痒いよ! ライダー!

文字数 5,288文字

(引越し先でお題コミュを立ち上げまして、再びお題作品です、お題は ①掻く ②烏 でした。)

             『痒いよ! ライダー!』

 ドンドンドン カカカッカ ドンドンドン。
 ドンドンドン カカカッカ ドンドンドン。

 今日は、ライダーチームのアジト、スナック・アミーゴが所属している商工会主催の盆踊り大会、ライダーチームも浴衣に身を包み、アミーゴ自慢のアイスコーヒーとナポリタンの夜店を出店して大忙しだ。
 いかにも硬派と言った雰囲気の隼人、がっちりした体つきにいかにも日本人と言った顔立ちの剛はもちろん、少しばかりバタくさい顔立ちの丈二も中々浴衣が似合っている。
 ショッカーの悪事の前では厳しい表情を浮かべる三人だが、今日ばかりは笑顔が輝いて見える。
 しかし、それも夜店の前で呼び込みのために愛嬌を振りまく二輪の花の前では霞んでしまう。
 落ち着いた和風の顔立ちの志のぶ、浴衣が似合うのは当然だが、見事なプロポーションは体の線が出難い和装でも目を惹く。
 そして落ち着きと可憐さを併せ持つ晴子、陰陽師が持つどこか妖しい雰囲気は和装で更に引き立つ。
「いらっしゃい、いらっしゃい、アイスコーヒーいかがですか」
「ナポリタン二人前ですね、ありがとうございます」
「ごいっしょにアイスコーヒーもいかがですか」
「SMILEは0円ですよ~」
「ナポリタンとアイスコーヒーを二つづつ、それとSMILEもね」
「は~い、ありがとうございま~す」
「こっちは四つづつ頼むよ!」
「SMILEもお付けしておきますね~」
 夜店は大賑わいだ。

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

 一方、アミーゴで留守番のおやっさんは旧知の間柄である刑事からの電話を受けていた。
「う~ん、そいつは確かに猟奇的な事件だな」
「だろう? 椅子に縛り付けられたまま全身湿疹だらけで発狂だからな」
「有る意味、究極の拷問かも知れないな」
「ショッカーの匂いがしないか?」
「ああ、断定は出来ないが、いかにも奴らがやりそうな事ではあるな」
「また何かあったら連絡するよ」
「ああ、頼む、ショッカーの悪事なら我々の出番だからな」

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

「ここでスペシャルゲストのご紹介です! カナダからのお客様、LOVE BRAVEの皆さん! 曲は今日のために特別にアレンジされたこの曲、『Rock&Roll Tokyo -Ondo』 です!」
 沸きあがる歓声、このサプライズライブは町内会会報だけに告知されたもの、それでも口コミで知った大勢のファンが詰め掛けているのだ。

「Konbanwa Japan! Enjoy our music! Let’s Dance!」
 日本人には馴染み深いメロディが8ビートで響きわたると、盆踊り会場のボルテージは一気にヒートアップする。

 その時だった。
 空気を読めない、間の抜けた、しかし不遜な声が響き渡る。

「この会場は我々ショッカーが制圧するアル、覚悟するヨロシ」
 フー・マンジューだ。
 しかし、怪人や戦闘員を引き連れてはいない、傍らにはいかにもホームレスと言った風体の初老の男が一人。
 ショッカーとわかっても、さすがにこれでは怖くもなんともない、盆踊り会場は折角楽しみにしていたライブを邪魔されてブーイングの嵐。
「そうやってブーイングしていられるのも今の内だけアルよ、行くアル! 蚤男!」
 蚤男と呼ばれたホームレスは両手を前に突き出し、狭い歩幅でつんのめりそうになりながらチョコチョコと走り回る。
 特に恐ろしくはないが、あまり触れられたい相手ではない、会場は逃げ惑う人々で混乱に陥った、なにしろさして広くもない小学校の校庭、そこに大勢が詰め掛けているのだから、いくら蚤男の動きが緩慢でも逃げ切れない人も出て来る。

「う、うわ~! 何だこれは、か、痒い!」
「ひゃ~! これは堪らん!」
「助けてくれ~!」
 不運にも蚤男に抱き付かれてしまった人々はそう叫ぶと地面に倒れこんで背中をよじる。
 両手は体の前面を掻き毟るのに大忙し、体の後ろ側は地面にこすり付けるようにするほか無いのだ。

