ナイルだ! ライダー!
文字数 8,914文字
(左遷されてしまった死神博士をもう一度使ってみたくて、舞台をエジプトにw 本作の仮面ライダーは2号で、1号は世界を飛び回っているというTVドラマの設定に沿って、今作のライダーは1号です)
『ナイルだ! ライダー!』
【此の度のご栄転、御慶び申し上げます。 新天地での益々のご活躍とご健勝を祈念いたします。 地獄大使 ( ̄ー ̄)ニヤリ】
死神博士はその手紙を読み終えるなりくしゃくしゃに丸めて床に叩き付けた。
「きやつ! このワシをコケにしおって! 首領様も首領様だ、どこの馬の骨ともわからぬ怪しげな中国人なぞ重用してこのワシをこんな所まで飛ばすとは!」
ショッカーで人事異動があり、日本本部の大幹部にフー・マンジューが登用されて、そのあおりを食う形で死神博士はエジプトに飛ばされたのだ。
表向きはショッカー・エジプト支社の立ち上げを任せる、と言うことだが、博士直属の怪人の同行も認められず、付けられた部下もノーマル戦闘員5名だけ、それも落ちこぼればかりだ。
どう考えても左遷されたとしか思えない。
『新天地でのご活躍云々』は栄転の際に使われるのが正しい、しかし文末の( ̄ー ̄)ニヤリを見ればわかる、地獄大使はわざと使っているのだ。
「今に見ていろ……このワシの天才的頭脳を見せ付けて見事帰り咲いてやる……」
死神博士は隣にある手術室のドアに目をやった、そこで昨日改造手術を終えた怪人が目醒めの時を待っているのだ。
「ふふふ……暴れるばかりが能じゃないという事を教えてやる、この発想は筋肉バカの地獄大使にはあるまいて……きやつの吼え面が目に浮かぶようだわ」
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
数時間後……。
「うわ~! この姿はなんだ? 俺はどうなっちまったんだ~!」
ドアの向こう側で叫び声が響く、どうやら怪人が目を醒ましたらしい。
「おお、我ながら見事な出来栄えだ、喜べ、お前は今日から怪人・ワニ男として生まれ変わったのだ」
「死神博士! 一体いつの間に!」
「うん、お前が良く眠っていたのでな、ちょっと麻酔を嗅がして……」
「え~っ!? そんな! 勝手に人を改造しないでくださいよ!」
「何を今更、そもそも見張り番の最中に居眠りしていたお前が悪い」
「それはそうかもしれませんけど、だからって改造する事はないじゃないですか! すぐに戻して下さい、元に戻して下さいよ!」
「う~ん、でももうDNAを組み替えちゃったからなぁ」
「も、元には戻らないってことですか?」
「外科手術の範疇なら元に戻せないこともないが、一旦絡み合ってしまったDNAを元に戻すというのはなぁ……」
「で、できないんですか?」
「できないこともないがな……まぁ50%の確率で死ぬな」
「あ、後の50%は?」
「なんだか訳のわからないものになるだろうな、ワシにも想像がつかん」
「うわ~! なんてことしてくれたんですかぁ~! 俺には妻も子もあるんですよ、日本に残して単身赴任して来てるんですよ、昨日だってメールを交わして……ううっ……人間の体にワニの頭部って、これじゃ帰った時、夫とも父親とも分からないじゃないですか~!」
「うん、まあ、そう言うな、この国でお前は神として崇められることになるのだぞ」
「ワニ男が神? そんなわけないじゃないですか~!」
「いいや、これを見ろ」
「なんですか~? それは~!」
「セベク神と言ってな、古代エジプトでナイル川を司る神、創造の神として崇められた神だ、どうだ? 改造後のお前によく似ておろうが」
「似てるか似てないかなんて分かりませんよ! 俺にはワニの顔の見分けなんてつきませんからね!」
「この世にワニの顔を持つ人間は二人と存在せん、セベク神の衣装を身につければ、エジプト人なら誰だってお前をセベク神だと思うぞ」
「……そ、そうですかね?……」
「間違いない、そもそも2011年のアラブ革命以来、この国では政情が安定しておらん、そんな時に神の姿をした人間が現れたらどうなる?」
「そ、そりゃ、神の再来だと思うでしょうね」
「請け合いだ、世の中が不安定だからこそ余計に神に救いを求めるだろうと思わんか?」
「た、確かに……」
「エジプト王朝の復活だよ、お前が現人神として王に君臨して、このワシが摂政として国を動かす、無闇に暴れてライダーにやられてばかりの惨めな歴史に終止符を打つのだ、これこそがスマートな征服だと思わんか?」
「まぁ……元に戻れないんならやるっきゃないですかね……」
「そうとも! そうと決まったら衣装を調達せねばならんな、サイズはMで良いかな? それともLかな?」
「特注じゃないんかい!」
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
1ヶ月後のスナック・アミーゴで……。
「みんな、これを見てくれ、本郷君からのメールだ」
「本郷さんって、仮面ライダー1号の?」
「ああ、そうだ、今は世界中を飛びまわってショッカーの企みを潰して回ってくれている」
「日本にはライダー3人にくの一、陰陽師までいるのに、残りの世界全体で1人なんですか?」
「ショッカーの本部は日本にあるからな、まあ、そんなことよりメールを読んでみてくれ、画像も添付されてる」
「なになに……なんと……」
