第55話 不破と灰谷は地底洞窟で雌雄を決する①
文字数 2,998文字
転がり込むように現れた突然の闖入者に童士は大いに驚き、華乃=ハイドラに叩き付けるために振り上げた天星棍を、頭上に掲げたまま静止している。
そしてまた華乃=原物 も洞窟広間の入り口付近に立っていたため、彩藍と這い寄る混沌 がほぼ同時に視界に入って来たことに驚愕している。
「彩藍…何を連れて来たんだ?」
童士は呆然とした表情で、彩藍に問い掛ける。
「彩藍っ!何よこの気色悪いブヨブヨの黒いヤツは!?
アンタを追い掛けて来た化け物やないのっ!?
早くどっかにやってしもてよっ!!」
そして華乃は若干怯えながらも、生理的に受け入れ難かったのであろう、黒い粘液状の生物に対しての苦情を彩藍にぶつける。
「童士君、紹介しとくね。
こちらは這い寄る混沌 さん。
愛想 も恋想 もない子やけど…仲良くしてあげたってなぁ。
それと…華乃ちゃん…無事で良かったなぁ。
華乃ちゃんが拐かされてからの、童士君の取り乱しっぷりったらなかったで。
よっ!この男…いや鬼殺しっ!」
彩藍に向けて放たれる、這い寄る混沌 の粘液質の触手を…頭上からの叩き付けは屈んで避け、脚元への払いは飛び跳ねて躱し、胴体を突き刺そうと迫り来るモノは躰を捻りながら逸らしながら、軽業師のような体捌きを見せる彩藍。
そうしながらも童士には問いへの回答を、華乃には無事を労いながらも軽口を叩いてる。
最後に波打ちのたくりながら迫って来た黒い触手を、軽く蜻蛉返りを切りながら躱した彩藍は童士へと問いを投げた。
「それで、童士君?
ハイドラはどないなったん?
もう潰してしもたんかいな?
……んん?
この娘は誰 ?
生っ白 い、華乃ちゃんのそっくりさん…みたいやけど全く似とらんなぁ。
何や全身から、臭 い臭いが漂うとるわ。
何や云うたら、魚頭 の臭いにも似とるけど…この不細工 なお嬢ちゃんの方がエグいな。
腐った魚を魚醤 に浸して、そのまま十日ほど放置しといたら…こんな臭いがしよるんちゃう?」
鼻に皺を寄せて、嫌悪感たっぷりに華乃=ハイドラに眼を向けた彩藍は童士に問う。
「コレがハイドラの成れの果てだ。
俺の精神 を読んで、俺に衝撃を与えるのと…俺が攻撃出来ないようにしたかったんだろうな。
ところで彩藍、お前にはこのハイドラが華乃には見えないのか?」
童士の問いに、彩藍は不思議そうに首を傾げる。
「ん〜?
コレが童士君の目ぇには、華乃ちゃんに見えてんの?
そっちの方が不思議やな…僕にはグニャッと歪んだ鏡に映った『華乃ちゃんっぽい背格好の女の子』にしか見えへんわ。
それに…鼻がもげそうな位に、臭いしなぁ」
顔を見合わす童士と彩藍、その表情には二人が何事かにおいて、合意に至ったようにも感じられる。
「それでは、彩藍にハイドラを任せるぞ」
「じゃあ、童士君は這い寄る混沌 と遊んどいてなぁ」
同時に発言した童士と彩藍、童士は華乃=ハイドラから這い寄る混沌 へ対戦相手を変更し、彩藍は這い寄る混沌 から華乃=ハイドラへと目標を修正した。
童士にすれば中身がハイドラと云う怪物だとしても、華乃にしか見えない外見の少女を殴り飛ばすのも…些かの後ろめたさを感じていた。
彩藍から見れば這い寄る混沌 の現在の躰である、黒い流動体は…彩藍の二刀に依る斬撃とは相性が悪過ぎたのである。
互いに因縁のある相手との再戦から始まった赤煉瓦倉庫での戦いではあったのだが、童士と彩藍の二人に共通する観念は『利益至上主義』とも云うべきものであり、不利益や無駄を排する選択としては互いが戦う敵を入れ替えてしまうなど、合理的で尚且つ論理的帰結としては当然あり得るものであった。
「コ レ が這い寄る混沌 か…彩藍から聞いていたモ ノ とは違い過ぎているな。
どちらかと云うと、知性で他の神格である化け物共を制御するような黒幕 だと思っていたのだが…」
童士の言葉も宜なるかな、這い寄る混沌 の姿は原初の単細胞生物にも似た、知性や知能とは大きくかけ離れたモノとなっていた。
のたくるような蠢きで這いずり回り、時折り見せるゴボゴボと云う息継ぎのような泡も…感情の吐露ではなく、ただの生理的な現象の発露に過ぎないのであろう。
実際に対峙する相手が彩藍から童士に切り替わったとて、這い寄る混沌 自身の認識では別段の差異や変化も見られないようだ。
ただ外界からの刺激が攻撃ならばそのまま攻撃で返し、そうでないならば黙殺するか…そのまま己の栄養源として取り込むかの二択でしかなかった。
「ええいっ!儘よっ!
