第13話

文字数 1,449文字

13
 先輩に「いいカーブ」と言われたものだからとても気を良くし、試しにブルペンでその「カーブ」を投げてみた。この投げ方だと基本的にボールがすっぽ抜け、極端に球速が出ず、トップスピン気味になる。
 そしてこれらの要素が複合され、結局キャッチャーのところでは、まっすぐで狙ったときより少し低くなる。ただしボールは左にも曲がるので、投げるときは右バッターの尻を狙うといいあんばいになった。(左バッターのときはまあ、真ん中あたりで、バッターのひざ元あたり?)
 ともかくそれで、ボールは右バッターの頭の上あたりにふわっと投げ出され、それからしゅーっと落ち始め、やや左に曲がってから低めに決まる。
 ちなみに僕はスピードガンには全く関心がない!とか言っていたけれど、あまりにも遅いその球の球速には妙に興味がわき、試しに測ってもらったら、たったの80キロだった。
 まっすぐと組み合わせればこれは使えるかも!
 そう思い、僕はランニングしていた時につまずいた、河川敷の堤防の道のでこぼこには、あらためて感謝したい気分になった。もちろん綺麗な夕焼け雲にもね。
(カーブの投げ方教えてくれてどうもありがとう♪)
 そしてそんなこんなで、いつのまにか手首もしっかり治ったみたいで、まっすぐを投げても全く痛くなくなっていた。しかも僕の上半身の「水」の中には、紙飛行機投げと、普通のまっすぐとの、二種類の投げ方がインストールされているようだった。
 まっすぐの投げ方を忘れてはいないかなと、少しだけ心配だったけれど、ブルペンで何度も300球とか投げて体に浸み込ませた投げ方は、そう簡単には忘れなかったみたい。
 それで二種類とは言っても、僕にとってはあいかわらず上半身は「水」だし、違うのは握りと手首の角度と、そして狙う場所だ。
 コップみたいに握り、紙飛行機投げで、右バッターの尻。
 まっすぐはいつものようにど真ん中。
 ともかく延々とやった紙飛行機投げは、すっかり僕の体に浸み込んだらしく、もちろんまっすぐはすでに思い切り体に浸み込んでいたから、投げるときに「こちら!」と決めて、もちろん握りも決めておけば、あとはオートマチックに上半身が水のように動き、つまり両者を投げ分けられるようになっていたんだ。
 不器用な僕も、たくさんたくさん練習すれば、少しずつ出来るようになるものなんだね。
 これで僕の持ち球は、基本的にまっすぐとカーブのふたつになった。ただし僕のまっすぐは相変わらず僕の意思とは関係なく、偶然に、そしてランダムに3種類の球筋に化けるので、カーブと合わせると合計4種類の球種を得たことになる。
 ところで、普通に投げるとき、ボールの握り方はフォーシームとツーシームの二つがある。
 こんな感じ


 それで僕の場合、フォーシームだとややスライド気味に伸びる球になり、ツーシームだとややシュート気味で、やや伸びの悪い球になった。
 ただし訳の分からない、例の落ちる魔球はどちらで投げてもやっぱり訳の分からない魔球だったので、それはさておいて…
 ともかくこれで、僕の持ち球は合計8つになった。まあ、どう化けるかは僕の管轄外で、偶然を支配する神々がお決めになることだけど、とにかくこんな感じ。
 
 フォーシームまっすぐ
 フォーシームスライダー
 フォーシームシュート
 ツーシームまっすぐ
 ツーシームスライダー
 ツーシームシュート
 スローカーブ
 そして落ちる魔球
 
 それぞれにいろんな個性があった。僕はそれらを試合で投げることが楽しみで仕方がなかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み