心を強く! ライダー!

文字数 8,602文字

(ホームグラウンドにしていたサイトが閉鎖になると言う告知があり、いつものコメディタッチが少しシリアスになってますw 「真っ暗闇での戦闘」と言う、小説でしか描きようがないシーンを書いてみようかな? と言う発想から生まれた作品です。)

          『心を強く! ライダー!』

「とおっ!」
「イーッ!」
「食らえっ!」
「「イーッ!」」
「オラオラオラ、そんなもんかっ!」
「「「イーッ!」」」

 今日もショッカーのスーパー戦闘員を相手に、ライダー、ライダーマン、マッスルの三人は大暴れだ。
 そしていつものごとく、劣勢と見て取った死神博士は丘の上に逃げ、杖を振り上げて怪人を呼ぶ。

「出でよ! スポ根男!」

 死神博士の背後から姿を現したのは、胸にGのマークが入った野球のユニフォームを身にまとった男だ。

「わははははは! 貴様らにこのスポ根男の攻撃が避けられるかな?」
「まだ攻撃して来ていないじゃないか、それに野球選手にしか見えないが?」
「野球選手ではない! スポ根男だ! おい! 見せてやれ!」
 スポ根男がユニフォームをかなぐり捨てると、筋肉を逆に引っ張るバネが無数についたトレーニング器具が現れた。
「なんだ? それは!」
「大リ○グボール養成ギブスよ、日々これで鍛えた剛速球、受けてみるが良い!」
「伏字の意味があまりないようだが?」
「ふふふ、念のためよ」
「それに、野球のボールよりテニスのサーブの方が速いのではないか? 500kmサーブならシューゾーで経験済みだが?」
「ただの剛速球ではない、魔球よ! さあ、スポ根男、お前の実力を見せ付けてやるが良い!」
「はい! とうちゃん!」
「とうちゃんではない! 博士と呼べといつも言っておるだろうが!」
「はい! 博士」
 スポ根男はギブスをかなぐり捨てて、大きく振りかぶる、その瞳には燃え盛る炎が……。
「行くぞ!」
 スポ根男はサウスポー、右足を高々と振り上げ、真っ向から剛速球を投げ込んで来た。
「いくら速いと言っても……何っ? ぐわっ!」
 球筋を見切って軽く避けようとしたライダーだったが、何と、ボールが途中で消えたのだ!

「な、何だ? 今のは!」
「私は漫画で読んだことがあるぞ! あれは大リ○グボール二号だ!」
「何っ! 『消える魔球』が実在するとは!」
「こいつはちと厄介だな! ぐわっ!」
 マッスルもボールをヘルメットに受け、思わず倒れこんでしまう。
「くぅ……効くぜ、さすがに怪人が投げるボールだな、しかも見えないと来ては避けようがないぜ」
 少なからず動揺したライダーとマッスル、しかしライダーマンは冷静だ。
「マッスル、ライダー、私に任せてくれ!」
「何かわかったのか? ライダーマン」
「ああ、わかったと言うより、消える原理が原作の通りだとしたら対処はたやすい……これでどうだ? ウォーター・ガン!」
「う……」
「どうやら図星だったようだな」
「ライダーマン、どういう事か説明してくれないか?」
「消える魔球は水に弱い、と言うことさ、詳しくは(注1)を参照してくれ、アクションシーンの流れを止めてしまうからな」
「細かいことはいいや、要するにやつが投げる球はもう消えないってことだろう? ならば何も問題はないってことさ!」
 マッスルはスポ根男に向かって脱兎のごとく走り出した。
「あ、マッスル、逸るな! 巨○の星男ではなく、スポ根男と名乗るからにはまだ何かあるはずだ!」
「わかってるって、大体想像がつくぜ!」
 マッスルがスポ根男に向かって走る、迎え撃つスポ根男はグラブを投げ捨てて、ボクシングのファイティングポーズを取った。
「やっぱりそれか! 行くぜ! 右ストレート!」
「それを待ってたぜ! 食らえ! クロスカウンター!(注2)」
 両者の腕が交錯し、それぞれの顎にパンチがめり込む、傍目には相討ち……しかし、ガクッと膝をついたのはスポ根男だった。
「くっ……どうして……俺のクロスカウンターが敗れるとは……」
「ああ、見事なカウンターだったぜ、だが残念だったな、リーチは俺の方がかなり長いんだ、技に溺れたな」
「ち……ちくしょう……」
「ひとつ教えておいてやろう、その言葉は使わない方がいいぜ、七十年代ならともかく、今じゃヘイトスピーチと言われかねないからな」
「く……くそっ……」
「う~ん、それもギリギリアウトだ」
「燃え尽きたよ……真っ白な灰に……」
「そうだ、それでこそ名セリフだよ」
 シリアスなシーンに死神博士が水を差す。
「ええい! どうしたというのだ、スポ根男! いきなり真っ白になりおって! 立て! 立つんだ! スポ根男!」
「死神博士、今のセリフは時系列を間違えてるぜ、このシーンで言っても野暮なだけだ」
「うぬぅ……退け! 退くんだ!」
 死神博士はそう叫ぶだけ叫ぶと、戦闘員達を尻目にさっさと逃げ出した。


