ありがとう! ライダー!

文字数 6,037文字

 ライダー!シリーズの新作です。
 お題に沿って書いたもので、そのお題とは。
1. こちら側が思っていることと、相手側が思っていることが全く逆の状況
2. 異世界
3. 列
う~ん、3つとも使おうとすると中々キビしい……ですが何とか。
1. は『思惑がかみ合っていない』と言った程度にしか使えてませんが……。
 


          『ありがとう! ライダー!』


 ピロピロピロピロ……。
 目覚まし時計が鳴っている。
「う~ん……もうちょっと、あと5分だけ……え? これって……どうなってるんだ!?」
 速人はいっぺんで目を醒ました。
 なんと! 仮面ライダーになっているではないか!
 確かにライダーには憧れている、高校では体操部に所属し、大学では空手同好会とプロレス愛好会を兼部、大型二輪免許も取った、全てはライダーのようになりたいと思ってのことだ。
 ある意味願いが叶ったと言うことでもあるが、唐突過ぎて頭がついて行けない。
 心当たりと言えば……昨日異世界ファンタジー原作のRPGをクリアした、結構夜遅くまでかかってしまい、クリアしてすぐにベッドにもぐりこんだのだが、興奮が続いていて中々寝付けなかった。
 起きているとも寝ているともつかないようなまどろみの中で、異世界に転移して勇者となった自分の姿がライダーに変わって行ったような……でもそれってやっぱり夢じゃないのか? だとしたらライダーになったのもやっぱり夢……?
 速人はほっぺたをつねろうとしたが……つねれない、固くてつるんとしている、そのまま顎を触ってみると……ギザギザの歯の感触。
「マジか!」
 飛び起きてみるといつもの自分の部屋ではない、速人の部屋も男臭い部屋ではあるが、この部屋はそれに加えてストイックな雰囲気もある。
「鏡、鏡はないのかな」
 探してみると棚に小さな鏡があった。
 そしてそこに映し出された自分の姿は……。
「マジだよ……俺、ライダーになってる……ここは異世界なのか?」
 それにしても……ライダーは普段一文字隼人として生活しているはず、寝起きの姿がライダーと言うのはおかしい……。
「変身を解かなきゃ……でもどうやって?」
 一文字隼人から仮面ライダーに変身するやり方なら小学生でも知っている。 
 こうやればいいのだ。
 ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
 だが、ライダーから一文字隼人に戻るには? 
 試しにもう一度変身ポーズを試してみるが……違う、何か別のやり方があるのだろうが、TVドラマでもそのシーンは描かれていない、TVではシレッと一文字隼人に戻っているのだから念じれば良いのだろうか……。
(戻れ……戻れ……)一心に念じてみるがこの方法も違うようだ。
 それから30分余り、色々と試してみるがわからない。
 すると……。
「ライダー! 出動だ、ショッカーが銀行強盗を働いているらしい……おや? 随分と準備が良いな」
 ライダーマンこと結城丈二が部屋に飛び込んで来てそう言った。
 変身を解く方法は後回し、とにかく仮面ライダーになった以上はショッカーの悪事を見過ごすわけには行かないのだから。
「わかった、行こう!」
 速人はライダーマンの後に続いた、そうしないとバイクの置き場がわからない。
(うおっ! カッコイイ!)
 ガレージには4台のマシン、もちろん自分のがどれなのかはわかっている。
「行くぞ!」
「おう!」
 サイクロン号の桁外れの加速力に振り落とされそうになりながらも、速人はライダーマンの後に続いた……。

「くっ……ライダーか……戦闘員ども! お前たちがぐずぐずしているから嗅ぎ付けられてしまったではないか、ライダーと遭遇した以上は戦え!」
 事件現場の銀行には死神博士の姿、あまり上司に持ちたくないタイプらしいと噂されているが、なるほどその通りのようだ。
「行員が中で監禁されているらしい、レディ9、潜入してくれ、私も裏口で突入のチャンスを窺う、ライダー、マッスル、戦闘員は君たちに任せた」
「「おう!」」
 自分がライダーだという状況に慣れて来たのか、ライダーマンにそう指示されると自然に返事が出来た、それどころか気持ちも高揚して来た。
「行くぞ、マッスル!」
「おうよ!」
 一列に並んで札束が詰まった袋をバケツリレーしていた戦闘員たちが、袋を投げ出して一斉に立ち向かって来た。
「ライダー・パンチ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
 パンチ一発で先頭切って走って来た戦闘員は吹っ飛び、後続を巻き込んでひっくり返った。
 同時に横から斬りかかって来た戦闘員の姿もライダーの複眼はしっかり捉えられる、ライダー・チョップで刀を叩き落とすと戦闘員は手首を抱えてのたうち回る、どうやら手首が折れたようだ。
 そして背後から襲い掛かって来た戦闘員の動き、その空気の流れを触角は敏感に感じ取れる、振り返るまでもなく後ろ廻し蹴りを放つと戦闘員は10メートルほども吹っ飛んだ。
 おお! これがライダーのパワー、これがライダーの身体能力……。
 すっかり嬉しくなった速人はマッスルと共に存分に暴れまわった。

