番外編 つる女の恩返し

文字数 4,801文字

 今回はおなじみの面々は登場しません、何故なら舞台が江戸時代ですので。
 ですが、ライダー!シリーズの世界観は踏襲しています、それなりにw
 タイトルの「つる女」は「つるじょ」ではなく「つるおんな」です。
 なぜなら、彼女は改造人間だからです!




 おつるは改造人間である。
 彼女を改造した『衝撃団』は日本を我が物にしようとする悪の秘密結社。
 衝撃団から逃亡したおつるは、改造人間にされた悲しみを胸に、人間の自由のために闘い続けているのだ……。

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

「……私はあの時助けて頂いた鶴でございます、ずっとあなた様方の娘で居とうございました、でも正体を知られたからにはもうここに置いて頂くわけにはまいりません」
「お……おつるや……」
「お別れでございます……」
「おつるや、わしが悪かった、もう決して機織りを覗いたりはせん、後生だからここにいておくれ」
「いいえ、そういうわけには行かないのです……なごり惜しゅうございますが、いつまでもお達者でいてくださいまし……」
 バサバサバサ……。
「おつるや~、戻って来ておくれ、おつるや~……」

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

 あれから一年の月日が流れた。
 だが、おつるの胸の中には今でも優しかった老夫婦……養父と養母の姿が、声がくっきりと刻み込まれている。
 そしてそれを思い出すたびにおつるの胸は温かいもので満たされる。
 短い間だったが、養父母と暮らした日々は幸せだった。
 なぜなら、おつるを本当の娘として、本当の人間として扱ってくれたから……。
 怪人『つる女』としてではなく……。
 
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

 あの日の数日前のことだ。
 養父母と共に静かに暮らしていた家に、突然衝撃団の戦闘員が数名、姿を現した。

「お前たち! どうしてここがわかった?」
「爺ぃが町で売った織物、あれは貴様にしか織れないものだ、そこから辿ったのさ、ここを探し当てるのはたいそう骨だったがな」
「しまった……あの織物か……」
「思った通りだったぜ、逃亡中の怪人つる女、貴様の隠れ家はわかった、首領様に報告だ、震えて待っていろ」
「そうはさせないよ、あの夫婦は本当に心の優しい良い人たちなんだ、指一本触れさせやしない……変身!」
 美しい娘、おつるは見る見るうちに改造人間つる女に変身した。
 鶴の頭部に長い首、美しいラインを描いていた体はそのまま真っ白な羽毛で覆われている、二本の腕はそのまま残り、細く長い脚はしなやかな筋肉に覆われ強靭なキック力を持つことを物語っている、そして白と黒のコントラストも美しい大きな翼。
「イーッ!」
 戦闘員たちも着物を脱ぎ去り、全身黒づくめの姿に変わる。
「つっつき攻撃!」
「ぎゃっ!」
「鶴脚廻し蹴り!」
「ぐえっ!」
「羽ばたき突風!」
「わぁっ!」
 怪人と戦闘員では実力に大きな差がある、つる女はたちまち戦闘員たちを蹴散らした。
 命からがら逃げ出す戦闘員たち、しかし大きな翼で飛ぶことができるつる女にとって、普通の人間である戦闘員を追い詰めることなどた易い。
「命までは取りたくはなかったよ……でもあの人たちに危害が及ぶのを見過ごすわけには行かないんだよ、覚悟おし! つる回転後ろ廻し蹴り!」
「ギャ~!」
 長い脚で戦闘員たちを薙ぎ払うと、彼らは谷底へと落ちて行った。
「南無……」
 戦闘員とは言え、人を殺めるのは心が痛む、つる女は人間の姿に変わると谷底に向けて合掌した。

