キックだ! ライダー!

文字数 12,643文字

(お題コミュ作品です、この月のお題を出したのは私なんですがw お題はシンプルに『スポーツ』でした。)

           『キックだ! ライダー!』

 港区のとある小学校、【第1回 スポーツ缶けり東京都大会】が開催されている。

 都大会と銘打つのは実は大げさ、予選があったわけではなく、区内にある某ローカル放送局が主催し、各市区町村の教育委員会が賛同して開催されたイベントだ。
『最近の子供たちはあまり外で遊ばなくなった、子供の健全な発育のためには外遊びは不可欠、とりわけ缶けりは走力、俊敏性、知力、注意力、洞察力、はてはチームワークまで学べる高度な遊びであるばかりでなく、都内の小学校の狭いグラウンドは却って缶けりには好適、缶けりを大いに広めようではないか』と言う大義名分で提案された企画だ。
 参加チームは8チーム、教育委員会関係者やその知り合いから適当に集められた。 要するに、子供が見て『面白そう』と感じてくれれば良い訳で、あまり高度過ぎない方が良いくらい、いい大人が夢中になってやっている映像が撮れればそれで良いのだ。

 そして、その大会には志のぶも参加していた。
 立花レーシングのおやっさんはなかなか顔が広く、教育委員会のお偉いさんとも昵懇だったせいで、『誰か一人出して欲しい』と頼まれた。
 と言って3人ライダーでは身体能力が高すぎるし、あまり顔を出すのも上手くない、その点、志のぶならばショッカーにも顔は割れていないし、『できれば女性を』と頼まれていた希望にも沿うことができるのだ。
 
 そのおやっさんは来賓席に座っている、そして志のぶあるところに剛あり、仮面ライダーマッスルこと納谷剛もギャラリーとして声援を送っている。
 
 適当に集められたチームばかりと言っても、【スポーツ缶けり】と銘打つからには明文化された確固たるルールは必要、そのルールとは……。
(以下約1,800字はルール説明です、面倒くさい方は飛ばしてくださいwww)


1.競技場・用具
・競技フィールドは主催者が指定する公園、学校もしくは幼稚園、保育園等の敷地内とし、フィールド範囲は主催者が指定し、テープなどで明確に区画する。(今回はフェンス及び門扉で区画された小学校敷地全域)
・主催者はフィールドの任意の点(中央付近が望ましい)に×マークを、またそのマークを中心とする半径5メートルのサークルを明示する。
・ハイドチームは、あらかじめ任意の場所に91センチ×91センチの合板を3枚まで設置して隠れ場所とすることができる、ただし、それぞれ×マークより10メートル、15メートル、20メートル以内には設置できず、一旦設置した板はクォーター終了まで移動してはならず、また向きを変えることも出来ない。
・使用する缶は250ccのスチール製空き缶(コーヒー飲料など)とし、プルトップは完全に取り除き、指などを怪我しないように飲み口を加工する。(現在ミズノ株式会社により専用缶の製造販売を検討中・今回は黄色が目立つジョージア・マックス・コーヒー缶を使用)
・主催者は12色のビブス、およびキャップを各5セット以上用意するものとする。(名前を呼ぶことの代替措置)

2.チーム構成
・1チーム5名、男女混合とし、内、女性2名以上とする。
・隠れる側のチームをハイドと称し、全員が競技に参加するものとする。
・探す側のチームをシークと称し、オニ1名を選出する、また、オニは複数回のクォーターに跨って出場することはできない、また、必ずひとつ以上のクォーターで女性選手を選出しなければならない。


3・試合時間等
・競技は5分クォーターとし、クォーターごとにハイド・シークを交代する。
・計時はキックオフ(後述)された缶がオニによって回収され、マーク上に置かれた瞬間からとする、リキック(後述)の場合、計時は中断されない。
・オニはキックオフ、およびリキック後、缶を設置してから10秒間、審判により背後から目隠しをされる(隠れる時間の確保)。
・キックオフ、もしくはリキックされた缶がフィールド外に出たり、回収不可能になった場合、審判はキックのやり直しを命じることが出来る。
・リキックの場合でも、缶が回収困難になった場合に限り、審判は計時を中断する。