「中も制圧したわよ、今ライダーマンがふん縛っているところ」
 レディ9が合流して来る、そして少しだけ遅れてライダーマンも銀行から出て来た、早くも拘束し終えたらしい。
(なんて頼もしい仲間なんだ、最高じゃないか!)
 4人が勢ぞろいして死神博士の前に立ちふさがると、死神博士は地団駄を踏んで悔しがる。
「いつもいつも邪魔ばかりしおって!」
「戦闘員も全部片づけたぜ、死神博士、今日こそ逃がさないぞ!」
 マッスルは元戦闘員、その時代の後輩を怪人に改造して死なせた死神博士には恨みにも似た感情を抱いているのだ。
「ふん! そうやすやすとやられるワシではないわ! まだ奥の手が残っておる……ホラ、羽ばたきの音が聞こえぬか?」
「何っ?」
 確かにバサバサと言う羽の音……空に現れた小さな黒点が見る見るうちに大きくなって来る。
「コウモリ男! こ奴らを切り刻んでしまえ!」
「うっ……」
 速人は脳内を掻き回されるような音に思わず膝をついた、超音波だ、ライダーの研ぎ澄まされた五感、その聴覚を乱されているのだ。
 戦闘員との戦いでは強みになった五感だが、それは両刃の剣であることも思い知らされる。
「うがっ!」
 左腕に鋭い痛み……コウモリ男が発する超音波は聴覚を攻撃するばかりではない、超音波メスとなって飛んできているのだ。
「いかん! マッスル! ヘルメットを取れ!」
 ライダーマンとマッスルは、それぞれ右腕と筋力こそ改造されているが、聴覚はヘルメットに内蔵された増幅装置で強化されているだけ、ヘルメットを取れば常人と変わらず、超音波に攪乱されることはない、レディ9も地獄耳を持っているものの、それは忍びに伝わる秘術で聴覚に神経を集中させることで発動する、術を解けばやはり超音波には惑わされない。
 しかしライダーはバッタのDNAを組み込まれることで全身を改造された改造人間、ヘルメットを取ることなどできない、そもそも固い頭部もヘルメットなどではないのだ。
 ライダーを除く3人は超音波による攪乱からは解放された、しかし超音波メス攻撃は別、それは目には見えないが物理的な攻撃手段なのだ。
「うわっ」
「うげっ」
「きゃぁ」
 コウモリ男の超音波メスは仲間たちを容赦なく襲う……。
 これがライダーたちの戦い……彼らはヒーローであることは間違いない、しかし、これは生死をかけた戦いなのだ、TVドラマならばハラハラしながらも『正義は勝つ』と信じていれば良い、だが実戦ではそんな保証はどこにもない。
 速人は激しい頭痛に苛まれながらも聴覚に神経を集中した……すると、聞こえる、超音波メスが空気を切り裂いて飛んで来る音が聞こえる……。
「ヘルメットをかぶれ! 超音波メスの音を聞くんだ!」
 速人がそう叫ぶとライダーマンとマッスルは再びヘルメットを装着し、レディ9も地獄耳を発動する、すると、彼らも超音波メス攻撃をかわせるようになった。
 だが……やはり体は思うようには動かない、攻撃を避けることが精いっぱいで反撃はおぼつかない、それでもライダーマンはアタッチメントアームで、レディ9はクナイで攻撃を試みるが、コウモリ男には苦も無くかわされてしまう、空を飛ぶ相手にはライダーの跳躍力が必要なのだ……どうすれば……。

 突然、死神博士の怒号が響いた。
「何? 地獄大使だと? 貴様、何をしにノコノコ出て来たのだ!」
 見ると地獄大使が現れたではないか、コウモリ男一人に苦戦しているというのに……。
「ふん、ワシとて来たくて来たのではないわ! 死神、貴様一人では心もとないから助太刀してやれという首領様の御意向なのだ……出でよ! DaiGoN2!」
「なんだ? その弱そうな怪人は、掃除のおばさんにすら勝てそうにないが?」
「貴様が作る怪人のようにただ暴れるばかりが能ではないわ、DaiGoN2はメンタリスト怪人よ、ライダー共の鋭敏な聴覚を逆手に取って精神をかき乱すことで攻撃するのだ、おい、死神、ライダー共の動きを封じてやるからさっさと片付けてしまえ! やれ! DaiGoN2!」
「はい! 地獄大使! コウモリさん、マッスルは左右の動きが鈍いです、続けざまに超音波メスを……」
「待て! DaiGoN2 複数の敵を相手にした時は一番弱いヤツから狙うのが鉄則だぞ、レディ9を狙わせんか」
「あ、でも、女性ですし、美し……」
「ええい! 世界征服を成し遂げれば世界中の美女だって思いのままだ! あのくの一くらいの女ならいくらでもおるわ!」
「おっと、そいつは聞き捨てならねぇな、人の恋女房をディスってるんじゃねぇよ、こいつくらい良い女は世界中探したっていやしねぇぜ」
「マッスル! 貴様、どうやって復活を……」
 その答えは死神博士の絶叫の中にあった。
「地獄大使! ワシの邪魔をするな!」
「邪魔だと? 心ならずも加勢してやってるのがわからぬか!」
「見ろ! コウモリ男を!」
「コウモリ野郎がどうした?」
「貴様のメンタリスト怪人とやらの異常な早口にコウモリ男が苦しんでいるではないか!」
「う……何故だ?」
「コウモリ男も超絶聴覚の持ち主だ、そいつの攪乱戦法はコウモリ男の戦闘力も削いてしまうではないか!」
「な、なんだと?」

