キリ

文字数 319文字


 冷たく白い霧が、木々の枝についた氷を太らせていく。雪の上を、赤い衣をまとった童女がひとり、裸足で歩んでいく。何かを探しているのだろうか、道に迷ったのだろうか。膝下まで雪に埋めながら、よちよちと頼りない足取りで進む。この美しくもさびしい場所の外は、幾重にも盗賊たちが陣を構え囲んでいる。彼女の持つものといえば、懐にだいじに抱えた小さな夢ひとつきりなのだが、それすら奪われてしまうのではなかろうか。よく見れば、その童女の顔はかつてのわたしのそれと同じだった。わたしは今生きている。ならば童女は、雪の上に倒れもせず、盗賊に殺されもしなかったらしい。しかし持っていた夢がどこへ行ってしまったのか、まるで自分が霧になってしまったように曖昧なのだ。


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