引っ越せ! ライダー!
文字数 4,655文字
(これを書いた当時ホームグラウンドにしていて、知り合いも沢山出来たサイトが閉鎖されることが決まり、仲間と共に別のサイトへ引越しする事を決めました、ホームへの惜別と新天地への希望、そんな思いを込めて書いた作品です)
『引っ越せ! ライダー!』
(トンビか……東京じゃ珍しいな……)
立花レーシングの屋上に寝転んで、剛は空を眺めながら日向ぼっこをしていた。
おやっさんと隼人、丈二は朝からどこかで出かけていって留守、久しぶりの夫婦水入らずの休日だ。
はるか上空ではトンビがぐるぐると円を描くように飛んでいる。
ふと視線を落とすと、その先にはかいがいしく洗濯物を干している志のぶの後姿……。
(う~ん、わが女房ながら良い女だなぁ……惚れ惚れするぜ)
そう思うとひとりでに笑みが浮かんでしまう……そんなのどかな午後……のはずだった。
「ん? おかしいぞ」
剛がむっくりと起き上がると、志のぶも干し物の手を止める。
「どうしたの?」
「空を見ろよ、あのトンビ……」
「あら、珍しいわね」
「いや、そうじゃなくて、大きすぎないか?」
「え? そう?」
志のぶは千里眼を発動して空を見上げ、トンビの正体を見極めると眉をひそめた。
「大きい筈よ! あれは怪人だわ!」
「怪人?」
「そう、怪人トンビ男だわ、いけない! 急降下して来る!」
トンビ男の姿はあっという間に大きくなる、『キーン』と音がしそうな猛スピードだ!
「危ねぇっ!」
剛はとっさに志のぶを抱いて伏せ、すれすれの所でトンビ男の爪攻撃をかわした。
トンビ男は急降下して来たスピードそのままに、Uと言うよりVの字を描くように急上昇して、再び空に円を描く、驚くべき飛翔能力だ。
「あなたっ、早くペントハウスへ!」
「怪人を前にして逃げられるかよ!」
「そうじゃないの、相手は飛べるのよ! 高い所での戦闘は不利だわ!」
「そう言われれば確かにそうだ……やい! トンビ男! 俺は逃げも隠れもしねぇ! 地上で相手してやるぜ!」
そう叫ぶと、志のぶをかき抱くようにしてペントハウスへ飛び込んだ。
「おい! どこからでもかかってきやがれ! 相手になってやるぜ!」
仮面ライダー・マッスルに変身した剛は、普段のトレーニング場になっている広場に飛び出した。
同じくレディ9に変身した志のぶには物陰に隠れているように言ってある、ショッカーのことだ、どこに戦闘員が潜んでいるかわからない、こっちは二人、『私も闘う』と言い張る志のぶに、その方が賢明だと言い聞かせてのことだ。
マッスルの姿を見つけたトンビ男は再び急降下して来る、屋上での攻撃方法は爪、どんなに速かろうとマッスルにはその脚を掴めるという自信があった。
鋭い風切り音を響かせてトンビ男が急降下して来る、マッスルは神経を集中してその爪を見定めようと目を凝らす。
「今だ!」
マッスルが手を突き出すタイミングに誤りはなかったが、トンビ男の飛翔能力を見誤っていた、トンビ男はマッスルの直前で微妙にコースを変え、マッスルの手は宙を掴んだ。
「ぐわっ!」
膝をつくマッスル、右側頂部に爪の一撃を食ってしまったのだ。
「あなたっ!」
飛び出そうとするレディ9をマッスルは押し留めた。
「大丈夫だ、この頑丈なマスクのおかげで傷は負ってねぇよ、次は捕まえてやる」
素早く立ち上がったマッスルに再び爪が迫る。