4.基本ルール
・ハイドチームは12色のビブス・キャップから任意の5色を選択し、着用する。
・各選手が着用するビブスとキャップは同色のものとする。
・ハイドチーム全員がサークル内に入り、任意の選手が缶をサークル外へ蹴り出すことにより試合開始となる(キックオフ)
・オニがハイドチームの選手を指差し、ビブス・キャップの色を言い当てた(コール)場合、発見と認定する。
・コールはサークル外で行わなければならない。
・発見してすぐにコールしなくても良いが、コールの際は必ず指差ししなければならない、指差しの方向が誤りの場合コールは無効となる、またハイドチームの選手はコールされない限り移動することが出来る。
・オニがコールし、缶を踏みつけた(ストンプ)した場合、発見された選手はアウトとなり、ゲームから退場する、退場した選手は、主催者が指定したベンチで待機するものとし、チームメイトに助言したり、オニをかく乱する言動を取ってはならない。
・ハイドチームの各選手はコールがあってからストンプまでの間のみサークル内に侵入して缶を蹴る(リキック)することが出来る、リキックが成功した場合コールは無効となる。
・上記ルールに違反した選手は、その時点でアウトとなる。
・退場していないハイドチームの全員がリキックをすることが出来る。
・ストンプの瞬間にサークル内にいたハイドチームの選手は、当該選手へのコールの有無にかかわらず、アウト・退場になる。
・オニは10秒間の目隠し終了後、5秒以内にサークルから出なければならず、以後、ストンプの場合を除いてサークルに進入してはならない、ストンプの際もストンプ成立から5秒以内にサークル外に出なければならない。
・建造物の内部に隠れることは禁止、あらかじめ施錠しておくことが望ましい。

4.得点、勝敗
・各クォーターの時間内にオニのコールおよびストンプでアウトとなった選手の数を1ポイントとし、時間内にオニが全ての選手をアウトとした場合、残り時間を秒数に換算して60で除し、小数点2位以下を切り捨てた整数がポイントとして加算される。
・第4クォーター終了時のポイントが多かったチームが勝者となる。
・オニが誤った色をコールした場合はロングコールの反則となり、2ポイントが減じられる(あてずっぽうの防止)、シークチームの得点がゼロ以下になる場合もマイナスポイントとしてカウントされる。
・ロングコールと判定された場合、リキックで試合再開される、また判定からリキックまでの計時は中断される。
・第4クォーター終了時点で同点だった場合はサドンデス方式の延長戦によって勝敗を決定する。
・延長戦においては、1ポイントを挙げるまでに要した時間の長短によって勝敗が決定される。

(律儀に読んでくださった方、お疲れ様でした、ありがとうございます(^^))


ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


 ルールが整備され、審判までつけた大会ではあるが、いかんせん寄せ集めチーム同士の対戦、かなり年配の選手や、明らかに運動不足で足がもつれる選手も多い、しかしそれはそれで笑いの絶えない、和気藹々としたムードで大会は進行して行く。

 志のぶが参加している『チーム・アミーゴ』は、志のぶの活躍により一回戦を危なげなく突破した。

二回戦・準決勝の相手は、優勝候補筆頭と言われている、会場となった小学校の教員チーム。 20代から30代前半までのメンバーが揃い、子供たちの圧倒的な声援も味方につけている。

