目を覚ませ! ライダー!

文字数 7,217文字

 東京ディズニーシーで『タワー・オブ・テラー』に乗っている時に思いついたストーリーです。
 
 ショッカーが現れたと言う連絡を受けたライダーチームが現場に急行すると、しばらく見なかった顔がそこにあった。

「なんだか久しぶりだな、死神博士!」
「お、おう……『暑いよ! ライダー!』以来だから、一年半ぶりになる」
「てっきりショッカーをクビになったのかと思っていたぞ」
「くっ……人を小ばかにして言いたいことを言っていられるのも今のうちだけじゃ」
「怪人はどうした? 見当たらないようだが、どこかに隠れているのか、それともお前自身が戦おうとでも言うのか?」
「怪人はおらぬわ、だが怪人を超える戦力ならここにおる!」
「そこに? なにやら古びた木彫りの人形があるだけだが?」
「ふふふ……この人形は呪いの人形よ、その名もボー・デクノ!」
「デクノ・ボー?」
「違う! 勝手に姓と名を逆さにするな! 欧米かっ!」
「だいぶ古いギャグだな、久しぶりに聞いた気がするよ」
「呪いの人形の噂を頼りにアフリカを探検してまわっておったのでな、道なき道を進み、果てのないジャングルに分け入り、猛獣と戦い、泥水をすすり……思えば苦難の日々じゃった……」
「う~ん、お前のことだ、今言った事は全部戦闘員にやらせてお前は輿にでも乗ってふんぞり返っていたんじゃないのか?」
 マッスルがそう言うと、死神博士を取り囲んでいた戦闘員たちが互いに顔を見合わせて小さく頷き合う、どうやら図星だったらしい。
「お前たち、そろそろ真剣に商売替えを考えた方が良いんじゃないのか?」
 マッスルが更にそう言うと、戦闘員たちはもう一度顔を見合わせ合って何度も頷き合った……おそらく今日は戦闘員が本気でかかってくることはないだろう。
 だが……。
「みんな、気を付けて! その人形は強い気を発しているわ、ただの木彫りなんかじゃない!」
 現代に生きる陰陽師、アベノセイコがそう言うのだ、ライダーチームの面々は緩みかけた気を引き締めた。 すると……。
「前振り、ご苦労」
 呪いの人形・ボー・デクノがゆっくり進み出て来た……いや、別に勿体を付けていたわけではない、脚は付け根から動くものの膝関節がないので体を左右に揺らしながら少しづつ脚を前に出して進むしかないのだ、その動きはまるで玩具のロボットだ。
 だがセイコが警戒するほどの気を発しているとあらば『呪いの人形』と呼ばれるだけのことはあるのだろう、ライダーチームはボーに視線を集めた。
 全高は1メートルあるかないか、ほぼ二頭身とかなりデフォルメされたユーモラスとも言えるプロポーションだが、その顔は大きくくぼんだ眼窩の奥に青白い光を宿し、耳まで裂けた口には鋭い牙が並んでいる。
 猛禽類の羽で飾られた腰蓑を付け、手首、足首も羽で飾った、勇猛な部族の戦士を思わせるいでたちで右手には槍も携えている、よくよく見れば二頭身のプロポーションも却って不気味に見える。
 だが、ライダーたちが身構えたのを見て、死神博士はちょっと面白くない様子だ。
「誰が前振りじゃ、このワシを前座扱いしおって」
「誰も前座だなどとは言っておらん、じゃが、下がっていた方が身のためじゃぞ」
「ライダーどもを倒すのはこのワシじゃ、貴様などその道具に過ぎんわ」
「ほほう、そんなことを言っても良いのかな?」
「貴様をアフリカの奥地で見出してここまで運んで来たのはこのワシじゃ」
「誰が連れ出せと頼んだ? そこらにいる戦闘員どもに盗み出させただけじゃろうが」
「じゃが、貴様は白人共に復讐したい、その機会が与えられるなら喜んで同行しようと言ったではないか」
「ああ、確かに言った、じゃが、この者たちは白人には見えんぞ? あのバッタのバケモノはわからんが、他は日本人のようじゃが? バッタも日本語を話しておるしな」
「こいつらを倒さねば世界征服への道は拓けんのじゃ、いつもいつも邪魔ばかりしおる」
「つまり、今の今まで負け続けておったと言うことじゃな?」
「く……黙れ!」
 死神博士がボーの頭を小突こうとするとボーは槍を天に向かって突き出した。
「黙るのはそっちじゃ!」
 ガラガラピシャーン!
「ぎゃっ」
 その瞬間、青白い光が死神博士を直撃し、博士は泡を噴いて仰向けに倒れた。
「ふん、口ほどにもない……死なない程度に手加減してやったのをありがたく思え」
 ボーはそう言うと槍を前に突き出す。
「危ない!」
 槍の先端から青白い光が発射される、ライダーチームは二手に分かれて飛びのいたが、背後の岩は砕け散った。
「結構な威力だな」
「稲妻よ、ボーは稲妻を操るんだわ!」
「そのようだな、稲妻の速度は超えられん、だが槍を向ける動きは遅い、油断さえしなければ……」
「違う!」
 アベノセイコがそう叫んだ瞬間、三人ライダーが青白い光に包まれて倒れ伏した。
「うわっ」
「ぐっ」
「げっ」