 その晩、一晩かけてじっくりと考えた……。
 戦闘員は織物から辿ってここを探し当てたと言っていた、たまたま養父母は留守だったから良かったものの、自分がここにいてはいつ衝撃団の魔の手が伸びないとも限らない……。
 束の間の幸せで平穏な日々だったが、しょせん自分は改造人間、人並みの幸せなど望めるものではない……だがそれでも養父母に自分の正体が怪人つる女だと知られたくはない。
 そこで、おつるは一芝居打ち、鶴の姿に変身すると養父母の元から飛び去ったのだ……。

 ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

 だが、この一年間、鶴の姿で上空から養父母の家を見守り続けて来た、再び衝撃団がこの家を見つけ出さないとも限らない、あの善良な人たちはなんとか自分が守らねば……。

「あっ……あれは……」
 養父母の家の前に怪しい人影を見つけた、衝撃団幹部、死神師匠の姿だ、そして自分と同じ鳥型の改造人間も……。
(あれは……サギ男……)
 おつるは近くの田んぼに舞い降り、どこにでも居る鶴を装って監視を続けた。
 死神が一旦姿を隠し、サギ男は人間の姿に変身すると表から声を掛けた。
「ごめんなさいよ~、どなたかいらっしゃるだかね」
「はいはい、何でしょうな……」
 引き戸を開けて出て来たのは懐かしい養父母……。
(ああ……おとっつぁん……おっかさん……)
 鶴の胸に温かいものが蘇る。
「おらぁ、町からやってきたんだども、金に困って壺を売って歩いとるんだが、ひとつ買ってはもらえんかね」
「おや、まあ、それはお気の毒に……じゃがこの通りじじばばの二人暮らし、とてもそんな高そうな壺は買えませんでな」
「まあ、そう言わずに、お安くしておきますで」
(あっ……あの壺は……)
 唐(より伝わるあやかしの壺、中を覗き込むとたちまち吸い込まれて囚われてしまう。
(さては、あたしをおびき出すための人質に……?)
「ほれ、叩くと澄んだ音がしますじゃろう? この通りひびなど入っとりゃせん、中も御覧なされ、綺麗なもんでな」
 サギ男は言葉巧みに壺の中を覗かせようとしている、大事な養父母が危ない!
 おつるは空高く飛び上がると、戦闘力の高いつる女の姿に変身しながら壺めがけて急降下して行った。
「つる跳び蹴り!」
 ガシャーン! 粉々に割れた壺は煙となって空中へと消えて行く。
「気を付けて! こいつは怪人サギ男よ!」
「そ、その声は……もしや、おつるなのかい?」
 その言葉を聞いて、つる女はしばし目を閉じた……この姿は見られたくなかった、この姿でいる時におつるだと悟られたくなかった……でも、でも……こんな姿でも声だけで自分をおつるだとわかってくれる……。
 おつる、いや、つる女はかッと目を見開いた、今はこの人たちを守ることが大事、それこそが今私がすべきこと!
「そうよ、私の正体は怪人つる女、おとっつぁんが罠にかかった鶴を助けてあげるのを偶然見かけてこんな優しい人たちと暮らしたい、怪人つる女なんかじゃなくて、人間の娘、おつるとして暮らせたらどんなに幸せだろうと思ってあなたたちに近づいたの、騙したりしてごめんなさい、でも、あたしは……あたしは本当にあなたたちが好き、あなたたちを守りたい!」
「おつる、おつる、戻ってきてくれたんだね、どんな姿だって構やしない、お前はあたしたちの娘だよ」
「ありがとう……おとっつぁん、おっかさんは必ずあたしが守ってみせるから」
 その時、死神師匠も藪から姿を現した。
「わはははは、人質を取っておびき出す手間が省けたわい」
「死神! この人たちに手を出すことはあたしが許さないよ!」
「ん? お前さえ見つけられればそんなじじばばなぞどうでも良い……じゃが、生かしておかねばならん義理もないわ」
「なんて非道な!」
「ははは、今のは誉め言葉として受け取って置こう……やれ! サギ男!」
 サギ男も本性を現し、怪人の姿に。
 サギ対ツル、どちらも大型の水鳥、武器は長い嘴と脚だ。
 戦闘の仕方も似通っていて、ツッツキ攻撃と長い脚から繰り出す蹴り、だが改造前の人間としての戦闘能力は男性であるサギ男の方が高い上に、日常的な訓練も受けている、つる女は徐々に押され始めた。
(このままでは……でも、負けるわけには行かないのよ! あたしがこいつに勝るところと言えば……そうだ!)
 つる女は後ろへ飛びのくと空中高く飛び立った、逃がさじとばかりにサギ男も飛び立った。
(この一年、飛んでばかりいた、空中でならばあたしに分がある)
 つる女はそう考えたのだ。
 そして、死神に向かって急降下すると、死神師匠の危機とばかりにサギ男も追って来る。
 追いつかれそうになるつる女、しかしそれはつる女の策略だった。
(今少し速く飛べば追いつく)
 そう考えたサギ男は大きく広げていた翼を少し畳んで空気抵抗を減らそうと試みる、それこそがつる女の狙いだった。
 翼の角度を少しだけ変え、翼に向かい風を受ける、するとふわりと浮き上がり、真下にサギ男の体が。
「捕まえた!」
 サギ男の翼に腕と脚を回して締め付け、羽ばたきを封じた。
「くそっ! 何をする、このままでは地面に激突する!」
「それが狙いよ!」
「ぐ……二枚の翼で二人分の体は支えきれない、貴様も地面に叩きつけられるぞ!」
「あたしはそれで構わない、それでおとっつぁんとおっかさんを守れるならば!」
「は、離せ!」
「いやだね!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「死神! あんたも巻き添えよ!」
 つる女はサギ男を抱きかかえたまま急旋回、死神へ向かって急降下。
「よ、よせぇぇぇぇっ!」
 二体の怪人が地面に叩きつけられる、そして巻き添えになった死神が吹き飛ばされる。
 骨が砕けるような不気味な音が響いた。
「お、おつるや!」
「おつる! だ、大丈夫か?」
 サギ男と死神は既に息絶えていた、そして、つる女は残る力を振り絞っておつるの姿になった。
「おとっつぁん……おっかさん……今度こそお別れですね……」
「おつる! しっかりしておくれ! おつるや! おつるや!」
 だが、養父の腕の中でおつるは目を閉じた……。