「そうさ、DaiGoN2の攪乱戦法も厄介だがそいつには物理的攻撃は出来ないからな、それに、見ろ、そいつも自分がしでかしたことに気づいて言葉を失っているぞ」
「あ、しまった! DaiGoN2! 攪乱攻撃を続けんか!」
「よせ! コウモリ男の邪魔をするな!」
「死神! 貴様に手柄は渡さん!」
「何だと? それが本音か! コウモリ男! 構わぬ! DaiGoN2から血祭りに挙げろ!」
「やれるものならやってみろ! 確かにDaiGoN2に物理的攻撃力はないが、このワシが付いている限りこいつに手出しはさせん! 電磁ムチの餌食にしてくれるわ!」
 死神博士と地獄大使の仲間割れ、それぞれが率いる怪人も戸惑っている。
「ライダー! 今だ!」
「おう!」
「プロレス名物・ツープラトン攻撃を見せてやろうぜ!」
「それか! わかった!」
 マッスルが腰を低くして両手を組み足場を作る、ライダーがその手に足をかけて跳ぶと同時にマッスルがライダーを投げ上げる、ライダーの跳躍力にマッスルの怪力が加わってより高く跳躍することが出来るのだ。
 それに気づいたコウモリ男は跳んで来るライダーめがけて超音波メスの乱れ打ち。
(くっ……負けるものか!)
 ライダーは空中で体を丸めて高速回転し、超音波メスを弾き返す、とは言え、背中には無数の切り傷、だが、世界平和を守るためならばこれしきのこと……。
「くらえ! ツープラトン・ライダーキック!!」
「ギャァァァァァァァァァァァァ!」
「あっ、コウモリ男! しっかりしろ!」
 死神博士もそう叫ぶが、ライダーキックをまともに受けたコウモリ男は真っ逆さま、地面に叩きつけられて動かなくなった。
 だが、ライダーも無傷ではない、コウモリ男の超音波、DaiGoN2の攪乱攻撃の影響もまだ残る上に超音波メス攻撃も受けたのだ、コウモリ男同様に落下して行く……間一髪、マッスルに受け止められて地面に激突することは避けられたが、完全に意識を失ってしまった……。

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

(ここは?……俺の部屋だ……)
 速人は元の自分の部屋、自分のベッドで目を覚ました。
(俺は……ライダーに転生していたはずだけど……ひょっとするとあれは夢だったのか? あ、痛てててて……)
 だが、背中に激しい痛みを感じる、起き出して鏡に映して見ると無数の切り傷が残っている。
(夢……じゃない……やっぱり俺はライダーに転生していたんだ、あれは本物の戦いだったんだな……)
 気を失ったことで異世界から元の世界へ戻れたらしい……。
(厳しい戦いだった……ライダーたちはあんな戦いを続けているのか……)
 ライダーは憧れだった、だが、実際にライダーに転生してみると、命がけで戦ってくれていることが身に染みてわかる……。
 背中だけでなく、体中が痛む、しかし、速人は今まで感じたことのない充実感、達成感を感じていた……。

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

「とおっ!」
「イーッ!」
 今日も速人はショッカーと戦っている、だがそれは実際の戦いではなく撮影のための戦い、速人はライダーのスーツアクターとして、TVドラマ版『仮面ライダー』に出演しているのだ。
 命がけでショッカーと戦ってくれているライダーたちに感謝を込めて、彼らの活躍、そして、共に戦う仲間の絆の大切さを一人でも多くのチビっ子たちに知ってもらうために。
 だからどんなアクションにも決して手は抜かない、ライダーたちの本当の戦いを知っているのだ、一歩間違えば死につながるほどの戦いを……手を抜いていてはそれは伝わらないと信じているから……。
 そして、速人の進言でドラマのエンディングには必ず「ありがとう、ライダー」のナレーションも加えられるようになった。
 ある意味、速人もまたライダーチームの一員となったのだ。
 本物のライダーが変身を解く方法は未だに謎のままだが……。

                (終)
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