第33話 呉で身の上話を聞かされる

文字数 635文字

  呉で身の上話を聞かされる

 夏のある日、呉で艦隊ミッションを実行した。そのミッションは、一つメダルをもらうたびにひとつずつ、第二次大戦中に撃沈された戦艦の写真メダルになる。艦隊に関連したトリビアも、スマホに載ってくるので、雑学ゲットにはもってこい。
 わたしはその艦隊ミッション途中、工廠教習所記念碑を掃除しているオバサンに出会った。何をしているのかと訊ねたら、昭和4年うまれの亡き父を偲んでいる、自分は、神戸から来たという。柄もののマスクをしている。
ハイティーンだった彼女の父親は、戦争の時に無線の仕事に就いており、原爆が落ちた日も仕事。この記念碑の下には防空壕があった、と身振り手振りで教えてくださった。
わたしは、驚いて記念碑を見やった。いまは舗装された道があって、面影もない。

呉に空襲があったときに、父親は仕事場からそこへ避難したけど、バラバラ土砂が落ちてきて、思った。
「もう、あかん」
しかし、九死に一生を得て、2年前までは元気に生きていた。
この記念碑を市民の皆さんが建ててくださったので、自分もできることをしたい、と、毎年、婚家から掃除に来るという。
彼女のお父さんの写真を見せていただいた。カーキ色に変色していたが、お父さん、まなじりの凜々しい美男子。
わたしは、彼女と別れながら、知らない人にこういう話をするオバサンの人なつっこさに驚いていた。
戦争の話、すこしでも伝えたいというその熱意。
それ以上に感じたのは、呉の人は、フレンドリーなのだね。という思いであった。


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