第37話

文字数 1,254文字

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 それで早速僕はその「おばけ」を、翌日からブルペンで投げてみるつもりだった。翌日早々に?と思うかもしれないけれど、もうおばけを投げたくて投げたくて投げたくて、だから興奮してあまり寝れなかったし。
 そしてその日、ランニングとかストレッチとかキャッチボールとか一通りやってから、はりきって予定外にブルペンへ。
 ところでおばけって、もうめいっぱい腕を振らないとダメなんだ。実はその前のキャッチボールで試してみたけれど、引っかかったりするし、それほど落ちないし。だからどうやらプレッシャーのかかった場面で、目一杯腕を振って、そしてボールを豪快にしばかないといけないみたいなんだ。だからブルペンで、コーチとかも見てる前で、気合を入れて目一杯投げるしか…
 ところがそのとき、偶然ブルペンは若手で満員で、僕はブルペンに入る予定の日でもなかったし、キャッチャーも出払っていたので、どうしたものかなぁと困り果てていたら、たまたまプルペンの近くをノックバットを持って、例によって細い目をしてサブグラウンドへ向かってひょこひょこと歩いていた一軍監督がいたので、恐れることを知らない僕は、もう豪快にダメ元と思って、それで、
「監督さぁ~ん監督さぁ~~~ん!115キロくらいの落ちる球、出来たかも知れませぇ~~~~ん♪」って言ったんだ。
 そしたら監督が、
「おうおうそうかそうか。そいつはでかしたぞ。よし! ちょっと見せてみい」とか言って、それで僕が「でも今ブルペン満員で~す」って言ったら監督は、これまた、たまたま近くを歩いていた打撃投手に「ごめんちょっと貸してね」とか言ってミットを借りて、そして僕に「投げてみろ」って言って、程良い距離離れてから構えてくれたんだ。
 そしてこれはもう、最高に緊張する場面じゃん。
 相手はよりによって一軍監督だぞ! しかもそれでおばけを出さなきゃいけない。もし出なければ…
 考えてみれば、これはもうドロンとおばけが出る最高の絶体絶命のシチュエーションじゃん。
 もはや失敗は許されないんだ!
 僕はそう確信し、何度か腕をぐるぐる回してから、がっちりツーシームのストレートに握り、「水」の上半身には「カーブよ!」としっかり言い聞かせ、10メートルくらいの特大の本物の十字架を同時に三つくらい背負い、そして立った姿勢で構える監督のミットめがけ、ゆったりとモーションをおこし、ステップして、腰を回転させ、そして渾身の力で思い切り腕を振ったんだ。
 そしたらボールは最初、勢いよくまっすぐのように飛び出し、そして監督の3メートルくらい手前で突然がくんと落ち、監督が「お~!」と声を出す間に、ボールは監督の股間を抜け、ぽんぽんと弾みながら芝生の上を転がっていったんだ。
 あの名内野手だった一軍監督でさえ、豪快に捕りそこなってしまった…
 それから僕は、喜色満面の一軍監督に身柄を拘束され、速攻でブルペンへと連行された。そしてコーチたちにもおばけを披露し…
 こうして僕はついに、念願のウイニングショットを手に入れたんだ!
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