「なんだか自滅って感じだったな」
「ああ、しかし、スポ根男とは一体どういう改造なんだろう? 遺伝子工学でも外科手術でもないような……」
「しかし、見えないってのは厄介だったな……」
 見えない敵……後々それに悩まされることになるとは、その時三人ライダーは考えてもいなかった。


(注1) 消える魔球:高く上げた足で巻き上げた砂埃と、ホップする剛速球が巻き上げる砂埃の相乗効果で……消えます(キッパリ) しかし、砂埃が上がらなければただの速球であると言う弱点がある。

(注2) クロスカウンター:向かって来る相手の勢いを利用し、タイミング良くパンチを当てることで威力を倍増させるのがカウンターパンチ、更に腕をクロスさせることで、テコの原理を応用して威力をアップさせるのがクロスカウンター、一体どこにテコの原理が働くのかは解明されていないが、とにかくスゲーパンチであることは間違いない(キッパリ)


ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


「あなた、どうしたの? 浮かない顔をして……」
 その晩、志のぶが心配そうに剛の顔を覗き込んだ。
「もしかして、また戦闘員に知り合いが?」
「いや、その逆だよ、いなかったんだ」
「だったら、なぜ?」
「今の戦闘員チームからは俺が抜け、富樫も抜けたからな、あいつが外れる筈はないんだ」
「あいつって?」
「中沢と言う男さ、一回り年下でな、体も小さい方なんで入って来た時あまり強くはなかったんだが、とにかく退かない男でさ、体ごとぶちかまして来るんだ、不器用なんだが気風の良い戦いぶりが気に入ってね、俺も富樫も眼をかけていたんだよ……とにかく器用な戦い方が出来る男じゃないから、至近距離からの突進に磨きをかけるように指導してやって、今の戦闘員チームでならナンバー2か3には入る実力を身につけたんだ、ライダーとの戦闘で外されるとは思えないんだが……でも、今日は奴らしき戦闘員がいなかったんだ」
「風邪とかひいたのかも」
「だったらいいんだが……」

 剛の悪い予感は、残念ながら当たっていた。
 次の戦闘の時のことである。

「行け! モグラ男!」
 死神博士の号令に呼応するように、自分の顔を両手でぴしゃりと叩いて突進して来る怪人・モグラ男。
 仮面ライダーマッスルこと、剛はその癖と戦闘スタイルに見覚えがあった。
「お前! 中沢だな? そうなんだろうっ?」
 しかし、モグラ男はマッスルの声に反応せず、まっすぐ突っ込んで来た。
「中沢! 俺だ! 納谷だよ! わからないのか?」
 突進をかわしたマッスルが更に呼びかけたが、やはりモグラ男は反応しない。
至近距離からでも瞬時にトップスピードに乗るその突進力は、マッスルをしても避けきれない。
「ぐあっ!」
「マッスル! 大丈夫か!」
「ああ、強化スーツのおかげでなんとかな……おい! 中沢、目を覚ましてくれ、中沢!」
 バシッ!
 しかし、モグラ男は、その大きな掌でマッスルを弾き飛ばした。
「マッスル! 知り合いのようだが、残念ながら既に脳改造されている! もうその怪人は君が知っている男ではないぞ!」
「くっ……中沢……もう、お前はお前ではなくなってしまったのか……」
 いつもの気迫が影を潜めてしまったマッスルに、モグラ男の大きな掌が振り下ろされる、そして、その先には鋭い爪が……。
「マッスル、しっかりしろ! とぉっ!」
 すんでの所でライダーのハイキックが決まり、モグラ男の大きな掌は弾き飛ばされ、マッスルも我に返る。
「すまん! ライダー! 俺としたことが」
「気の毒だが、脳改造を施されてしまった以上、彼はもう人間ではないんだ!」
「わかってる! 感傷に浸ってる場合ではないってこともな!」

