タマゴ
文字数 376文字
彼方の山で狼煙が上がっている。緊急の事態を知らせる色だ。卵からかえった星がとうとう成蟲の姿にまで育ってしまったのだ。諸侯軍による征伐は失敗したらしい。これからたいへんな時代が訪れる。星がもたらす金色の闇と華麗なる虚無が世に広がるだろう。防人の役目から帰ったばかりのわたしも、また召集され星と戦うことになると思われる。星を崇める者たちは勢いを増し、至るところで人間どうしの殺しあいも起きるだろう。星が生みつける卵もさらに数を増し、蟲となって人から世界を奪っていくにちがいない。しばし悩み、わたしは蟲からも人からも逃げようと思った。そうは言ってもどこへ? 行くあてなどない。わたしはこの世から居場所がなくなる前に、もともと居場所などあってないような身分に自ら堕ちる決意をする。星と人の両者から密かに小利を掠めとって生きる、微生物のごとき盗人になる決意を。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)
(ログインが必要です)