第34話 灰谷は勝負に勝って欲望に負ける
文字数 3,001文字
彩藍は黒烏丸を構えたまま、そして深き者どもは拳闘の態勢のまま…特等船室の中をゆっくりと回り続けている。
まるで舞踏会の会場で優雅に踊る、貴族の男女のような立ち居振る舞いであった。
「こんな場所でクルクルクルクル廻っとったら…僕も君も乳酪 になってしまうで。
時間も押し迫っとることやし、早いこと勝負をつけてしまおうな…なぁ?」
言葉では挑発するものの、彩藍は相手の出方を窺い自らが攻勢に出ることが出来ないで居る。
『どうにもやり難いな…今までの魚頭軍団とは違っなて隙もないし、向こうさんの攻撃を迎撃 したるんが一番良さそうやねんけどなぁ…』
彩藍と同様の思考に行き着いているのであろう、対峙する深き者どもも打つ手を見失い戦闘は膠着状態に陥っている。
「仕方 ないなぁ、時間もあらへんし…此方 から行かせて貰いますよっと!」
どうにも焦れてしまった彩藍は、深き者どもの反攻を警戒しながらも刀身 の長い黒烏丸を右手一本に握り西洋剣術 にも似た構えで敵の頭部に向かって突き出す。
その瞬間…深き者どもの眼には面白がるような嘲笑的な色が浮かんだように、彩藍からは見て取れた。
「ギィッ!」
牽制のように軽く突き出された黒烏丸の切先を、頭を横にずらす ことによってギリギリ躱し…態勢を崩すことなく右手の鉤爪で彩藍に突きに掛かる。
擦れ違い様に彩藍の右頬が鉤爪に切り裂かれ、パックリと開いた傷口から鮮血が飛沫となって吹き出す。
「いっ痛 っ!
やっぱりアンタも返し技が狙いやったんやな、流石に鋭い攻撃やって褒めさせて貰うわ。
けどな…後の先では深傷は与えられへんやろ?
こんなんはどないやっ!」
引き続き彩藍は先手を取るために、右手の掌中に掴んでいる黒烏丸を斬り、突き、払いと縦横無尽な攻勢に打って出る。
「ギシャアァァァァァーッ」
突如として放たれる彩藍の猛攻に、深き者どもは狼狽の声を発しながらも逸らし、躱し、いなしながら反攻の機会を狙っているようだ。
数合の攻防が行われた後に、彩藍の攻撃が一呼吸遅れた。
その瞬間を狙い澄ましたように、深き者どもから反攻の狼煙が上げられた。
深き者どもの左右の連続攻撃 が彩藍へと殺到し、先刻とは攻守が入れ替わりたちまち防戦一方となる彩藍。
絶え間なく続く殺気の籠った鉤爪での斬撃に、刺突に、斬り払いがあらゆる方向から彩藍を襲う。
彩藍は深き者どもから繰り出される全ての攻撃を、飄々とした風情でヒラヒラと舞うように躱し続ける。
斬撃は後退の足捌き で見切り、刺突は上半身の捻り で避け、斬り払いは黒烏丸を用いた横からの叩き で逸らして行く。
互いの高等技術を見せ合うような攻防が、数十秒は継続しただろうか。
深き者どもが決着を狙うべく撃ち出した、強烈な右腕からの直線的な刺突を叩き逸らした瞬間…彩藍の両眼がキラリと光を帯びたように見えた。
「イィッ!?
ギュオォォォーッ!!」
刺突を逸らした彩藍が黒烏丸を引き戻さず、流れるような動作で大きく踏み込まれた深き者どもの左足甲を深く強く突き刺したのだ。
船室の床材に黒烏丸で強制的に縫い留められた深き者どもは、激痛に苦しみ踠きながら…己が左
足に突き立った黒烏丸を引き抜こうと両手で黒烏丸の柄を握り締めた。
「ッ!?
