第27話

文字数 1,326文字

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 バント処理…、だって僕は投内連携苦手なんだ。スナップスローが出来ないから!
 だからバントされるとダッシュしてボールを素手で拾い、それから今度はランナーと短距離競争して、必死こいて全力疾走で一塁近くまで走ってから、ソフトボールみたいに下から投げる。ピッチャーゴロもそう。
 僕は短距離長距離さんざん走ったから、サルみたいにめちゃくちゃ速く走る自信もあるし。だから高校時代はずっとそれだった。
 だけど、プロのグラウンドでそんなサルみたいなことやるのも、プロとして思い切りださいし、実際プロではみんなに「うわぁ~~~すっげぇーダサぁい!」とか非難轟々だった。それで球を拾ってから、クイックのフォームを応用して投げたりもしたんだ。だけどクイックって一度「セット」する訳で、時間がかかり過ぎるし、咄嗟だからよく暴投もした。
 それにしても「投手の守備」って高校でやんなかったの?って言われそうだけど、なにぶん僕、放牧されてたし…
 とにかくそんなこんなで、「これはもう仕方がない。やるしかないんだ!」と、豪快にあきらめ、僕は意を決し「第三のフォーム」というものの研究というか、開発というか、要するに練習を始めたんだ。
 つまり通常のセットポジションからのフォームと、四股パワーを使ったクイックのフォームと、そして新たに作った第三のフォーム♬
 で、これは、ボールを拾ったらいきなり投げる!という豪快なもの。何と言うか、石を拾ってすぐさまそのへんの鳥に投げつける、みたいな。ともかく鷹とか鷲とか、僕のいたリーグにはやっつけたい鳥いっぱいいたし。
 それでとにかくもう、開き直って、「い~っけ~!」って念じて、あとは運を天に任せて…
 この練習、最初は夕方一人でやった。
 ボール20個くらいをバケツに入れて外野へ持って行き、全部芝生に転がしておいて、そして素早くボールを拾って、素早くフェンスに向かって「えい!」と投げる!
 それで、僕が一人でそんなことをしばらくやっていると、たまたまランニングで通りかかった、一軍の主力で、そのころ故障で二軍でリハビリ中のベテラン三塁手の人が、「おまはんまた何か変な物理学の実験でもやっとんのか?」なんて声を掛けてくれた。それで僕は「第三のフォーム開発中で~す♪」って言ったんだ。
 そしたらそのベテラン三塁手の人が、「よっしゃ、少しばかり手伝うたるわ」とか言って、畏れ多くも、ボールを拾って僕にトスしてくれ始めたんだ。
 そうすると練習の能率がずいぶんと良くなって、それからその人は「せやせや。ボール捕ったら耳やで。そして小さくステップして、恐がらんと思い切り腕振って投げたらええねん」とか言ってくれて、そしてバケツ1個分終わったらこれまた畏れ多くも一緒にボール拾ってくれて、結局バケツ3個分くらい付き合ってくれて、それから、
「いいか、投手は5人目の内野手やさかいな。送球大切やでぇ。ほたらがんばりや!」といって、それから風のように走り去って行ったんだ。
 僕は「ありがとうございました!」と、その人の大きな背中に大声でお礼を言った。
 その人は僕が一体何の練習をしていたのか、しっかりと分かっていたんだね。きっと僕が投内連携でサルやってたのも…
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