「死神博士……考えたな……」
「新興宗教みたいなものかな」
「いや、政権打倒を目指しているらしい」
「つまり大統領に?」
「いや、大統領と言うより王になろうとしているのかも知れんな」
「う~ん、政情不安定の折だ、この作戦は当るかもしれませんね」
「本郷君も手を出せずに困っているようだ」
「そうでしょうね、神様を蹴っ飛ばしたらこっちが悪者だ」
「だが、死神博士の狙いはエジプト征服、おそらくはその先も考えているだろうな」
「間違いないでしょうね、しかし、表立って倒せないとあっては……」
「ああ、だから本郷君は結城君と晴子ちゃんの応援を要請してきている」
「なるほど、もし戦闘になっても相手はワニ男と死神博士だけですからね、5人とも行ってしまっては日本が手薄になる」
「2人とも、行ってもらえるか?」
「当然です」
「あたしも微力ながら力になれるのなら」
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
「どうだ? ワニ男よ、神格化計画は順調に行っておろうが?」
「そうですね、博士、俺は偉そうに立っているだけで良いんですから楽なもんです」
「だが、そろそろ神らしいこともせんとな」
「何をすればいいんですかね」
「そうだな、ギュスターブとでも戦うか」
「ギュスターブって誰です?」
「人じゃない、300人以上を食い殺したバケモノ人食いワニだ」
「ちょっ……そ、それは……」
「心配するな、ギュスターブはここ10年ほど目撃されておらん、でかいワニをギュスターブに仕立て上げれば良いまでのこと」
「で、でも、そんなでかいワニと戦うなんて出来ませんよ!」
「安心しろ、筋弛緩剤かなにかで細工しておいてやるから」
「だ、大丈夫ですかね?」
「考えても見ろ、お前が食われでもしてたらここまでの努力が水の泡になるだろうが、それに自分もワニの顎を持っておろうが」
「そ……そうですよね」
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
仮面ライダー1号・本郷猛は満面の笑顔でカイロ空港で二人を出迎えてくれた。
「結城、良く来てくれた、また会えて嬉しいよ、そして君が晴子ちゃんか、いやいや、こんなに可愛らしい陰陽師がいるとはね、俺も日本に住みたくなるな」
晴子はぽっと顔を赤らめた。
一文字は硬派過ぎて、結城は生真面目すぎて軽口は叩かない、剛は志のぶしか目に入らない、おやっさんは適当に軽いが如何せん歳が離れすぎている、ストレートに『可愛らしい』などと言われれば嬉しいものだ、悪と戦う陰陽師だが、晴子は年頃の女の子なのだ。
しかし、はるばるエジプトまで来た目的は死神博士の野望を打ち砕くため、本郷もすぐに真顔になる。
「到着するなり早速で申し訳ないんだが、今日、死神博士たちが大規模な集会を開くんだ、俺と一緒に来てもらえないか」
「もちろん行くさ、そのためにエジプトに来たんだ、その集会はどこで?」
「ここからそう遠くはない、ギザだ」
「ギザで? なるほど、本格的に神格化をするつもりか」
「ああ、間違いない、これ以上民衆の心を掴むとやっかいだ」
「やっかいだ、では済まない、本当に政権を握ってしまうかも知れないぞ、なんとしても阻止しなければ、急ごう!」
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
「セ・ベ・クッ、セ・ベ・クッ、セ・ベ・クッ、セ・ベ・クッ……」
クフ王のピラミッドとカフラー王のピラミッドに囲まれた広場は数十万人の群集で埋め尽くされ、セベク神の名を叫びながらその登場を待ち望んでいた。
そして、カフラー王のピラミッドの頂上にセベク神……本当は改造された一介の戦闘員に過ぎないのだが……が姿を現すと群集の興奮はピークに達し、ピラミッドも揺るがすかのような大歓声が沸き起こる。
「エジプトの民よ、我と共に歩まん、我こそがエジプトを正しき繁栄の道に導くことが出来る唯一の存在ぞ!」
ワニ男がそう叫ぶと、カフラー王ピラミッドの背後に沈む夕日が彼の体と重なる、死神博士はそれを計算して時と場所を選んだのだ。
「おお……ラー(太陽神)だ……:
「セベク神はラー神と同化された」
「あのお姿こそ伝説の……」
「そうだ! セベク・ラー神だ! セベク・ラー神が降臨された!」
群集は一様にセベク・ラー神の前に跪き、ひれ伏した。
そして筋弛緩剤で捕獲しておいた大ワニが、そのタイミングで群集の背後で放たれる。
「あれは! ギュスターブではないか?」
そこには6mを越える巨大なワニ、のそり、のそりとピラミッドに向かって這って来る。
ひれ伏していた群集は『十戒』の海割りの様に割れ、ピラミッド上のワニ男とギュスターブの間に道が拓けた。
(さあ、奴を倒して来い、そうすればお前の神格化は完成する)
死神博士がワニ男に囁く。
(本当に大丈夫なんでしょうね、思ったよりもずっとデカいですよ、なんかこっちを睨んでるし……)
ワニ男は不安げだ……6mクラスのワニと戦わなくてはならないのだから無理もない、武器と言えば手にした杖位のもの、後は持ち前のワニの顎だけが頼りなのだ。
(大丈夫だ、麻酔銃で筋弛緩剤を打ち込んである、動きがのろいだろう? あれ以上速くは動けんよ)
(でも嫌だな~、やっぱり怖いっすよ)
(つべこべ言わすに行かんか!)