 至近距離からでなければ、モグラ男の突進はそう有効な攻撃ではない、モグラ男を取り巻いていたスーパー戦闘員を全て倒してしまうと、モグラ男は洞窟へと逃げ込んだ。
「マッスル! 追うな! 暗い洞窟での戦闘はモグラ男の得意とする環境だぞ!」
「……わかってる、ライダー、しかし……やっぱり俺は奴を放って置けないんだ、平和を脅かす存在になってしまったのならせめて俺の手で……」
 ライダーの言葉を振り切るように、マッスルは洞窟の中へ消えて行った。
「マッスル!」
 ライダーとてマッスルの気持ちは良くわかる、見殺しには出来ない。
 ライダーもマッスルを追うように洞窟に走る。
「いかん! ライダー! マッスル! 罠だ!」
 仲間を案じるライダーマンの言葉を、死神博士の勝ち誇ったような高笑いがかき消した。
「わはははは……マッスルこと納谷が戦闘員たちのことを知っているように、われわれも納谷の性格を知っておるのだ! 見え透いた罠でも、情にほだされれば奴は飛び込んでくるとな!」

 ドガーン!

「しまった!」
 ライダーマンが歯噛みするよりも一瞬早く、洞窟入り口上部で爆発が起き、大きな岩が入り口を塞いでしまった。


「マッスル! どこだ?」
「ライダー! 君まで……」
「君を放っては置けないさ、それに怪人は怪人同士、俺にはショッカーの怪人を倒す使命があるからな……それにしても真っ暗だ」
「ああ、鼻をつままれてもわからない暗闇ってのはこのことだ、真っ暗闇での戦闘ってのは小説ならではだな、実写は勿論アニメでも描けやしないぜ」
「それはともかく、視覚は頼りにならん、聴覚に神経を集中しろ」
「ああ、わかってる」

 ライダーたちの会話に耳をそばだてながら、モグラ男は鼻をヒクヒクさせていた。
 モグラの中には目が退化してしまった種類もいるくらいだ、モグラ男の聴覚は、ライダーやマスクによって鋭敏になったマッスルのそれを遥かにしのぐ、ライダーたちの聴覚はせいぜい常人の二~三倍に過ぎないのだが、土中のミミズの動きさえ察知するモグラの聴覚はライダーたちの筋肉の動きですら手に取るようにわかるのだ。
そして、モグラは匂いを立体的に把握できることもわかっている、その鋭い嗅覚は暗闇での戦闘に有効なセンサーとなる、いかに息を潜め、物音を発しない様に心を配っても、匂いを消し去ることは出来ない、暗闇の中でもライダーとマッスルの位置を正確に把握できるモグラ男にとって、洞窟での戦闘は大きなアドバンテージがある。

 バシッ!
「ぐあっ!」
「ライダー!」
 その声でライダーが攻撃されたことを知ったが、マッスルには全く予知できなかった。
「今そっちへ行く……わぁっ!」
 マッスルが声を上げたのはモグラ男の攻撃を受けたからではない、落とし穴にはまってしまったのだ。
 モグラは縦横無尽にトンネルを掘ることが出来る、耳に意識を集中していたにもかかわらず足音が聞こえなかったのも、トンネルを伝わって移動していたのだろう。
「大丈夫か? マッスル」
「ああ、ライダー、地面は穴だらけのようだ、これでは移動もままならないぞ」
「そうか……しかし、奴の攻撃を防ぐ手立てがないことには対処が出来ないな、一撃の威力はそれほどではないが、攻撃されっぱなしでは長くは持たないぞ」
「ああ……」
 ドカッ!
「うげっ」
「マッスル、どうしたっ?」
「体当たりを食った……今俺が這い出した穴から出てきたらしい、全く気付かなかったよ……こいつは消える魔球よりずっと厄介だな」
「ああ……うぐっ」
「ライダー! 大丈夫か? げっ!」
「マッスル、気をつけろ! がはっ!」

