚いわね!」
「レディ9、汚いくらいじゃ済まないぞ、飛沫にも触れるな! ライダー、マッスル! 君たちは下がっていてくれ、パンチもキックもダメだ、コンタクトは全部NGだ!」
「もう!……厄介な怪人ね!」
「ははは、どうだ、手も足も出まい…それそれ、連続唾吐き攻撃だ、奴らを陽性にしてしまえ!」
「飛び道具を持ってるのはライダーマンだけじゃない、あたしにだってクナイがあるわよ! 食らいなさい! あっ」
「だめだ、こいつ、相当にすばしこい」
「当てるのが無理なら、当たってもらいましょう」
「どういうことだ? レディ9」
「こいつを晴子ちゃんがいる方へ」
「それは危険だが……何か作戦が?」
「ええ、もちろん、晴子ちゃんのガードも万全」
「よし、やろう!」
 ライダーマンのロープアーム、レディ9のクナイ攻撃、どちらもすばしこいキクガシラコウモリ男には命中させられず、唾吐き攻撃も飛沫にすら当たらないためには大きくよけなければならない、苦戦を強いられる二人だが、次第に誘導に成功し始める。
「くそう……どうした? キクガシラコウモリ男、飛沫も当てられんではないか……ん?」
 その時死神博士の目に留まったのは無防備に立っている晴子の姿。
「キクガシラコウモリ男! まずあの邪魔な陰陽師からやってしまえ! あいつはすばしこくないからな!」
 晴子に目標を定めたキクガシラコウモリ男は、真っ直ぐ晴子に向かって飛び、唾を吐く!
「ムダよ」
 晴子の背後から現れたのはお雪、雪女最大の武器、吹雪を吹きかける、目に見えないウィルスでも一瞬で凍り付く超低温だ。
「危ない! キクガシラコウモリ男! 吹雪を避けろ!」
 急旋回したキクガシラコウモリ男、しかしその瞬間、視界が真っ白に……。
「あああっ! キクガシラコウモリ男ぉぉぉぉぉ!」
 キクガシラコウモリ男(ふう、長い……)が旋回した先に突然現れた白壁、言わずと知れたぬりかべだ!
「ぎゃっ!」
 ぬりかべに激突した長い名前の怪人はしたたかに頭を打ちつけ、どさりと落下した。
「空気感染の可能性も捨てきれないからねぇ……」
 音もなく滑るように近寄って来たお雪が息を吹きかけると、長い名前の怪人は冷凍キクガシラコウモリ男になってしまった。

「ありがとう、ぬりかべ、いくら漆喰で出来ているからと言っても、君も消毒しておいた方がいい」
 ライダーマンはアタッチメントを交換すると、アルコール消毒液をぬりかべに吹付け、ぬりかべも気持ち良さそうに目を細めた……。

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

 アジトに戻ったライダーチーム、手洗い、うがい、消毒を済ませ、代わる代わるシャワーも浴びて寛いでいる。
「今回、俺たちは蚊帳の外だったな」
 今回は戦闘に参加できなかったライダーとマッスルは残念そうだ。
「仕方がないわよ、作者さんは一度に大人数を扱うのが苦手だから」
「そう言えば全員の活躍を書こうとする時は、局面を分けて書いているな……」
「……それが何か?」
「あら、作者さん、いつの間に?」
「私はいつでも神出鬼没ですよ、なにしろライダーシリーズの世界は私の手の中にあるんですからね」
「確かに……」
「次回、最終回をお楽しみに」
「「「「「ええええっ!」」」」」
「……てなことまで、私の筆先一つですからね、今のは冗談ですが、老眼だとか太目だとか、ましていい加減だとかご都合主義だとか言わない方が良いと思いますけどね」
「はい……肝に銘じておきます……」
「よろしい……言いたいことは言いましたから、私は私が住む世界へと戻ります」
「自由に行き来できるんですね」
「ええ、まあ、メタボリックですから……では……」
 そう言い残して、作者は霧のように消えて行ったが……
「……今、自分でメタボリックって言わなかった?」
「言ったな」
「ああ、聞いた」
「あたしも」
「ワシも聞いたぞ、ライダーマンは?」
「聞きましたよ、でも多分言い間違いでしょうね」
「本当はなんて言おうとしたんだろう?」
「多分、メタフィクションとね」



 (終)

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