グゥエェェェッ!!」
パッと両手を黒烏丸から離した深き者どもの両掌から、何とも云えぬ人肉が焦げたような異臭と共に…ブスブスと音を立てて白い煙が立ち昇る。
「あ〜、ゴメンゴメン。
黒烏丸は気難しい剣でねぇ、所有者と認められてないモンが触ると…ちょっとしたお イ タ をやらかしてしまうんよ。
予め、教えてあげてた方が良かったんやろかなぁ?
ま…身を以て体感することが出来たんやから、堪忍したってやで」
軽い口調で詫びとも付かない言葉をいけしゃあしゃあと述べる彩藍に、視線で人を殺せるならばこのような目付きであろうと思しき…強い憎しみを孕んだ目線で深き者どもが睨め付ける。
「おぉ怖。
そんな恐 ろしい眼ぇで、他人 のことを睨んどったらアカンよ。
魚顔で無表情なんが…アンタさんの魅力やないの?」
ヘラヘラと薄ら笑いを浮かべた彩藍が、深き者どもを大いに小馬鹿にしながら嘲笑う。
「ノォリュ!!パルルゥ!!クゥ!!」
怒りの咆哮と呪詛の言葉が綯い交ぜ となったような言葉を発し、深き者どもは届かぬ手を鉤爪を彩藍へと伸ばそうとする。
「そないに情熱的に迫って来られてもなぁ…申し訳ないけど、お魚さんみたいな顔した女の子は全く好みやないねんって。
この部屋のお宝を探し終わったら、放してあげるさかいに…ちょおっとそのまま待っといてくれるかな?」
何と彩藍は床板に縫い付けた深き者どもを、そのまま放置して船室内の捜索を始め出した。
「ふ〜ん、洋服箪笥の中には…趣味の悪い服しか掛かってないなぁ。
こっちの引き出しの中にはっと…おぉ!あるやんあるやん、指輪に首飾りに…金の像って…何これ?
魚人間の像やって…なぁなぁお姉さぁん、これって大切な物なんかなぁ?
まぁ…頂いて帰りますんやけどね」
いそいそと小物を懐に詰め込む彩藍に、深き者どもは私物を荒らされた怒りが頂点に達してしまったようだ。
「グゥオォォォッ!ギィエェェェェッ!!」
左足を黒烏丸に固定されたまま、その身を彩藍に向けて移動する深き者ども。
『ビチビチビチッ…ブジュウッ!」
床板と突き立った黒烏丸の位置に変化がある筈もなく、結果として深き者どもの左足は黒烏丸の刃の方向に沿って切り裂かれ…体液を滴らせながら半ばから真っ二つに千切れかけてしまった。
「ヌギャアーーーオゥッ!!」
殆ど機能を果たせなくなった左足を引き摺るように、先程までの速度は失われ…ヨロヨロとふらつきながら彩藍に襲いかかろうと手を伸ばす深き者ども。
一瞬だけ驚いたような顔付きで深き者どもの顔と、傷つき異臭を放つ体液を垂れ流す左足を交互に見比べた彩藍だったが…間もなく興味を失ったように真顔となった。
「しょうもなっ!
せっかく人が優しく『待っといてねぇ』って言うたったのに…そんな急いて動くんはアカンやろ。
そないに大事な物なんやったら、身体にでも縫い付けとったらええねん!
何や知らんけど、僕が悪い人みたいに見えるやんか!」
どこからどう見ても自身が行った悪党の為様 を棚に上げ、彩藍は金の像を指で摘んでブラブラと揺らしている。
彩藍のその姿を見た深き者どもは、更に逆上したように歯を剥き出しズルズルと彩藍に迫る。
「そうかそうか、そないに大事なんやったら返したるわ。
ほらよっ!」
面倒臭そうな声を出して、彩藍はその手から金の像を無造作に深き者どもへ放り投げる。
深き者どもは慌てたように、両腕で金の像を受け止め抱き抱える。
その刹那、彩藍は無表情のまま徐に小烏丸を鞘走らせ抜き放った。
素早く動いて金の像を抱き抱えたままの深き者どもの許へと到達した彩藍は、その切先で深き者どもの頚動脈を両断した。
両眼を見開き驚愕の表情を浮かべたまま、体液を吹き出し絶命して行く深き者ども…彩藍は倒れ行くその姿を一瞥する。
「お姉さん、アンタはもうおっ死 ぬんやから…もうそのお宝は要らんやろ?