「そこだ!」
しかし、突き出した手は再び宙を掴んだ、今度は左にコースを変えられたのだ、しかも一度目より当たりが厚い、マッスルは思わす倒れこんでしまった。
(そう甘くはねぇか……)
マスクの左のレンズ部分が損傷して、生身の目がむき出しになってしまった。
視力強化の機能があるレンズだ、片方だけだと距離感が全くつかめない、マッスルはマスクをかなぐり捨てた。
すると、それを合図にしたように戦闘員が飛び出してくる、こうなっては志のぶも隠れている意味がない、仁王立ちのマッスルめがけてレディ9が、戦闘員が駆け寄り、トンビ男もまた三度目の打撃を加えようと急降下、全ての動きがマッスルに向かって一点集中した。
「えいっ!」
レディ9がマッスルの前方に投げつけたのは煙玉! 一瞬にして視界が奪われ、戦闘員達よりも一瞬早くマッスルの元へ到達したレディ9はタックルをかけるようにマッスルを押し倒した。
「「「「ギャ~~~~!!」」」」
トンビ男が巻き起こす旋風で煙が晴れると四人の戦闘員が倒れていた、そして、さすがに衝撃でスピードが落ちたのだろう、トンビ男も再び上昇するためにバタバタと羽ばたいている。
「あなた! これを!」
いちはやく立ち上がったレディ9がマッスルに向かって放り投げたもの、それは折りたたみパイプ椅子だ。
「おお! プロレス名物パイプ椅子か! こいつはちょっと久しぶりだな、よっしゃ! こいつがあれば百人力だぜ!」
「考えがあるの! ちょっとの間離れるわ、油断しないようにね」
「おう!」
レディ9は立花レーシングの内部に走り去り、マッスルはパイプ椅子を上段に振りかぶる。
「さあ! きやがれ! 叩き飛ばしてやるぜ!」
トンビ男が急降下体勢に入る、先ほどまでとは違い、翼を半ば畳んだ状態、更にスピードを増して頭から突っ込んでの嘴攻撃だ! しかし、それは剛の想定内でもあった。
「へっ! 思う壺だぜ」
ガン!
「ギャッ!」
パオプ椅子を上段に振りかぶったマッスルだが、それを振り下ろすのではなく、そのまま突き出したのだ。
抜群の飛翔能力を誇るトンビ男をしてもギリギリで直撃をかわすのがやっと、側頭部に背もたれの先端を受けてしまい、勢い余って地面に転がった。
「トドメ、行くぜ!」
走り寄るマッスル! 振り下ろしたパイプ椅子をすんでの所でかわしたトンビ男は再び羽ばたいて上空へ。
「あなた! トンビ男は?」
「おうっ、もうちょっとで仕留められたんだがな、ギリギリで逃げられちまった、奴は上だよ、性懲りもなくまた急降下するつもりだろう、次こそ仕留めてやるぜ」
「トンビの能力を持っているとすれば動体視力も鋭い筈よ、同じ攻撃は通用しないわ」
「そうか、ならば今度はとっ捕まえてやるぜ」
「私に考えがあるの、任せて!」
「危なくはないんだろうな?」
「心配してくれるのは嬉しいけど、私もライダーチームの一員よ、信用して欲しいわ」
「わかった……来るぞ!」
「トンビにはこれよ!」
走り出したレディ9、高く掲げたその手には、今夜味噌汁の具になるはずだった油揚げが!
「うっ……くそっ」
嘴攻撃をするつもりで突っ込んで来たトンビ男だったが、トンビのDNAを組み込まている以上、油揚げの誘惑には勝てない、レディ9の寸前で僅かに上方へ軌道修正し、爪で油揚げを攫いにかかる、しかし、レディ9はその機を待っていたのだ!
