第37話 不破と灰谷は魔船にて共闘する②
文字数 3,194文字
「おい彩藍、お前…何やってるんだ?」
穴から顔を覗かせた童士の問いに彩藍は、ヘラヘラと笑いながらグスタフ・ヨハンセンを黒烏丸の切先で指し示しながら応える。
「え〜?
船室のめぼしいお宝を殆ど回収し終わって、待ち合わせ場所まで行ったけど…童士君が来とれへんみたいやし。
仕方 ないから階段を昇ってみて、ここまで着いたら童士君が化け物に捕まって半殺しの目に遭 うとるやん?
よう判らんけど、相棒としては助けてあげなアカンと思ってね。
後ろから肩をぶっ刺したったら、手ぇ離してくれて良かったわ」
どこまでも緊張感の欠片も感じさせない彩藍の返しに、童士の怒りは爆発した。
「誰が半殺しにされてるんだよっ!!
ちょっとだけ…攻め込まれてただけじゃねぇか。
ま、まぁ…俺の危機 だと思って助けてくれたことには…感謝してるけどな」
実際のところグスタフ・ヨハンセンによる死の抱擁から逃れられなかった童士としては、彩藍の助太刀に感謝せざるを得ないことは明白ではあった。
「へ?
僕は別に、童士君の危機を救った訳やないよ。
童士君におっ死なれたら前回分の貸付が、回収不能の不良債権になってしまいますやん。
それに…今回の分も、しっかりガッツリ上乗せしとくから…ね?」
不思議そうな顔で童士の感謝を踏み躙る彩藍の言葉に、童士は怒りを通り越して呆れ果ててしまう。
「あぁ!そうかよっ!
お前みたいなヤツに感謝した俺が馬鹿だったよ、本当に…お前ってヤツはどうしようもねぇな!」
童士が吐き捨てるように言うと、蹲っていたグスタフ・ヨハンセンがのっそりと立ち上がる。
「貴様達…私に傷を付けたな…二人とも纏めて縊り殺してくれるわっ!!」
当初は童士にだけ向けていた怒りと憎しみの視線を、彩藍にまで範囲を拡大させたグスタフ・ヨハンセンがギラギラと燃え立つような殺意を溢れさせる。
「なぁなぁ童士君、この大っきい化け物の人が僕にまで怒ってはるんやけど…何がどないしたんやろうなぁ?」
すっ惚 けた彩藍の物言いに、童士は呆れついでに溜息混じりで告げる。
「俺とグスタフ・ヨハンセンの果たし合いに乱入して、ヤツの肩に一撃を喰らわしたんだから…お前もヤツの的になっちまったってことだろう。
お前はそんな単純なことも判らんのか?」
童士の言葉に彩藍は、心底不思議そうな面持ちで憤慨する。
「そんなん八つ当たりと違 うのん?
ホンマ不っ細工な化け物やからって、僕みたいな美男子 に当たり散らすのは勘弁して欲しいわぁ」
まったくもう、と面倒臭そうにぼやく彩藍に、童士もまた面倒臭そうな声を掛ける。
「おいおい…あちらさんもかなり焦れているみたいだぞ。
そろそろお喋りは止めとかないと、強烈な一撃を貰っても俺は知らんからな」
童士の声が聞こえたかどうかは知る由もないが、怒りに震えるグスタフ・ヨハンセンが殺意を満載した左腕の鉤爪を振るって、彩藍に対して攻撃を仕掛ける。
「おぉっとぉ!
何しよんねんオッさん!
不意打ちとは卑怯やないかいっ!!」
飛び退いた彩藍が立っていた位置に、グスタフ・ヨハンセンの鉤爪が突き刺さる。
「いや…ヤツを背後から刺したお前が言って良い台詞じゃないだろう…」
童士の突っ込みにも彩藍は、どこ吹く風の様子で言い返す。
「そんなモン戦闘中やのに、後ろからの気配を察知も出来へんコイツが二流なんやろ?
僕やったら普通に振り返って、やられる前にやり返しとるわ」
彩藍の言葉に更なる怒りの炎を滾らせたのか、グスタフ・ヨハンセンは彩藍に向けて猛攻を仕掛ける。
全身を使ったぶちかましから始まり、左鉤爪での斬り払い、そして傷付いた右腕を用いての鋭い刺突。
彩藍はその悉くを横に退いて躱し、しゃがみ込んで逸らし、そのまま転がりながら避ける。
「って…おいおい、何やメッチャ怒っとりますやんこの人。
自業自得感が満載やのに、逆ギレにも程があるんちゃう?」
あくまでものんびりとした口調の彩藍に、流石の童士も突っ込みを入れる。
「彩藍よ…そろそろ本気を出して掛からないと不味いんじゃないか?