 相手の動きを掴めず、落とし穴だらけで身動きも取れないとあっては、ライダーたちになす術はない。

「せめて嗅覚だけでも封じられれば……」
「ライダー、俺にひとつ考えがあるんだ……」


 トンネルに潜み、攻撃を繰り返していたモグラ男だったが、明らかに混乱させられていた。
 匂いを立体的に嗅ぎ分けられるモグラ男は、二人の特徴的な匂いを嗅ぎ分けて、その位置を把握していた。
 しかし今は、ライダーの放つ草いきれの匂いはひとつなのだが、マッスルを特徴付けている匂いが二つに分かれて移動している……。
(両方の匂いがするほうがライダーだ、それに間違いはない)
 モグラ男はライダーめがけて飛び出し、体当たりを食らわせる。
「ぐえっ! 来たな! これでも食らえ!」
「ぐえぇぇぇぇぇ!」
 体当たりを食いながらもライダーがモグラ男の鼻先に突きつけた物、それは、マッスルが脱いだ靴下だった。
 テレパシーが通じるほどに愛し合っている志のぶですら、顔をしかめてしまうその匂い。
 鼻先に突きつけられたら、動物の中ではおそらくもっとも嗅覚が鈍い人間ですらクラクラしてしまう危険物、それを突きつけられればモグラ男は堪らない、鋭い嗅覚を逆手に利用する頭脳作戦だ。
「うげぇぇぇぇ」
「そこだ!」
 マッスル・パンチが顔面を捉える。
「ぎゃぁぁぁ!」
「見つけたぞ!」
「ぐはぁぁぁ!」
 ライダー・チョップが太い胴体にめり込む。
 モグラ男は堪らずトンネルに逃げ込んだ。


 ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


 その頃、洞窟の外ではライダーマンとレディ9が残ったスーパー戦闘員達を次々と倒していた。
 ライダーマン、レディ9共にパワーではスーパー戦闘員に劣るが、頭脳と連係プレー、そしてアタッチメントと忍法と言うアドバンテージを生かした戦いだ。
 レディ9が撒きびしと煙玉で戦闘員の動きを封じ、視界を奪うと、ライダーマンのロープアームの先端についたフックがスーパー戦闘員達のヘルメットを弾き飛ばす、そして強力な睡眠薬を仕込んだ吹き矢が首筋を襲い、アタッチメントアームから催涙ガス弾が発射される。
 スーパー戦闘員達は、3分であらかた片付いた。

「レディ9、ライダーたちの援護を!」
「もちろん! ダーリンが心配だわ! どうすれば良いの?」
「私がドリルアームで岩の上部、最も薄そうなところにに穴を掘る、君は火薬を仕込んでくれ」
「岩が大きすぎるわ、とても吹き飛ばせない」
「小さな孔でも空けられれば明かりが入る」
「そうね! やりましょう!」

 ライダーマンが岩の上部で穴を掘る間、レディ9はクモの巣で僅かに残った戦闘員を封じる。
「ドリルの長さはここまでだ、まだ貫通していない、レディ9、後を頼む」
「任せて!」

(あなた、どうか無事でいて、今明かりを……)
 そう念じながら手持ちありったけの火薬を詰め込み、導火線に火をつけた。

ボン!

 くぐもった爆発音が響いた。
「孔は? 空いたか?」
「ええ! 小さいけど貫通したわ! ちょっと待って……二人の声が聞こえる」
「レディ9、その孔からメゾソプラノで『ラ』の声を吹き込んでくれ!」
「え? どういう事?」
「モグラが嫌う周波数なんだ!」
「わかった!」


ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


「うぐぅぅぅ……」
 モグラ男が耳を塞いで後ずさりを始めた。
「ライダーマンとレディ9だな?」
「この声は志のぶだ、モグラ男はどうしたっていうんだ?」
「おそらくモグラの嫌いな音なんだろう」
「失礼な奴だな、人の恋女房の声を……だが、助かった、少しだが明かりも漏れてる、おぼろげだがモグラ男の姿が見えるぞ!」
「ああ、チャンスだ! この狭い中で、地面も穴だらけとあってはこれくらいしか出来ないが……とぉっ!」
 ライダーは壁を蹴ってモグラ男に飛びかかり、その後頭部へとキックを繰り出す。
「ライダー! 延髄切り!」
「ギャア!」
 モグラ男はもんどりうって地面に転がった。
「ライダー、甘い奴だと思われるかもしれないが、せめて止めは俺が……」
「待て! マッスル!」
「この期に及んで手加減などしないさ」
「そうじゃない、電子音が聞こえないか?」
「ん? 確かに……かすかだがピピピと……え? モグラ男の体内からだぞ!」
「しまった! これは自爆装置だ!」
「何だって!」
「この密閉された洞窟で爆発されたら我々も危ない! 早く脱出しなければ!」
「ああ! とにかく力を合わせて入り口を塞いでいる岩をどけよう」
「急げ!」

