第8話

文字数 1,708文字


 それじゃ、もう少しコントロールを良くするためにはどうするか。
 いつまでも豪快に「コントロールには全く無責任に(キリッ!)」とかも言っていられないし。だって少しは球を捕る先輩のことも…
 そもそも僕は振りかぶって投げることが出来なくて、いつもセットポジションで投げていた。コントロールを良くする定番の方法だけど、そう思ってやっていた訳ではない。いつのまにやらそうやっていたのだけど、それはあまり考えたことないし、まあそういうことはどうでもいい。
 で、セットで投げたらコントロールが良くなるなんて甘いよ! 僕はそのセットで暴投しまくっていたんだから。
 それはいいけれど、とにかくセットで構えて、左足を上げて(僕は右投げだから)、そして軸足一本で立つ。このとき本当にバランスよく、それはもう王選手の一本足打法のように、美しく安定して立たなければいけないと思ったんだ。
 それから僕は以前に、こんな感じのこと書いたぞ。

「コントロールは小手先でやるものではなく、フォーム全体でやるものだ」
 これはとある200勝投手が本に書いていた。
 これを僕なりに勝手に解釈すると、例えば映写機を映すとき、スクリーンの真ん中にうまく映らなかったら、レンズの向きではなく、映写機自体を動かして真ん中に映るように調節する。
 分かるかな?
「あそこへ投げる」という意識を持ったらモーションを起こし、テイクバックしてステップして…

 だからそのステップして設置した左足の位置こそが、その「ピッチングフォームという名の映写機」の置き方だったじゃん。
 それを考えてみると、モーションを起して左足を上げたときに、「軸足一本で安定して立つ」ことがいかに大切か分かるだろう?
 軸足一本で安定して立てるが故に、ステップした足が正しい位置に接地できるはずなんだ。
 毎回毎回!
 そしてこれは、コントロールのための、まさに「第一歩」なんだ。これ、前にも言ったし。
 それでともかく僕は、軸足一本でぴたりと立ち続けるための練習をした。それに必要なのはバランス感覚。だから目をつぶって延々と片足で立つ練習をやった。これはどこででも出来る。揺れる電車の中ででも。
 それから体育館で平均台の上を延々と静々と歩くとかね。(体育の先生がけげんな顔をして僕を見ていた)
 そこで問題は、球数を投げて足が疲れてきたときでも、それが続けられるかということ。
 よく、ある回から突然ストライクが入らなくなるという投手がいる。その原因はいろいろあるだろうけれど、その一つはもしかして、足が疲れて軸足でぴたりと立てなくなったからではないかと、僕は思っている。
 ぴたりと立てずにぐらぐらするから、それから後の投球フォームがでたらめになるんだ。
 だから長い回を投げてもコントロールが安定するためには、いつまでもいつまでも軸足一本で安定して立てる足の持久力が必要だと、僕は考えるようになったんだ。
 そしてそれが出来れば、長いイニングでも安定して軸足一本で立てて、だから正しい位置にステップし続けることが出来るのではないのか。つまりコンスタントに同じフォームで投げられるのではないか。

 とにかくそういうわけで、僕はあっさりと考えを改め、投手の足には持久力も必要だという結論に到達したんだ!
 以前僕は、投手はパワーが大切だと思って、ダッシュとかを中心にやっていたけれど、そういうわけで、やっぱり投手は長い距離を走る必要もあると、僕は考えを改めたんだ。
 つまりコントロールに必要なのは、バランス感覚プラス持久力だってね。もちろん体に浸み付いた正しいフォームもだけど。
 それで僕は持久力のために週何回か、10キロとか15キロとかの距離を走るようにした。といってもグラウンドをぐるぐる回るのも単調で退屈だし、目も回りそうだったので、それで僕はよく学校近くの河川敷の堤防の道を、景色を楽しみながらロードワークに出ることにしたんだ。
 もちろん軸足で安定して立ち続けるために、目をつぶって軸足一本で延々と立つという練習も続けた。(平均台も)
 こうして僕はコントロールのために、徹底的にバランス感覚と持久力の両方を養ったんだ。
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