第2クォーターまで、1-4とリードを許してしまった。
 第3クォーター、チーム・アミーゴは志のぶの身体能力を生かした作戦を立てた。
 志のぶをなるべくサークルに近い位置に隠す。 一見エースを危険に晒すようだが、相手のオニも女性、走力には自信を持っているようだが、所詮志のぶの敵ではない、他のメンバーが見つかりコールされたとしても、志のぶが缶の近くに位置しているならばリキックでコールを無効化することが可能なのだ。
 第三クォーターは志のぶのリキックが何度も決まって、シークチーム無得点で終了、勝負は志のぶがオニになる最終クォーターにもつれ込んだ。
 
 キックオフされた缶をセットし、審判に目隠しされる10秒、それはハイドチームがオニに見られずに隠れるための猶予なのだが、志のぶには目隠しは大した意味を成さない。
 地獄耳を発動すれば、足音の方向と到達した距離が大体わかってしまうから、志のぶには誰が、とまではわからなくとも、隠れている場所は特定できてしまうのだ。
 教員チームもチーム・アミーゴの作戦を参考にしたのか、若い男性、おそらくは体育の教師3人を近場の板に隠した。
 さすがの志のぶも男性の体育教師二人を相手にして10メートル、15メートルの距離では分が悪い、オニは進行方向が逆になるので、スタートダッシュではどうしても遅れをとるのだ。
 志のぶはわざと15メートル板に向かうフリをして、10メートル板の裏が見えるところまで回り込む、すると10メートル板から緑、15メートル板から茶色がほぼ同時に飛び出して来た。
志のぶはわざとコールしないままサークルへとダッシュする、負けじと猛然とリキックに向かう緑、必死に志のぶを追う茶色、そしてストンプに向かう志のぶ。
しかし、ここでも志のぶの身体能力がモノを言う、志のぶはサークル直前で前方宙返り1/2ひねりの大技を繰り出し、着地もぴたりと決めて急停止、勢い余った緑と茶色はサークル内に入ってしまった。
志のぶは、してやったりの笑顔で高らかに宣言する。
「はい、緑さん、茶色さん、アウト~!」

 もう一人の男性は20メートル板の裏。
「青!」
 今度は見つけざまにコールし、走力勝負に持ち込む、20メートルの距離があり、リキック役も既にいないとあれば、体育教師と言えども勝ち目はない。
「ストンプ! 青さん、アウト~!」

 残るは女性二人、しょせん志のぶの敵ではない、しかも隠れ場所もバレバレとあってはひとたまりもない、志のぶは2分13秒を残して全員をアウトにしてしまった。
 5ポイントプラス、(2×60+13)/60=2.21、小数点2位以下切捨てで2.2ポイント加算、志のぶ一人で7.2ポイントの荒稼ぎ、8.2-4で逆転勝利だ。

 もうひとつのブロックを制したのは『チーム・衝撃者』、こちらも圧倒的な強さで勝ち上がってきた。
 やはり並外れた探索力を持つ二人の女性選手がいて、どちらもあっという間にハイドチームを見つけ出してしまうのだ。


ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


 いよいよ決勝戦。
 敗退したチームは皆ギャラリーとなり、歓声を聞きつけて子供たちも集まってきて、本部席は大賑わい、学校は急遽屋上を観客席として開放しなければならなかったほどだ。

じゃんけんに勝った『チーム・アミーゴ』はハイドを選択した。
『チーム・衝撃者』の女性選手二人の探索能力に疑問を抱いた志のぶが、『まず、相手の力を見極めましょう』と進言したのだ。

