92:帝国式ドレスの魅力
文字数 1,873文字
引き締めた意識が、一瞬にして体形の変化にもっていかれる。スーは腰周りに手をあてて、ぶよぶよしたぜい肉がついていないか確認してしまう。
サンディとユエン、オトまでがその様子に笑った。
「姫様、おそらく胸のサイズではないですか?」
ユエンが遠慮なく指摘した。
「胸?」
「私の目にも、すこし成長されたのがわかります」
飄々とした口調で述べて、ユエンがスーの胸元に視線を向けている。
「え? 本当に?」
腰回りが厚くなるのは避けたいが、胸周りに肉がつくのは歓迎である。嬉しそうな顔をするスーを見て、サンディが再び笑った。
「そうです。スー様は胸周りが、よりふくよかになられたはずです。お衣装を着てそう感じることはございませんでしたか?」
「窮屈に思ったことはありませんが……」
「それはおかしいですね」
サイオンの意匠は胸周りに余裕があるため、スーはまったく気づいていなかった。
首をかしげるサンディに、オトがクローゼットから帝国式のドレスを何着か持ってくる。
「スー様は、ほとんど帝国式のお衣装を着用なさらなかったので……。今すこし着てみられてはどうでしょうか」
「サイオンの意匠は胸元で重ねて帯で締めますからあまり体の線を強調しません。反対に、帝国の意匠は体の線を強調するものが多いです。とくにこのカップ付きの編み上げドレスなどは」
サンディが手際よくオトが持ってきたドレスをスーに着せつける。
胸を整えて編み上げで腰や胴回りをぎゅっと絞められた。ユエンが姿見をスーの前に配置する。
「おお!」
スーは思わず声をあげた。帝国式の赤いドレスで、見たこともないくらい胸がふくよかに強調されている。細い腰と綺麗に対比して、女性らしい体の線が現れた。
(これはいつもより大人っぽいかも!)
ルカに見せるとお色気作戦になるのではないかと期待に胸が膨らんだ。
サンディとオトとユエンが、鏡に映ったスーを見て目を丸くしている。
「ほんの数か月で随分と成長されましたね、姫様」
「これはお直しが必要ですね。胸のカップが小さくて、全くサイズがあっておりません」
サンディがスーの胸の肉をおさめようとドレスを調整するが、増えた質量はどうにもならない。
「採寸間違いをしていたのではないかと思うほど小さいですね」
諦めたようにサンディが苦笑している。
「ですが、女性は男性のおかげで胸が育つとことがございますので、皇太子殿下と仲睦まじい証です。殿下が溺愛されているというお噂の方は、本当のようですね」
高名なデザイナーが気を利かせてはなった言葉は、その場の三人を黙らせてしまう。
いち早く気を取り直したのはユエンだった。
「残念ながら、姫様はまだ経験がございません」
「え?」
「ですので、胸もまだまだ成長株ではないかと」
ユエンの臆面のない説明を聞いて、サンディが信じられないという顔をして振り返った。スーは自分の不甲斐なさに恥ずかしくなる。
奔放な夜の華に続いて、皇太子が溺愛する魔性の王女という噂があることも知っている。
それが完全な見掛け倒しであると暴露されてしまい、スーはかぁっと顔だけではなく全身が火照る。
「あの! せっかく着せていただいたので、ルカ様にお披露目してきます」
「え? でも、すこしサイズがーー」
サンディの言葉を遮るように、ユエンが頷いた。
「そうですね、姫様。ルカ殿下にだけお披露目するのであれば、とてもよいお色気作戦だと思います」
「ルカ様はすでに衣装合わせの採寸を終えて広間で寛いでいらっしゃいます。たまには帝国式のドレスも喜ばれるでしょう」
ユエンとオトに背中を押されて、スーの意欲がぐんと高まった。
(きっとわたしの胸はルカ様に恋をして大きくなったのよ)
気合いをいれていると、サンディは三人の意気込む様子を微笑ましく感じたのか、姿見を前にするスーの背後に立った。
「このドレスに似合う髪型がございます。スー様、すこしよろしいですか?」
「はい、もちろんです!」
いつもの結い方をしていたスーの髪に触れて、サンディがすばやく髪をほどくと、新たに編み上げる。
器用な手捌きだった。
「スタリストのようにはできませんが、帝国で流行っている編み込みです」
姿見に写る自分が、いつもより大人の女性に見える。まるで魔法のようだった。
「ありがとうございます」
「わたくしもスー様と皇太子殿下を応援いたします」
