罠だ! ライダー!

文字数 9,228文字

(お題コミュ作品ではありません、今話題のあの人……かどうかは読んでくださる方の感性にお任せします) 


「立花、テレビのニュースは見たか?」
「ああ、見たとも」
 おやっさんこと、立花藤兵衛が電話で話している、相手は内閣官房長官・菅野氏だ。
 おやっさんがライダーチームの参謀役だということは秘密、総理ですら知らない、だが菅野官房長官だけは別、高校時代からの友人なのだ。
 そして、表立ってはいないものの、菅野氏は官房長官に就任する前からライダーチームをサポートしてくれている。
 テレビで流された映像、それはショッカーのアジトからのもの。
 映っているのはショッカーの戦闘員二人と自称・フリージャーナリストの安藤耕平氏だ。

 安藤氏が拘束されるのは今回が初めてではない、中東の紛争地に取材に行ってはテロリストグループに拘束されること過去三回、今回のショッカーで四回目になる。
 映像の中で安藤氏は幌布の拘束衣を着せられていて、左側の戦闘員は喉元にナイフを突きつけ、右側の戦闘員は両手で握った大刀を今にも振り下ろしそうに振りかぶっている。
 そして、ナイフの戦闘員に促されるように安藤氏が口を開いた。
「今、非常にひどい環境にいます、このままでは殺されます、助けてください」

 映像はそこで終わっている。
「写っているのは安藤氏であることは確認されたよ、声紋分析した結果声も本人のもので間違いないそうだ」
「この映像の中ではショッカー側からの要求はまったくないが」
「政府には届いているよ、身代金3億だ」
「渡せばそれはショッカーの資金になるぞ」
「ああ、それが新たな犯罪を助長する、しかも悪しき前例を作ることにもなる、こちらはそう考えているんだがマスコミは『見殺しにする気か、命の軽視だ』と言い立てるだろうな」
「ジャーナリストの連帯感か……」
「私は彼をジャーナリストとは認めていないがね」
「確かに……そもそもショッカーのアジトに潜入して何を伝えるつもりだったんだろうな、我々ライダーチームや警察、自衛隊には有用な情報かもしれないが、一般市民には無用な情報だよな」
「以前中東で拘束された時もたいしたルポはしていないんだ、地元民のSNSで得られる情報のほうが余程正確で詳細だった」
「自己満足か」
「いや、そればかりじゃない、テロリストの要求は身代金だけじゃないからな」
「そうだったな、自衛隊を撤退させろと言う要求もあったな」
「そうなんだ、政府が突っぱねることを見越して、政府批判の材料を提供するようなことばかりだ、しかも政府は身代金など一切支払っていないのに何故か無事に解放され、ほとぼりが冷めた頃、自粛を求める政府を批判して戦地に乗り込んではまた拘束されるんだ、と言って犯罪を犯しているわけではないからパスポートを取り上げることも出来ない、政府としてはわざわざ人質になりに渡航するのを歯噛みしながら見守るしかないんだよ」
「まるで人質のプロだな」
「ああ、彼の活動資金はどこから出ているのかもわからない上に、テロリストも要求だけをアナウンスしてしばらくすると彼を解放するんだ、立場上これ以上言えないが……」
「グル……ってことかもしれないな」
「まあ、コメントは差し控えておこう、だがこれだけは言っておかなきゃいけない」
「我々ライダーチームをおびき出そうとしている……これは罠だということだな?」
「そうだ」
「だがショッカーの犯行と公表している以上、ライダーチームが見逃すわけには行かないのを……」
「ああ、それを見透かしていると思う、これは極秘なんだが、お前にだけは知らせておくよ、ショッカーの資金源は……」
「官房長官の口から言わなくてもいいさ、戦闘員がポロリと漏らしたことがあるんだ、赤い大国が糸を引いてることくらい知っているさ」
「そうか……救出の必要があるかは別にして、くれぐれも気をつけてくれ」
「わかってるよ、秘策があるんだ」


ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


「さすがにそれはちょっと……」
 おやっさんに相談を持ちかけられた安部晴子こと、陰陽師・アベノセイコは顔を曇らせた。
「頼む、動きの素早さ、生命力の強さ、どこにでももぐりこめる隠密性、それとどこにでも出没する普遍性、どれをとってもこれ以外にないんだ」
「確かにそうですね……う~ん、仕方ないです、やります」
「おお、頼んだよ」
 おやっさんの秘策、それは式神を使ってアジトを探ること、その式神に選ばれたのは……ゴキブリだった、晴子は、と言うよりも大抵誰でもゴキブリは苦手、だがおやっさんの言うとおりこれ以上適格な候補はない。
 晴子に呪(しゅ)をかけられ式神となったゴキブリはショッカーのアジトめがけて飛び立った……う~、正義の味方、その協力者の雄姿だが、正直言って見たくない……。