カーン。
志のぶのキックオフで試合開始、志のぶは作戦通りサークルから一番近い板の裏側に身を潜めた。
相手チームのオニはやけに耳の大きい女性……探索能力の秘密は自分と同じ聴力にあるのではないかと睨み、息をぐっと潜ませて地獄耳を発動する……と、耳の奥に刺す様な痛み。
(な、なんなの? これ?)
 ギャラリーを見やると誰も痛がっていない様子、それどころか気付いてもいないようだ。
(来た!)
 『耳』はあまりスマートとは言えない、通常聴力に戻してもドスドスと足音が丸聞こえだ。
(今よ!)
 『耳』をぎりぎりまで引き付けてから、志のぶはさっと板の裏から飛び出す。
「白、白!」
 『耳』がコールする、ここからは脚の勝負だ。
 『耳』との差は僅か、志のぶは悠々と『耳』を追い抜き、リキックに成功した。
(今度こそ能力を見極めないと)
 志のぶはそう考え、プールの裏まで走った、今度はサークルから一番遠くだ。
(あ、また……)
 再び地獄耳を発動すると痛みが襲って来る、そしてチームメイトが次々と発見されて行く。
(これは……蝙蝠の能力! 超音波を発信してエコーで居場所を察知してるんだわ)
 そう言えば相手チームの名前は『衝撃者』……『ショッカー』だ!
(あなた、聞こえる?)
 志のぶは剛に念を送る、とすぐに反応があった。
(聞こえる、どうした?)
(あの耳が大きい女性、蝙蝠の能力を使ってる)
(なんだって!?)
(『チーム・衝撃者』は『チーム・ショッカー』よ!)
(なるほど! そうか! わかった、おやっさんに伝えてライダーたちを呼んでもらおう)
(ええ、急いで)
(それからGO-ON号に戻ってライダースーツと忍び装束を取ってくるからな、それまで無茶するなよ)
(わかってる、お願いね)
 

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


「わかりました、おやっさん、すぐ行きます! 聞いたか? ライダーマン!」
「すまん、ライダー、蝙蝠女が相手だとすると用意するものがある、一足先に行ってくれ」
「わかった!」
「あ、待て、ライダー、これを持って行ってくれ」
「これは?」
「耳栓さ、蝙蝠は超音波を発するからな、それで防ぎきれるわけではないが少しはマシだろう……ところで、君の耳って」
「ここさ」
「ああ、なるほど……準備が出来次第俺も追う、行ってくれ! ライダー!」
 ライダーは親指を立てると爆音を残して走り去った。

ライダーマン・結城丈二も、必要な機器をかき集め、有効と思われるアタッチメントを引っつかむと、バイクに向かって走りながら友人の医師に電話をかけた。
「結城だ! 今からすぐにそっちへ向かうから、狂犬病のワクチンをありったけ準備してくれないか、発症後用のだ、頼んだぞ!」


ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


 試合は第2クォーターへ。
 チームメイトがオニとなり、苦戦しているのを志のぶは観察していた。
 チーム・ショッカーの男性はおそらく戦闘員……良く訓練されているので身体能力は高い、味方のオニも頑張っていたが、コールする度にリキックされて、結局得点はゼロ、第2クォーターを終えて0-4とリードを許してしまった。

 第3クォーター、今度はやけに唇が突き出た女性がオニだ。
 志のぶはやはりサークルから20メートルの板の陰に身を潜めた。
 今度は耳をつんざく超音波は発せられない、志のぶは地獄耳を発動して見えないオニの動きを探る。
 と、オニはまっすぐこちらに向かって来る!
 全く迷いは感じられない、やはり何かの能力を持っているのだろうか……。
 『唇』はかなりやせ型で、走っても速そうだが、これくらいの距離があれば勝てると踏んだ志のぶはギリギリまで引き付けて飛び出した。
「赤~!」
 『唇』のコール、ここから先は競走になる。
 『唇』は女性としてはかなり速かったが、志のぶの走力が勝った、志のぶは思い切りリキックを決めると、今度はウサギ小屋の裏に隠れた。
 思うところがあったのだ。
 案の定……今度は志のぶを発見できないようで、他のチームメイトを探している。
「青!」
 オニのコールだ! だが、敵にとって残念なことに志のぶは充分にリキック可能な距離、ウサギ小屋の裏から飛び出した志のぶはリキックを決め、コールを無効にした。
「きぃっ!」
 『唇』が短く金切り声を上げる、志のぶをアウトに出来ない限り、得点は望めない。
(あなた……聞こえる?)
(ああ、聞こえる)
(彼女も特殊能力を持ってる……おそらく怪人よ)
(何てこった、怪人が2人か……今度は何の怪人なんだ?)
(敵は二酸化炭素をかぎ分けてるみたい)
(二酸化炭素を?)
(木の陰に隠れたときはすぐ見つかったのに、ウサギ小屋の裏だと見つからないの)
(ウサギの吐く息がカモフラージュになったのか……)
(多分そうだと思う)
(だとするとあの女は……)
(何らかの吸血昆虫の怪人よ)
(そう言えば、顔が蚊に似てないか?)
(私もそう思う……特にあの唇ね)

