第28話 幕間 ~ Queen of Hearts to Reboot
文字数 1,022文字
【松戸美園視点】
松戸美園はがらんとした空間で酒を飲んでいた。
壁も天井もすべて打ちっ放しのコンクリート。その中にぽつんとソファがあるだけだ。
そこに半ば寝転がるように彼女は座り、薔薇を象ったラベルのバーボンの瓶を抱えている。髪は乱れ、制服は薄汚れ、目には泣きはらしたような痕が残る。
ここは彼女の親族が経営するカラオケボックス。その地下にある貸し切りのパーティースペースだ。
借り手のオーダーによっては、講演会の会場になったり、ライブハウスになったり、いかがわしい人間の主催するパーティー会場にもなるのだった。
「飲み過ぎじゃない?」
そこへメガネをかけた一人の少女が入ってくる。美園とは顔なじみのようで親しげに声をかけた。
「仕方ないわ。やることがないんだから」
酒に酔っているだけではなく、半ばヤケになったような感情が美園からは漏れてくる。学校に行けなくなり自暴自棄になりつつあるのだ。
「やることはいくらでもあるはずよ」
少女は静かに美園へと言葉を投げかける。だが、その言葉が彼女を僅かにいらつかせる。負け犬の自分に何ができるのだと。
「なにを?!」
「あなたをこんな目に合わせた奴に復讐するのよ。松戸美園がこのまま黙っているってのも可笑しいでしょ?」
「……」
彼女自身、そんなことはわかっていた。でも、もう自分の思い通りになる配下がいない。すべてあの子に奪われたのだ。美園は、それを思い返すだけで発狂しそうになる。
「手足となる駒がいないと思って、新しい駒を用意してあげたわ」
「新しい駒?」
「ほら、それを受け取って」
少女は黒革の手帳を美園へと投げ渡す。ずっしりと重さを感じるそれを捲ると、いく人かの生徒の情報がぎっしりと書かれていた。
「脅すのもよし、飼い慣らすのもよし。あなたの相応しい駒にしてあげて」
「ありがとう……いつも……その」
「だめだよ。高潔なあなたがそんな卑屈な物言いをしては」
松戸美園は起き上がり、それと同時に頭を左右にぶるっと振って目を覚ます。手櫛で額の毛をかき上げると、向かいに立つ少女を真っ直ぐな瞳で見つめる
「ええ、そうですわね。わたくしとしたことが」
「あなたは生徒達の上に君臨するのに相応しい存在よ。自信を失ってはだめ」
少女の頬が僅かに歪み、左右非対称の笑みがこぼれた。その意味を美園は理解していない。
「ええ、わかってるわ」
松戸美園はがらんとした空間で酒を飲んでいた。
壁も天井もすべて打ちっ放しのコンクリート。その中にぽつんとソファがあるだけだ。
そこに半ば寝転がるように彼女は座り、薔薇を象ったラベルのバーボンの瓶を抱えている。髪は乱れ、制服は薄汚れ、目には泣きはらしたような痕が残る。
ここは彼女の親族が経営するカラオケボックス。その地下にある貸し切りのパーティースペースだ。
借り手のオーダーによっては、講演会の会場になったり、ライブハウスになったり、いかがわしい人間の主催するパーティー会場にもなるのだった。
「飲み過ぎじゃない?」
そこへメガネをかけた一人の少女が入ってくる。美園とは顔なじみのようで親しげに声をかけた。
「仕方ないわ。やることがないんだから」
酒に酔っているだけではなく、半ばヤケになったような感情が美園からは漏れてくる。学校に行けなくなり自暴自棄になりつつあるのだ。
「やることはいくらでもあるはずよ」
少女は静かに美園へと言葉を投げかける。だが、その言葉が彼女を僅かにいらつかせる。負け犬の自分に何ができるのだと。
「なにを?!」
「あなたをこんな目に合わせた奴に復讐するのよ。松戸美園がこのまま黙っているってのも可笑しいでしょ?」
「……」
彼女自身、そんなことはわかっていた。でも、もう自分の思い通りになる配下がいない。すべてあの子に奪われたのだ。美園は、それを思い返すだけで発狂しそうになる。
「手足となる駒がいないと思って、新しい駒を用意してあげたわ」
「新しい駒?」
「ほら、それを受け取って」
少女は黒革の手帳を美園へと投げ渡す。ずっしりと重さを感じるそれを捲ると、いく人かの生徒の情報がぎっしりと書かれていた。
「脅すのもよし、飼い慣らすのもよし。あなたの相応しい駒にしてあげて」
「ありがとう……いつも……その」
「だめだよ。高潔なあなたがそんな卑屈な物言いをしては」
松戸美園は起き上がり、それと同時に頭を左右にぶるっと振って目を覚ます。手櫛で額の毛をかき上げると、向かいに立つ少女を真っ直ぐな瞳で見つめる
「ええ、そうですわね。わたくしとしたことが」
「あなたは生徒達の上に君臨するのに相応しい存在よ。自信を失ってはだめ」
少女の頬が僅かに歪み、左右非対称の笑みがこぼれた。その意味を美園は理解していない。
「ええ、わかってるわ」