グスタフ・ヨハンセンと云う怪物は、中々の強者だと俺は思うぞ」
フフンと鼻で笑いながら、彩藍は童士に告げる。
「そやけど…童士君と僕の二人で行ったったら、そないに手間でもないん違う?
流石に一人で相手するのは、骨が折れそうな怪物さんやけどね」
彩藍の誘い水に、童士も同意の意思を告げる。
「まぁ…お前の主目的も終わったのなら、俺達二人で片付けようか。
本意ではないが、ハイドラも此処に居ないのであれば…長居する意味もないからな」
童士と彩藍、二人の太々しい態度に…グスタフ・ヨハンセンも怒り心頭に発したようだ。
「貴様等!!
私を馬鹿にするのも大概にしろっ!!
その身体を切り刻んで後悔させてやるっ!!」
雄叫びと共にグスタフ・ヨハンセンの身体は、彩藍の許へと飛び掛かる。
両手を伸ばした姿勢で、両の鉤爪を彩藍の胸元へ刺突を繰り出す。
彩藍はグスタフ・ヨハンセンの着地の時点で、その左側へと廻り込み無傷の左腕を黒烏丸で切り裂く。
童士もガラ空きとなったグスタフ・ヨハンセンの後方へと移動するや否や、天星棍を横様に振るってその膝裏に強く叩き付ける。
「ゴッ!!グアァァァァッ!!」
グスタフ・ヨハンセンは既に傷を負わされた右腕に加え、左腕と両脚に深刻な負傷 を受けて…着地もままならず突進の勢いのままにもんどりうって倒れ伏した。
膂力では童士に勝るとも劣らないグスタフ・ヨハンセンではあったが、巨体を動作させる速度においては彩藍に…そして童士にも大きく劣っていたようだ。
「何故だ…何故に…私が…このような下等な…生き物に…遅れを取るのだ…」
四つん這いの姿勢のまま、口惜しさを言葉の端々に滲ませ…グスタフ・ヨハンセンが吠え立てる。
「それはお前の動きが遅いからだ」
「アンタが鈍間 やからやね」
童士と彩藍から同時の指摘を受け、グスタフ・ヨハンセンはその場に崩れ落ちる。
「力を求めて…力を手に入れたが…それにより失われた…物が…私の弱さと…なってしまったのか………エーヴァよ…我が最愛の妻よ…先に逝く私を…許してくれ…船室にて…待って居てくれる…エーヴァよ………」
グスタフ・ヨハンセンの独白を彩藍が、眉を顰めて聞いている。
「なぁなぁグスタフさん?
アンタの奥さんって、特等船室に居った金髪で青い眼の別嬪さんかいな?」
彩藍の問いに、グスタフ・ヨハンセンは不審そうに応える。
「あぁ…そうだ。
何故にお前が知っているのだ?」
グスタフ・ヨハンセンの問いに、彩藍が戦利品を取り出して見せる。
「じゃあ…この指輪と首飾りと金の像は奥さんの物?
それやったら安心してよ、魚頭になっても大事そうに抱えてたから…ちゃあんと息の根を止めてから譲り受けたからね」
彩藍の言葉を聞くなりグスタフ・ヨハンセンは、膝を付いた姿勢のまま顔を覆って笑い出した。
「フッ!ウワッハッハッハッハアッ!!
我が妻エーヴァは…もう既に亡き者だったと云うのか…。
ならば私には、もう何も残っていないのだな。
不破童士、そして灰谷彩藍よ…。
この船には、セント・タダイ号の機関室には…私の生命と連動した自爆装置が仕掛けられているのだ。
我々夫婦と乗組員…この船で死んだ全ての者の恨みと憎しみと共に、セント・タダイ号を貴様等の墓標としてくれるっ!