ドンッ!
ピラミッドの頂上で後ろから突き飛ばされたのだからたまらない、ワニ男は全速力でピラミッドを駆け下りる、駆け下りなければ階段落ちだ、『蒲田行進曲』の池田屋階段落ちどころの騒ぎではない。
「うわ~!」
ワニ男をセベク・ラー神と認識している群集には悲鳴も雄叫びに聞こえる、伝説的怪物、300人を食い殺した悪魔を我らがセベク・ラー神が倒してくれる、期待に満ちた目がワニ男に注がれ、ワニ男はピラミッドを駆け下りた勢いを止められないままにギュスターブの目前に……ギュスターブは巨大な口を開けて待ち受けている、その中にはナイフのように鋭い歯が無数に並んでいる……。
「どひゃ~!」
ワニ男はギリギリで大きくジャンプし、ギュスターブを飛び越して危うく難を逃れた。
するとギュスターブは素早く向きを変えて再びワニ男を襲う。
(マ、マジかよ! 速ぇ~よ! 本当に筋弛緩剤打ったのかよ~!)
ワニ男はギュスターブの噛み付き攻撃を交わすので精一杯、とてもじゃないがこんな怪物とは戦えない、ギュスターブが噛み付きに失敗した隙をつき、更に尻尾の攻撃も飛び越え背後に回ってピラミッドに向かってひた走る、そして悠々とピラミッドを降りてくる死神博士に向かって叫んだ。
「博士~! 話が違います! こいつ動きが速いです!」
「バ、バカ、博士と呼ぶな! 逃げるんじゃない、戦え!」
「ムリ! ムリっすよ! そんなこと言うんだったら博士が戦えばいいじゃないですか!」
「バカモノ、ワシは大幹部だぞ、そんな危険な真似が出来るものか!」
「本当に筋弛緩剤打ってあるんですよね!」
「打った……打ったが、少し量を加減しすぎたかな」
「どうして加減するんですか~!」
「あまり動きがのろいと戦いにリアリティが出ないからな」
「そ、それが理由っすか!? アンタそれを本気で言ってるんすか!?」
セベク・ラー神が勇猛にギュスターブを倒してくれるものと見守っていた群衆にどよめきが広がる。
「なあ、様子がおかしくないか?」
「だよな~、博士とか筋弛緩剤とか……」
「従者が神に言うような口調じゃないし、神が従者に言う言葉でもないよな」
「話が違う、とも言ってたぜ」
「やらせか? これは」
「セベク神ってのもニセモノなのか?」
しかし、ギュスターブがうろついているのは現実なのだ、セベク神が倒してくれないとわかれば逃げるしかない、広場はパニックに包まれかけた。
その時だ。
「とぉっ! ライダー・キック!!」
「グォォォォォ!」
大きくジャンプした仮面ライダー1号の、脚力と落下エネルギーを最大限に生かした踏みつけキックがギュスターブの頭部に炸裂、地面にめり込ませてしまう。
「だ、誰なんだ? あのギュスターブを一撃で倒したぞ!」
「あれは……」
「ネットで見た事があるぞ」
「俺はテレビで見た!」
「俺なんか映画館で見たぞ!」
「「「「仮面ライダーだ! ライダーがギュスターブを倒してくれたぞ!」」」」
一方、ピラミッドのふもと近くではワニ男と死神博士が内輪揉めの真っ最中だ。
「もうアンタにはとてもじゃないが付いて行けない! 今日限りショッカーからも退社だ!」
「なんだと? 神にしてやった恩を忘れたか!」
「アンタの野望のためだろうが! その為に大ワニに食い殺されて堪るかってんだ!」
「この大バカモノが!」
ボカッ。
「あ、殴りやがったな、神を殴ったな? 神罰が下るぞ」
「貴様が神などであろうものか!」
熱くなっている二人は、呆れて静まり返る群集の冷ややかな視線に気づいていない。
「噛み殺してやる!」
「うわっ! 何をするか!」
ワニ男がその大きく強力な顎で死神博士に噛み付こうとしたその瞬間、群衆の中から一人の男が飛び出した!
「待った~!」
「邪魔をするな! 誰なんだよ、お前は!」
「いや、待てよ、貴様には見覚えがあるぞ……そうだ! 貴様は『負けるな! ライダー!』にノコノコ登場した作者だな?」
「あ……そうです、よく憶えて……」
「作者が一体何の用だ!」
「え~とですね、ここはワニ男さんが死神博士を襲うのではなく、見境をなくして群集に飛びかかってもらいませんと困るんですよ」
「何故だ!」
「そうしてもらいませんと、この先のストーリーを大幅に書き換えないといけなくなるんですよね」
「知ったことか! そもそも貴様はなんだ! さんざん時系列を無視しおって、それだけではない、原作にないオリジナルキャラクターまで次々と……そもそもワシが左遷されたのも貴様がフー・マンジューなどと言うフザけたキャラを作り出したからではないか!」
「あ、まあ、そうとも言えるかも……」
「言えるかも、じゃない! それ以外に理由があるか!」
「いや、そこはやっぱり死神さんの性格に問題が……」
「フザけるな! ワシの性格も貴様が勝手に付け足したものだろうが!」
「あっ、それを言われると……辛い」
「そうなのか? だったら俺がこんな目に会っているのも、元を質せば作者であるお前のせいじゃないか!」
ワニ男もブチ切れた爬虫類の目で睨み付ける。
「そ……そうとも言えるかも……」
「フザけた野郎だ! まずはお前から噛み殺してやる!」
「うわ~!!!!」
その時だった、ライダーマンが発射したロープがワニ男の顎に巻きついてその攻撃を封じた! そのおかげで続きが書ける!
