オフダ
文字数 457文字
私が流行り病にかかった時、祖母がどこからか御札を持ってきた。茶碗にお湯を注ぎ札を浸して差し出す。呑む真似だけするつもりが、勝手に札が口に入り細長くなって腹へと下りた。病はまもなく治ったが、腹の中で札が動く感覚が収まらない。
祖母と認識していたが実は父とも母とも血のつながりのない人で、家でも町内でも居場所のない人だった。父母があまり話しかけないので、私もあまり親しまなかった。どれだけ孤独に苦しめられながら私に微笑んでくれたのか、その価値に気づいたのは私がずっと年を重ねてからである。
あの御札だろうと思われる長い物が、今でも腹の中をときおり動く。気味のよい感触ではないが、御札のおかげなのか、あの流行り病以来私は病気らしい病気を患った事がない。祖母は喘息や腎臓の不調に悩まされた果てに心不全で死んでしまった。なぜ自分で御札を呑まなかったのだろう。両親もすでに亡いが、私の頭や腹を撫でながら、この子は治る、必ず治ると低い声でつぶやいていた祖母の事ばかり思い出す。
祖母は自分の守り神を私に呑ませたのかもしれない。
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