第57話 不破と灰谷は地底洞窟で雌雄を決する③
文字数 2,881文字
激しく吠え立てた童士に対して、先刻の言葉から端を発し、その触手を揺らす姿も余裕綽々に感じさせる這い寄る混沌 。
自身を軽く見下すような敵の立ち居振る舞いに、童士は怒髪冠を衝く勢いで激昂した。
「手前っ!!
鬼を舐めるような真似をしやがるとは、良い度胸してるじゃねぇかよっ!
異国の神だか旧き神々 の眷族だか何だか知らねぇが、痛い目を見て思い知りやがれってんだっ!」
頭上で天星棍を振り回し、その勢いを保持したままの遠心力を利して、童士は這い寄る混沌 の左側面を横殴りに薙ぎ払うような一撃を放つ。
迎え撃つ這い寄る混沌 は、左腕の触手を持ち上げその部位を縦に裂き、二股に別たれた触手を鋏のような形状へと変形させて、挟み込むように天星棍を絡め取ろうとすした。
『ガシィッ!!』
猛烈な打撃音が周囲に響き渡る中、童士の振り切った天星棍と這い寄る混沌 の触手の分岐点は見事に打ち合わされて静止している。
打撃の速度と重量を、逃れることなく受け止めた這い寄る混沌 の触手からは、ブスブスと白煙が立ち昇り肉の焦げたような異臭が童士の鼻を衝いた。
「やはり予想通りでしたね、不破童士さん…貴方の武器は古代にこの惑星 に飛来した隕鉄を鍛え上げた物なんでしょう?
私の存在と貴方の武器では、その相性があまりにも悪い。
何故なら、私の出自が深 淵 宇 宙 の 成 り 立 ち に 由 来 す る モノに他ならないからです。
どのように使われようが、人の子の脆弱な能力 では…宇宙意思の恩恵 を使役し、ましてや制御することなど不可能に他ならないのですから」
矮小なこの惑星 に住まう全ての生物を卑下し、下等生物として看做して歯牙にも掛けぬような這い寄る混沌 の言い草に、童士は怒りの内圧 を更に一段階引き上げる。
「馬鹿にするんじゃねぇっ!
それに俺は人ではなく鬼だっ!
手前の知らぬ種族である、鬼の能力 をその身で受け止めろっ!
這い寄る混沌 っ!!」
怒号を発して這い寄る混沌 に打ち掛かる童士。
怒号に見合う強烈な打撃、そして斬り捨てるような振り払いに打突での猛攻。
鈍く重い音響が洞窟内に谺する中、童士の攻撃の全ては這い寄る混沌 の触手に止められ、弾かれては受け流される。
数えきれぬ程の攻撃を抑えられ続ける童士の躰は紅潮し、汗が迸っては飛び散って行く。
何度止められても諦めずに攻勢に出る童士、その合間には這い寄る混沌 の触手が童士に向かって牙を剥く。
攻撃に特化し防御をある意味捨てて臨む童士の身に、這い寄る混沌 の攻撃は遠慮容赦なく当たっている。
致命傷にならぬよう最小限の見切りは行っているものの、時間が経過するにつけ童士の全身からは汗の中に血飛沫も混じり始めた。
しかし何度目かの打撃の後から、童士の振るう天星棍に変化が現れ始める。
光すらも吸収するかのような艶のない漆黒の鉄杖であった筈の天星棍が、這い寄る混沌 と接触する部分において少しずつ赤みを帯びて来ていたのだ。
更なる打撃を与える度毎に天星棍は色を変え、黒味掛かった赤から鮮やかな真紅へ、そして更には黄色混じりの色合いから…最終的には白く輝く鉄杖へと変じて行ったのだ。
周囲に熱量こそは漏れ出していないものの、その姿はまさに高温に白熱していく温度変化が起こったかのような変異であった。
その眩く輝く白き杖で、童士が這い寄る混沌 を打ち据えた時にそれは起こった。
先程までは軽く受けていた這い寄る混沌 の触手、その暗黒の触手が白く輝く天星棍に触れた瞬間…触手が内側から爆ぜるように爆散し燃え散らされた。
「ゥアギャァァァァァッ!!!」
触手を失い、更にはその先にある胴部も守れずに天星棍が打ち付けられた激痛で、這い寄る混沌 は聞く者の身の毛がよだつような絶叫を発する。
「な…何故だぁ…宇…宙の意思に…この…未開の…惑星 …に棲む…者…が…影響を…及ぼ…す…など………
有り…得ぬっ!有り得…ぬわぁっ!」
左側の触手を爆散させ、左脇腹も大きく損傷した這い寄る混沌 は、その傷口から濛々たる白煙を上げて…回復の兆しを見せぬ生々しい傷の痛みに躰を捩らせている。
自身を傷付けた童士の、天星棍の変化に驚愕し、相当の混乱を来しているようだ。
「手前が陽ノ本に、いや…この惑星 に住む全ての生き物を舐めていやがるから、痛い目を見るんだ。
天星棍は、宇宙 から墜ちて来ただけの隕鉄じゃねぇ。
宇宙 から墜ちて来た後で、この惑星 に聳える火の山に抱かれて育てられたんだ。
その後で、手前が軽く見ているこの惑星 に住む、手練の職人の手で形成された武器なんだよ。
宇宙 で生まれ、この惑星 に育まれ、そしてこの惑星 に住む人の手で鍛えられた天星棍を、この世界全ての怒りを込めた、天星棍の一撃を喰らいやがれっ!