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

「おつるや、随分と食べられるようになったんじゃないかい?」
「ええ、だいぶ良くなりました、おっかさん……」
 おつるは死んでいなかった、瀕死の重傷を負ってはいたが、養父母の必死の看護で一命をとりとめたのだ。
「かゆをもう一杯どうだね?」
「もう充分です、ごちそうさまでした」
「さぁさ、横になりなさい」
「はい……何から何までお世話に……」
「何を言うんだい、たった一人の娘じゃないか……」
 あの日以来衝撃団は現れていない、どうやらここを知っていたのは死神とサギ男だけだったようだ。
 おつるが怪人つる女だと、人ならざる者と知ってなお、娘と呼んでくれるおとっつぁん、おっかさん……。
 おつるはその幸せを噛みしめていた……。
 だが、逃亡者つる女への追っ手はまたいつ現れるかわからない、こんなに良くしてくれるおとっつぁんとおっかさんを守るために早く良くならなければ……。
 そして町ではこのところ不可解な事件がしばしば起こっていると聞く……衝撃団の仕業に違いない……それを許しておくわけには行かない、今こそ正義と平和を守る者が必要なのだ、それができるのは自分をおいて他にない。
 もうおとっつぁん、おっかさんの目の前で変身することにも躊躇はない。
 そして衝撃団がどんな怪人を繰り出してきても負けるはずはない……なぜならば、おつるには守るべき人が、愛する人がいるから。
 愛する者がいること……それは人を強くしてくれるのだから……。

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