「わははは、その蚤男は極度に蚤を集めやすい体質に改造された怪人アルよ、体中から二酸化炭素を大量に放出しているアル、名前は蚤男アルが、集まるのは二酸化炭素に反応する吸血昆虫全般アルよ、そいつに触られたが最後、全身がノミ、ダニ、シラミ、蚊の餌食になるアル」
 考えただけでも痒い、人々は気が違うほどの痒みを想像して震え上がった。
 

「ショッカー!? この祭に?……あ、作者、丁度良いところに……この祭にショッカーが現れたと言う事は、奴等はアジトを嗅ぎ付けたと言うことなのか?」
 隼人が『偶然』通りがかった作者を見つけて問い質す。
「いえ、たまたまですよ、フー・マンジューはここに人が多く集まる事を知って選んだだけです」
「なら良いが……だが、ちょっとご都合主義が過ぎないか?」
「あ、そういうことを言われるとちょっと傷つきますね、でも、まぁ、このシリーズにご都合主義は珍しいことでもないですし……ミステリーでもアクションでもなくて、単なるコメディですから」
「あ、そう言われるとこっちが逆に傷つくな……でも今はそう言っている場合じゃないな」
「ええ、フー・マンジューはあなた方に気づいてませんからコッソリと変身していかにも駆けつけた風を装えば大丈夫です、作者が言うんだから間違いないですよ」
「しかし、怪人が蚤男だけで戦闘員もいないのは解せないな」
「あ、その先はネタバレになりますから教えられません」
「駄目?」
「駄目!」
「ケチ」
「ああ~、作者に逆らって得になることはないですよ、私の筆先ひとつで……」
「あ、そういう事を言う……」
「でも、先がわかったら面白くないじゃないですか」
「それもそうか……」
「じゃ、頑張って」
「あ、ああ……」
 納得出来たような、出来ないような……しかし、ショッカーが現れたのは事実、ライダーチームは作者の助言に従い、物陰に隠れてコッソリと変身した。

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

「フー・マンジュー! 貴様の思い通りにはさせない!」
「アイヤー! ライダーども、ノコノコ現れたアルな! 蚤男! 奴らを痒み地獄に突き落とすアルよ!」
 作者の言葉に嘘はなかったようだ……。

「ライダー、マッスル、レディ9、奴に触れるな! 蚤をうつされるぞ!」
 ライダーマンの警告だ。
「ならば久しぶりにこいつで行くか……」
 マッスルは折りたたみパイプ椅子を手にするが、中々いつものようには突進しない。
「どうも調子が狂う……まるで弱いものイジメみたいで気が進まないな……」
 マッスルの独り言だが、他の3人も気持ちは同じだ。
 蚤男は無害と言うわけではないが、戦闘力はゼロに近い、と言って抛っておくわけにも……。
「こういう時はあたしの出番ね、任せて」
 名乗り出たのは晴子、またの名を陰陽師・アベノセイコ。
「レディ9、蚤を一匹捕まえられるかしら? ピョンピョン跳びはねてあたしには捕まえられないの」
「お安い御用よ」
「潰さないように気をつけて」
「はっ……これで良いの?」
「ちょっとそのままつまんでいて」
 セイコは印を結んで呪を唱える。
「行きなさい、虫たちに蚤男から決して離れないように言い聞かせて頂戴……レディ9、放してあげて」
 蚤はピョンピョン跳びはねて蚤男に飛びついた。
「どういうこと?」
「今の蚤を式神に仕立てたの、これで蚤男の体に貼り付いてる蚤はあの子の言うとおりにしてくれるはず」
「だったら、蚤男に触れられるわけだ」
「ええ、でも、あんまり強い衝撃を与えると蚤が零れ落ちちゃうかも」
「だったらこうね……えいっ」
 レディ9が素早く蚤男の後ろに廻り、首筋に手刀を見舞うと蚤男は声もなくあっさりと崩れ落ちた。
「あっけないな……フー・マンジュー! 見ろ、蚤男は倒したぞ! 我々を甘く見たな」
「わはははは! 甘く見ているのはお前達アルよ、蚤男は騒ぎを起こしてお前達をおびき寄せる囮だったアルよ」
「何だか無駄に手の込んだ事を……」
「クレームは直接作者に言うヨロシ、勝負はここからアル! 出でよ! 戦闘員ども!」
「何っ!…… ん? 戦闘員が何処にいると言うんだ?」
「さぁな……教えてやる義理なんかないアルよ」
「これは風切り音……後ろ! 上よ! 飛んで来る!」
 地獄耳を発動したレディ9が異変を察知して叫ぶ。
 振り返ると数十人の戦闘員が黒い翼と鋭い嘴を付け、夜の闇に乗じて急降下して来ている、その様はまるで烏の大群だ。