我等が還る母なる海へ沈むが良いわっ!!」
そう叫ぶと同時にグスタフ・ヨハンセンは、己が頭を両手で引きちぎった。
胴体と泣き別れた頭部と頚部から、グスタフ・ヨハンセンの体液が噴水のように噴き上がる。
その刹那、童士と彩藍の足元から衝撃と地響きのような音が操舵室に響き渡った。
ズズズ…ともゴゴゴ…ともつかぬ轟音と振動と共に、セント・タダイ号の操舵室は大きく傾ぎ始めた。
互いの顔を見合わせた童士と彩藍は、操舵室の出口へと向かって脱兎の如く疾り出した。
穴から顔を覗かせた童士の問いに彩藍は、ヘラヘラと笑いながらグスタフ・ヨハンセンを黒烏丸の切先で指し示しながら応える。
「え〜?
船室のめぼしいお宝を殆ど回収し終わって、待ち合わせ場所まで行ったけど…童士君が来とれへんみたいやし。
よう判らんけど、相棒としては助けてあげなアカンと思ってね。
後ろから肩をぶっ刺したったら、手ぇ離してくれて良かったわ」
どこまでも緊張感の欠片も感じさせない彩藍の返しに、童士の怒りは爆発した。
「誰が半殺しにされてるんだよっ!!
ちょっとだけ…攻め込まれてただけじゃねぇか。
ま、まぁ…俺の
実際のところグスタフ・ヨハンセンによる死の抱擁から逃れられなかった童士としては、彩藍の助太刀に感謝せざるを得ないことは明白ではあった。
「へ?
僕は別に、童士君の危機を救った訳やないよ。
童士君におっ死なれたら前回分の貸付が、回収不能の不良債権になってしまいますやん。
それに…今回の分も、しっかりガッツリ上乗せしとくから…ね?」
不思議そうな顔で童士の感謝を踏み躙る彩藍の言葉に、童士は怒りを通り越して呆れ果ててしまう。
「あぁ!そうかよっ!
お前みたいなヤツに感謝した俺が馬鹿だったよ、本当に…お前ってヤツはどうしようもねぇな!」
童士が吐き捨てるように言うと、蹲っていたグスタフ・ヨハンセンがのっそりと立ち上がる。
「貴様達…私に傷を付けたな…二人とも纏めて縊り殺してくれるわっ!!」
当初は童士にだけ向けていた怒りと憎しみの視線を、彩藍にまで範囲を拡大させたグスタフ・ヨハンセンがギラギラと燃え立つような殺意を溢れさせる。
「なぁなぁ童士君、この大っきい化け物の人が僕にまで怒ってはるんやけど…何がどないしたんやろうなぁ?」
すっ
「俺とグスタフ・ヨハンセンの果たし合いに乱入して、ヤツの肩に一撃を喰らわしたんだから…お前もヤツの的になっちまったってことだろう。
お前はそんな単純なことも判らんのか?」
童士の言葉に彩藍は、心底不思議そうな面持ちで憤慨する。
「そんなん八つ当たりと
ホンマ不っ細工な化け物やからって、僕みたいな
まったくもう、と面倒臭そうにぼやく彩藍に、童士もまた面倒臭そうな声を掛ける。
「おいおい…あちらさんもかなり焦れているみたいだぞ。
そろそろお喋りは止めとかないと、強烈な一撃を貰っても俺は知らんからな」
童士の声が聞こえたかどうかは知る由もないが、怒りに震えるグスタフ・ヨハンセンが殺意を満載した左腕の鉤爪を振るって、彩藍に対して攻撃を仕掛ける。
「おぉっとぉ!
何しよんねんオッさん!
不意打ちとは卑怯やないかいっ!!」
飛び退いた彩藍が立っていた位置に、グスタフ・ヨハンセンの鉤爪が突き刺さる。
「いや…ヤツを背後から刺したお前が言って良い台詞じゃないだろう…」
童士の突っ込みにも彩藍は、どこ吹く風の様子で言い返す。
「そんなモン戦闘中やのに、後ろからの気配を察知も出来へんコイツが二流なんやろ?
僕やったら普通に振り返って、やられる前にやり返しとるわ」
彩藍の言葉に更なる怒りの炎を滾らせたのか、グスタフ・ヨハンセンは彩藍に向けて猛攻を仕掛ける。
全身を使ったぶちかましから始まり、左鉤爪での斬り払い、そして傷付いた右腕を用いての鋭い刺突。
彩藍はその悉くを横に退いて躱し、しゃがみ込んで逸らし、そのまま転がりながら避ける。
「って…おいおい、何やメッチャ怒っとりますやんこの人。
自業自得感が満載やのに、逆ギレにも程があるんちゃう?」
あくまでものんびりとした口調の彩藍に、流石の童士も突っ込みを入れる。
「彩藍よ…そろそろ本気を出して掛からないと不味いんじゃないか?