 『唇』はコールを連発するものの、志のぶに阻まれて得点できずに第3クォーターも終了、0-4とリードされたまま、勝負は第4クォーターに持ち越された。
 最後は志のぶがオニだ。
 キックオフされた缶を回収し、目隠しタイムの10秒間、志のぶは地獄耳を発動して敵を探る。
 近いのは男性3人、一人は水飲み場の裏、そしてそのすぐ近くに20メートル板が置かれ、その裏にもう一人、残る一人は10メートル板の陰、リキックを狙っているのだ。
 女性二人はかなり遠い、当然の作戦ではある、男性3人が時間を稼ぎ、女性2人が隠れ通せば4-3でショッカーチームの勝ち、しかも特殊能力を持ち、オニの動きを察知できる2人なのだ。
 まずは10メートル板から……志のぶは足音を消して忍び寄り、拾った小石を板の右側に放り投げる、と、左側から青が飛び出した。
「青!」
 志のぶはそうコールすると、快足を飛ばして易々とストンプを決めた、まずは一丁上がり。
 次は20メートル板の裏と水飲み場の裏……千里眼を発動したとしても透視が出来るわけではないので見つけないと正確な色をコールできない……志のぶはわざと足音も荒く、両者の真ん中を目指して走る、訓練された戦闘員のこと、このスピードで近づけば急には止まれず、すれ違いざまに飛び出せば置いてけぼりを食わせることができると踏むだろう、そこまで読んでの作戦だ。
 案の定、二人が飛び出してきたが、志のぶには想定内だ。
「やあっ!」
 志のぶはその場でひねりを加えたでんぐり返しを打って急停止、立ち上がりざまに低い体勢からのスタートダッシュで二人の戦闘員を出し抜いた。
「「しまった!」」
「紺! グレー!」
 志のぶは続けざまにコールすると、缶にいち早く戻ってストンプ。
 これで3-4、1点差まで詰め寄った。
 残るは怪人と思しき女性2人……一人は体育館の横に、もう一人は立ち木の上、生い茂った葉の陰に隠れていることはわかっている、しかし色を間違えてしまうとマイナス2ポイント、逆転勝ちは難しくなる……志のぶは立ち木に向かって千里眼を発動した。
 葉の陰に肌色がちらりと動くのが見えた、ならばビブスの色は……。
「緑見っけ!」
 立ち木を指差してコール、ストンプして同点、あと一人で逆転勝利だ。
『耳』の方は見つけさえすればスピードでは負けない、志のぶは足音を消しながら体育館横に走った。
 体育館のような大きな建造物に身を隠したのは『耳』のミス、案の定『耳』は超音波を発して来たが、高い周波数の音は直進性が強い、体育館に阻まれてその裏側までは探査できなかったようだ。
「黒!」
 壁に張り付くように近づいてきた志のぶに気付いた時は既に遅し、志のぶのコールだ!
「いけない!」
 この期に及んでは逆転されたも同然、逆上した『耳』が両手を大きく広げると……あろうことか! 見る見る蝙蝠女に変身して行くではないか!
 突然の怪人出現に会場は騒然となった。