「むぐ……むごむごむご」
「ワニってのは噛む力は凄いけれど開ける力はたいしたことないんだよ」
「あ、それ知ってました、だから書……」
「おっと、作者さんはもう下がっていてくれ、ここからは我々の出番だ」
「はいはい、頑張ってくださいね」
作者は群衆にまぎれて逃げ去った。
「むぅ……ライダー2人に怪人1人、これは拙いな……」
パンッ!
死神博士はやおら懐から麻酔銃を取り出すとワニ男に向けて発射した。
「あ! 死神博士、内輪揉めの最中とは言え部下を撃つとは!」
「殺しちゃいないさ、お前達ライダーを抹殺する為に必要な処置を施したまでのこと、さて、ワシは危険な戦場から退散するとしよう、さらばじゃ!」
ボンッ!
煙玉を地面に投げつけると、死神博士は姿を消した。
「う……うう……死神博士め……」
「どうした? ワニ男、顔が真っ青だぞ」
「人が眠ってる間に勝手に改造しやがって……」
「そうなのか? それは酷いな、少しだが同情するよ」
「体が……体が……」
「体がどうした?」
「巨大化する~~~~~!!!!!」
「うわっ! 本当に巨大化しやがった!」
「20mはある! 並みの恐竜よりよほどデカいぞ! 顎に絡めたロープも切れてしまった!」
「何の! 相手がデカいからと怯むわけには行かない! まだ広場には沢山の人がいるんだ!」
「あ! 1号! 顎に気をつけろ!」
「わかってるさ! とぉっ! ライダー・アッパーカット・キック!」
ドカッ!
思い切りジャンプした1号は巨大ワニ男の下顎を蹴り上げる!
「うがっ!」
ドスン!
脳が激しく揺らされたのだろう、巨大ワニ男は思わず膝を付いた。
「もう一度その顎を封じさせてもらうぞ!」
ライダーマンが再びロープアームからフックつきロープを発射、しかし、気を取り直した巨大ワニ男に振り払われてしまう、そして膝をついたまま地上の2人に向けたパンチの嵐!
ドカッ! ドカッ! ドカッ! ドカッ! ドカッ!
「うわっ!」
「危ないっ!」
「こんなのを食らったら潰されてしまうぞ!」
「くそっ……どうしたら……」
「あたしを忘れていらっしゃいません?」
2人ライダーのピンチに進み出て来たのは晴子、可憐なる陰陽師・アベノセイコだ!
「晴子ちゃん! 何か策が?」
「ええ、あれを使います」
「え? あれって……」
「そうか! その手があったか!」
アベノセイコが指差した先、そこにはスフィンクスが悠然と『伏せ』をしていた……。
「はぁっ!」
セイコが宙に描いた五茫星に呪を込めてスフィンクスに飛ばす! スフィンクスの額に五茫星が輝いた。
「で、デカい! 陰陽師とはこんなことまで出来るのか」
1号があっけにとられたようにスフィンクスを見上げる。
ギザの大スフィンクスは『伏せ』のポーズですら全高20m、ゆっくり立ち上がったその姿は全長70m、全高35m!
「うが~っ!」
巨大化したワニ男にほとんど理性は残っていないようだ、自分より遥かに巨大なスフィンクスに向かって突進して行く!
身構える巨大なスフィンクス!
飛びかかる巨大化したワニ男!
どのような戦いが両者を待ち受けているのか!
ペシッ……。
「ウギャッ」
しかし……巨大化したワニ男とスフィンクスの対決は、ネコパンチの一撃であっけなくケリがついた。
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
「どういうことだ? ワニ男が見る見るしぼんでいくが……」
「あれだけ急激に巨大化させる劇薬だ、副作用も半端ではないのだろう」
ワニ男は元の大きさどころか15cmほどにまで縮んでしまった。
「これをどうしたものかな……ナイルに放り込んだらすぐにでも食われてしまうだろうな」
「幸いカイロ大学がすぐ近くだ」
「標本に?」
「いや、彼は言ってたんだよ、居眠りしている間に麻酔を嗅がされて改造されてしまったらしい」
「だとすると少し可哀想だな」
「ああ、カイロ大学に知り合いがいるんだ、調べてもらえるように頼んでみよう、さっきのクスリの正体を知りたいし、ひょっとすると元に戻す手段が見つかるかもしれない」
「見つかると良いな」
「まあ、それは作者次第だろうな……」
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
「ハ~クション!」
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
「今回は晴子ちゃんに助けられた、本当にありがとう」
がっちりと両手を握られて、晴子はまた頬を赤らめた。
「では、我々はこれで失礼するよ」
「ああ、おやっさんと一文字によろしく伝えてくれ、まだ会っていないが納谷夫妻にもな」
「ああ、一人で世界を回るのは大変だろうが、本郷も頑張ってくれ」
「ははは、俺はそれが性に合っているのさ、冒険、冒険、また冒険、それがなけりゃ生きてても面白くないだろう?」
「でも、この世からショッカーを消し去ることが出来たら……」
「ああ、日本へ帰るさ、その時はよろしくな」
「ああ……その日が早く来ると良いな」
結城と晴子が空港のドアの前で振り返ると、もうそこには本郷の姿はなく、サイクロン号が走り去る爆音だけがそこに残されていた……。