僕がちゃあんと有意義に使ったげるから…後のことは僕に任せてな〜」
死して尚、金の像を大事そうに抱える深き者どもから無理矢理お宝をもぎ取ると…彩藍は振り返りもせず船室を出て、次なる獲物を求めて次の船室を目指して移動を始めた。
まるで舞踏会の会場で優雅に踊る、貴族の男女のような立ち居振る舞いであった。
「こんな場所でクルクルクルクル廻っとったら…僕も君も
時間も押し迫っとることやし、早いこと勝負をつけてしまおうな…なぁ?」
言葉では挑発するものの、彩藍は相手の出方を窺い自らが攻勢に出ることが出来ないで居る。
『どうにもやり難いな…今までの魚頭軍団とは違っなて隙もないし、向こうさんの攻撃を
彩藍と同様の思考に行き着いているのであろう、対峙する深き者どもも打つ手を見失い戦闘は膠着状態に陥っている。
「
どうにも焦れてしまった彩藍は、深き者どもの反攻を警戒しながらも
その瞬間…深き者どもの眼には面白がるような嘲笑的な色が浮かんだように、彩藍からは見て取れた。
「ギィッ!」
牽制のように軽く突き出された黒烏丸の切先を、
擦れ違い様に彩藍の右頬が鉤爪に切り裂かれ、パックリと開いた傷口から鮮血が飛沫となって吹き出す。
「いっ
やっぱりアンタも返し技が狙いやったんやな、流石に鋭い攻撃やって褒めさせて貰うわ。
けどな…後の先では深傷は与えられへんやろ?
こんなんはどないやっ!」
引き続き彩藍は先手を取るために、右手の掌中に掴んでいる黒烏丸を斬り、突き、払いと縦横無尽な攻勢に打って出る。
「ギシャアァァァァァーッ」
突如として放たれる彩藍の猛攻に、深き者どもは狼狽の声を発しながらも逸らし、躱し、いなしながら反攻の機会を狙っているようだ。
数合の攻防が行われた後に、彩藍の攻撃が一呼吸遅れた。
その瞬間を狙い澄ましたように、深き者どもから反攻の狼煙が上げられた。
深き者どもの
絶え間なく続く殺気の籠った鉤爪での斬撃に、刺突に、斬り払いがあらゆる方向から彩藍を襲う。
彩藍は深き者どもから繰り出される全ての攻撃を、飄々とした風情でヒラヒラと舞うように躱し続ける。
斬撃は
互いの高等技術を見せ合うような攻防が、数十秒は継続しただろうか。
深き者どもが決着を狙うべく撃ち出した、強烈な右腕からの直線的な刺突を叩き逸らした瞬間…彩藍の両眼がキラリと光を帯びたように見えた。
「イィッ!?
ギュオォォォーッ!!」
刺突を逸らした彩藍が黒烏丸を引き戻さず、流れるような動作で大きく踏み込まれた深き者どもの左足甲を深く強く突き刺したのだ。
船室の床材に黒烏丸で強制的に縫い留められた深き者どもは、激痛に苦しみ踠きながら…己が左
足に突き立った黒烏丸を引き抜こうと両手で黒烏丸の柄を握り締めた。
「ッ!?
グゥエェェェッ!!」
パッと両手を黒烏丸から離した深き者どもの両掌から、何とも云えぬ人肉が焦げたような異臭と共に…ブスブスと音を立てて白い煙が立ち昇る。
「あ〜、ゴメンゴメン。
黒烏丸は気難しい剣でねぇ、所有者と認められてないモンが触ると…ちょっとした
予め、教えてあげてた方が良かったんやろかなぁ?