グスタフ・ヨハンセンと云う怪物は、中々の強者だと俺は思うぞ」
フフンと鼻で笑いながら、彩藍は童士に告げる。
「そやけど…童士君と僕の二人で行ったったら、そないに手間でもないん違う?
流石に一人で相手するのは、骨が折れそうな怪物さんやけどね」
彩藍の誘い水に、童士も同意の意思を告げる。
「まぁ…お前の主目的も終わったのなら、俺達二人で片付けようか。
本意ではないが、ハイドラも此処に居ないのであれば…長居する意味もないからな」
童士と彩藍、二人の太々しい態度に…グスタフ・ヨハンセンも怒り心頭に発したようだ。
「貴様等!!
私を馬鹿にするのも大概にしろっ!!
その身体を切り刻んで後悔させてやるっ!!」
雄叫びと共にグスタフ・ヨハンセンの身体は、彩藍の許へと飛び掛かる。
両手を伸ばした姿勢で、両の鉤爪を彩藍の胸元へ刺突を繰り出す。
彩藍はグスタフ・ヨハンセンの着地の時点で、その左側へと廻り込み無傷の左腕を黒烏丸で切り裂く。
童士もガラ空きとなったグスタフ・ヨハンセンの後方へと移動するや否や、天星棍を横様に振るってその膝裏に強く叩き付ける。
「ゴッ!!グアァァァァッ!!」
グスタフ・ヨハンセンは既に傷を負わされた右腕に加え、左腕と両脚に深刻な
膂力では童士に勝るとも劣らないグスタフ・ヨハンセンではあったが、巨体を動作させる速度においては彩藍に…そして童士にも大きく劣っていたようだ。
「何故だ…何故に…私が…このような下等な…生き物に…遅れを取るのだ…」
四つん這いの姿勢のまま、口惜しさを言葉の端々に滲ませ…グスタフ・ヨハンセンが吠え立てる。
「それはお前の動きが遅いからだ」
「アンタが
童士と彩藍から同時の指摘を受け、グスタフ・ヨハンセンはその場に崩れ落ちる。
「力を求めて…力を手に入れたが…それにより失われた…物が…私の弱さと…なってしまったのか………エーヴァよ…我が最愛の妻よ…先に逝く私を…許してくれ…船室にて…待って居てくれる…エーヴァよ………」
グスタフ・ヨハンセンの独白を彩藍が、眉を顰めて聞いている。
「なぁなぁグスタフさん?
アンタの奥さんって、特等船室に居った金髪で青い眼の別嬪さんかいな?」
彩藍の問いに、グスタフ・ヨハンセンは不審そうに応える。
「あぁ…そうだ。
何故にお前が知っているのだ?」
グスタフ・ヨハンセンの問いに、彩藍が戦利品を取り出して見せる。
「じゃあ…この指輪と首飾りと金の像は奥さんの物?
それやったら安心してよ、魚頭になっても大事そうに抱えてたから…ちゃあんと息の根を止めてから譲り受けたからね」
彩藍の言葉を聞くなりグスタフ・ヨハンセンは、膝を付いた姿勢のまま顔を覆って笑い出した。
「フッ!ウワッハッハッハッハアッ!!
我が妻エーヴァは…もう既に亡き者だったと云うのか…。
ならば私には、もう何も残っていないのだな。
不破童士、そして灰谷彩藍よ…。
この船には、セント・タダイ号の機関室には…私の生命と連動した自爆装置が仕掛けられているのだ。
我々夫婦と乗組員…この船で死んだ全ての者の恨みと憎しみと共に、セント・タダイ号を貴様等の墓標としてくれるっ!
我等が還る母なる海へ沈むが良いわっ!!」
そう叫ぶと同時にグスタフ・ヨハンセンは、己が頭を両手で引きちぎった。
胴体と泣き別れた頭部と頚部から、グスタフ・ヨハンセンの体液が噴水のように噴き上がる。
その刹那、童士と彩藍の足元から衝撃と地響きのような音が操舵室に響き渡った。
ズズズ…ともゴゴゴ…ともつかぬ轟音と振動と共に、セント・タダイ号の操舵室は大きく傾ぎ始めた。
互いの顔を見合わせた童士と彩藍は、操舵室の出口へと向かって脱兎の如く疾り出した。