ミサキ
文字数 304文字
夜の岬の先端で、三日月が休んでいる。しょぼくれた様子に見えるので声をかけようと岬を歩く。するとわたしの歩いた分だけ岬が前方に伸びてしまう。歩いても歩いても三日月のそばへ近づけない。わたしがかかわることを拒んでいるのだろうか? 少し腹を立てたが、三日月の姿がなんだか親しい人に似ているように思われる。放っておけず、わたしは走りだした。三日月の遠ざかり方はわたしの走る速さを上回る。おかあさん、とわたしは呼ぶ。涙までひとりでに出てくる。それら一部始終を空で月が憫笑しながら見ている。今日は三日月が出る夜ではないのだ。からかわれているとすでにわかっても、なおわたしは遠ざかる三日月を力のかぎり追わずにいられない。
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