ま…身を以て体感することが出来たんやから、堪忍したってやで」
軽い口調で詫びとも付かない言葉をいけしゃあしゃあと述べる彩藍に、視線で人を殺せるならばこのような目付きであろうと思しき…強い憎しみを孕んだ目線で深き者どもが睨め付ける。
「おぉ怖。
そんな
魚顔で無表情なんが…アンタさんの魅力やないの?」
ヘラヘラと薄ら笑いを浮かべた彩藍が、深き者どもを大いに小馬鹿にしながら嘲笑う。
「ノォリュ!!パルルゥ!!クゥ!!」
怒りの咆哮と呪詛の言葉が
「そないに情熱的に迫って来られてもなぁ…申し訳ないけど、お魚さんみたいな顔した女の子は全く好みやないねんって。
この部屋のお宝を探し終わったら、放してあげるさかいに…ちょおっとそのまま待っといてくれるかな?」
何と彩藍は床板に縫い付けた深き者どもを、そのまま放置して船室内の捜索を始め出した。
「ふ〜ん、洋服箪笥の中には…趣味の悪い服しか掛かってないなぁ。
こっちの引き出しの中にはっと…おぉ!あるやんあるやん、指輪に首飾りに…金の像って…何これ?
魚人間の像やって…なぁなぁお姉さぁん、これって大切な物なんかなぁ?
まぁ…頂いて帰りますんやけどね」
いそいそと小物を懐に詰め込む彩藍に、深き者どもは私物を荒らされた怒りが頂点に達してしまったようだ。
「グゥオォォォッ!ギィエェェェェッ!!」
左足を黒烏丸に固定されたまま、その身を彩藍に向けて移動する深き者ども。
『ビチビチビチッ…ブジュウッ!」
床板と突き立った黒烏丸の位置に変化がある筈もなく、結果として深き者どもの左足は黒烏丸の刃の方向に沿って切り裂かれ…体液を滴らせながら半ばから真っ二つに千切れかけてしまった。
「ヌギャアーーーオゥッ!!」
殆ど機能を果たせなくなった左足を引き摺るように、先程までの速度は失われ…ヨロヨロとふらつきながら彩藍に襲いかかろうと手を伸ばす深き者ども。
一瞬だけ驚いたような顔付きで深き者どもの顔と、傷つき異臭を放つ体液を垂れ流す左足を交互に見比べた彩藍だったが…間もなく興味を失ったように真顔となった。
「しょうもなっ!
せっかく人が優しく『待っといてねぇ』って言うたったのに…そんな急いて動くんはアカンやろ。
そないに大事な物なんやったら、身体にでも縫い付けとったらええねん!
何や知らんけど、僕が悪い人みたいに見えるやんか!」
どこからどう見ても自身が行った悪党の
彩藍のその姿を見た深き者どもは、更に逆上したように歯を剥き出しズルズルと彩藍に迫る。
「そうかそうか、そないに大事なんやったら返したるわ。
ほらよっ!」
面倒臭そうな声を出して、彩藍はその手から金の像を無造作に深き者どもへ放り投げる。
深き者どもは慌てたように、両腕で金の像を受け止め抱き抱える。
その刹那、彩藍は無表情のまま徐に小烏丸を鞘走らせ抜き放った。
素早く動いて金の像を抱き抱えたままの深き者どもの許へと到達した彩藍は、その切先で深き者どもの頚動脈を両断した。
両眼を見開き驚愕の表情を浮かべたまま、体液を吹き出し絶命して行く深き者ども…彩藍は倒れ行くその姿を一瞥する。
「お姉さん、アンタはもうおっ
僕がちゃあんと有意義に使ったげるから…後のことは僕に任せてな〜」
死して尚、金の像を大事そうに抱える深き者どもから無理矢理お宝をもぎ取ると…彩藍は振り返りもせず船室を出て、次なる獲物を求めて次の船室を目指して移動を始めた。