「ボーは稲妻を操っているの! 槍から発射してるわけじゃない! 思い通りの場所を攻撃できるのよ!」
「く……」
「うう……」
「くそっ……」
 稲妻の直撃をまともに受けた三人ライダーだったが、改造人間のライダーはもとより、強化スーツに身を包んでいるライダーマンとマッスルもそれくらいで致命的な負傷には至らない、うめきながらも立ち上がろうとした。
「ほほう、稲妻の直撃を受けても立ち上がるとは……中々の戦士と見た、敬意を払おう、しかしワシの前に立ちはだかろうとする者を排除しないわけには行かぬ」
 そう言い放ったボーの青い光を帯びた目、その光が強さを増して行ったかと思うと赤く色を変える。
「「「うおおおお」」」
 一度は立ち上がったライダーたちだが、頭を抱えてうずくまってしまった。
 そして稲妻攻撃は受けなかったレディ9も頭を抱えて膝をついてしまった。
「みんな! どうしたの? え? うううう……」
 セイコも頭が混乱し始めたのを感じる。
(これは……精神錯乱波……いけない! このままじゃ……)
 セイコは大気に漂う『気』を集めて精神を集中した、陰陽師同士の戦いでも相手を錯乱状態に陥れる術が用いられる、セイコはその際の対処法を身に着けていたのだ。
「志のぶさんっ!」
 身体的ダメージは受けていない志のぶは立上りクナイを手にする。
(まさか……同士討ちさせようとしているの?)
 このままでは家族同様に思っている仲間たちが同士討ちを始めてしまう。
「志のぶさん! ごめん!」
 セイコは宙に素早く五芒星を描くと気を込めて志のぶに放った。
「ああっ!」
 志のぶがよろめいて膝をつく……だが再び立ち上がった志のぶはすっかり正気を取り戻していた。
「志のぶさん! ごめんなさい、あなたに気を打ち込んだわ」
「ええ、わかった……効いたわ」
「普通の人ならショックで気を失ってしまうけど……」
「ええ、頭の中に直接ガツンと来たわよ、でもありがとう、おかげで正気に戻れたわ」
「良かった……」
「まだよ、あの人たちにも正気に戻ってもらわないと」
「でも今ので気を使い果たしちゃった……しばらく道力は使えそうにないの」」
「大丈夫、ここからはあたしが何とかする!」
 志のぶ、いや正義のヒロイン・レディ9は同士討ちを始めてしまった三人ライダーの戦いの輪の中へ飛び込んで行った。

「あなた! しっかりしなさい!」
 普段なら三人ライダーとレディ9の間には戦闘力に大きな差がある、しかし錯乱状態のライダーたちの動きには無駄が多く、現代のくノ一であるレディ9にとってその隙を縫って攻撃を繰り出すことは難しくない。
 マッスルのパンチをかいくぐり、ハイキックを繰り出してマスクを飛ばすとそのまま馬乗りになり、マウントからのハンマーパンチ……ではなく、かがみこんでのキスを見舞った。
「志……志のぶ……」
「そうよ、あなたの女房よ、気が付いてくれた?」
「あ、ああ……俺はどうしてたんだ?」
「ボーの精神錯乱波で正気を失ってたの」
「……俺は何をやった?」
「大丈夫、ライダーたちとちょっとやり合ってたけどそれはお互い様よ」
「ライダー……ライダーマン……こうしちゃいられないぜ、二人が戦ってるところなんざ見たくねぇよ」
「ええ! すぐに止めてあげて」
「おう!」
 二対一の戦いだが、正気を失って無暗にパンチやキックを繰り出して来るライダーとライダーマンでは正気を取り戻した格闘の天才・マッスルには到底敵わない。
 マッスルは二人の首筋に、立て続けに手刀を落として失神させてしまった。
「済まん、二人とも……だがこうするより他なかったんだ、許せ」