 と、その時だった。
 モグラ男が再びトンネルへ入ったかと思うと岩の前から姿を現した。

「そこをどいてくれ! 中沢! ライダーマンならお前の自爆を何とか止められるかもしれないんだ!」
 マッスルの心からの叫び……それに対して、モグラ男は軽く会釈をしたように見えた。

「え?……今のを見たか? ライダー」
「確かに……頭を下げたように見えたな」

 モグラ男は猛然と岩を掘り始めた。
 モグラの能力を持っていると言っても相手は岩、簡単に掘れるものではないが、爪が折れ、指から血を流しても掘ることをやめようとしない。
 そしてようやく体が嵌るほどの穴を開けると、岩の方を向いたまま軽く手を振り、穴にもぐりこんだ……。

 その瞬間、目もくらむ閃光と地を揺るがす爆発音……。

 伏せていたマッスルとライダーが顔を上げると、モグラ男は跡形もなく飛び散り、その代わりに岩には大穴が開いていた。

「中沢……お前……」
「どうやら、彼は脳改造を受けていても人間としての記憶を完全に失ってはいなかったようだな」
「ああ……」
「それとも、君の心が通じたのかも知れないな……マッスル」
「…………くそっ!」

 洞窟から飛び出したマッスルは大声で叫ぶ。

「死神! 姿を現せ! 俺はお前を決して許さないぞ!」

 しかし、そこに既に死神博士の姿はない。

「マッスル、ライダー! 無事だったか!」
 ライダーマンとレディ9が駆け寄る。
「ライダーマン! 死神は? 奴はどこへ? 俺は絶対に奴を許せねぇんだ!」
「すまん、今の爆発に乗じて逃げたようだ、見失ってしまったよ」
「くそぅ……くそっ、くそっ、くそっ」
 ガックリと跪いたマッスルはこぶしで地面を叩き続ける……それをやめさせたのはレディ9だ。
「あなた……」
 背中からそっと抱きついたレディ9、その手を取ったマッスルは地面を叩くのをやめた……そしてそのマスクから僅かに露出した顎から滴り落ちたのは、おそらく汗ではない……。


ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


「ライダーマン、脳改造を受けても人の心は残るんだろうか……」
 アジトに戻り、ソファに疲れた体を投げ出したライダーはそう問いかけた。
「どうだろう……科学的、医学的には考えにくいことだが……」
 ライダーマンは自分の左胸をぽんと叩いた。
「心ってものはここに宿っていると感じる事はないか?」
「……確かにあるな……」
「だとしたら、生きている限り、心臓が動いている限り、人は人の心を持ち続けられるのかも知れないな……私もそう感じることがあるよ」
「そうか……」
「つまり、ショッカーがどんな改造を施そうとも、人の心を完全に奪うことは出来ないのかもしれないな」
「それでも俺たちは怪人を倒し続けなければならないのか……」
「ああ、そうだな、しかし、憎むべきはショッカーだ、やつらを倒すこと、それが悲劇を繰り返させないことになるんじゃないかな」
「ああ、確かに……マッスルは大丈夫かな……」
「ああ、大丈夫だろう」
「なぜわかる?」
「志のぶさんも私と同じことを言っていたからな……彼女がついていてくれさえすればマッスルは大丈夫さ」
「そうだな……」
「一日でも早くショッカーを壊滅させること、それが私達ライダーチームの使命なんだ……最後の戦いはいつか必ずやってくる、それまでは感傷に浸っている暇はないんだ」
「きっとマッスルもそれはわかっているんだろうな」
「ああ、情にもろいところはあるが、正義感も人一倍の彼だ、きっとわかっているさ……」

 ライダーとライダーマンは、窓から夕日を見つめながら決意も新たにするのだった。


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