「えいっ!」
レディ9は油揚げを軽く放り上げると、トンビ男がそれを掴む瞬間を狙ってジャンプし、脚に掴まった。
「わ! 何をする! お、重い……」
「重いとは失礼ね! 女には禁句よ!」
「は、離せ!」
「ご冗談を、せっかく捉まえたのに離すわけないでしょ?」
「くっ……振り落としてやる」
「やってごらんなさい、はぁっ!」
レディ9は体を振って空中ブランコの要領でトンビ男の背中に飛び移った。
「お、降りろ! 俺は馬じゃないぞ!」
「そんなの見ればわかるわよ、でもさすがね、重いとか言いながら随分高くまで飛んだのね」
「余裕があるのも今のうちだけだ、きりもみ急降下で振り落としてやる!」
「あら、それは大変、だったら……」
「わ、何をする! 止めろ~っ!」
トンビ男の背に腹ばいになったレディ9が、両腕で両方の翼をかんぬきに極めてしまったのだ、これでは翼の自由が効かない、しかも既にきりもみ状態には入ってしまっているのだ!
「よし! 任せろ!」
地上ではマッスルが叫んでいる、マッスルとレディ9の間でだけ通じる、通称『愛のテレパシー』、レディ9は自分がトンビ男から離れて飛び降りるタイミングをマッスルに伝えていたのだ。
「うわ~~~~~っ! 落ちる!」
「あなたっ!」
「おうっ!」
ガシッ!
グシャッ!
地上まであと三メートルに迫るタイミングで、レディ9はトンビ男から離れ、前方一回転を決めながらマッスルの腕の中へ。
そして、トンビ男は体勢を立て直す間もなく、そのまま地面に激突した……。
「う~ん、やっぱりお姫様抱っこは素敵だわ♡」
「こいつぅ、ハラハラさせやがって……だけどやったな! 二人でトンビ男を仕留めたぜ」
「よう、お二人さん、仲の良いことで」
「だが、どうして変身を?」
「ん? そこに倒れているのは怪人か?」
そこへ帰って来たのは、おやっさん、一文字隼人、結城丈二の三人だ。
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
「そうか、我々のいない間にショッカーの襲撃が……」
「おやっさん……」
「ああ、情報は正しかったようだな」
「情報? 何のことですか?」
きょとんとする剛と志のぶ、立花のおやっさんは全てを説明した。
「知り合いの警察署長からの情報でな、怪しい人物が立花レーシングの周りを嗅ぎまわっているらしいと言うんだ、もしやショッカーではないかと思っていたが、悪い予感が当たったようだ」
「そうか……トンビ男が襲ってきたと言う事は、このアジトがばれたということか……」
「そういうことになるな、早めに手を打っておいて良かったよ」
「手を打つとは?」
「引越しだよ」
「引越し?」
「ああ、どのみち若者のバイク離れが進んで来ていて、レーシングチームの運営もきつかったんでね、商売替えをしようと思ってな、今日は物件を見に行って来たんだよ」
「商売替えですか、今度は何を?」
「『喫茶・アミーゴ』それが新しいライダーチームのアジトだ、さあ、早速引越しの準備にかかろうじゃないか!」
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
「なんだか、名残惜しいな……」
「ああ、そうだな……」
「俺にとっちゃ、初めての家らしい家でもあったなぁ」
「私にも……」
引越しの荷物をまとめ終えたライダーチームは、いつも集っていたリビングを感慨深げに見回した。
「どうした! 行くぞ!」
おやっさんが玄関先で大きな声を上げる。
「おやっさん、なんだか張り切ってるな」