「うむむむむ……中々やりおる、こうなったら精神錯乱波をもっと強く……あ、コラ、何をする!」
「ごめんなさい、でももうその変な光線出すの止めてもらえないかしら?」
「目が、目が見えん……なんだこれは? やけに柔らかいもので目が……」
「あなたの目って大きい上に随分と奥まってるんだもの、ちょっと出っ張ってるところじゃないと塞げないのよ」
 膝立ちになったレディ9がボーを正面から抱きかかえている、ボーの目を覆っているのは……レディ9の胸から形良く突き出した二つの柔らかい塊……。
「オイ! 離せ! 離さんか!……離すのだ……離してもらえんかの……いや、もうちょっとこのままでも良いかのぉ……」
 初めはジタバタしていたボーだが、次第に大人しくなった。

 そして錯乱波に対抗して『気』を遣う必要はなくなったセイコは、ボーが発散している『気』に意識を集中する……すると、ニ百年ほども前の、ある光景が浮かんで来た……。

 ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

 酋長であり、最強の戦士でもあるボーの前に息せき切って報告に現れた戦士。
 そう、およそ二百年前、ボーは勇猛果敢で知られるツエ―族の酋長だったのだ。
「白い肌を持つ種族が攻め込んで来ます、見たこともない武器を持っていて、槍を投げても届かないような遠くから狙い撃ちにされて仲間が何人も倒されました!」
「飛び道具とな? 弓矢か? それとも吹き矢か?」
「いいえ、筒状の武器ですがはるかに強力です、バンと言う大きな音がしたかと思うと仲間が胸を貫かれて倒れました、そして筒からは煙が」
「尋常ならざる事態じゃな……ものども! ワシに続け! 敵を打ち破り、村を守るのじゃ!」
「「「「オーッ!!!」」」」
 報告に来た戦士の道案内でボーたちが村を出ると、敵はもう目前まで迫っていた。
 パァン!
 敵が筒を構え大きな音を響かせると傍らに居た戦士が頭を撃ち抜かれて倒れた。
「く……くそっ」
 ボーは槍を投げようと身構えた、だがこの距離では容易に避けられてしまう、毒を塗った矢もこの距離では届かない。
 パァン!
 パァン!
 更に大きな音が響くと、村の戦士が二人、もんどりうって倒れるのが目に入った。
 なす術がない……だが、だからと言って仲間がやられて行くのを、指を咥えて見ていることなどできようはずもない。
 パァン!
 どうすれば良いかわからないボーの隣で、また一人戦士が倒れた。
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
 烈火のごとき怒りに駆られたボーは雄たけびを上げて突進する、だが……。
 パァン!
 パァン!
 最初の一発で脚を撃ち抜かれ、二発目で右腕を槍ごと吹飛ばされた。
 走ることもできず、槍を振るうことも矢を射ることもできなくなったボーに向かって敵はまだ煙をあげている武器を構えながら近付いて来た。
「貴様らは何者だ……何しに来た……」
 ボーが声を絞り出すようにしてそう言うと、通訳らしき男が進み出て来た。
「我々は開拓者さ、ここよりずっと文明が発達したヨーロッパと言うところからはるばるやって来たのさ、この土地は我々が頂くことにするぜ」
「何を勝手なことを……」
「ここは水も豊富で農場にするのに好適だ、森を焼き払って畑を作るのさ」
「そんなことはさせん……」
「フン、槍を振り回すことしか出来ん未開人が何をほざくのだ……安心しろ、皆殺しにはせん、女子供は奴隷として農場を拓く労働力として生かしておいてやろう」
「うおぉぉぉぉ!」
 パァン!
 左腕一本で掴みかかろうとしたボーに銃口が向けられ、頭を吹き飛ばした……。
『気』を読んでいるセイコの頭にも激痛が走るほどの衝撃……ボーの意識はそこで途絶えた、だが頭を吹き飛ばされてなお、ボーの『気』は残り記憶を刻んでいた、セイコはなおその『気』を辿った……。
 ボーが命を落としたその頃、呪術師でもあった村の長老は密かに村から女子供を連れ出していた。
 そしてボーの亡骸を見つけると、心臓を抉り出して皮袋に入れて持ち去った……。

 長老とその時助けられた女子供は更なる奥地にひっそりと新しい村を作った、長老は乾燥させたボーの心臓を仕込んだ木彫り人形を作って村の守り神とし、村は現代までひっそりと存在し続けていたのだ……死神博士が現れるまでは……。
 
