ハネ

文字数 319文字


 一枚の羽として生まれて以来、華麗なる大鳥(おおとり)に使役される日々が続く。何がきっかけだったのだろう、わたしはふと、恋というものをしてみたくなった。それからは恋のことを思うばかり、まわりの羽と息も合わず気流に乱れをつくる。そのうち大鳥がわたしを嘴で引き抜き、あっさりと投棄した。わたしは空を飛ぶ存在の一員である身分を奪われ、野に落ちた。わたしを迎えに誰か頼もしき人が駆けつけただろうか? そんなことはなかった。誰ひとり来なかった。雨が降った。羽であるわたしはにわかにできた川に流され、泥にまみれた。わたしは力を失って眠りゆく。しかしわたしはなんだか満足していた。自分の外にある素晴らしいものを求めて得られない時の気もち、それはまさに恋だったから。


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