「出たわね! ショッカー!」
「あんたは一体何者なの? あたしたちの訓練兼リクレーションの邪魔してるんじゃないわよ!」
 蝙蝠女は牙をむき出しにした。
 その時、志のぶと蝙蝠女の間に割って入った大男……仮面ライダー・マッスルだ!
「悪いがその質問に答える義理はねぇな」
「お前は裏切り者のマッスル!……どうしてここに?」
「ガキの頃、缶けりは大好きだったんでね」
「余裕ぶっこいてんじゃないわよっ、きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
「うおっ!?」
 マッスルのマスクは視覚、聴覚、嗅覚を鋭敏にする機能を備えている、素では聞こえなかった超音波が耳をつんざく。
「ぐぅ……これは堪らん」

 その時だった、飛び込んで来たバイクが蝙蝠女を跳ね飛ばした。
「きぃっ! 痛いじゃない! どこ見て運転してるのよっ!」
「ちゃんと前を見て運転してたさ……マッスル、ここは私に任せて、君は向こうに当たってくれ」
「そうか! 怪人はもう一人いたんだった! わかった、ライダー」
「きぃぃぃぃぃぃっ! お前は、ライダー! だけど、どうしてあんたに超音波が効かないのっ?」
「耳栓だ」
「あんたの耳ってどこよ!」
「その質問は今日二度目だな、飽きたよ」
「超音波が効かないならこうよ!」
 蝙蝠女は牙をむき出して飛びかかって来た。


ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


「もう! あの女、正体現しちゃって一体どういうつもり? でも、こうなっちゃったら仕方ないわ!」
 『唇』の方も正体を現して翅を広げ、樹上から飛び立つ、案の定、蚊女だ。
 もう一人の怪人の出現に会場はパニックに、しかし、そこへ飛び出してきたのは純白の忍び装束、レディ9だ!
 蚊女はホバリングで空中に留まる。 
「あんたが話に聞くくの一ね? 蝙蝠女も嫌いだけど、あんたも気に入らないわ! なによ! 白い忍者装束って、気取ってんじゃないわよ!」
「別に気取ってなんかないわよ、これでも食らいなさい!」
 レディ9に変身した志のぶがクナイを投げつける、狙いは違わなかったが、蚊はホバリングで空中を自在に移動することが出来る、ひょいひょいとかわされてしまった。
「あんたの血なんか美味しそうじゃないけど、干物にしてあげるわ!」
 そう叫ぶと急降下して来た。
「えいっ!」
 煙玉を地面に投げつけ、姿を隠すレディ9。
「え? 何? まさかバルサン?」
「残念、次はバルサン玉を用意しておくわね」
 不意に後ろから声をかけられた蚊女は飛びあがって驚いた。
「もうっ! びっくりさせるんじゃないわよ! でも、今度はあなたが驚く番みたい」
「あっ、しまった!」
 蚊女に意識が集中し、背後がおろそかになった隙を衝かれて戦闘員に羽交い絞めにされてしまったのだ。
「よくやったわ! ひからびて死になさい!」
 蚊女が唇から変形した針を光らせて一直線にレディ9へ!
「はっ!」
 これも忍びの術の一つ、極度に可動域を広げた肩関節を利して羽交い絞めからするりと抜ける。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
 叫んだのは戦闘員、蚊女の針攻撃をまともに受けてしまったのだ。
「ちょっと! ちゃんと捉まえてなさいよ、役立たず!」
「うおおおおおおおお! 痒い!」
「男ならそれくらいガマンしなさいよ! 血は吸わないであげたんだから」
 普段からライダーたちにボコボコにされてばかりの戦闘員、痛みにはいい加減慣れているが、いかな豪傑であろうと痒みには耐性がないのが人間と言うものだ。
 あの小さな蚊に食われただけでも猛烈に痒い、それが人間サイズの蚊に食われたのでは堪らない、全身を痒みに襲われてのた打ち回る姿は、レディ9もつい気の毒になってしまうくらい悲惨だ。
「ちょっと! 味方に随分とひどいことするじゃない?」
「あんたの知ったことじゃないでしょ!」
 再び針を光らせて一直線。
「えい!」
「また煙玉? バルサンじゃないのはわかってるんだから、もうその手は効かないわよ! ふぎゃぁぁぁぁ!」
 煙が晴れると、そこに立っていたのはレディ9ではなくマッスル、本部席のテーブルを盾にしていた。
「ほう、このテーブルに刺さるとは大したもんだ、だが貫くことまでは出来なかったようだな」
「ぬ、抜けない、なんとかして!」
「あいにく敵に塩を送るほど人間が出来てないもんでね」
「うああああああああ! 目が廻る」
 マッスルがテーブルごと蚊女をふりまわすと、針は抜けてしまい、蚊女は空中で体勢を立て直した。
「あなた、気をつけて、マラリアやジカ熱のウイルスを持ってるかもしれないわ!」
「そうか、こいつはしくじったな、テーブルに刺さったままならウイルスも怖くなかったんだが」
「うふふ、そうね、どんなウィルスを持ってるのかしらねぇ……それと気付いてるかしら?なにも狙いはあんたたちばかりとは限らないわよ」
 蚊女はホバリングで向きを変え、ギャラリーに向かう!
「いけない!」
 レディ9がとっさに投げつけたクナイ、今度はギャラリーに向かっていて側面への注意が疎かになっていた蚊女の翅を直撃、蚊女はどうっと地面に叩きつけられた。
「んもう! 邪魔ばっかりして!」
 翅が使えないならばと、走ってギャラリーに向かおうとする。
「ぼうや、そのバット貸してくれるか?」
「マッスルの役に立つならいいよ!」
「後で必ず返すからな」
 金属バットをひっつかんだマッスルが蚊女に向かい、レベルスイング一閃!
「ぎゃああああ! 針が折れたぁぁぁぁぁぁ!」


ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


「ライダー! 待たせたな」
 ライダーマンは何故か本部席に。
「おお、ライダーマン!」
「超音波は大丈夫か?」
「耳栓のおかげでだいぶ助かってるが、ちと厄介だな」
「今消す」
「消す?」
「消せるもんなら消してみなさいよっ!」
「ノイズキャンセラーを知らないな? これでどうだ? ライダー」
「おお! 超音波が消えたぞ」
「きぃっ! どうやって……」
「お前の超音波の周波数に合わせて逆波長の音波を出してキャンセルしたのさ」
「もう、余計なことを!」
 蝙蝠女は羽を広げて飛び立つ。
「ライダー! 牙に気をつけろ、噛み付かれると狂犬病の怖れがある」
「何っ? そうか!」
「よく気がついたわね……あ、いいこと思いついちゃったぁ」
 蝙蝠女はライダーではなく戦闘員に向かって急降下、ガブリ、ガブリと二人の戦闘員の肩に噛み付いた!
「「ぎゃぁぁぁぁ!」」
「どう? この二人をギャラリー席に向かわせたらどうなるかしらね? あ、言っておくけどこの狂犬病ウィルスは突然変異体よ、噛まれてすぐに発症するし、人から人へも感染するの」
「随分とご都合主義のウィルスだな」
「文句があるなら作者にお言い! 感染るったら感染るのよっ!」
「だが、こちらにも用意がないと思うなよ」
「それは一体何? 随分とちゃちな武器ね」
「二度目の登場、水鉄砲さ」(『友よ! ライダー!』対シューゾー戦参照)
「水鉄砲? それが何の役に……あっ、いけないっ!」
 狂犬病に冒された者は水を極度に恐れる。
「うああああ! 水だぁ!」
 走り出す戦闘員たち。
 一目散に逃げようとする二人の首根っこを掴んだのはマッスル! 
「おっと、狂犬病患者が勝手に走り回っては困るな、頭を冷やして来い!」
 二人をぶん回してプールへと投げ込んでしまった。


ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


「何よ、あんた、もう攻め手はないのっ?」
 そこへふらふらとやって来たのは針をへし折られた蚊女だ。
「ふん、針が折れたあんたこそ能無しじゃない、あたしにはまだこの牙があるわ」
「あんたの動きの遅さじゃ宝の持ち腐れだけどね、ちょっとはダイエットしたら?」
「なによっ! それ、どういうこと?」
「遠まわしに言ってもわからないならはっきり言ってあげるわ! あんたは太りすぎだって言ったのよっ! このデブ!」
「なんですって! きぃぃぃぃぃっ!」


「一体どうなってるんだ?」
 突然の内輪揉めに、ライダーとマッスル、レディ9は怪訝顔だ。
 その疑問を解いたのは、博識のライダーマン。
「どうやら相性は最悪のようだ、蝙蝠は蚊を捕食するからな」
「「「……ああ、ナルホド……」」」


「蚊女はすっこんでなさいよ!」
「蚊女じゃなくて、モスキートガールって呼んでって、いつも言ってるじゃないの!」
「何がガールよ! 大年増のクセに」
「デブのあんたに言われたかないわよっ!」
「それならあたしもバットガールって呼びなさいよ」
「それってパクリじゃない!」
「じゃ、ベイビーバットよ!」
「ふん、あんたがベイビーってタマ?」
「うるさいわね、今時50代だって『女子会』とか言っちゃうでしょ!」
「あ~、ムリムリムリ、50代はOKでもあんたにはムリ、どう見たって『女子』じゃなくて『オバハン』だもん」
「きぃ~っ! ガブッ!」
「ぎゃぁぁぁぁ!」
 蚊女……いや、ここは同情をこめてモスキートガールと呼んでやろう……は泡を吹きながら昏倒した。


「あ~あ、やっちゃったよ」
「同士討ちとはな……」
「まあ、俺らは手間が省けたけどな」
「でもちょっと……ううん、だいぶ聞き苦しかったわね」

「きぃっ! あんたたちもそこで笑ってるんじゃないわよ!」
 同士討ちに勝利した蝙蝠女は目を吊り上げて飛び上がった。

「こりゃ、俺のパイプ椅子の出番かな?」
 パイプ椅子に手を伸ばすマッスルをライダーが制した。
「いや、これで充分だろう……」
「なるほど、そいつはいいや」
 ライダーが手にした物を見て、マッスルが笑った。

 蝙蝠女が急降下を始める。
「行くぞ! ライダー・缶・キック!」
「ギャッ!」
 ライダーが渾身の力で蹴り上げた缶は眉間に命中、空中でバランスを崩した蝙蝠女はどさりと地面に落ち、動かなくなった。
「最後はなんだか締まったような締まらなかったような……だが、これで一件落着だな、後は警察に任せるとして、その前に私は蝙蝠女と噛まれた3人にワクチンを打って来るよ、せっかく日本には狂犬病は無くなったんだからな、復活して貰っては困る」
 ライダーマンは救急箱を片手にグラウンドに散らばったショッカーどもの元へ。

「さて、我々は引き上げるとするか……せっかくの大会が台無しになってしまったな」
 変身を解いた剛が肩をそびやかす、するとやはり変身を解いた志のぶが……。
「あ、あなた、ちょっと待って」
「どうした? 志のぶ」
「随分へこんじゃったけど……」
 志のぶは、ライダーが蹴った缶を拾って来て×マークに据えた。
「ストンプ! 黒もアウト! これで5-4、第1回スポーツ缶けり東京都大会は『チーム・アミーゴ』の優勝ね!」
 茶目っ気たっぷりの志のぶのウインク、それには剛も『アウト~!』だ。
 まあ、それはいつだってそうなのだが……。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み