剛がそう呟くと、隼人と丈二は小さく首を振った。
「いや、俺達以上におやっさんは名残惜しい筈さ」
「ああ、カラ元気ってやつだな、ああして陽気に振舞っていないと辛いんだろう」
「そうでしょうね……」
「なるほど、俺はそう言うところがガサツだな」
志のぶと剛もおやっさんの心の内を察して、ちょっとセンチになってしまうが……。
「でも、仲間がいなくなるわけじゃないんですもの、カラ元気でもなんでも、おやっさんに沈んだ顔なんか見せちゃいけないわね」
「「「おう!」」」
「お~い、まだか? ぐずぐずしていると置いて行くぞ」
ライダーチームの四人は顔を見合わせて笑った。
「「「「おやっさん、今行くよ!」」」」
『引っ越せ! ライダー!』
(トンビか……東京じゃ珍しいな……)
立花レーシングの屋上に寝転んで、剛は空を眺めながら日向ぼっこをしていた。
おやっさんと隼人、丈二は朝からどこかで出かけていって留守、久しぶりの夫婦水入らずの休日だ。
はるか上空ではトンビがぐるぐると円を描くように飛んでいる。
ふと視線を落とすと、その先にはかいがいしく洗濯物を干している志のぶの後姿……。
(う~ん、わが女房ながら良い女だなぁ……惚れ惚れするぜ)
そう思うとひとりでに笑みが浮かんでしまう……そんなのどかな午後……のはずだった。
「ん? おかしいぞ」
剛がむっくりと起き上がると、志のぶも干し物の手を止める。
「どうしたの?」
「空を見ろよ、あのトンビ……」
「あら、珍しいわね」
「いや、そうじゃなくて、大きすぎないか?」
「え? そう?」
志のぶは千里眼を発動して空を見上げ、トンビの正体を見極めると眉をひそめた。
「大きい筈よ! あれは怪人だわ!」
「怪人?」
「そう、怪人トンビ男だわ、いけない! 急降下して来る!」
トンビ男の姿はあっという間に大きくなる、『キーン』と音がしそうな猛スピードだ!
「危ねぇっ!」
剛はとっさに志のぶを抱いて伏せ、すれすれの所でトンビ男の爪攻撃をかわした。
トンビ男は急降下して来たスピードそのままに、Uと言うよりVの字を描くように急上昇して、再び空に円を描く、驚くべき飛翔能力だ。
「あなたっ、早くペントハウスへ!」
「怪人を前にして逃げられるかよ!」
「そうじゃないの、相手は飛べるのよ! 高い所での戦闘は不利だわ!」
「そう言われれば確かにそうだ……やい! トンビ男! 俺は逃げも隠れもしねぇ! 地上で相手してやるぜ!」
そう叫ぶと、志のぶをかき抱くようにしてペントハウスへ飛び込んだ。
「おい! どこからでもかかってきやがれ! 相手になってやるぜ!」
仮面ライダー・マッスルに変身した剛は、普段のトレーニング場になっている広場に飛び出した。
同じくレディ9に変身した志のぶには物陰に隠れているように言ってある、ショッカーのことだ、どこに戦闘員が潜んでいるかわからない、こっちは二人、『私も闘う』と言い張る志のぶに、その方が賢明だと言い聞かせてのことだ。
マッスルの姿を見つけたトンビ男は再び急降下して来る、屋上での攻撃方法は爪、どんなに速かろうとマッスルにはその脚を掴めるという自信があった。
鋭い風切り音を響かせてトンビ男が急降下して来る、マッスルは神経を集中してその爪を見定めようと目を凝らす。
「今だ!」
マッスルが手を突き出すタイミングに誤りはなかったが、トンビ男の飛翔能力を見誤っていた、トンビ男はマッスルの直前で微妙にコースを変え、マッスルの手は宙を掴んだ。
「ぐわっ!」
膝をつくマッスル、右側頂部に爪の一撃を食ってしまったのだ。