『ナイルだ! ライダー!』
【此の度のご栄転、御慶び申し上げます。 新天地での益々のご活躍とご健勝を祈念いたします。 地獄大使 ( ̄ー ̄)ニヤリ】
死神博士はその手紙を読み終えるなりくしゃくしゃに丸めて床に叩き付けた。
「きやつ! このワシをコケにしおって! 首領様も首領様だ、どこの馬の骨ともわからぬ怪しげな中国人なぞ重用してこのワシをこんな所まで飛ばすとは!」
ショッカーで人事異動があり、日本本部の大幹部にフー・マンジューが登用されて、そのあおりを食う形で死神博士はエジプトに飛ばされたのだ。
表向きはショッカー・エジプト支社の立ち上げを任せる、と言うことだが、博士直属の怪人の同行も認められず、付けられた部下もノーマル戦闘員5名だけ、それも落ちこぼればかりだ。
どう考えても左遷されたとしか思えない。
『新天地でのご活躍云々』は栄転の際に使われるのが正しい、しかし文末の( ̄ー ̄)ニヤリを見ればわかる、地獄大使はわざと使っているのだ。
「今に見ていろ……このワシの天才的頭脳を見せ付けて見事帰り咲いてやる……」
死神博士は隣にある手術室のドアに目をやった、そこで昨日改造手術を終えた怪人が目醒めの時を待っているのだ。
「ふふふ……暴れるばかりが能じゃないという事を教えてやる、この発想は筋肉バカの地獄大使にはあるまいて……きやつの吼え面が目に浮かぶようだわ」
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
数時間後……。
「うわ~! この姿はなんだ? 俺はどうなっちまったんだ~!」
ドアの向こう側で叫び声が響く、どうやら怪人が目を醒ましたらしい。
「おお、我ながら見事な出来栄えだ、喜べ、お前は今日から怪人・ワニ男として生まれ変わったのだ」
「死神博士! 一体いつの間に!」
「うん、お前が良く眠っていたのでな、ちょっと麻酔を嗅がして……」
「え~っ!? そんな! 勝手に人を改造しないでくださいよ!」
「何を今更、そもそも見張り番の最中に居眠りしていたお前が悪い」
「それはそうかもしれませんけど、だからって改造する事はないじゃないですか! すぐに戻して下さい、元に戻して下さいよ!」
「う~ん、でももうDNAを組み替えちゃったからなぁ」
「も、元には戻らないってことですか?」
「外科手術の範疇なら元に戻せないこともないが、一旦絡み合ってしまったDNAを元に戻すというのはなぁ……」
「で、できないんですか?」
「できないこともないがな……まぁ50%の確率で死ぬな」
「あ、後の50%は?」
「なんだか訳のわからないものになるだろうな、ワシにも想像がつかん」
「うわ~! なんてことしてくれたんですかぁ~! 俺には妻も子もあるんですよ、日本に残して単身赴任して来てるんですよ、昨日だってメールを交わして……ううっ……人間の体にワニの頭部って、これじゃ帰った時、夫とも父親とも分からないじゃないですか~!」
「うん、まあ、そう言うな、この国でお前は神として崇められることになるのだぞ」
「ワニ男が神? そんなわけないじゃないですか~!」
「いいや、これを見ろ」
「なんですか~? それは~!」
「セベク神と言ってな、古代エジプトでナイル川を司る神、創造の神として崇められた神だ、どうだ? 改造後のお前によく似ておろうが」
「似てるか似てないかなんて分かりませんよ! 俺にはワニの顔の見分けなんてつきませんからね!」
「この世にワニの顔を持つ人間は二人と存在せん、セベク神の衣装を身につければ、エジプト人なら誰だってお前をセベク神だと思うぞ」
「……そ、そうですかね?……」
「間違いない、そもそも2011年のアラブ革命以来、この国では政情が安定しておらん、そんな時に神の姿をした人間が現れたらどうなる?」
「そ、そりゃ、神の再来だと思うでしょうね」
「請け合いだ、世の中が不安定だからこそ余計に神に救いを求めるだろうと思わんか?」
「た、確かに……」
「エジプト王朝の復活だよ、お前が現人神として王に君臨して、このワシが摂政として国を動かす、無闇に暴れてライダーにやられてばかりの惨めな歴史に終止符を打つのだ、これこそがスマートな征服だと思わんか?」
「まぁ……元に戻れないんならやるっきゃないですかね……」
「そうとも! そうと決まったら衣装を調達せねばならんな、サイズはMで良いかな? それともLかな?」
「特注じゃないんかい!」
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
1ヶ月後のスナック・アミーゴで……。
「みんな、これを見てくれ、本郷君からのメールだ」
「本郷さんって、仮面ライダー1号の?」
「ああ、そうだ、今は世界中を飛びまわってショッカーの企みを潰して回ってくれている」
「日本にはライダー3人にくの一、陰陽師までいるのに、残りの世界全体で1人なんですか?」
「ショッカーの本部は日本にあるからな、まあ、そんなことよりメールを読んでみてくれ、画像も添付されてる」
「なになに……なんと……」
「死神博士……考えたな……」
「新興宗教みたいなものかな」
「いや、政権打倒を目指しているらしい」
「つまり大統領に?」