打ちのめして、それから決めりゃあ良いんだよなっ!」
叫んだ童士も這い寄る混沌 の原始の単純さと、そうは変わらぬ思考回路を以って闘争方針を決定したようだ。
吠えながらも童士は天星棍を振り上げ、這い寄る混沌 に到達する直前に真上へと飛び上がる。
跳躍の最高到達点から急降下する時機を始点に、頭上に構えた天星棍を振り下ろし始める。
自身の全体重を跳躍の落下速度に統合し、打撃力に体重と速度を掛け合わせた超重撃を這い寄る混沌 に打ち付けた。
『ガッ!ゴッォォォォォォン!!』
地底洞窟の広間に響き渡る大音響は、童士の振るう天星棍と洞窟の岩盤が衝突する際に発生した衝撃音であった。
その硬質な地球由来の岩盤と、宇宙より飛来した隕鉄由来の天星棍に挟まれた大質量の衝撃を受けた這い寄る混沌 。
童士の眼に映ったのは、天星棍を叩き付けられた這い寄る混沌 の黒き流動体が打撃の衝撃で震え飛び散る姿であった。
斬撃と比べると打撃による手傷は与えられたようであり、打ち付けられた部位が慄くように蠕動し…少し白っぽく変色したようだ。
しかしながらその傷自体も時間の経過と共に薄れ、更なる時間を要してだが最終的には消え去ったように見えた。
「フム…やはり打撃の方が効いてはいるようだな。
一撃に全てを賭けるのではなく、同一部位に連撃を与えることが効果的なのだろう。
好みではないが、端から叩いて行くか!」
大まかな作戦を決定した童士は、這い寄る混沌 に対して素早い打撃を加え始めた。
軽く速くを主眼に置いた、目にも止まらぬ攻撃と回避 に這い寄る混沌 の触手による反撃も僅かに及ばない。
黒い流動体の端を童士が打つ、変色した部位を更に叩くと…白く変色した部位が千切れ飛び砕ける。
幾度かの攻撃を終えた時、童士の眼前で這い寄る混沌 の黒い液化体が震え蠢く。
ブルブルと戦慄く這い寄る混沌 が突然、その液体のような躰を立ち上げる。
その直後に硬直した流動体から四肢が頭部が生み出され、這い寄る混沌 は全身を触手化した肉体を持つ形態へと再構成された。
「フン、相性の悪さから姿を変化させたのか?
その躰なら俺に勝てると思っているらしいが、そいつは浅はかな考えだと思わないのか?」
ニヤリと笑う童士に対して、触手を揺らしながら間合いを測るような姿勢の這い寄る混沌 。
「その余裕は…私を斃してから見せて貰いたいものですね。
不破童士さん、貴方の攻撃方法も…強みも弱みも私の手の内にあるのですよ」
挑発するような這い寄る混沌 の言葉に、童士は獰猛な笑顔を浮かべて吠えた。
「ドロドロのままでは俺に勝てぬからと云って、悍ましい姿へ変じた手前が…何で勝利宣言してるんだよっ!?
さぁっ!どうやって俺と戦うのか、手前の手の内を見せてみろよっ!」
天星棍を構え直した童士と、全身の触手を揺らす這い寄る混沌 、対峙する両者の間には…眼には見えない蒼き炎が立ち昇っているようであった。
そしてまた華乃=
「彩藍…何を連れて来たんだ?」
童士は呆然とした表情で、彩藍に問い掛ける。
「彩藍っ!何よこの気色悪いブヨブヨの黒いヤツは!?
アンタを追い掛けて来た化け物やないのっ!?
早くどっかにやってしもてよっ!!」
そして華乃は若干怯えながらも、生理的に受け入れ難かったのであろう、黒い粘液状の生物に対しての苦情を彩藍にぶつける。
「童士君、紹介しとくね。
こちらは
それと…華乃ちゃん…無事で良かったなぁ。
華乃ちゃんが拐かされてからの、童士君の取り乱しっぷりったらなかったで。
よっ!この男…いや鬼殺しっ!」
彩藍に向けて放たれる、
そうしながらも童士には問いへの回答を、華乃には無事を労いながらも軽口を叩いてる。
最後に波打ちのたくりながら迫って来た黒い触手を、軽く蜻蛉返りを切りながら躱した彩藍は童士へと問いを投げた。
「それで、童士君?