「あなたっ!」
飛び出そうとするレディ9をマッスルは押し留めた。
「大丈夫だ、この頑丈なマスクのおかげで傷は負ってねぇよ、次は捕まえてやる」
素早く立ち上がったマッスルに再び爪が迫る。
「そこだ!」
しかし、突き出した手は再び宙を掴んだ、今度は左にコースを変えられたのだ、しかも一度目より当たりが厚い、マッスルは思わす倒れこんでしまった。
(そう甘くはねぇか……)
マスクの左のレンズ部分が損傷して、生身の目がむき出しになってしまった。
視力強化の機能があるレンズだ、片方だけだと距離感が全くつかめない、マッスルはマスクをかなぐり捨てた。
すると、それを合図にしたように戦闘員が飛び出してくる、こうなっては志のぶも隠れている意味がない、仁王立ちのマッスルめがけてレディ9が、戦闘員が駆け寄り、トンビ男もまた三度目の打撃を加えようと急降下、全ての動きがマッスルに向かって一点集中した。
「えいっ!」
レディ9がマッスルの前方に投げつけたのは煙玉! 一瞬にして視界が奪われ、戦闘員達よりも一瞬早くマッスルの元へ到達したレディ9はタックルをかけるようにマッスルを押し倒した。
「「「「ギャ~~~~!!」」」」
トンビ男が巻き起こす旋風で煙が晴れると四人の戦闘員が倒れていた、そして、さすがに衝撃でスピードが落ちたのだろう、トンビ男も再び上昇するためにバタバタと羽ばたいている。
「あなた! これを!」
いちはやく立ち上がったレディ9がマッスルに向かって放り投げたもの、それは折りたたみパイプ椅子だ。
「おお! プロレス名物パイプ椅子か! こいつはちょっと久しぶりだな、よっしゃ! こいつがあれば百人力だぜ!」
「考えがあるの! ちょっとの間離れるわ、油断しないようにね」
「おう!」
レディ9は立花レーシングの内部に走り去り、マッスルはパイプ椅子を上段に振りかぶる。
「さあ! きやがれ! 叩き飛ばしてやるぜ!」
トンビ男が急降下体勢に入る、先ほどまでとは違い、翼を半ば畳んだ状態、更にスピードを増して頭から突っ込んでの嘴攻撃だ! しかし、それは剛の想定内でもあった。
「へっ! 思う壺だぜ」
ガン!
「ギャッ!」
パオプ椅子を上段に振りかぶったマッスルだが、それを振り下ろすのではなく、そのまま突き出したのだ。
抜群の飛翔能力を誇るトンビ男をしてもギリギリで直撃をかわすのがやっと、側頭部に背もたれの先端を受けてしまい、勢い余って地面に転がった。
「トドメ、行くぜ!」
走り寄るマッスル! 振り下ろしたパイプ椅子をすんでの所でかわしたトンビ男は再び羽ばたいて上空へ。
「あなた! トンビ男は?」
「おうっ、もうちょっとで仕留められたんだがな、ギリギリで逃げられちまった、奴は上だよ、性懲りもなくまた急降下するつもりだろう、次こそ仕留めてやるぜ」
「トンビの能力を持っているとすれば動体視力も鋭い筈よ、同じ攻撃は通用しないわ」
「そうか、ならば今度はとっ捕まえてやるぜ」
「私に考えがあるの、任せて!」
「危なくはないんだろうな?」
「心配してくれるのは嬉しいけど、私もライダーチームの一員よ、信用して欲しいわ」
「わかった……来るぞ!」
「トンビにはこれよ!」
走り出したレディ9、高く掲げたその手には、今夜味噌汁の具になるはずだった油揚げが!
「うっ……くそっ」
嘴攻撃をするつもりで突っ込んで来たトンビ男だったが、トンビのDNAを組み込まている以上、油揚げの誘惑には勝てない、レディ9の寸前で僅かに上方へ軌道修正し、爪で油揚げを攫いにかかる、しかし、レディ9はその機を待っていたのだ!