「いや、大統領と言うより王になろうとしているのかも知れんな」
「う~ん、政情不安定の折だ、この作戦は当るかもしれませんね」
「本郷君も手を出せずに困っているようだ」
「そうでしょうね、神様を蹴っ飛ばしたらこっちが悪者だ」
「だが、死神博士の狙いはエジプト征服、おそらくはその先も考えているだろうな」
「間違いないでしょうね、しかし、表立って倒せないとあっては……」
「ああ、だから本郷君は結城君と晴子ちゃんの応援を要請してきている」
「なるほど、もし戦闘になっても相手はワニ男と死神博士だけですからね、5人とも行ってしまっては日本が手薄になる」
「2人とも、行ってもらえるか?」
「当然です」
「あたしも微力ながら力になれるのなら」
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
「どうだ? ワニ男よ、神格化計画は順調に行っておろうが?」
「そうですね、博士、俺は偉そうに立っているだけで良いんですから楽なもんです」
「だが、そろそろ神らしいこともせんとな」
「何をすればいいんですかね」
「そうだな、ギュスターブとでも戦うか」
「ギュスターブって誰です?」
「人じゃない、300人以上を食い殺したバケモノ人食いワニだ」
「ちょっ……そ、それは……」
「心配するな、ギュスターブはここ10年ほど目撃されておらん、でかいワニをギュスターブに仕立て上げれば良いまでのこと」
「で、でも、そんなでかいワニと戦うなんて出来ませんよ!」
「安心しろ、筋弛緩剤かなにかで細工しておいてやるから」
「だ、大丈夫ですかね?」
「考えても見ろ、お前が食われでもしてたらここまでの努力が水の泡になるだろうが、それに自分もワニの顎を持っておろうが」
「そ……そうですよね」
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
仮面ライダー1号・本郷猛は満面の笑顔でカイロ空港で二人を出迎えてくれた。
「結城、良く来てくれた、また会えて嬉しいよ、そして君が晴子ちゃんか、いやいや、こんなに可愛らしい陰陽師がいるとはね、俺も日本に住みたくなるな」
晴子はぽっと顔を赤らめた。
一文字は硬派過ぎて、結城は生真面目すぎて軽口は叩かない、剛は志のぶしか目に入らない、おやっさんは適当に軽いが如何せん歳が離れすぎている、ストレートに『可愛らしい』などと言われれば嬉しいものだ、悪と戦う陰陽師だが、晴子は年頃の女の子なのだ。
しかし、はるばるエジプトまで来た目的は死神博士の野望を打ち砕くため、本郷もすぐに真顔になる。
「到着するなり早速で申し訳ないんだが、今日、死神博士たちが大規模な集会を開くんだ、俺と一緒に来てもらえないか」
「もちろん行くさ、そのためにエジプトに来たんだ、その集会はどこで?」
「ここからそう遠くはない、ギザだ」
「ギザで? なるほど、本格的に神格化をするつもりか」
「ああ、間違いない、これ以上民衆の心を掴むとやっかいだ」
「やっかいだ、では済まない、本当に政権を握ってしまうかも知れないぞ、なんとしても阻止しなければ、急ごう!」
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
「セ・ベ・クッ、セ・ベ・クッ、セ・ベ・クッ、セ・ベ・クッ……」
クフ王のピラミッドとカフラー王のピラミッドに囲まれた広場は数十万人の群集で埋め尽くされ、セベク神の名を叫びながらその登場を待ち望んでいた。
そして、カフラー王のピラミッドの頂上にセベク神……本当は改造された一介の戦闘員に過ぎないのだが……が姿を現すと群集の興奮はピークに達し、ピラミッドも揺るがすかのような大歓声が沸き起こる。
「エジプトの民よ、我と共に歩まん、我こそがエジプトを正しき繁栄の道に導くことが出来る唯一の存在ぞ!」
ワニ男がそう叫ぶと、カフラー王ピラミッドの背後に沈む夕日が彼の体と重なる、死神博士はそれを計算して時と場所を選んだのだ。
「おお……ラー(太陽神)だ……:
「セベク神はラー神と同化された」
「あのお姿こそ伝説の……」
「そうだ! セベク・ラー神だ! セベク・ラー神が降臨された!」
群集は一様にセベク・ラー神の前に跪き、ひれ伏した。
そして筋弛緩剤で捕獲しておいた大ワニが、そのタイミングで群集の背後で放たれる。
「あれは! ギュスターブではないか?」
そこには6mを越える巨大なワニ、のそり、のそりとピラミッドに向かって這って来る。
ひれ伏していた群集は『十戒』の海割りの様に割れ、ピラミッド上のワニ男とギュスターブの間に道が拓けた。
(さあ、奴を倒して来い、そうすればお前の神格化は完成する)
死神博士がワニ男に囁く。
(本当に大丈夫なんでしょうね、思ったよりもずっとデカいですよ、なんかこっちを睨んでるし……)
ワニ男は不安げだ……6mクラスのワニと戦わなくてはならないのだから無理もない、武器と言えば手にした杖位のもの、後は持ち前のワニの顎だけが頼りなのだ。
(大丈夫だ、麻酔銃で筋弛緩剤を打ち込んである、動きがのろいだろう? あれ以上速くは動けんよ)
(でも嫌だな~、やっぱり怖いっすよ)
(つべこべ言わすに行かんか!)
ドンッ!
