2:宇宙で、孤独に死ぬことを約束された。『パッセンジャー』
文字数 1,680文字
あら、どうしたの映子。
さっきの数学が全然わからなかったから呻いてるのかしら?
ううん、違うの。
……恋美ちゃん。私達、友達だよね……?
ずっと一緒だよね!
どこか居なくなったりしないよね!?
それは約束できないわ。友情なんて意外と脆いものだし、そもそも学校が終われば家に帰るから一緒というわけにはいかないわね。
ちっくしょー、辛辣だなぁ!
恋美ちゃんらしいけど、今は優しい言葉が欲しかったぜぇ!
人生なんて大概ままならないものよ。
それで、一体どうしたっていうのかしら?
いやぁ、それなんだけどさぁ。
昨日「パッセンジャー」って映画を観てきたんだよね。
あ、知ってるわ。大きなロボットが怪獣と戦う映画よね。
それはパシフィック・リムだなぁ。「パ」しかあってないよ。
それはパンズ・ラビリンス。
というか、なんでギレルモ・デル・トロ縛りなのさ。
と言ってもその2つしか見たことないのだけどね。
パンズ・ラビリンスを観た時は怖くて漏らしたわ。
まぁ、私のシモの話はどうでもいいわ。
そのパッセンジャーっていうのはどういう映画なの?
あ、うん。えっと、アヴァロンっていう名前の宇宙船が舞台のSF映画なんだ。
この船には5000もの人が冷凍睡眠状態で乗っていて、約120年かけて目的地である星を目指して旅をしてたの。
120年とは凄い話ね。運転手とかもみんな寝てるの?
そう。全員冷凍されてて、航行は全部機械任せなんだ。オール電化だね。
だけど、とある出来事がキッカケで主人公とヒロインの二人は90年も早く目覚めてしまうの。
食料の心配は無いものの、再び冷凍状態に戻ることもできないし引き返すこともできない……完全に詰んでしまうんだ。
なるほど。他の乗員は幸福な未来が約束されているのに、自分だけが孤独に死ぬことを運命づけられてしまう……
恐ろしいわね。
つまり完全に一人。話し相手と言えば40秒くらいに出てくるロボットのバーテンダーだけ。
その極限の孤独感というか、手も足も出ない絶望感の描写が凄くてね……もうホラー映画の域だったよ。
ああ、自分が一人になった時のことを考えてしまって、怖くなったからさっきの質問をしてきたのね。
だって、さっきの数学の時に数独の話が出てきたから思い出しちゃったんだもん……
数独の「独」は「独身」の意味らしいけど、他の数字が傍に居るから孤独ではないわね。
よしよし。
まぁ、別に孤独な鬱展開ばっかりじゃないんだけどね。
宇宙空間ならではの無重力の描写とか迫力あったし、さっき言ったロボットのバーテンダーとかも凄く感動的な要素を担ってたよ。
……でも、それでもやっぱり怖かったんだ。
ネタバレだから詳しく言えないけど、もし私が同じ状況になったら、それこそ主人公と同じような行動をしちゃうかもしれないなって。
……まぁ、怖い状況の映画なんてたくさんあるのだし、いちいち悩んでたらキリがないんじゃない?
映子が好きなゾンビ映画だって、実際に起きたら絶望するわよ。
……ふぅ。仕方ないわね。
映子、今日の放課後は暇かしら?
それじゃ、クレープでも食べにいかない?
確か駅前に新しいお店ができたらしいわ。
さっきの質問だけどね。やっぱり私の答えは変わらないわ。
いつまでも一緒に居るのは無理だと思う。
……でも、少なくとも今は、あなたは私の大事な友人よ。
それなら寂しがってる時に傍に居てあげることくらいできるわ。
おぉぉ……! おぉぉおおお!!
恋美ちゃぁぁぁん………!!
それに、どうせ甘いものでも食べたら悩みなんて忘れるでしょ?
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