第19話

文字数 911文字

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 突然僕を呼び出すなんて一体何の話だろうと思っていたら、監督は突然、とあるとても地味な球団のスカウトの人の話を始めた。
 同じ高校だったとか、今はプロのどこのチームでスカウトをやってるとか、とてもいい人だからとか、いろいろと、だらだらと、延々と。
 だけどどうして監督は、突然僕を呼び出してまで、もったいぶったようにそんなスカウトの人の話をするのかなぁとか、僕は無邪気に思っていた。
 そしたら何でも僕が最初の甲子園で、みんなが緊張してストライクが入らなかったとき、僕が途中から出てきて飄々と投げ、結局無失点で強豪校打線を抑えてしまったあの試合を見て、「何という強靭なマインドを持った子だ!」と感心したらしい。
 そのスカウトの人は、そのとき僕が登板した本当の、あのでたらめな理由も全く知らず、勝手に僕のことを誤解して買いかぶりまくり、注目し、それからたまに監督にも会いに来ていたらしいんだ。
 それから監督はそのスカウトの人に、僕を「放牧」したことやら、そして僕がとても頭のいい子だなんて嘘言って、だから今の僕のピッチングスタイルは、すべて僕自身が考え出したものであるんだとか、とにかくスカウトの人にはずいぶん尾ひれを付けて、僕を宣伝してくれていたらしい。
 もちろんその間も、そのスカウトの人は時々僕を見るために、試合に足を運んでいたらしいし、僕の成長を見守ってくれていたらしいんだ。
 その人はプロでは打者出身で、いぶし銀のような打撃をしていたそうなんだけど、僕得意の「一見大した球じゃなさそうなのに、実際は見かけ以上に速く、しかも手元で伸びる」という僕の投球の特性を一発で見抜き、そして自分が一番対戦したくないタイプの投手だとも思っていたそうだ。
 やっぱりプロのスカウトの人は、そういうところをきちんと見ているんだなって、僕は感心した。そして知らない間に、僕がスカウトの人に注目されていたことに、僕は驚いた。
 それから僕が、名実ともに怪我の功名で例のカーブ投げ始めた頃、あることを決意していたらしい。そしてその日、スカウトの人はその決意を監督に連絡してきたらしいんだ。
 つまり僕を、下位だけどドラフトで指名するということを!
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