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

「ボー・デクノ酋長……」
 セイコは穏やかに語り掛けた。
「ん? なぜにワシが酋長であったことを知っている?」
「あなたは強い『気』を発しているわ、だからそれを読んだの」
「ふむ……娘、お前には他の者とは違う『気』を感じておったが……何者なんじゃ?」
「あたしは陰陽師……日本に古くから伝わる……そう、あなた方にとっての呪術師のような者よ」
「そうであったか……して、何を読んだ?」
「あなた方の村が白人に襲われて、戦士はことごとく銃で撃たれて殺された……」
「そうじゃ、奴らを許すわけには行かん」
「あなたも手足を撃たれて、最後には頭も撃たれて死んだ……」
「そうじゃ……あんなに無念なことはなかった」
「村の女子供は長老に連れ出されて無事だったけど、村は奪われ、森は焼き払われて農場に変えられた……」
「うむ……」
「あなたは生きていた頃のボーの心臓を仕込まれた人形、そして今の今まで村を守って来たのね?」
「……確かに……『気』を読めると言うのは本当らしいの」
「あなたの怒りが二百年経っても消えていないのはよくわかるわ、でもショッカーなんかに利用されちゃ駄目」
「じゃが、ワシは白人どもに復讐できる機会を二百年待ち続けておったのじゃぞ、奴らはその機会を与えてくれると約束したのじゃ」
「確かにショッカーと行動を共にしていれば復讐は果たせるかもしれない、でもショッカーは世界征服を目論む悪の秘密結社よ、あなたの故郷だってきっと我が物にしようと考えてるわ」
「むむ……」
「良く考えてみて……ショッカーがやろうとしていることは、二百年前にあなたの故郷を奪った白人がした事と同じなの、あたしたちは世界の平和を守ろうとショッカーと戦っているの、あなたが村を守ろうとしたのと同じように」
「守る……か……」
「ええ、そう、人は愛するものを守ろうとする時に強くなれるものよ、それがなぜだかあなたにもわかっているでしょう?」
「……ああ……それが正義だからだ……」
「そう、誰かの大切なものを奪おうとする戦いに正義はない、そして、復讐は更なる復讐しか招かない……違うかしら?」
「娘……お前の言う通りだ、今になって復讐を果たしたとして何になろう……あの時からもう二百年も経っているのだ、戦士を殺し、村を奪った白人たちの子孫が残っていたとしても彼らには罪はないな……わかった、ワシも村に戻って守り神としての使命を全うすることとしよう」
「わかってくれてありがとう……」
「それはこちらの台詞だったな……ワシも道を踏み外さずに済んだ、礼を言おう……じゃがもう少しだけ力を貸しては貰えぬか?」
「あたしにできることなら」
「少しばかり『気』を貸して欲しいのじゃ、元の村に転移するにはワシの『気』だけでは少し足りんのじゃよ」
「そんなことならお安い御用よ……」
「おお、『気』が溜まって行く……もう充分じゃ、重ねて礼を言う……では、さらばじゃ」
 そう言い残すとボー・デクノはその場から消え去って行った。

「うう……」
「おお……」
「ライダー、ライダーマン、気が付いたか」
「マッスル……俺はいったい何を?」
「ボーが放った精神錯乱波に惑わされて暴れていたのさ」
「君が止めてくれたのか?」
「少し手荒な真似をしないわけにいかなかったが……」
「いや、構わない、誰かを傷つけるより百倍ましだ……止めてくれてありがとう……だが、君はどうやって正気を取り戻したんだ?」
「それは……」
 その時、アベノセイコこと安倍晴子が会話に割って入った。
「志のぶさんのおかげ、志のぶさんのキスで正気に戻ったのよ」
「お、おい、晴子ちゃん、止めてくれよ、気恥ずかしいじゃないか」
「そんなことないわ、素敵だったわよ、愛の力で正気に戻るなんて」
「愛の力か……それが人間にとって一番の力なのかもしれないな……」
「そうだな、男女間の愛に限らず、家族愛、郷土愛、仲間を愛する気持ち……そして正義を愛する心……それがあるから俺たちは戦えるんだ、愛するものを守るために……」
「ええ、そうね……」
 晴子はそう相槌を打った……。
 でも、心の中でこうも思っていた。
(あたしが生涯かけて愛する人、あたしを生涯愛してくれる人は一体いつあたしの前に現れてくれるんだろう)……と。


(終)

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