ハイドラはどないなったん?
もう潰してしもたんかいな?
……んん?
この娘は
生っ
何や全身から、
何や云うたら、
腐った魚を
鼻に皺を寄せて、嫌悪感たっぷりに華乃=ハイドラに眼を向けた彩藍は童士に問う。
「コレがハイドラの成れの果てだ。
俺の
ところで彩藍、お前にはこのハイドラが華乃には見えないのか?」
童士の問いに、彩藍は不思議そうに首を傾げる。
「ん〜?
コレが童士君の目ぇには、華乃ちゃんに見えてんの?
そっちの方が不思議やな…僕にはグニャッと歪んだ鏡に映った『華乃ちゃんっぽい背格好の女の子』にしか見えへんわ。
それに…鼻がもげそうな位に、臭いしなぁ」
顔を見合わす童士と彩藍、その表情には二人が何事かにおいて、合意に至ったようにも感じられる。
「それでは、彩藍にハイドラを任せるぞ」
「じゃあ、童士君は
同時に発言した童士と彩藍、童士は華乃=ハイドラから
童士にすれば中身がハイドラと云う怪物だとしても、華乃にしか見えない外見の少女を殴り飛ばすのも…些かの後ろめたさを感じていた。
彩藍から見れば
互いに因縁のある相手との再戦から始まった赤煉瓦倉庫での戦いではあったのだが、童士と彩藍の二人に共通する観念は『利益至上主義』とも云うべきものであり、不利益や無駄を排する選択としては互いが戦う敵を入れ替えてしまうなど、合理的で尚且つ論理的帰結としては当然あり得るものであった。
「
どちらかと云うと、知性で他の神格である化け物共を制御するような
童士の言葉も宜なるかな、
のたくるような蠢きで這いずり回り、時折り見せるゴボゴボと云う息継ぎのような泡も…感情の吐露ではなく、ただの生理的な現象の発露に過ぎないのであろう。
実際に対峙する相手が彩藍から童士に切り替わったとて、
ただ外界からの刺激が攻撃ならばそのまま攻撃で返し、そうでないならば黙殺するか…そのまま己の栄養源として取り込むかの二択でしかなかった。
「ええいっ!儘よっ!
打ちのめして、それから決めりゃあ良いんだよなっ!」
叫んだ童士も
吠えながらも童士は天星棍を振り上げ、
跳躍の最高到達点から急降下する時機を始点に、頭上に構えた天星棍を振り下ろし始める。
自身の全体重を跳躍の落下速度に統合し、打撃力に体重と速度を掛け合わせた超重撃を
『ガッ!ゴッォォォォォォン!!』
地底洞窟の広間に響き渡る大音響は、童士の振るう天星棍と洞窟の岩盤が衝突する際に発生した衝撃音であった。
その硬質な地球由来の岩盤と、宇宙より飛来した隕鉄由来の天星棍に挟まれた大質量の衝撃を受けた
童士の眼に映ったのは、天星棍を叩き付けられた
斬撃と比べると打撃による手傷は与えられたようであり、打ち付けられた部位が慄くように蠕動し…少し白っぽく変色したようだ。
しかしながらその傷自体も時間の経過と共に薄れ、更なる時間を要してだが最終的には消え去ったように見えた。
「フム…やはり打撃の方が効いてはいるようだな。
一撃に全てを賭けるのではなく、同一部位に連撃を与えることが効果的なのだろう。
好みではないが、端から叩いて行くか!」
大まかな作戦を決定した童士は、
軽く速くを主眼に置いた、目にも止まらぬ
黒い流動体の端を童士が打つ、変色した部位を更に叩くと…白く変色した部位が千切れ飛び砕ける。
幾度かの攻撃を終えた時、童士の眼前で
ブルブルと戦慄く
その直後に硬直した流動体から四肢が頭部が生み出され、
「フン、相性の悪さから姿を変化させたのか?
その躰なら俺に勝てると思っているらしいが、そいつは浅はかな考えだと思わないのか?」
ニヤリと笑う童士に対して、触手を揺らしながら間合いを測るような姿勢の
「その余裕は…私を斃してから見せて貰いたいものですね。
不破童士さん、貴方の攻撃方法も…強みも弱みも私の手の内にあるのですよ」
挑発するような
「ドロドロのままでは俺に勝てぬからと云って、悍ましい姿へ変じた手前が…何で勝利宣言してるんだよっ!?
さぁっ!どうやって俺と戦うのか、手前の手の内を見せてみろよっ!」
天星棍を構え直した童士と、全身の触手を揺らす