第18話

文字数 867文字

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 僕が驚いていると、彼はにこにこしながら話を続けた。
「一回の表に君が投げているのを見て、ゆったりとしたフォームで、そして球持ちが良くて、ピュッっと腕を振って、そして君の球は打者の手元でぐんぐん伸びていたよね。それで僕は今日、君の投げ方を参考にさせてもらったんだ。僕なりにね。そしたらあんなピッチングが出来たんだ。なるほどああやって、無駄な力を抜いてゆったりと投げるんだなって。しかもしっかりと腕を振って。だから今日僕が好投できたのは、君のおかげなんだ。いい投げ方を教えてくれたんだ。だから僕、きっと開眼できたんだと思う。だから…、だから今日は、本当に、本当にありがとう!」

 それでぶったまげた僕は、「え~? 僕なんかの投げ方を参考に? で、開眼しちゃったわけ? それはすごいじゃん! やったね。いやいや、それは光栄だね! でも僕、君に何かを教えた覚えはないよ。えへへ。だけど…、だけど、きっと甲子園まで行きなよ。応援してるからね。頑張って!」って言って、そしたら彼は、
「君だってすごくいい投手じゃん。お互い頑張ろう!」って。
 そして僕らは握手して分かれたんだ。

 僕が何年もかけて、上半身は水だの何だの言いながら、必死こいてもがきながら、あの先輩の捕手と二人三脚で、そして沢山の試合経験も積みながら、やっとの思いで僕がたどり着いたピッチングの極意を、彼はたったの1イニングの僕の投球を見て会得しちゃったんだ。
 きっと彼は天才だなと思った。
 そして彼は順当に甲子園へ行き、そこでも一試合ごとに成長し、あれよあれよという間に勝ち進み、だから僕もずっと彼を応援していて、結局彼は甲子園準優勝投手となり、そしてドラフトの目玉となった。
 僕はそれが「うらやましい」ではなく、何故かひたすら、それが自分のことのように嬉しかった。僕のピッチングのポリシーが、彼の中で生きていると思ったから。
 だから彼には、プロで活躍してほしいと思ったんだ。
 僕の代わりにね。

 それからさらに時が過ぎ、その秋のドラフト数日前。
 何故か僕は、突然監督に呼び出された。
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