カブトムシ

文字数 266文字


 悪夢を近頃しきりに見る。私がまた苦しんでいると、甲虫が一匹やってきて夢の端を齧りだした。どうやら救けようとしてくれているらしい。だが少しずつしか食べられず悪夢がさっぱり減らない。思わずきつく不満の言葉をぶつけると、甲虫は悲しげな様子を見せた。そしてのろのろと向きを変えて去っていく。私ははっとして、今はもうこの世にいない人との関わりを思い出した。お養母さん、呼びかけたはずみで目が覚めた。窓がふるえている。外は大きな夜嵐だ。でも私はもう大人で、怯えても抱いてもらえない。私が一人でお腹の子を守らねばならないのだ。あの養母のように。


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