烏滸がましくも神を名乗る、薄汚ぇ化け物 よっ!!」
全身から怒りの焔を噴き出すような気合いの声と共に、童士は這い寄る混沌 に対して大上段から天星棍を渾身の力を込めて振り下ろす。
天星棍の白く輝く軌跡が、天空より降り注ぐ流星の如く這い寄る混沌 の漆黒の現し身へと墜ちて行く。
這い寄る混沌 の左肩と頸部の境目付近に、白熱する天星棍が到達する。
その振り下ろしの速度を維持したまま、天星棍は紙を切り裂くような軽い手応えで、這い寄る混沌 の右脇腹に向かって突き進んで行った。
天星棍を振り切った童士は、あまりに軽い手応えに驚いたような表情で這い寄る混沌 を確認する。
その瞬間…漆黒の躰に輝きが走り、袈裟に斬られた這い寄る混沌 の上半身は、上下に分断された格好のまま擦れて落ちて行った。
「やったのか………?」
茫然自失のまま呟く童士、その眼前で這い寄る混沌 の下半身が昏く青い炎に包まれるように炎上する。
しかし斬り捨てられ別たれた上半身は、切り口を下に残っている。
右腕の触手と頭部、そして斜めに断裂された胸元がビクビクと蠢いたままで。
「ふ…不ぅ…破…童士ぃ……
お…お前…のぉぉ……
弱…き…部…ぶん…をぉぉぉ……
壊…しぃ…てぇ……
い…まぁ…は…去…ろぅ……」
途切れ途切れの言葉を発する這い寄る混沌 、突如として残された上半身がブルリと震えると…頭部の触手が上方へ、そして右腕の触手はあろうことか童士の戦闘を見守っていた華乃へと向かって奔り伸ばされた。
「華乃ぉぉぉぉぉっ!!!」
叫びながら疾走する童士、華乃に向かって頭から飛び込んだ巨大な鬼の手が華乃に届き、その背を軽く押した。
軽くとは云え鬼の力で突き飛ばされた華乃は、数米突の距離を吹っ飛び…腹這いにズルズルと不恰好な姿勢で着地する。
頭などは打っていないだろうが、全身に擦過傷を負うことは免れないであろう着地であった。
華乃の無事を目視した童士も、飛び込んだままの姿勢で着地するかに思われたその時…華乃を狙って放たれた黒き触手、這い寄る混沌 の妄執の一撃が童士の胸部へと吸い込まれ突き立てられた。
そして妄執の二撃目、頭部から上方向を狙った触手が時間差で…華乃が飛ばされ着地した、その真上にある巨岩の根元を砕いた。
小さな破片を撒き散らしながら、人間を五人は押し潰しかねない巨大な岩石が華乃に向かって落下し始める。
自身を軽く見下すような敵の立ち居振る舞いに、童士は怒髪冠を衝く勢いで激昂した。
「手前っ!!
鬼を舐めるような真似をしやがるとは、良い度胸してるじゃねぇかよっ!