ピラミッドの頂上で後ろから突き飛ばされたのだからたまらない、ワニ男は全速力でピラミッドを駆け下りる、駆け下りなければ階段落ちだ、『蒲田行進曲』の池田屋階段落ちどころの騒ぎではない。
「うわ~!」
ワニ男をセベク・ラー神と認識している群集には悲鳴も雄叫びに聞こえる、伝説的怪物、300人を食い殺した悪魔を我らがセベク・ラー神が倒してくれる、期待に満ちた目がワニ男に注がれ、ワニ男はピラミッドを駆け下りた勢いを止められないままにギュスターブの目前に……ギュスターブは巨大な口を開けて待ち受けている、その中にはナイフのように鋭い歯が無数に並んでいる……。
「どひゃ~!」
ワニ男はギリギリで大きくジャンプし、ギュスターブを飛び越して危うく難を逃れた。
するとギュスターブは素早く向きを変えて再びワニ男を襲う。
(マ、マジかよ! 速ぇ~よ! 本当に筋弛緩剤打ったのかよ~!)
ワニ男はギュスターブの噛み付き攻撃を交わすので精一杯、とてもじゃないがこんな怪物とは戦えない、ギュスターブが噛み付きに失敗した隙をつき、更に尻尾の攻撃も飛び越え背後に回ってピラミッドに向かってひた走る、そして悠々とピラミッドを降りてくる死神博士に向かって叫んだ。
「博士~! 話が違います! こいつ動きが速いです!」
「バ、バカ、博士と呼ぶな! 逃げるんじゃない、戦え!」
「ムリ! ムリっすよ! そんなこと言うんだったら博士が戦えばいいじゃないですか!」
「バカモノ、ワシは大幹部だぞ、そんな危険な真似が出来るものか!」
「本当に筋弛緩剤打ってあるんですよね!」
「打った……打ったが、少し量を加減しすぎたかな」
「どうして加減するんですか~!」
「あまり動きがのろいと戦いにリアリティが出ないからな」
「そ、それが理由っすか!? アンタそれを本気で言ってるんすか!?」
セベク・ラー神が勇猛にギュスターブを倒してくれるものと見守っていた群衆にどよめきが広がる。
「なあ、様子がおかしくないか?」
「だよな~、博士とか筋弛緩剤とか……」
「従者が神に言うような口調じゃないし、神が従者に言う言葉でもないよな」
「話が違う、とも言ってたぜ」
「やらせか? これは」
「セベク神ってのもニセモノなのか?」
しかし、ギュスターブがうろついているのは現実なのだ、セベク神が倒してくれないとわかれば逃げるしかない、広場はパニックに包まれかけた。
その時だ。
「とぉっ! ライダー・キック!!」
「グォォォォォ!」
大きくジャンプした仮面ライダー1号の、脚力と落下エネルギーを最大限に生かした踏みつけキックがギュスターブの頭部に炸裂、地面にめり込ませてしまう。
「だ、誰なんだ? あのギュスターブを一撃で倒したぞ!」
「あれは……」
「ネットで見た事があるぞ」
「俺はテレビで見た!」
「俺なんか映画館で見たぞ!」
「「「「仮面ライダーだ! ライダーがギュスターブを倒してくれたぞ!」」」」
一方、ピラミッドのふもと近くではワニ男と死神博士が内輪揉めの真っ最中だ。
「もうアンタにはとてもじゃないが付いて行けない! 今日限りショッカーからも退社だ!」
「なんだと? 神にしてやった恩を忘れたか!」
「アンタの野望のためだろうが! その為に大ワニに食い殺されて堪るかってんだ!」
「この大バカモノが!」
ボカッ。
「あ、殴りやがったな、神を殴ったな? 神罰が下るぞ」
「貴様が神などであろうものか!」
熱くなっている二人は、呆れて静まり返る群集の冷ややかな視線に気づいていない。
「噛み殺してやる!」
「うわっ! 何をするか!」
ワニ男がその大きく強力な顎で死神博士に噛み付こうとしたその瞬間、群衆の中から一人の男が飛び出した!
「待った~!」
「邪魔をするな! 誰なんだよ、お前は!」
「いや、待てよ、貴様には見覚えがあるぞ……そうだ! 貴様は『負けるな! ライダー!』にノコノコ登場した作者だな?」
「あ……そうです、よく憶えて……」
「作者が一体何の用だ!」
「え~とですね、ここはワニ男さんが死神博士を襲うのではなく、見境をなくして群集に飛びかかってもらいませんと困るんですよ」
「何故だ!」
「そうしてもらいませんと、この先のストーリーを大幅に書き換えないといけなくなるんですよね」
「知ったことか! そもそも貴様はなんだ! さんざん時系列を無視しおって、それだけではない、原作にないオリジナルキャラクターまで次々と……そもそもワシが左遷されたのも貴様がフー・マンジューなどと言うフザけたキャラを作り出したからではないか!」
「あ、まあ、そうとも言えるかも……」
「言えるかも、じゃない! それ以外に理由があるか!」
「いや、そこはやっぱり死神さんの性格に問題が……」
「フザけるな! ワシの性格も貴様が勝手に付け足したものだろうが!」
「あっ、それを言われると……辛い」
「そうなのか? だったら俺がこんな目に会っているのも、元を質せば作者であるお前のせいじゃないか!」
ワニ男もブチ切れた爬虫類の目で睨み付ける。
「そ……そうとも言えるかも……」
「フザけた野郎だ! まずはお前から噛み殺してやる!」
「うわ~!!!!」
その時だった、ライダーマンが発射したロープがワニ男の顎に巻きついてその攻撃を封じた! そのおかげで続きが書ける!
