第38話

文字数 1,633文字

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 とにかくファウルとかでツーストライクに追い込みさえすれば、おばけで三振が狙える。
 だから打たせて取るもよし。必要なら三振狙をうもよし。
 めちゃくちゃ楽になった。ピンチで三振が狙えるだなんて!
 それからフェニックスリーグでの二度目の先発では、おばけは大活躍し、7回無失点だった。何というか、ツーストライクを取りさえすれば「勝った!」という気分だったし。
 だから相手打者も、ツーストライクを取られまいと早打ちしてくれた。そしたらスライダー、シュートで芯を外して打たせて取れたし。
 もちろんおばけのことは、首脳陣からも絶賛された。そしてあのベテラン三塁手の人は、「それにしてもおまはん、ごっつい宝物掘り当てたな」って祝福してくれた。
 それに何たって、一軍監督が一番嬉しそうだった。これまでにないくらい、目を細くして喜んでいた。

 だけど…、だけどその前に僕自身、冷静に考えてみると投球の技術はまだまだだじゃん。だからこれからもっともっと高めないといけないな。プロとしてやるべきことは、まだまだ沢山ある。おばけももっと磨かなきゃね。攻略されないように。もちろんそれ以外の投球技術も何もかも、洗いざらい全部だぞ!
 そうすればいつの日か、一軍のマウンドに立てるかも。
 そしたら僕も、いつかあの甲子園準優勝投手の彼に追いつけるかもしれない。
 とにかく来年は、一軍の試合で彼と投げ合いたいな。先輩と、十代バッテリーでね。そしてあの甲子園地区予選準決勝のリベンジだ!
 そうなるといいな。
 それからあのホームランバッターもそうだ。彼は高校二年の秋に僕からホームランを打った。そしてプロで対戦したときはおばけで三振が取れた。
 だけど僕、何となく思うんだけど、彼ってきっと将来、ホームランバッターとして大成するんじゃないのかな。あんなスイング出来る人って、ちょっと見たことないもん。来シーズンも対戦したいな。それに彼って、僕に「投げ方」を教えてくれた恩人なんだよな。むきになって投げちゃだめだってね。
 とにかく僕らみんな、同期入団でライバル心燃やして、プロ野球を盛り上げなきゃね。
 そして、あんな素晴らしい人柄の一軍監督を、いつか僕らの手で胴上げしたいな。
 その夜僕は、手首を診てくれたあの理学療法士の人に手紙を書いた。

 お元気ですか。
 あのときは僕の手首のことで、ずいぶんお世話になりました。おかげさまで僕の手首は順調です。
 僕はプロに入って以来ずっと毎日地獄の日々ですが、悪戦苦闘して、投手としての守備もずいぶん上達し、投球術にも磨きをかけ、何とか遅い球を駆使して、プロとして「並みの投手」にはなれそうです。
 僕は試合なんかでピンチが来たとき、例え打たれても、豪快に炎上しても、そしてクビになっても、そしたらそちらの病院で投げようかなぁなんて勝手に思って、そしてそう思うと、どんなピンチでも不思議と恐くなくなるんです。やれるだけやって、目一杯やって、それでだめなら地元で頑張ろうって。
 そちらで医療の資格を取って、怪我をした人たちのために一生懸命働いて、それから病院の野球部で日本一を目指すのもいいかもって。そしてそう思うことによって、僕はピンチでも不思議と冷静になれ、だから僕は何とかやっていけているのです。打たれたらどうしよう…って、パニックにならなくて済むのです。
 だけどどうやら僕は、最近やっとのことで、ウイニングショットを手に入れることが出来ました。そしてこの球があれば、まだしばらくは、このプロの世界でやっていけそうな気がしています。
 だからお誘いいただいた、そちらの病院で投げるのは、まだ少し先のことになりそうですね。だけどプロ野球人生はそんなに長くは続かないと思うから、きっといつかはお世話になるかも知れませんね。
 それまでは、どうか応援をよろしくお願いします!

 そうだ! あの関脇にも手紙書かなきゃ。いやいやそれだけじゃない。高校の監督にも、先輩にも、それから…
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