暑いよ! ライダー!

文字数 5,046文字

(かなり凝ったお題で書きました、そのお題とは……①以下から最低一択 「平成」「30年」「最後」 ②初秋を感じさせるアイテムを取り入れ  ③時事ネタをフィクションとして取り入れて ④ラストは驚愕なユーモアを感じさせる捨て台詞で決める。と言うものでした。 時事ネタは『酷暑』で、こればっかりはフィクションにはなりませんし、フィクションにする必要もないですねw 究極的に暑苦しい作品を目指しました)

          『暑いよ! ライダー!』

「ショッカ~、ファイト~~」
「オ~~~」
「オ~~~」
 ショッカー日本支部のグラウンドに戦闘員達の弱々しい掛け声が響く。
 この夏の異常な暑さ、連日35度を超える酷暑が続く中、基礎体力鍛錬と称してもう1時間も走らされているのだ。
「気合を入れんか! 心頭滅却すれば火もまた凉しじゃ! これ位の暑さでへばるとは情けない、ワシの若い頃は……」
 檄を飛ばしているのは死神博士。
 木陰に座り込み、冷たい飲み物を摂りながら自家発電装置に接続した冷風機まで抱え込んでいる。

「このクソ暑いのに……」
「やってらんね~よな~」
「で、本人はああだもんな~」
「『ワシの若い頃は』って、博士が体育会系だったなんて聞いたことがないぜ」
「そうそう、『ワシは寝食も忘れて研究に打ち込んでおった』なんて言ってた位だからな」
「大体、博士が若い頃って言ったら、30度を超えると真夏日とか言ってた位だし、35度だの36度だのなんて日は滅多になかったハズだぜ」

「コラッ! 何をブツブツ言っておるのだ、もっとしっかり走らんか! もう10周追加じゃ!」
「博士、せめてこの全身黒タイツと覆面は脱がせてくださいよ~」
「バカモノ! 戦闘時にはそのスタイルじゃろうが! 実戦の状況を無視してどうする!」
「うへ~……」
「昭和の時代から戦い続けて、平成も終わろうとしておるのに未だにライダーに勝てん! それと言うのもお前たちが情けないからだ!」
「博士が作りだした怪人達も一人も勝ってないけど……」
「またブツブツと……言いたいことがあるなら大きな声で言え! いいか? ワシが筆頭大幹部に返り咲けるかどうかはお前たちの働きにかかっておるのだ! 気合を入れて訓練せいっ!」
 あまりにも自己中心的で身勝手なその言葉を聴いた戦闘員達の心中には木枯らしが吹き荒れた……。

 ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

「よ~し! ひとまず休憩して良し! ワシは30分後に戻る、その後は崖をよじ登る訓練じゃからな、ロープを用意しておくように!」
 そう言い残して、死神博士は冷房の効いている本館へと消えて行き、戦闘員達はバタバタとその場に倒れこんだ。

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

「ん? お前たち、そんな日向に寝転んでいたら熱中症になるぞ」
 そこに通りがかったのは地獄大使だ。
「なんだ? グレーの戦闘服など見たことがないが……」
「いえ、塩分が乾燥してそう見えるだけで……」
「こりゃ汗か? おいおい、脱水症状を起こすぞ、スポーツドリンクの樽が用意されているだろう? 飲んだのか?」
「いえ、あれは死神博士が用意してくれたものなので飲めません……」
「どういうことだ?」
「この前、訓練の終わりに博士がビールを配ってくれたんですよ、珍しいこともあるもんだと思いましたが、なにせ汗をかいた後のビールですからね、みんな喜んで飲み干したんですが……」
「それで?」
「そのビールに筋肉増強剤が入れられてたんです」
「あの高熱を誘発する出来損ないの危ない薬か?」
「そうなんです……」
「そうか……今こっちの樽を運ばせるからそっちから飲め」
「本当ですか? ありがたい……」
「命の恩人です!」
「それは大げさだ……死神は?」
「本館で涼んでます」
「相変わらずだな……まあ、あいつはイカ男だからな」
「え? それはどういうことですか?」
「知らんのか? 死神はイカデビルという怪人に変身するんだが……何しろイカだからな、天日干しでスルメになっちまうんだ」
「それ、本当ですか?」
「知らなかったのか?……部下にも知らせていないとは死神らしいと言えばらしいが、部下を信用しておらんのか…………まあ、例えば奴は火にも弱くて、スルメを焼く匂いに反応して変身しちまうなんて事は口が裂けても言えんが……」
「え?……あ、はい、地獄大使、今何と仰ったので?」
「うん? まぁ、独り言だ、気にしないでくれ」
「ああ、独り言ですか……道理で聞こえないと思った」
「スルメがどうとかこうとか……聞こえませんでした」
「まあ、ヤツがしくじればワシの座は安泰……いや、独り言だ、気にしないでくれ、ほら、ドリンクが届いたぞ、せめて水分と塩分、ミネラルは補給しておけ、氷もたっぷり入れるように言っておいたから冷たいはずだ」
「ありがとうございますっ!」