異国の神だか
頭上で天星棍を振り回し、その勢いを保持したままの遠心力を利して、童士は
迎え撃つ
『ガシィッ!!』
猛烈な打撃音が周囲に響き渡る中、童士の振り切った天星棍と
打撃の速度と重量を、逃れることなく受け止めた
「やはり予想通りでしたね、不破童士さん…貴方の武器は古代にこの
私の存在と貴方の武器では、その相性があまりにも悪い。
何故なら、私の出自が
どのように使われようが、人の子の脆弱な
矮小なこの
「馬鹿にするんじゃねぇっ!
それに俺は人ではなく鬼だっ!
手前の知らぬ種族である、鬼の
怒号を発して
怒号に見合う強烈な打撃、そして斬り捨てるような振り払いに打突での猛攻。
鈍く重い音響が洞窟内に谺する中、童士の攻撃の全ては
数えきれぬ程の攻撃を抑えられ続ける童士の躰は紅潮し、汗が迸っては飛び散って行く。
何度止められても諦めずに攻勢に出る童士、その合間には
攻撃に特化し防御をある意味捨てて臨む童士の身に、
致命傷にならぬよう最小限の見切りは行っているものの、時間が経過するにつけ童士の全身からは汗の中に血飛沫も混じり始めた。
しかし何度目かの打撃の後から、童士の振るう天星棍に変化が現れ始める。
光すらも吸収するかのような艶のない漆黒の鉄杖であった筈の天星棍が、
更なる打撃を与える度毎に天星棍は色を変え、黒味掛かった赤から鮮やかな真紅へ、そして更には黄色混じりの色合いから…最終的には白く輝く鉄杖へと変じて行ったのだ。
周囲に熱量こそは漏れ出していないものの、その姿はまさに高温に白熱していく温度変化が起こったかのような変異であった。
その眩く輝く白き杖で、童士が
先程までは軽く受けていた
「ゥアギャァァァァァッ!!!」
触手を失い、更にはその先にある胴部も守れずに天星棍が打ち付けられた激痛で、
「な…何故だぁ…宇…宙の意思に…この…未開の…
有り…得ぬっ!有り得…ぬわぁっ!」
左側の触手を爆散させ、左脇腹も大きく損傷した
自身を傷付けた童士の、天星棍の変化に驚愕し、相当の混乱を来しているようだ。
「手前が陽ノ本に、いや…この
天星棍は、
その後で、手前が軽く見ているこの
烏滸がましくも神を名乗る、
全身から怒りの焔を噴き出すような気合いの声と共に、童士は
天星棍の白く輝く軌跡が、天空より降り注ぐ流星の如く
その振り下ろしの速度を維持したまま、天星棍は紙を切り裂くような軽い手応えで、
天星棍を振り切った童士は、あまりに軽い手応えに驚いたような表情で
その瞬間…漆黒の躰に輝きが走り、袈裟に斬られた
「やったのか………?」
茫然自失のまま呟く童士、その眼前で
しかし斬り捨てられ別たれた上半身は、切り口を下に残っている。
右腕の触手と頭部、そして斜めに断裂された胸元がビクビクと蠢いたままで。
「ふ…不ぅ…破…童士ぃ……
お…お前…のぉぉ……
弱…き…部…ぶん…をぉぉぉ……
壊…しぃ…てぇ……
い…まぁ…は…去…ろぅ……」
途切れ途切れの言葉を発する
「華乃ぉぉぉぉぉっ!!!」
叫びながら疾走する童士、華乃に向かって頭から飛び込んだ巨大な鬼の手が華乃に届き、その背を軽く押した。
軽くとは云え鬼の力で突き飛ばされた華乃は、数米突の距離を吹っ飛び…腹這いにズルズルと不恰好な姿勢で着地する。
頭などは打っていないだろうが、全身に擦過傷を負うことは免れないであろう着地であった。
華乃の無事を目視した童士も、飛び込んだままの姿勢で着地するかに思われたその時…華乃を狙って放たれた黒き触手、
そして妄執の二撃目、頭部から上方向を狙った触手が時間差で…華乃が飛ばされ着地した、その真上にある巨岩の根元を砕いた。
小さな破片を撒き散らしながら、人間を五人は押し潰しかねない巨大な岩石が華乃に向かって落下し始める。