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


「どうだった?」
 スナック・アミーゴに戻ったゴキブリは、あまり描写したくない人の姿を借りて報告する。
「安藤氏はショッカーの社員食堂で楽しげに食事してました、エリート戦闘員にしか与えられない個室で快適に過ごしているようです」
「やはり……グルだったんだな、それを世間に知らしめることが出来さえすれば何も罠と知っていて乗り込む必要もないんだが」
「すみません、ゴ……昆虫の姿ではカメラは持ち歩けないので……」
「仕方ないさ、怪人は?」
「すみません、ラボにはゴ……虫一匹入り込めませんでした、ただ、ラボの科学者たちの食堂での会話から推測すると新たな怪人は4体用意されているようです、具体的にどのような怪人かまではわかりませんでしたが」
「そうか、それだけでも判っていれば随分と違う、それと我々を迎え撃つ為の罠、仕掛けは?」
「それは詳細に……」
 式神は丁寧な見取り図を描いてくれた。
「おお、これは有難い、ありがとう、助かるよ」
「お役に立てて光栄です」
 呪(しゅ)を解かれた式神は元のゴ……昆虫となってアミーゴのキッチン……ではなく、窓の外へと飛び立って行った……。


ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


「わはは! ライダー共よ、待ちわびたぞ、今日こそ貴様らを抹殺してくれるわ!」
 ショッカーのアジト前でライダーチームを迎えたのは、本人はファラオのマスクにキングコブラのエッセンスを取り入れた姿だと主張するものの、見ようによっては怪人・ゴキブリ男に見えなくもない地獄大使だ。
「ライダー、助けに来てくれたんですね!」
 安藤はいかにもひどい目に会わされていた風を装って、目の下に隈を描き、ぼろぼろの服を身に着けて、白々しく言う。
「安藤さん、無駄だよ、あなたがショッカーとグルになって今回の茶番を演じているのは判っているんだ」
「な、何をおっしゃるので?」
「戦闘員たちと楽しく食事し、こぎれいな個室を与えられる人質などいないよ」
「……どうやって調べたか判らないが、そこまで知っているなら仕方がない」
 安藤はみるみるうちに変身して行った。
「その姿は……なるほど、カワウソか、なんともぴったりだな」
「手足が短くてなんだか小動物という感じしかしないが」
 マッスルがそう言うと、ライダーマンが諌めた。
「油断するな、カワウソは肉食性なんだ、鋭い爪で狩をして発達した歯で骨まで噛み砕く、手足が短い体は水中でも敏捷に動けるし、水かきも持っている」
「ほう、なかなかの戦闘力なんだな」
「ああ、それに古来カワウソは人を化かすと言うな」
「なるほど、大人しそうに見せかけて実は凶暴、人を化かすのも得意とはな、正に奴にぴったりだな、奴は俺に任せてくれるか?」
「いや、奴だけは生け捕りにしたい」
「なるほど」
「策があるんだ、私に任せてもらおう」

 安藤がカワウソ男に変身したのを合図にしたように、残り3対の怪人も姿を現す。

「ありゃパンダ男だな、またもや子供たちの夢を壊すようなマネを」
「マッスル、ああ見えてパンダは強暴だぞ、力も強い、君に任せて良いか?」
「おう、望むところだ」

「あれは猫女ね」
 女怪人の出現にレディ9が反応する。
「失礼ね、猫娘と呼んで欲しいわ」
 自ら猫娘と名乗る女怪人だが……。
「う~ん、娘と呼ぶのは無理があると思うわ、どう見てもアラフォーでしょ? サバを読みすぎじゃない?」
「きぃっ! 猫は人間より寿命が短いのよ! こう見えてもティーンエイジャーなんだから!」
「そのわりに尻尾が二股に分かれてるようだけど?」
「あんた、言いたい放題じゃない? あんたの相手はあたしよ!」
「レディ9、アレは君に任せるが、気をつけろよ」
「わかってる、いわゆる猫又ですものね、妖術を持ってるかもしれない、でも、だったらやっぱり相手はあたしよ」