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

「ワハハハ。 ライダー、ノコノコと現われおったな!」
 ショッカーが暴れているという通報に駆けつけたライダーチームだが、死神博士の隣には見たような顔が……。
「隣にいるのはシューゾーか?」
「ワハハハ、正しくはシューゾー・改だ」
「トイざラスで買った1,980円+税の水鉄砲で倒されたのを忘れたか?」
「うるさい! あの時のシューゾーとシューゾー・改はまるで別物じゃ!」
「見た目は変わらないが?」
「見よ!」
「おお、シューゾー・改が燃え上がった! ただでさえ暑いのになんと暑苦しい!……だが、オリジナルも同じだったぞ」
「見た目に惑わされるとは、貴様らもこの暑さでボケたか! シューゾー・改! やってしまえ!」
「もっと熱くなれよ!」
 熱い叫びと共にシューゾー・改は火の玉サーブを矢継ぎ早に繰り出して来た。
「わっ!」
「なるほど、改と言うだけあってスピードが格段に増しているな」
「それだけじゃないぜ、見ろよ」
 マッスルが指差した先、オリジナル・シューゾーはテニスボールが空気摩擦で燃え上がるだけだったが、シューゾー・改の火の玉サーブは文字通り火の玉を打って来るのだ。
「なるほど、こいつを食らったら痛いとか熱いでは済まないな」
「あたしに任せて!」
 叫んだのは晴子、陰陽師スーツの懐から一片のお札を取り出し、息を吹きかけて宙に舞わせると、お札は巨大な壁に姿を変えた。
「ヌリカベさん、お願い」
「任せなさい」
 ヌリカベはそう言ってライダーたちを庇うように立ちはだかると、火の玉をことごとくはね返した、元々蔵の壁が妖怪化したもの、防火性能はバッチリだ。
「ふん、甘いわ! いくら火に強くても衝撃は別だ!」
 死神博士が叫ぶが、それはその通りだった。
 シューゾー・改が更に強烈な火の玉サーブを放って来ると、ヌリカベの身体に亀裂が入る、このまま火の玉サーブを受け続ければ、いずれ破壊されてしまうのも時間の問題だ。
「ヌリカベ、晴子ちゃんだけなんとか守ってくれ、俺達がシューゾー・改を倒す!」
 ライダー、ライダーマンがヌリカベの陰から飛び出すと、火の玉サーブは三ヶ所に分散、ヌリカベもこれ位なら耐えられる。
「志のぶ、例のモノを!」
「わかったわ!」
 マッスルも志のぶに指示を残してヌリカベの陰から飛び出した。
「いかん! 3対1では分が悪い! なんだ! お前たち、何をボーっとしているのだ!」
 戦闘員達は、はっきり言ってやる気ゼロ、ライダーたちがすぐ横を通過しても手も出そうとしない。
「このバカモノ! 使えん奴らだ!」
「使えん……って言われても……なぁ……」
「ああ……訓練が厳しすぎて体力使い果たしてるし……」
「熱中症で倒れた仲間もいるからなぁ……やっぱ酷暑日に屋外で暴れるのは自殺行為だよな……」
「この覆面と全身黒タイツも暑苦しいしな」
「ああ、そうだな、脱いじゃおうか」
「そうだな」
「そうだな」
「そうしよう……」
「コラっ! 戦闘に於いて戦闘服を脱ぐとは! 敵前逃亡に等しいぞ!」
 死神博士は地団太を踏むが、戦闘員は座り込んでしまい動こうともしない……。