「むぐ……むごむごむご」
「ワニってのは噛む力は凄いけれど開ける力はたいしたことないんだよ」
「あ、それ知ってました、だから書……」
「おっと、作者さんはもう下がっていてくれ、ここからは我々の出番だ」
「はいはい、頑張ってくださいね」
作者は群衆にまぎれて逃げ去った。
「むぅ……ライダー2人に怪人1人、これは拙いな……」
パンッ!
死神博士はやおら懐から麻酔銃を取り出すとワニ男に向けて発射した。
「あ! 死神博士、内輪揉めの最中とは言え部下を撃つとは!」
「殺しちゃいないさ、お前達ライダーを抹殺する為に必要な処置を施したまでのこと、さて、ワシは危険な戦場から退散するとしよう、さらばじゃ!」
ボンッ!
煙玉を地面に投げつけると、死神博士は姿を消した。
「う……うう……死神博士め……」
「どうした? ワニ男、顔が真っ青だぞ」
「人が眠ってる間に勝手に改造しやがって……」
「そうなのか? それは酷いな、少しだが同情するよ」
「体が……体が……」
「体がどうした?」
「巨大化する~~~~~!!!!!」
「うわっ! 本当に巨大化しやがった!」
「20mはある! 並みの恐竜よりよほどデカいぞ! 顎に絡めたロープも切れてしまった!」
「何の! 相手がデカいからと怯むわけには行かない! まだ広場には沢山の人がいるんだ!」
「あ! 1号! 顎に気をつけろ!」
「わかってるさ! とぉっ! ライダー・アッパーカット・キック!」
ドカッ!
思い切りジャンプした1号は巨大ワニ男の下顎を蹴り上げる!
「うがっ!」
ドスン!
脳が激しく揺らされたのだろう、巨大ワニ男は思わず膝を付いた。
「もう一度その顎を封じさせてもらうぞ!」
ライダーマンが再びロープアームからフックつきロープを発射、しかし、気を取り直した巨大ワニ男に振り払われてしまう、そして膝をついたまま地上の2人に向けたパンチの嵐!
ドカッ! ドカッ! ドカッ! ドカッ! ドカッ!
「うわっ!」
「危ないっ!」
「こんなのを食らったら潰されてしまうぞ!」
「くそっ……どうしたら……」
「あたしを忘れていらっしゃいません?」
2人ライダーのピンチに進み出て来たのは晴子、可憐なる陰陽師・アベノセイコだ!
「晴子ちゃん! 何か策が?」
「ええ、あれを使います」
「え? あれって……」
「そうか! その手があったか!」
アベノセイコが指差した先、そこにはスフィンクスが悠然と『伏せ』をしていた……。
「はぁっ!」
セイコが宙に描いた五茫星に呪を込めてスフィンクスに飛ばす! スフィンクスの額に五茫星が輝いた。
「で、デカい! 陰陽師とはこんなことまで出来るのか」
1号があっけにとられたようにスフィンクスを見上げる。
ギザの大スフィンクスは『伏せ』のポーズですら全高20m、ゆっくり立ち上がったその姿は全長70m、全高35m!
「うが~っ!」
巨大化したワニ男にほとんど理性は残っていないようだ、自分より遥かに巨大なスフィンクスに向かって突進して行く!
身構える巨大なスフィンクス!
飛びかかる巨大化したワニ男!
どのような戦いが両者を待ち受けているのか!
ペシッ……。
「ウギャッ」
しかし……巨大化したワニ男とスフィンクスの対決は、ネコパンチの一撃であっけなくケリがついた。
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
「どういうことだ? ワニ男が見る見るしぼんでいくが……」
「あれだけ急激に巨大化させる劇薬だ、副作用も半端ではないのだろう」
ワニ男は元の大きさどころか15cmほどにまで縮んでしまった。
「これをどうしたものかな……ナイルに放り込んだらすぐにでも食われてしまうだろうな」
「幸いカイロ大学がすぐ近くだ」
「標本に?」
「いや、彼は言ってたんだよ、居眠りしている間に麻酔を嗅がされて改造されてしまったらしい」
「だとすると少し可哀想だな」
「ああ、カイロ大学に知り合いがいるんだ、調べてもらえるように頼んでみよう、さっきのクスリの正体を知りたいし、ひょっとすると元に戻す手段が見つかるかもしれない」
「見つかると良いな」
「まあ、それは作者次第だろうな……」
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
「ハ~クション!」
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
「今回は晴子ちゃんに助けられた、本当にありがとう」
がっちりと両手を握られて、晴子はまた頬を赤らめた。
「では、我々はこれで失礼するよ」
「ああ、おやっさんと一文字によろしく伝えてくれ、まだ会っていないが納谷夫妻にもな」
「ああ、一人で世界を回るのは大変だろうが、本郷も頑張ってくれ」
「ははは、俺はそれが性に合っているのさ、冒険、冒険、また冒険、それがなけりゃ生きてても面白くないだろう?」
「でも、この世からショッカーを消し去ることが出来たら……」
「ああ、日本へ帰るさ、その時はよろしくな」
「ああ……その日が早く来ると良いな」
結城と晴子が空港のドアの前で振り返ると、もうそこには本郷の姿はなく、サイクロン号が走り去る爆音だけがそこに残されていた……。