第40話

文字数 832文字

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 たしかに「おばけ」があることで投球の幅は広がったけれど、まっすぐやスライダー、シュートのコントロールがアバウトすぎて、球速は130程度だと、やはり一軍ではつらいところがあるみたい。
(ツーストライクに追い込みさえすれば、おばけで三振が狙える!)
 なんて、去年の秋の教育リーグで、おばけの投げ方が分かったときは有頂天になっていたけれど、一軍だとその前に打たれることもあるし。
 だからあのときに思った、
(そしたら僕も、いつかあの甲子園準優勝投手の彼に追いつけるかもしれない)は、まだ当分先かな。
 どうしたらいいのだろう…

 試合の後、ロッカールームで僕が浮かない顔をしていたら、あのベテラン三累手の人が来てくれて、
「お疲れさん。俺はそない悪いピッチングとは思わへんけどな。試合を壊したわけでもあらへんし。おばけがあれば工夫次第で、適度に荒れた投手の現状でも、そこそこやっていけるとは思うけどな。せやけど教えたるわ。お前がもっと上を目指す場合の話や。首脳陣もそう思とるはずや。ピッチングコーチも言うとったさかい。それでな、俺みたいな右バッターやったら、インハイのまっすぐかシュート、アウトローのまっすぐかスライダー、それと膝元のシュートや。左バッターなら左右を逆に考えたらええ。要するに四つのコーナーにどれだけ放れるかや。真ん中ばかり狙うとんのは、そろそろ卒業せなあかんちゅうこっちゃ。まあ、今は出来へんでも、まっすぐ、スライダー、シュートはそういう意識を持って、あきらめんと練習するこっちゃ。少しづつ出来るようになるさかい、辛抱してそういう練習やったらええ。それが出来たら、スローカーブとおばけがもっと生きるで! 今日はいい経験になったやろ。ほたら一皮むけて帰って来いや!」

 それは結構落ち込んでいた僕に、勇気と、そして大きな目標を与えてくれる貴重な言葉だった。
 それで僕は深々と頭を下げ、大きな声で「ありがとうございます!」と、お礼を言った。
 目には涙がにじんだ。
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