「えいっ!」
レディ9は油揚げを軽く放り上げると、トンビ男がそれを掴む瞬間を狙ってジャンプし、脚に掴まった。
「わ! 何をする! お、重い……」
「重いとは失礼ね! 女には禁句よ!」
「は、離せ!」
「ご冗談を、せっかく捉まえたのに離すわけないでしょ?」
「くっ……振り落としてやる」
「やってごらんなさい、はぁっ!」
レディ9は体を振って空中ブランコの要領でトンビ男の背中に飛び移った。
「お、降りろ! 俺は馬じゃないぞ!」
「そんなの見ればわかるわよ、でもさすがね、重いとか言いながら随分高くまで飛んだのね」
「余裕があるのも今のうちだけだ、きりもみ急降下で振り落としてやる!」
「あら、それは大変、だったら……」
「わ、何をする! 止めろ~っ!」
トンビ男の背に腹ばいになったレディ9が、両腕で両方の翼をかんぬきに極めてしまったのだ、これでは翼の自由が効かない、しかも既にきりもみ状態には入ってしまっているのだ!
「よし! 任せろ!」
地上ではマッスルが叫んでいる、マッスルとレディ9の間でだけ通じる、通称『愛のテレパシー』、レディ9は自分がトンビ男から離れて飛び降りるタイミングをマッスルに伝えていたのだ。
「うわ~~~~~っ! 落ちる!」
「あなたっ!」
「おうっ!」
ガシッ!
グシャッ!
地上まであと三メートルに迫るタイミングで、レディ9はトンビ男から離れ、前方一回転を決めながらマッスルの腕の中へ。
そして、トンビ男は体勢を立て直す間もなく、そのまま地面に激突した……。
「う~ん、やっぱりお姫様抱っこは素敵だわ♡」
「こいつぅ、ハラハラさせやがって……だけどやったな! 二人でトンビ男を仕留めたぜ」
「よう、お二人さん、仲の良いことで」
「だが、どうして変身を?」
「ん? そこに倒れているのは怪人か?」
そこへ帰って来たのは、おやっさん、一文字隼人、結城丈二の三人だ。
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
「そうか、我々のいない間にショッカーの襲撃が……」
「おやっさん……」
「ああ、情報は正しかったようだな」
「情報? 何のことですか?」
きょとんとする剛と志のぶ、立花のおやっさんは全てを説明した。
「知り合いの警察署長からの情報でな、怪しい人物が立花レーシングの周りを嗅ぎまわっているらしいと言うんだ、もしやショッカーではないかと思っていたが、悪い予感が当たったようだ」
「そうか……トンビ男が襲ってきたと言う事は、このアジトがばれたということか……」
「そういうことになるな、早めに手を打っておいて良かったよ」
「手を打つとは?」
「引越しだよ」
「引越し?」
「ああ、どのみち若者のバイク離れが進んで来ていて、レーシングチームの運営もきつかったんでね、商売替えをしようと思ってな、今日は物件を見に行って来たんだよ」
「商売替えですか、今度は何を?」
「『喫茶・アミーゴ』それが新しいライダーチームのアジトだ、さあ、早速引越しの準備にかかろうじゃないか!」
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
「なんだか、名残惜しいな……」
「ああ、そうだな……」
「俺にとっちゃ、初めての家らしい家でもあったなぁ」
「私にも……」
引越しの荷物をまとめ終えたライダーチームは、いつも集っていたリビングを感慨深げに見回した。
「どうした! 行くぞ!」
おやっさんが玄関先で大きな声を上げる。
「おやっさん、なんだか張り切ってるな」
剛がそう呟くと、隼人と丈二は小さく首を振った。
「いや、俺達以上におやっさんは名残惜しい筈さ」
「ああ、カラ元気ってやつだな、ああして陽気に振舞っていないと辛いんだろう」
「そうでしょうね……」
「なるほど、俺はそう言うところがガサツだな」
志のぶと剛もおやっさんの心の内を察して、ちょっとセンチになってしまうが……。
「でも、仲間がいなくなるわけじゃないんですもの、カラ元気でもなんでも、おやっさんに沈んだ顔なんか見せちゃいけないわね」
「「「おう!」」」
「お~い、まだか? ぐずぐずしていると置いて行くぞ」
ライダーチームの四人は顔を見合わせて笑った。
「「「「おやっさん、今行くよ!」」」」