サンディからも力強い声援を受けて、スーはぎらぎらと野望を新たにする。三人に見送られながら、帝国式の意匠によって豊かに強調された胸を披露するために、意気揚々とルカの寛ぐ広間へ向かった。
サンディとユエン、オトまでがその様子に笑った。
「姫様、おそらく胸のサイズではないですか?」
ユエンが遠慮なく指摘した。
「胸?」
「私の目にも、すこし成長されたのがわかります」
飄々とした口調で述べて、ユエンがスーの胸元に視線を向けている。
「え? 本当に?」
腰回りが厚くなるのは避けたいが、胸周りに肉がつくのは歓迎である。嬉しそうな顔をするスーを見て、サンディが再び笑った。
「そうです。スー様は胸周りが、よりふくよかになられたはずです。お衣装を着てそう感じることはございませんでしたか?」
「窮屈に思ったことはありませんが……」
「それはおかしいですね」
サイオンの意匠は胸周りに余裕があるため、スーはまったく気づいていなかった。
首をかしげるサンディに、オトがクローゼットから帝国式のドレスを何着か持ってくる。
「スー様は、ほとんど帝国式のお衣装を着用なさらなかったので……。今すこし着てみられてはどうでしょうか」
「サイオンの意匠は胸元で重ねて帯で締めますからあまり体の線を強調しません。反対に、帝国の意匠は体の線を強調するものが多いです。とくにこのカップ付きの編み上げドレスなどは」
サンディが手際よくオトが持ってきたドレスをスーに着せつける。
胸を整えて編み上げで腰や胴回りをぎゅっと絞められた。ユエンが姿見をスーの前に配置する。
「おお!」
スーは思わず声をあげた。帝国式の赤いドレスで、見たこともないくらい胸がふくよかに強調されている。細い腰と綺麗に対比して、女性らしい体の線が現れた。
(これはいつもより大人っぽいかも!)
ルカに見せるとお色気作戦になるのではないかと期待に胸が膨らんだ。
サンディとオトとユエンが、鏡に映ったスーを見て目を丸くしている。
「ほんの数か月で随分と成長されましたね、姫様」
「これはお直しが必要ですね。胸のカップが小さくて、全くサイズがあっておりません」
サンディがスーの胸の肉をおさめようとドレスを調整するが、増えた質量はどうにもならない。
「採寸間違いをしていたのではないかと思うほど小さいですね」
諦めたようにサンディが苦笑している。
「ですが、女性は男性のおかげで胸が育つとことがございますので、皇太子殿下と仲睦まじい証です。殿下が溺愛されているというお噂の方は、本当のようですね」
高名なデザイナーが気を利かせてはなった言葉は、その場の三人を黙らせてしまう。
いち早く気を取り直したのはユエンだった。
「残念ながら、姫様はまだ経験がございません」
「え?」
「ですので、胸もまだまだ成長株ではないかと」
ユエンの臆面のない説明を聞いて、サンディが信じられないという顔をして振り返った。スーは自分の不甲斐なさに恥ずかしくなる。
奔放な夜の華に続いて、皇太子が溺愛する魔性の王女という噂があることも知っている。
それが完全な見掛け倒しであると暴露されてしまい、スーはかぁっと顔だけではなく全身が火照る。
「あの! せっかく着せていただいたので、ルカ様にお披露目してきます」
「え? でも、すこしサイズがーー」
サンディの言葉を遮るように、ユエンが頷いた。
「そうですね、姫様。ルカ殿下にだけお披露目するのであれば、とてもよいお色気作戦だと思います」
「ルカ様はすでに衣装合わせの採寸を終えて広間で寛いでいらっしゃいます。たまには帝国式のドレスも喜ばれるでしょう」
ユエンとオトに背中を押されて、スーの意欲がぐんと高まった。
(きっとわたしの胸はルカ様に恋をして大きくなったのよ)
気合いをいれていると、サンディは三人の意気込む様子を微笑ましく感じたのか、姿見を前にするスーの背後に立った。
「このドレスに似合う髪型がございます。スー様、すこしよろしいですか?」
「はい、もちろんです!」
いつもの結い方をしていたスーの髪に触れて、サンディがすばやく髪をほどくと、新たに編み上げる。
器用な手捌きだった。
「スタリストのようにはできませんが、帝国で流行っている編み込みです」
姿見に写る自分が、いつもより大人の女性に見える。まるで魔法のようだった。
「ありがとうございます」
「わたくしもスー様と皇太子殿下を応援いたします」
サンディからも力強い声援を受けて、スーはぎらぎらと野望を新たにする。三人に見送られながら、帝国式の意匠によって豊かに強調された胸を披露するために、意気揚々とルカの寛ぐ広間へ向かった。