 一方、ヌリカベの陰の志のぶと晴子はクナイにせっせとスルメを突き刺していた。
 実は仮面ライダー・マッスルこと納谷剛にショッカーの情報をリークする者がいたのだ。
 今は東北で農業に勤しんでいる親友、冨樫だ。
 死神博士を見限った戦闘員の一人が密かに冨樫に連絡を取ったのだった。

「これ位でいいわ、野外調理のお時間は終わり、見てらっしゃい」
 志のぶことレディ9はヌリカベの陰から躍り出て火の玉目掛けてクナイを投げつける、するとたちまち香ばしい匂いが辺りに漂う。

「……ん? この匂いは? どういうことだ、どうしてスルメを炙る匂いが立ち込めるのだ!……いかん、身体が……身体が……」
 死神博士は身悶えしながらイカデビルに変身して行く!

 そのすぐ脇ではシューゾー・改が孤軍奮闘中、至近距離では火の玉サーブは使えず、火の玉アタックしか攻撃法がないシューゾー・改、3対1では分が悪い、身体が熱く燃え上がっているのでライダー達も手は出せないが、闘牛士よろしく火の玉アタックをひらりひらりとかわし、シューゾー・改は翻弄されてばかりで右往左往している。
「近寄るだけでも暑苦しいが……これでも食らいやがれ!」
 マッスルの十八番、プロレス名物・折りたたみパイプ椅子攻撃が炸裂した。
「ぎゃあ! やられた! でも僕はくじけない! もっと熱くなって帰って来るぞ~」
 シューゾー・改はそう叫びながら吹っ飛ぶが、その先には……。
「ウワッ! 来るな! 寄るな! 炙られてしまうではないか! 触手が! 触手が丸まる、身体のぬめりが乾く! これは堪らん!」
 イカデビルに変身してしまった死神博士は一目散に逃げて行く。
「あ、博士、待って!」
 シューゾー・改がその後を追う。
「来るなぁ! 近寄るなぁ!」
「待って! 待って下さいよ~!」

 ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

「なんだかアメリカのアニメみたいだな……」
 ライダーが苦笑した。
「違いない、触手をバタバタさせて逃げる様ったらないぜ」
 マッスルも心から可笑しそうに笑ったが、すぐに真顔に戻った。
 そこら中に全身黒タイツと覆面を脱ぎ捨てた戦闘員が座り込んでいるのだ。
「お前たち……」
「納谷さん……」
 古顔の何人かはショッカー時代のマッスルの同僚だった男たちだ。
「俺達、ショッカーをやめます」
「そうか……行く宛てはあるのか?」
「まあ、心当りがあるのもないのもいますけど、俺達は死神博士に騙されてプチ改造されちまった身ですから……」
「そうか……高熱は?」
「まだ一回ですが……」
「やっぱりあったんだな?……ライダーマン、薬をやってくれないか?」
「いいとも、ショッカーを抜けると決めたのならね」
「ええ、死神博士にはほとほと愛想が尽きました、とても付いて行けません」
「目が覚めて何よりだよ」
「でも悪いことばかりじゃないんで……筋力は常人の二倍になってますから、肉体労働するつもりならどうにでも食っていけると思うんです」
「そうだな、富樫も元気でやってるよ……冨樫に死神の弱点をリークしたのは?」
「ええ、俺です、少しは役に立てましたか?」
「ああ、充分に」
 マッスルたちの会話を聞きながら、ライダーマンはマシンに跨った。
「では、私はひとっ走りアジトへ戻って薬を取って来るとしよう、少し待っていてくれ」
「ライダーマン、後輩の為に……恩に着るよ」
「いいさ……イカは英語でデビルフィッシュと言うんだ」
「ん? だから?」
「デビルフィッシュならぬ、デビルフィニッシュになると良いな」
 そう言ってライダーマンはエンジンを掛け、ニヤリと笑いながら一言付け加えた。
「お後がよろしいようで……」
 ブロロロロ……デテケデテケデテケデテケデテケデテケ……
 ライダーマン・マシンのエンジン音が打ち出し太鼓のように響きながら遠ざかって行った。
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