「大きな翼を持っている怪人だな、鷲男か?」
「いかにも、ライダー、ワシの急降下攻撃を受けられるかな?」
 過度に尊大な態度、だがそれだけの力はありそうだ。
「ライダー、鷲はさまざまな地域で力の象徴にもなっている、空を飛ぶ相手にはやはり君の跳躍力がなければ対応できない、だがくれぐれも……」
「わかっているさ、ライダーマン、油断などしないさ」

 かくしてショッカー本部前の荒地で四極に分かれての戦いが始まった。


ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


 ブン! 
 パンダ男が熊猫パンチを繰り出し、マッスルはかろうじてそれをかわした。
「ほう、見た目よりスピードがあるんだな」
「スピードだけじゃないぜ」
 次に繰り出して来た熊猫パンチをマッスルがよけると、そのパンチは岩を砕いた。
「危ねぇ危ねぇ、こいつを食らったら強化スーツを着ていてもただじゃ済みそうにねぇな」
「俺の武器はパンチだけじゃねぇぜ」
 パンダ男は得意のでんぐり返し、しかし遊んでいるわけではない、でんぐり返しを連続するうちにみるみる加速し転がる岩のようになってマッスルを襲う、しかしマッスルはそれをがっちりと受け止めた。
「お前はパワー自慢のようだが、パワーなら俺も負けないぜ」
「だが、お前にこれはないだろう?」
「うおっ!」
 マッスルに受け止められたパンダ男がマッスルの肘に噛み付いたのだ。
「パンダは草食だと思ってないか? 実は雑食なんだよ、しかも竹をバリバリと噛み砕くこの牙と顎は強力だぜ」
 パンダ男は噛み付いた肘をぐいぐいと引っ張る、このままでは噛み千切られてしまう。
「ならばこうだ!」
「ぐぇっ!」
 マッスルは噛み付かれた肘を引くのではなく、逆に押し付けるようにして至近距離からの体当たり、体重が後ろにかかっていたパンダ男は堪らずにひっくり返り、後頭部をしたたかに打ち付けた。
「うむ……牙が多少食い込んだ様だが傷はそう深くないな……強化スーツに感謝だぜ」
「くそっ!」
 怒りに任せて突進するパンダ男、それをかわしながらパンチを打ち込むマッスル。
 戦況はマッスル優位と見えたが……。
「マッスル! そこは!」
 セイコの声にマッスルははっとした。
 ゴ……昆虫式神が詳細に調べ上げた罠の数々、今マッスルが背にしているのは底に無数のナイフが立てられた深い落とし穴の縁だ、次の突進をまともに受ければ落とされてしまう、しかもパンダ男は至近距離からの突進の構え。
「ままよ!」
 マッスルは背後へと大きくジャンプした。
 落とし穴の広さまでは詳細にわかっていない、だが活路はそこにしかないのだ。
 スタッ。
「ふ~……どうやら飛び越せたようだな」
「うぐぐぐぐぐ……」
 パンダ男が歯噛みしている、もう一息でマッスルを始末できたのに、という無念さからだ、だが、パンダ男も当然そこからは突進できない、
「いいものがあったぜ」
 マッスルが手にしたものを見てパンダ男の顔色が変わった……おそらくは……。
 マッスルは手にしたものをパンダ男に向かって転がす……トラックの古タイヤ、足腰の訓練などに使うために積み上げてあったのだ。
「ぐぅぅぅぅぅぅ」
 パンダ男がぶるぶると震え始める。
 遊びたい……タイヤを目にしてパンダの本能とも言うべき遊び心に突き動かされているのだ。
「ほら、ほれ、もう一丁」
 4本目のタイヤは大きく弧を描いて転がり、抗し難い中空の輪がパンダ男の目の前に……パンダ男は本能に負けた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ……」
 パンダ男はタイヤに顔を突っ込んだまま奈落の底へと落ちて行った。


ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


「猫熟女!」
「きぃっ! 猫娘と仰い!」
「あら、熟女って別に蔑称じゃないわよ、あたしだって四捨五入すれば30代だもの、熟してるって言われて別に悪い気はしないけど?」
「それでもあたしは猫娘なの!」
 猫娘こと猫熟女の動きは敏捷だ、そして鋭い爪も露わに猫パンチを繰り出し、牙を剥いて噛み掛かって来る。
 しかし敏捷性ではレディ9も負けてはいない、猫娘こと猫熟女の攻撃をひらりひらりとかわして行く……猫の弱点のひとつはスタミナ、瞬発力に優れている分、スタミナには欠けるのだ。
「ふ~っ、ふ~っ、ふ~っ……あんた逃げてばっかりでとんだ弱虫ね」
「何とでも仰いな、あら、スタミナ切れ? 歳は取りたくないものね」
「きぃっ!」
 猫娘こと猫熟女は悔しがるが、スタミナ切れは如何ともしがたい、ならばと、やおら手ぬぐいをかぶって踊り始める、一種の催眠攻撃、ついつい同じように踊りながら後に付いて行きたくなるのだ、だが、忍術を修めたレディ9、日本の妖怪が使う妖術に関しては熟知している、催眠にかからないよう、密かにクナイを手にして指先に傷をつける、その痛みで正気を保つのだ。
 レディ9はそうやって正気を保ちながらも、妖術にかかった振りをして猫娘こと猫熟女の後を追うように踊り始める……ほくそ笑む猫娘こと猫熟女、このまま地雷原に誘い込もうとしているのだ。
 そのレディ9の前に一匹の赤とんぼが現れ、意味ありげに飛び回る。
(晴子ちゃんの式神ね……何を伝えようと……)
 赤とんぼは猫娘こと猫熟女の足跡にとまっては飛び立ち、次の足跡に……。
(もう地雷原に入っているのね、この足跡を正確に辿ればセーフ、外せばアウトってことね……そうだ……)
 レディ9は踊りながら猫じゃらしを一本引き抜き、クナイに結びつけると猫娘こと猫熟女の前にふわりと投げた。

「えっ?……」
 思わず猫じゃらしに飛びついてしまった猫娘こと猫熟女の目が大きく見開かれ、瞳が縦一本線になる。

 ドッカ~ン!

 猫娘こと猫熟女は爆発の直撃こそ何とか避けたものの、爆風で空中高く舞い上がる。
「着地に気をつけてね」
 レディ9の言葉にきっ!となる猫娘こと猫熟女。
「猫を舐めるんじゃないわ! このくらいの高さからなら音もなく着地して見せるわよ!」
「その高さでも?」
「え? あっ、ああああああああああああああああああああああああ……」
 空中で一回転を決めた猫娘こと猫熟女が着地しようとした場所、そこは既に崖の縁の外側。
「あらぁ、50メートルはあるわね、無事に着地できるといいけど」
 猫娘こと猫熟女は『(゚Д゚)』の表情を貼り付けたまま遥か下へと落ちて行った……。


ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


「くっ……手ごわいな」
 ライダーは苦戦していた、鷲男の急降下攻撃は思いのほか速く、爪も鋭い。
 それにも増して脅威なのが嘴攻撃、直撃を食らえば致命傷になりかねない。
 急降下して来るのを正面から迎え撃って羽を狙ったパンチ、キックを浴びせる作戦だったが、大きな羽に似合わず体を瞬時にひねって直撃させない、それに正面から迎え撃って一歩間違えば嘴の直撃を受けてしまう恐れもあるのだ。
 このままではジリ貧だ、罠の位置は頭に入れて戦っていたはずだが、後ろに地雷原、左右に落とし穴と袋小路に追い詰められてしまった。
「くそっ、このままでは……」
 急降下で勢いをつけた鷲男が地面すれすれで水平飛行に移り、正面から迫る。

「ぎゃっ」
 悲鳴を上げたのはライダーではなく鷲男だった。
 大きく広げていた翼、その左の翼から羽が飛び散り、鷲男はコントロールを失って地面に転がった。
「な、何だ! 今のは!」
「晴子ちゃんか!?」
 ライダーが見ると、晴子はお札を高く掲げている。
(助かった!)
 ライダーは晴子に大きく頷いて見せると、晴子も大きく頷いた。
 晴子は親交を持つようになった雪女のお雪から妖怪を呼び出すことができるお札を託されている、今使ったのは一瞬の真空状態を鋭い刃物のように操る『かまいたち』、鷲男にもその攻撃は見えなかったのだ。
 だが鷲男もさるもの、すぐに立ち上がると再び飛び立った。
 しかし、かなりの量の羽を失っている、急降下体勢に入ったものの体が左右にぶれている。
(ここだ!)
 先程までのように微妙なコントロールが出来ないことを見越して狙い済ました回し蹴りハイキックが右の翼の根元を直撃した。
「ぎゃっ」
 小さく叫んだ鷲おとこはそのまま崖面に猛スピードのまま突っ込んで行った。
「ありがとう、晴子ちゃん、おかげで助かった!」
 笑顔を返す晴子、しかし彼女に地獄大使の電磁鞭が迫る。
「危ない!」
 ライダーは鞭を蹴り払おうと大きくジャンプしたが、間に合いそうにない!
 しかし、その瞬間、地面が急にめくれ上がった、いや、『ぬり壁』が立ち上がって晴子を守ったのだ。
「よくやってくれた、ぬり壁! 奴は俺に任せてくれ!」
 ライダーは地獄大使にキックを浴びせようと再びジャンプしたが、地獄大使は煙玉を破裂させて姿をくらませた。


ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


 残るは一極、自称フリージャーナリスト・安藤耕介、その実ショッカーの怪人・カワウソ男VSライダーマンの戦いだ。
 カワウソ男は長い胴体を巧みにくねらせ、短い手足ながら素早い動きでライダーマンのアタッチメントアームによる攻撃を封じる。
 しかしその実、ライダーマンは翻弄される振りを見せながら機会をうかがっていた、彼が装着しているのはロープアーム、一度発射すればロープの回収に時間がかかってしまうのだ、そしてそれでも勝算があったのだ。
 カワウソ男はすばしこいが攻撃力そのものはそう高くない、ライダーマンは強化スーツをボロボロにされながらも辛抱強く勝機を待った。
 一方、カワウソ男は、致命傷を与えられないまでも一方的な展開に調子づいていた……。
(今だ!)
 ライダーマンのロープアームが発射される、だが狙いは遥か上にはずれた。
「ははは、どこを狙っているんだ、焦って墓穴を掘ったな!」
 カワウソ男の高笑いに、ライダーマンは余裕の笑顔を見せて、悠々と右腕に新たなアタッチメントを装着した。
「何っ!」
「墓穴を掘ったのはそちらのようだな、自分たちが設置した罠に自分でかかるとはな」
「くっ……何の!」
 ライダーマンが狙ったのは切り立った崖の上に不安定に設置された岩、ロープアームの衝撃で転げだした岩はたちまち土砂崩れを誘発してカワウソ男に迫る。
 土砂崩れと共に落下して来る岩こそ避けたものの、流れ落ちる土に足をとられて思うように動けない、何とか土砂崩れから逃れたと思うと目の前にはアタッチメントを構えたライダーマン。
「くそっ、これまでか」
「安心しろ、命までは取らないよ、だが今度こそ本当に生け捕りにさせてもらうぞ」
 ライダーマンのアタッチメントから噴出したのは冷凍ガス、カワウソ男はたちまち氷漬けになった。


ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


「見殺しにするおつもりですか!?」
「人の命より大切なものってあるんでしょうか!」

 官房長官の定例会見、記者たちの非難の声を浴びながらも、菅野官房長官は悠然と構えていた。
 新聞各社は安藤を『我が身の危険を顧みず、勇敢にもショッカーのアジトに潜入して不幸にも拘束されてしまったフリージャーナリストの鑑』と持ち上げ、救出に腰を上げようとしない政府を口を極めて批判している、この定例会見はさながら公開処刑になるはずだった。
 そして『政府の対応が注目される』としてTV局もこぞってカメラを入れて生放送している。
 そんな中……。
「ああ、そう、届いたの」
 官房長官は秘書の耳打ちを受けて、記者たちに向き直った。
「面白いものをお見せしましょう」
 運び込まれたのは氷付けのカワウソ男、秘書たちがガスバーナーで熱風を送るとみるみる溶け出して……。
「熱っ! うわっ、何だこれ? 熱っ!」
 解凍されて蘇生したカワウソ男だが、熱風にさらされて思わず変身が解けてしまう。
 そして現れたのは『ジャーナリストの鑑』であったはずの安藤耕平の姿。
 今度は記者席が凍りつく番だった……。


ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!


「ありがとう、おかげで溜飲が下がったよ」
 菅野官房長官がおやっさんに感謝の電話を入れている。
「これでマスコミも反政府一点張りから方向転換するかな」
「いや、そんなに甘くはないよ、生放送で流れたわけだが、明日になれば何事もなかったようにまた反政府を始めるだろうよ」
「何にもならなかったわけか……」
「そんなことはないよ、マスコミの態度は変わらないだろうが、マスコミの報道姿勢に疑問を持つ人はぐんと増えたはずだ、彼らが公正な報道をしているかどうか、そこに疑問を持つ人が増えれば上々だよ」
「……道は長いな……」
「ああ、確かにな……だが、間違いなく一歩も二歩も進むことが出来たはずだ、確かにマスコミには権力を監視すると言う役目があるかもしれない、だが、そのマスコミもまた監視されなければならない、その役目を負うのは日本国民だよ、日本国民の大多数が偏向報道に惑わされず、自分の頭で考えるようになる、それが民主主義国家の理想の姿なんだよ……」


(終)


※この物語はフィクションであり、実在の人物や団体等とは関係ありません。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み