「ライダーキック!」
「フックアーム!」
「食らえ! パイプ椅子!」
 ライダー達も応戦するが、多勢に無勢、しかも空からの攻撃とあっては勝手が違う。
「忍法・つむじ風!」
 レディ9は旋風を起こして墜落させようとするが、少しバランスを崩せるだけで墜落には至らない、しかし烏戦闘員達の狙いを狂わせてライダー達への直撃は防いでくれた、そして狙いを外した烏戦闘員は羽ばたいて再び上空へ。
「いくら強化スーツを着ているからと言っても、人間の筋力で飛べるはずは……」
 ライダーマンの疑問に、図らずもフー・マンジュー自身が答えてしまう。
「わはははは、驚いたアルか? そいつらには『自分は烏』だと暗示を掛けたアルよ」
「暗示? そんなことでこれほどの筋力を発揮できるとは……いや、待てよ、暗示にかかっていると言う事は……セイコちゃん! 手鏡はないか?」
「コンパクトなら!」
「それで十分だ、こっちに投げてくれ! レディ9はクナイの用意を! おーい、こっちだ、こっちだ!」
 ライダーマンが鏡を振ると、烏の本能に支配されている戦闘員達は一斉に鏡に向かって急降下する。
「レディ9、今だ!」
「えいっ!」
 レディ9の投げたクナイは何枚かの翼をたやすく突き抜け、翼は切り口からビリビリと裂けて行く。
「思ったとおりだ! あの翼はナイロン製だ、ならば……セイコちゃん、カセットガスを!」
「はい!」
 なにぶん急造の夜店、プロパンガスではなく家庭用のカセットコンロを使っている、それが功を奏した。
「これでも食らえ!」
 ライダーマンは受け取ったカセットガスをアタッチメントアームに装着すると翼に向かって火炎放射、すると、見る見るうちに翼は溶けて骨組みを残すのみ、急降下していた戦闘員は地面に叩きつけられる。
「もっとガスを!」
「今ので最後だったの! そうだ! これでも良い?」
 セイコが投げたのは虫除けと殺虫剤のズプレー。
「はっ! いいとも! 中身はLPGたっぷりだ!」
「殺虫剤ならこっちにもあるぞ!」
「ライダーマン! ウチの虫除けスプレーも使ってくれ!」
 出店していた夜店のあちらこちらから声が上がり、それぞれの手にはスプレーが握られている、烏戦闘員を全滅させるのに充分な量だ。

「い、いかんアル、撤退するアルよ!」

 フー・マンジューは残った戦闘員の脚に掴まり空へと飛び去って行く。
「くそっ、空へ逃げられちゃ追えないな」
 あまり活躍の機会がなかったマッスルは悔しがるが、ライダーとライダーマンはぽんとその肩を叩く。
「とにかく退けられただけでも良いじゃないか、烏戦闘員の弱点も見抜けたしな」
「そうさ、それよりも祭の続きさ」
 一時避難していたLOVE BRAVEが櫓に戻り、校庭は再び歓声に包まれた。

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

「お前ら……刑務所で罪を償って来い、もうショッカーなんかに戻るんじゃないぞ」
 墜落した戦闘員は駆けつけた警官隊によって一網打尽。
 連行される戦闘員たちに、仮面ライダー・マッスルの変身を解いた納谷剛が諭すように声を掛けて廻っている。
 一方、男気に溢れる硬派の隼人は少し浮かない表情だ。
「で……蚤男なんだが……」
「ああ、妙な改造だが、おそらくは薬物による改造だからな、最新医療でたぶん元に戻せるだろう、警察にも友人の病院に運んでやってくれるように頼んだよ、ちょっと息苦しいだろうが、遺体搬送用のビニールバッグもな」
「ははは、そうか、そうでもしないと奴には触れないからな」
 隼人と丈二は顔を見合わせて笑った。

 だが……。
 警官の手によってビニールバッグに蚤男が収容され、ジッパーが閉められるその瞬間、セイコが放った式神が脱出した事は誰も知らず、後日、結城丈二は友人の医師からこってり絞られることになったことだけ記しておくことにしよう。
 
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